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メイドの国のあやや



町で噂の大富豪、廟堂院家。
この屋敷の一角での一コマ。
執事部隊籍のメイド、小二郎が執事部隊の仲間に取り囲まれて困っている様子だ。
仲間達は小二郎に詰め寄って口々に言う。
「お願いだ!この通り!もう一度メイド長に頼んでみてくれ!
メイド部隊と執事部隊の合コ……親睦を深める食事会の開催をッ!!」
「下心は無いんだ!俺達はただメイド部隊と合……食事会をしたいだけなんだ!頼む!」
「一回だけ!この一回きりだから!メイド部隊とご……食事会をしたいんだ!」
「もうお前ら“合コン”って言いたいなら言えよッ!!」
小二郎は思いっきりそう叫んだあと、困り果てた顔で仲間達を宥める。
「勘弁してくれって!何回も同じ事言うオレの身になってくれよ!
お前らがしつこいから、最近本当に月夜さんキレかけてるんだから!この前だって……」
そこで小二郎はキリッとした顔で背筋を伸ばして
「『何度も同じことを言わせるな。執事部隊はバカの集まりか?』って!!
すっげー怖かったんだからな!!」
メイド長、月夜のモノマネをした後は涙目で訴えていた。
それでも仲間達の情熱は冷めないようだ。
「俺達使用人仲間じゃないか!一回くらい合コン……否、食事会しよう!」
「「そうだそうだ!!」」
「だ、だから月夜さんが断るって言ってるのに〜〜!!」
執事部隊とメイド部隊の板バサミに参っている小二郎。
そこへ……
「こ――ら!何をサボってるんですか貴方達?小二郎はさっさと持ち場に戻りなさい!」
小学校低学年の教師っぽい叱り方で現れたのは執事部隊の長、上倉。
後ろには不思議そうに状況を見ている新人執事の鷹森も一緒だった。
執事長の登場に、小二郎は慌てて走り去って行くが“合コン”に燃える仲間達は怯まない。
むしろ執事長も巻き込む勢いで捲し立てる。
「上倉さん!上倉さんだって、一度くらいメイド部隊と合コン食事会したいですよね!?」
「そうだ!上倉さんから頼んでくださいよ!イケメン執事長が頼めばきっと……!」
「それいい!!上倉さんお願いです!男のロマンを叶えてください!!」
執事達の熱い声にも執事長は冷静だった。困った弟達をたしなめる様に言う。
「何を言ってるんですか……私が頼んだらそれこそ月夜さんにお仕置きされ……任せなさい!!」
「ダメだ!!この人負け戦に行く気だ!!」
「チックショ――!!どこかにいないのか!?執事部隊とメイド部隊を繋ぐ親善大使!!」
突き進もうとする執事長の服を引っ張って止めながら、仲間達は叫ぶ。
そして、その視線が一気に集中した先は……
「「「「「いた!!親善大使!!」」」」」
「へ??」
先輩達の視線を一気に受け、戸惑う鷹森がそこにはいた。


* * * * *


「って……どうしてこうなるんですか―――――――!!?」
執事控室で、真っ赤な顔をして叫ぶ鷹森。
それもそのはず……彼は今、オーソドックスな紺色のメイド服に身を包んでいるから。
胸の赤いリボンをぎゅっと握って、涙目でオロオロしていた。
それに対して、執事仲間の先輩達は呆然としながら口を動かしている。
「どうしてってお前……執事服着てメイド部隊に遭遇したらボコられるからに決まってるだろ……
なぁそれより、どうして鷹森って男に生まれてきたんだ?」
「メイド部隊は執事部隊を目の敵にしていて……近づけば即撃退されるからな……
あれ?鷹森って女じゃね?」
「メイドになりすましてメイド部隊の領域に潜入、で、メイド長に交渉すれば安全ってわけだ。
俺たぶん前、風呂が一緒だったけど……アレがあったのは幻覚だ。違いない」
やや理性の光を失いかけている目の先輩達に真っ青になりながら、鷹森は必死で叫ぶ。
「ちょっと!?先輩方、何を後半にさらっと怖い事言ってるんですか!?
特にお風呂一緒だった人はしっかりしてください!!幻覚じゃないです!僕は男ですから!!
ああああ!こんな時に限って上倉さんが千歳様のところに行っちゃったよぉ……!」
上倉がいないことを嘆きつつ、鷹森は必死で先輩方に呼びかけるが、
思い込みの激しい先輩方には届いてないようで……ひそひそと輪になって審議した先輩方は
次の瞬間、いっせいに鷹森の方に押し寄せて来て――
ガシガシガシッ!!ズルッ!!
「うわぁあああああっ!!」
鷹森の悲鳴。ずり下げられた下着。
そして先輩達の反応。は……
「……なんだ、幻覚じゃなかった」
「くそっ……儚い夢だったぜ……」
「マジかよ……金返せよ……」
ガックリする先輩方の前にへたり込んだ鷹森は、真っ赤になって泣きそうな勢いで叫ぶのだった。
「逆に僕が慰謝料請求したいですよ!!こんなの絶対間違ってる――――っ!!」


数分後。
鷹森の抵抗むなしく、彼は未だかつて踏み入れた事のない領域にいた。
それは乙女達の楽園……奥様とメイド達が主に生活する領域だ。
鷹森は先輩達の夢と希望を(強制的に)背負い、この地に『メイドとして』降り立った。
(と、とにかく……早くメイド長の月夜さんに会って、話を聞いてもらって……早く帰りたい!!
男がメイド服なんて着てたら笑われちゃうよ!!)
震える足で、一歩、また一歩と進んでいく。鷹森は早くこの任務を済ませて帰りたかった。
(落ち着け落ち着け……小二郎君がここで働いてるんだから、大丈夫!)
自分を落ち着かせようとそう考えた途端、鷹森は急にドキドキし始める。
(……そ、そっか……小二郎君、ここで働いてるんだ……)
“小二郎がここで働いている”。
そう考えると、見るものすべてが新鮮に感じる。
普段は見えない小二郎の生活を垣間見る様な甘酸っぱい感覚に襲われた。
(偶然、会っちゃったりするのかな……あれ!?この格好で会っちゃうって男としてどうなの僕!?)
赤くなったり青くなったり忙しい鷹森。
そんな時、鷹森に近付く小さな影が……
「ねぇ!!」
「ひぃっ!?」
急に後ろから呼びかけられて、ビクリと身をすくませる鷹森。
振り返るとそこには、小さな女の子がいた。小学生……高く見積もっても中学1年ぐらいが限界だ。
(こ、子供!?メイド見習いって感じかな……こんな小さい子も働いてたんだ……)
鷹森が声を出せないでいると、女の子の方がにこやかに声をかけてきた。
「だれ――?新人メイドさん?もしかして迷子?あーちゃんが道案内してあげよっか??」
動くたびに揺れる長いツインテールは先が螺旋状にカールしている。
ピンクの色のミニスカメイド服は、フリルやリボンで可愛らしく飾りつけられて、
甘さと元気さがほど良く合わさった可愛らしい少女だったが、いつまでも見惚れているわけにもいかない。
鷹森は頑張って裏声を出しつつ答える。
「あ、あの、新人、です……メイド長に会いたいんです……」
(ひぃぃっ!こんな不自然な声で誤魔化せるかな!?嘘も方便って言うよね!?)
内心ドギマギの鷹森を、その少女は何も疑わなかった。引き続き笑顔で話しかけてくる。
「わぁい!やっぱり新人さんだ!あーちゃんは、“朝陽(あさひ)”っていうの!
だからあーちゃんって呼んでね?新人さんのお名前は?」
「なななな名前!?ですか!?」
ちびっこメイドの“あーちゃん”に名前を尋ねられた鷹森はとっさに……
「あ、あ、あ、あややです!!」
「よろしくね♪あややん!じゃーあ、あーちゃんがつっきーの所まで道案内してあげるね?
しゅっぱつれっつご――!!」
明るいあーちゃんに手を引かれ、鷹森改め、『新人メイド・あやや』の大冒険が始まった。
ものの、鷹森は不安でいっぱいだった。
(うう、あーちゃんさんは子供だから上手く誤魔化せたけど……
大人のメイドさんに会ったらすぐバレるに決まってる!これ以上他のメイドさんに会いたくないよ……。
早くメイド長に会わないと……!!)
歩くたびにぴょこぴょこ揺れるあーちゃんのツインテールを見つめながら鷹森は必死に考えた。
(つっきーっていうのがきっと、メイド長の月夜さんの事……ええと確か、ショートカットで背が高くて色が黒くて
イケメンな……あれ?女性なのにイケメンって……)
「きゃ――――――っ!!」
「ひぇ!?」
鷹森の思考は黄色い声に遮られる。
その声の方に目を向けると、立っていたのはメイドさん。
しかし鷹森が会いたいイケメンメイドではなく、むしろ母性溢れる女性的な容姿の……
「あーちゃん!!誰!?誰なの!?そのキューティーガールは一体誰なのぉぉぉぉ!?」
たわわな胸を揺らして、鼻息荒く猛突進してきた新たなメイド。
鷹森は驚いてしまったが、あーちゃんの方は慣れた様子で返事をしている。
「新人メイドのあややんだよ。つっきーに会いたいって言うから道案内してるの」
「新人!?っていう事は……今日から同じメイド部隊の仲間なのね!?いや〜〜ん!
嬉しいわ!貴女みたいな可愛い子が来てくれるなんて〜〜!さっそく今夜は親睦を深めるために
一緒にお風呂に入りましょう!?お姉様が体の隅々まで洗って差し上げるわウフフフ!!」
怪しい手つきで鷹森に触ろうとするメイド。あーちゃんがとっさに割って入った。
「ひなちゃんダメ――!!あややんが怖がってるでしょ!?」
「あぁんいいじゃない!私にも触らせてよ!キスとかハグとかさせてよ〜〜!」
あーちゃんと怪しいメイドのやりとりを呆然と見つめる鷹森。
(あれ?どうして僕が男ってバレないの?)と、悲しい疑問を抱えながら。
それはともかく、“ひなちゃん”……そう呼ばれていた彼女、一目見た時にはミルクティー色の
ウエーブのかかったロングヘアーで、眼鏡をかけた優しげな印象で、メイド服だって
クリーム色のロングスカートな母性溢れる感じだったのに。
動いて喋ると残念過ぎる結果だった。
「と・に・か・く!あややんはつっきーの所に連れて行くんだから!ひなちゃんはまだ触っちゃダメ!」
「むぅ。分かったわ……でも……後でいっぱい触らせてね!?あややんちゃん!!」
「あーはいはい!行こう、あややん!」
そうこうしている間にひなちゃんの説得に成功したらしいあーちゃんが、また鷹森を連れて歩きだす。
ひなちゃんは名残惜しそうにいつまでの手を振っていた。
その姿が見えなくなったところで、鷹森はあーちゃんに恐る恐る尋ねてみる。
「あ、あの……今の方は??」
「ひなちゃん?ひなちゃんは“日向(ひなた)”だからひなちゃんって言うの。
女の子が大好きで、すぐえっちな事しちゃうから困っちゃうんだよ〜〜」
「え、えっちな事!?」
「そうだよ〜〜?つっきーにお尻ペンペンされても全然治らないの。だから、あややんも気を付けてね?
でもね、あーちゃんはひなちゃんに気持ちいい事してもらうの、好きだけど♪」
(お、恐るべしメイド部隊……)
何だか覗いてはいけない世界を覗いてしまった気分になり、顔を赤くする鷹森。
しかしここで重大な事に気づく。
「ま、まさか!!小二郎君もひなちゃんさんにエッチな事されてるんですか!?」
「え……?あややん、こじろーの事知ってるの?」
小首をかしげるあーちゃんに、鷹森は慌てて言い訳する。
「あ、あのその……小二郎君とは、小さい頃に仲が良かったんです!!」
「そうなんだ――。でも、こじろーは女の子じゃないから、ひなちゃんはえっちな事しないよ?」
「そ、そ、そう……ですか……」
鷹森はほっと胸を撫で下ろす。
どうやら小二郎はメイド部隊で女の子カウントされていないようだ。
しかしそうすると、この女だらけのメイド部隊で小二郎が皆と仲良くできているのか不安がよぎる。
「あーちゃんさん……小二郎君は、ここの皆と仲良くできてますよね?」
鷹森の問いに、あーちゃんは力強い笑顔で答えてくれた。
「うん!あーちゃんもひなちゃんもつっきーも、他の皆もえれん様も、こじろーの事大好きだもん!
メイド部隊はみんな仲良しだよ!」
「そうですか……よかった……」
「あややんも、すぐみんなと仲良くなれるから大丈夫だよ?」
「あ……」
自分の質問を少し別の意味に取ったらしい、あーちゃんの優しい言葉。
鷹森は胸の奥が温かくなった。
(メイド部隊の人って……優しい。執事部隊の皆はもしかして、何か誤解してるのかも……)
と、思ったその時だった。
あーちゃんの弾んだ声が響く。
「あ!あややん!こじろーだよ!お――い!こじろ――!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振るあーちゃんと自分の向かいには確かに小二郎の姿が。
小二郎は驚いた顔でこちらを見ている。
(ヤ、ヤバい!!小二郎君にはさすがに気付かれ……)
「え?あれ?たか……」
小二郎がそう言ったと同時に鷹森はほとんど反射的に小二郎に抱きついた。
「小二郎お姉様―――――――っ!!」
「みきゃっ!?」
小二郎を押し倒す様に床に倒れ込んでも、もう無我夢中で
恥ずかしいと思う暇もないくらい必死で鷹森は喋くりまくる。
「ああ、お会いしとうございました小二郎お姉様!覚えてらっしゃいまして?
アナタに憧れてメイドになったあややでございます――――っ!」
と、言いつつ、隙を見て小二郎の耳元で囁いた。
(小二郎君!先輩達に無理やり合コンの交渉を押しつけられて……!お願い!メイド長さんに会わせて!!)
「あ、ああ……分かった!久しぶりだな、あやや!」
小二郎は何度も頷いて、話を合わせてくれた。
どうやら鷹森の事情が伝わったようだ。鷹森と一緒に立ちあがると、
あーちゃんにも上手く話してくれた。
「あのさ、あーちゃん……あややの事はオレが月夜さんに会わせるよ。今まで道案内ありがとう」
「どういたしまして!じゃあ、あーちゃん仕事に戻るね!またね、あややん!」
「あーちゃんさん、ありがとうございました!」
元気に手を振るあーちゃんが見えなくなると……鷹森は一気に肩の荷が下りて小二郎にもたれかかる。
「はぁ――――、緊張したぁ……バレたらどうしようかと思ったよぉ……。
ありがとう!小二郎君、本当にありがとう!!」
「ううん。鷹森が無事で良かった……鷹森、執事部隊のお前がここに来るのは危険すぎるよ。
もうこんな危ない事しないで……」
鷹森の両肩に手を置いて、本気で心配する素振りの小二郎。鷹森は少し驚いた。
「ここに来るまでに会った人たちは優しかったよ?
っていっても、あーちゃんさんと、ひなちゃんさんしか会ってないけど……」
「それは、皆がお前の事“新人メイド”だと思ってたからだよ。
執事だって知てったら優しくしない。で、合コンの話だけど……もう無駄だよ。
何を言っても月夜さんは意見を変えないし、お前の変装も月夜さんは絶対に誤魔化せない。
早くここから逃げろ。特に絵恋様に見つかる前に早く逃げないと……」
小二郎の言葉がふいに途切れる。視線は鷹森を通り越した後ろを見つめる。
その視線を追って振り返った鷹森が捉えたのは、小柄な乙女だった。
可愛らしいドレス風のワンピースに身を包んで、大ぶりのアクセサリーのついたカチューシャをしている。
長い髪は軽く内巻きになっていて幼い印象の、人形のような女性。
鷹森は思わず見惚れてしまった。
(奥様……うわぁ……近くで見るとますます、なんて可愛らしい人だろう……)
今まで鷹森が絵恋を見たと言えば、遠くから旦那様と一緒に天使の笑顔で歩いている姿くらいだ。
その天使の笑顔で絵恋が言う。
「あなた……誰?」
その言葉が自分に向けられている事に気づいて、鷹森が慌てて口を開く。
「あ、あの私、新人メイドのあや……」
「鷹森ダメだ!!」
小二郎が思いっきり鷹森を引っ張って、二人で倒れこむ。
わけも分からず床に転がる鷹森を庇う様に、小二郎が手を広げて前に出る。
さっきまで天使だった奥様は、感情の死んだような冷たい目でメイド達を見下ろしていた。
キラリと光るナイフを持って。
「どきなさいよ小二郎……その泥棒猫の味方するわけ?」
「絵恋様、落ち着いてください!コイツは違うんです!」
「違う?何が?どうして私の知らない女がこの屋敷に紛れ込んでるのよ!
絶っっ対に許さないわ!千賀流さんを狙う汚らしい雌豚!今すぐ始末してやるんだから!」
ヒステリックに叫ぶ絵恋に、鷹森は一気に青ざめた。
「こ、ここっ、小二郎君!!ナイフが!!」
「大丈夫!!アレは玩具だ!この屋敷で、絵恋様と刃物は徹底的に遠ざけてるから!
それよりオレが絵恋様を食い止めるからその隙に逃げろ!!」
「そ、そんな!小二郎君!!」
「とりゃ―――――!!」
小二郎は掛け声勇ましく、絵恋に突っ込んでいく。
絵恋は小二郎に向けてナイフ(玩具)を振り回し、小二郎がそれを避ける。その繰り返し。
ナイフの刃先が銀色のラインを描く、踊る様な攻防が続いていた。
鷹森はただ、ハラハラしながらそれを見守っていたけれど
小二郎が倒れた時には我慢できずに、庇う様に覆いかぶさった。
絵恋がほくそ笑み、しゃがみこんで鷹森に向けてナイフ(玩具)を振り下りした。
「バカね!自分から刺されに来るなんて!これでトドメよ!!」
ぎゅっ!!
当然玩具なので刺さらないナイフ。けれども、太くて丸い刃先が鷹森の肌を圧迫して痛かった。
ちょうどツボ指圧のような感覚だ。
「痛い!痛いです奥様!やめてください!」
「うるさいわよ!黙って死になさい!えいっ!えい、このっ!」
ぎゅっ!ぎゅぎゅっ!ぎゅっ!
問答無用で何度もナイフで圧迫してくる絵恋。
鷹森はツボ押し風の痛みにひたすら苦しんでいた。
「痛たたたた!ごめんなさい!許して下さい!痛っ!もうムリです!」
「え、絵恋様!やめてください!刺すならオレを刺してください!」
鷹森に庇われている小二郎も必死に叫ぶ。
3人で何だか迫力に欠ける戦闘シーンを繰り広げていると、凛々しい声が響いた。
「絵恋様!?どうしました!?」
駆け寄ってきたのは、またしても新たなメイドだった。
小二郎がそのメイドの名を呟く。
「月夜さん……!!」
(この人が……!?)
メイド長の月夜は、まさに噂通りの人だった。
黒いショートヘアーに妖艶な小麦肌。黒の、胸元の大きく開いたメイド服。
しかし胸は小二郎並みに控えめでスレンダーな印象が強い。
スカート丈は短くて、大きくスリットの入ったタイトスカート。
全体的に中性的な雰囲気を纏っていて、執事服を着せてもきっと似合うだろうと思われる。
そんな彼女は優しい笑顔で絵恋に手を差し伸べていた。
「絵恋様……そんな床に座り込んで……お召し物が汚れてしまいますよ?」
「服なんてどうでもいいわ!月夜!今、千賀流さんを狙う泥棒猫を始末してるのよ!」
「泥棒猫?」
「コイツよコイツ!!」
絵恋が必死で鷹森をナイフ(玩具)で刺す。
月夜は一瞬キョトンとしていたが、すぐに絵恋に笑顔を向けて優しく言う。
「分かりました絵恋様。この泥棒猫は月夜が処分しておきますので、
絵恋様はどうかお部屋にお戻りくださいませ。旦那様からお電話がかかっておりますよ?」
「え……?ちょっ、ちょっと!それを早く言いなさいよ!待ってて千賀流さん!今行くわ!」
絵恋は大慌てで部屋に走って行き、鷹森と小二郎はどうにか助かった。
二人で長い安堵の息を吐いて、そして鷹森はやっと出会えたメイド長に要件を伝えようと必死で言葉を紡いだ。
「あ、あのっ!助けていただいてありがとうございました!初めましてメイド長さん!僕は執事部隊の鷹も」
「知っている。用件は?」
冷たい言い方に鷹森は思わず声を止める。
月夜はさっき絵恋に向けていた優しい笑顔とは正反対の無表情で鷹森を見ていた。
鋭い視線からは威圧感さえ感じて少し怯んだが、一生懸命用件を伝えた。
「メイド部隊と執事部隊の食事会を開いて欲しくて、お願いに来ました!!」
「その話は何度も断ったはずだが?」
「でも……先輩達がもう一度だけ頼んでみようって……一度だけでもお願いします!
メイド部隊も執事部隊も、同じ使用人仲間じゃないですか!!」
「……分かった」
その言葉に、鷹森はぱっと顔を明るくした。
しかし月夜は鷹森の胸倉を掴んで上に引っ張る。
呻く鷹森にお構いないで、相変わらず冷たい無表情のままこう言った。
「やはり、執事部隊は口で言っても分からない無能の集まりの様だな。
見せしめにお前を半殺しにして返してやろう。
いくらバカ共でも仲間が重傷を負わされれば、二度とメイド部隊に近付こうとは思うまい……」
「そん、な……」
「ふざけた格好で絵恋様のお心をかき乱して……無傷で帰れると思うなよ?
お前にもまだ仕事があるだろうに、よくもここへ来る気になったものだ。
元よりご主人様へのご奉仕を放棄して自分の欲望本位で動く奴らを、我々は使用人仲間と認めない!!」
空気が震えるほどの怒号に鷹森は思わず目を閉じる。
そのまま地面に叩きつけられて咳き込みながら、本気で身の危険を感じた。
「月夜さん!やめてください!お願いです!鷹森に乱暴しないで!!――きゃっ!?」
鷹森を助けようと月夜に縋りついた小二郎は薙ぎ払われて尻もちをつく。
「鷹森!!」
悲鳴のような小二郎の声。
鷹森は自分の身より、小二郎が気になって仕方ない。
このまま自分がやられれば、小二郎はきっと大泣きするだろう。
しかも、自分と関わった事でお咎めがあるかもしれない。
黙ってやられるわけにはいかない……鷹森は気力を振り絞って月夜に手を伸ばす。
「月夜さん!せめて小二郎君だけは……!」
伸ばした手は偶然にも胸元に引っ掛かり、反射的に掴んだ“何か”をそのまま引き千切ってしまう。
ブチッと布の裂ける音と共に信じられない光景が目の前に広がった。
「「なっ……!!」」
鷹森と月夜の驚く声は同時で。
胸元の大きく開いたメイド服から飛び出したのは豊満なバスト。
解放感たっぷりにブルンブルンと大きく揺れていた。
「たぁかぁもぉりぃぃぃ――――っ!!」
「ち、違う!!誤解だよ!!こんなつもりじゃ!!」
小二郎が真っ赤な顔で眉を吊り上げていたので、鷹森も真っ赤な顔で慌てて首を振る。
手に持っていたサラシの欠片がヒラヒラと揺れていた。
動揺しまくる鷹森と小二郎とは逆に、月夜は冷静な様子で
服から飛び出した巨乳を隠そうともせずに感心していた。
「……この短時間で私の弱点を見抜くとは……コイツ、できる……!!」
「誤解です!ごめんなさい!僕は何も見てません!」
「だが残念だったな。お前程度なら、弱点をさらしたままでも半殺しに……」
「いいから早く胸しまってください!お願いですから〜〜〜〜っ!!」
温度差は埋まらないまま、またしても身の危険にさらされる鷹森。
月夜の方をまともに見る事も出来ずにうずくまって、目を閉じていても分かる、何かが動く気配。
次に襲うであろう痛みを覚悟しながら、鷹森は心の中で叫んだ。
(僕はこのまま、胸を丸出しにしたメイドのお姉さんに半殺しにされて、
しかも好きな子の前で、女装したまま……これって何の罰ゲームなの!?助けて神様ぁぁぁ!!)
「月夜さんやめて!!」
鷹森の心の声に応えるように、小二郎の声が重なる。
痛みは襲ってこなかった。恐る恐る目を開けると、小二郎が自分を庇う様に前に立って両手を広げている。
月夜は相変わらず殺気のこもった目で冷たく言い放つ。(ちなみに巨乳はすでに服の中に収納されていた)。
「小二郎、そこをどけ」
「どきません!!」
「どけ!!」
「嫌だ!!友達なんです!!」
小二郎は叫んだ。
広げた両腕を、華奢な体を震わせて、それでも月夜をしっかりと見つめて言う。
「ここで……この屋敷で、初めてできたちゃんとした友達なんです!!
初めて、オレの事ちゃんと見てくれて、認めてくれた大事な友達なんです!!」
言いながら、小二郎の目から次々と涙がこぼれる。
泣き声交じりに一生懸命訴える。
「お願いです!!鷹森に乱暴しないでください!罰ならオレがいくらでも受けます!!
だから鷹森を傷つけないでください!コイツに何かあったら、オレ……オレっ……!!」
止まらない涙に小二郎はついに顔を覆って泣きだす。
顔を俯けて嗚咽して、それでも震える声で懇願するのをやめなかった。
「月夜さんっ……お願い、ですから!!」
大号泣しながら必死で訴える小二郎。
最初こそ厳しい表情を崩さなかった月夜だが、小二郎のこの姿を見て一気に鉄仮面が崩れた。
眉をハの字にして深い息を吐く。
「……分かった、分かったから泣くな……」
「ふ……ぇ……!!」
「もういい。泣くなってば。お前の友達を半殺しにするのはやめた……」
「――――ありがとうございます!ありがとうございます!!」
泣きながら何度もお礼を言う小二郎を優しく撫でる月夜。
見ていた鷹森は姉妹の様だと和んでしまった。のもつかの間……
「ただし!!」
響いた大声に小二郎も鷹森もビクッと身をすくませた。
月夜はまた厳しい表情に戻ってこう続けた。
「何もせずに帰すわけにもいかない。仕事をサボってメイド部隊に侵入した挙句に
絵恋様に要らぬ心労をお掛けした罪は重い!
……ちょうどメイド服を着ていることだし、メイド部隊のやり方で贖わせてやろう」
(“メイド部隊のやり方”……?)
分からなくて戸惑った鷹森は思わず小二郎を見たが、小二郎は赤い顔をして俯いてしまった。


ほどなくして……
とある空き部屋の一室に響く打音と悲鳴。
バシッ!バシッ!バシッ!
「ごめんなさい!う、ぁ、月夜さんごめんなさい!」
「まだ100もいってない。謝れば済むと思うな」
「いぁぁぁっ!」
鷹森はメイド服のスカートを捲くられて下着を下ろされ、
ベッドに座った月夜の膝の上でパドル打ちを受けていた。
必死に許しを乞えども、容赦なくパドルを振り下ろされる。
「いっ、はぁっ、痛い……んです……もう、許して下さい!」
「執事部隊では“痛い”と言えば許してもらえるのか?」
「やっ、違い、ますけど!!」
「なら黙って大人しくしていろ。最初から甘ったれて情けない。
普段から甘やかされている証拠だな……これだから執事部隊は……」
バシッ!バシッ!バシッ!
謝れば謝るほど、むしろ強まっていくような打ち方に鷹森はもがき苦しむ。
想像以上の痛みだった。女性だからと軽く見ていたら大失敗だ。
そんな状態だからもうお尻も赤い。
「ああっ、ごめんなさい!月夜さん……!」
「それにしても……お前、そんな格好で女に尻を叩かれてるなんて恥ずかしい限りだな」
「うぅっ、すごく恥ずかしいです!!」
半泣きで叫ぶ鷹森。実際そうなのだ。鷹森にしてみれば正論過ぎて返す言葉もない。
唯一の救いは小二郎がここにいない事だった。こんな姿は絶対に見られたくなかった。
こんな、メイド服でメイド長にお尻を叩かれながら叱られる姿。
「だったら、今日の事は絶対忘れるな。二度とそんな格好で我々の周りをうろつくな。
私は、お前が絵恋様に要らぬ心配をおかけした事が何より許せない!」
バシッ!バシッ!バシッ!
「ひぁっ、ごめんなさ……」
「謝る前に良く考えろ!旦那様に近付く女に過敏な絵恋様の為に、メイド部隊は少人数で構成されてるんだ!
しかも絵恋様に認められ者しかメイド部隊には入れない!
いきなり知らないメイドがいたら、絵恋様がパニックになるのは分かりきっているだろうが!」
ビシィッ!バシィッ!ビシィッ!
さらに強く叩かれ始めて鷹森は跳ねあがって暴れる。
長く叩かれたおかげでお尻はもう全体的に真っ赤だった。
「ごめんなさい!許して下さい!まさか奥様を怒らせる事になるなんて思わなくてぇ!!」
「だから執事部隊はバカばっかりだと言うんだ!主の事を何一つ考えてない!」
「ご、ごめんなさい!は、ぁ……!痛いぃ……!」
絶え間なく続くパドルで打たれる痛みに、鷹森は限界だった。
呼吸もだんだん早くなってきて、無意識に抵抗も大きくなってくる。
無様に叫ぶのはみっともないと、最初に叱られたけど我慢できなくなって叫ぶ。
「月夜さん……!我慢できません!二度とここには近付きませんから……
お願いですから、もう許して下さい!お願いします!!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
返事は無かった。ただ、ペースを変えずに叩かれるだけ。
「月夜さんごめんなさい!お願いです!お願いですから、もう、これ以上は……!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「ごめんなさい!もうしませんから、本当に、約束しますからぁっ!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「や、やだっ……!!もうやだぁぁぁぁっ!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「ふぇっ、ひっく、上倉さん……上倉さぁぁぁあん!!うわぁぁあああん!」
何を言っても無言で叩かれ、ついには泣きだしてしまった鷹森。
この痛みから逃れたい一心で、まんべんなく赤いお尻を振って暴れると
“大人しくしろ”とばかりに太ももを思いっきり叩かれた。
「ふぁぁああああっ!」
「メイド服を着ているからには、お前は今一人のメイドだ。
この廟堂院家のメイドであるということは、絵恋様に絶対の忠誠を誓った証。
その覚悟と誇りを持たない、中途半端なメイドがどんな目に遭うかここでゼロからきっちり教えてやろう。
執事部隊の新人は随分お暇なようだからな」
「そっ、そんな……!!もう嫌です!帰りたい!うわぁぁぁん!上倉さぁぁぁん!」
鷹森は真っ青になって泣きながら首を振る。
けれど状況に変わりは無い。返ってくるのは厳しい声だ。
「まだこの程度の仕置きで音を上げて……軽々しくメイド服など着てここにくるからこうなるんだ!
どうせコスプレ気分でそんな格好をしてきたんだろう!?メイドをバカにしてる!」
「こ、これは先輩方に着せられてぇぇっ!」
「ほう?そういえば、共犯者がいるんだったか?お前をここへ差し向けたバカ共が……」
「……!!」
「一人残らず名前を吐いてもらおうか?」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「あぁああっ!やだぁ!痛い!」
鷹森は自分の発言を後悔したがもう遅かった。
月夜のパドルがさらに厳しくなる。他の共犯者の名前を聞きだす気満々だ。
鷹森は悲鳴を上げながらも耐えるが月夜の追及は止まない。
「早く言え。そいつらもお前と同罪だ。私が責任を持って半殺しにしておこう。
お前以外なら、半殺しにしても小二郎は泣かないだろうしな」
「しっ、執事部隊は、全員、小二郎君の友達ですっ!!」
鷹森がそう叫ぶと月夜が嘲るように笑う。
「ハッ、全員友達か……本当にそうなら小二郎は今も執事部隊にいられただろうに……」
「えっ?」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「あうぅっ!!」
月夜の言葉がどういう事か聞きたかったけれど、鋭い痛みに言葉が続かず聞く事が出来ない。
そうこうしている間に、話がまた“共犯者の名前”に戻ってしまう。
「とにかく早く名前を。絵恋様への害悪は早めに駆逐するに限る」
「あぁぁっ!!い、今のは全部ウソです!僕一人でやりました!!」
この恐ろしい月夜に仲間を売れば、先輩達も酷い目に遭わされるに違いない……
そう思った鷹森はとっさにそう言った。
これで騙せるとも思っていなかったけれども、彼にはこの返事しか思いつかなかったのだ。
月夜はしばらく押し黙り、呟くように言う。
「……お前の尻は随分赤いな?そのうち血でも出てこなければいいが……」
「――!!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「やだぁぁぁっ!痛い痛い痛いぃぃっ!うわぁぁぁん!上倉さぁぁん!!」
鷹森は恐怖と痛みで泣き喚く。
“血が出る”なんて脅されたので怖くて余計に痛く感じる。
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「うわぁぁぁあああん!!」
真っ赤なお尻を叩かれて、大声で泣き叫んで暴れて……そんな時間が続いてもまだまだ許してもらえず……
そのうち声も出なくなってきた鷹森。苦しそうな呼吸で弱弱しい声を出す。
「ひっ、ふぇっ……ごめ、なさっ……ぐすっ……」
バシィッ!
「んぁあああっ!やだぁ……もうやだよぉぉっ……怖いよぉ……ひっく……!!」
バシィッ!
「ごめんなさいぃっ!はぁっ、はぁっ……うっ……」
打たれた直後だけ大声で悲鳴を上げ、あとはまた弱弱しく泣くだけ。
そこまできて初めて月夜が鷹森に声をかける。
「そろそろ反省したか?」
「反省しました……もうしません……もうしません……!!
メイド服も軽々しく着ないし、奥様を怒らせるような事もしません……!」
小さな声ながらも、精いっぱい心をこめて謝る鷹森。
その誠意はやっと月夜に届いたようだ。
「いいか?今回お前は小二郎のおかげで軽い罰で済んだ事を忘れるな?
次同じ事をしたら小二郎が泣こうが喚こうが、この程度では済まないと思え!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「あ、あ!わ、分かりましたぁぁ……!!」
やっと長かったパドル打ちが止んだ。
鷹森は体を起こされても顔を覆って泣いていた。
すると……急に柔らくて温かい物に包まれる。
驚いて顔をあげると、月夜が自分を抱きしめていてますます驚いた。
「あ、あの、月夜さん……?」
「言っただろう?お前は今一人のメイドだ。
メイド部隊では、きちんと反省できたらこうしてやるんだ」
「……ふっ、ぇっ……!」
今までよりずっと優しい声をかけられ、おまけに撫でられて……
恐怖からの解放で安心した瞬間、鷹森の感情は一気に高まってしまい、月夜に縋りついて大声で泣いた。



その後、月夜と一緒に執事部隊側に戻った鷹森。
上倉のところまで連れて行かれた時、鷹森は泣きながら上倉の胸に飛び込んだ。
「上倉さん……上倉さぁぁぁん!会いたかったぁぁぁ!」
「おっと、鷹森君!?どうしたんですかその格好!?」
鷹森を抱きとめながら驚く上倉。返事をしたのは鷹森ではなくて月夜だ。
「貴様の躾がなってない後輩がその格好でメイド部隊に潜り込んできた。
もう十分報いは受けさせたけど、お前からも良く言っておけ」
「何ですって?鷹森君をお仕置きしたという事ですか?」
上倉が月夜を睨みつける。月夜の方も上倉を冷たく睨みつける。
「文句でもあるのか?」
「あるに決まってるでしょう!!この子は執事部隊の子なんですよ!?
それを勝手にお仕置きするなんて聞き捨てなりません!!」
「偉そうな口を聞くな!元はと言えば貴様の……」
「だったら、何故私をお仕置きしない!?」
上倉の大声に、とたんに月夜の表情が冷やかな呆れ顔になった。
鷹森の方も驚いて目を丸くする。
しかし上倉はそんな二人にお構いなしでマシンガンのごとく捲し立てる。
「おかしいじゃないですか!どう考えても私の監督責任でしょう!?
監督不行き届きで私をお仕置きしてくださいよ!ねぇ!?
どうして鷹森君を直接お仕置きしちゃうんですか!?意味が分からない!
私がお仕置きされたかっ……ゴホン、この子の為なら私はどんな罰でも受けたと言うのに!!」
大興奮の上倉の姿を軽く無視して、月夜は静かに鷹森に尋ねた。
「……お前、こんなのが上司でいいのか?」
「……これでも素敵なところがいっぱいある人なんです……」
悲しげな笑顔で微笑んだ鷹森に同情しつつ、月夜は上倉に向かって冷静に言う。
「こちらも、貴様の下劣な趣味に付き合っている暇は無い。そんな事は……誑し込んだ仲間にでもさせておけ」
「あ!まるで私が仲間を誑し込んでるかのようなその言い草……!すごい侮辱ですよ?」
「事実だろう?」
「そうなんですけどね♪」
明るい笑顔でそう言った後、上倉は急に大真面目な顔で頭を下げる。
「月夜さん、本当にうちの部下がご迷惑をおかけしました。私からも叱っておきますので」
「当たり前だ。コイツの他にも共犯がいるらしいから、お前が聞き出して躾けておけ。
私には口を割らなかった」
「了解しました」
上倉の真面目な態度に満足したのか、月夜はそれ以上は何も言わずに帰って行った。
月夜の後ろ姿を見送って、上倉がまた明るい調子で呟く。
「あー怖い。月夜さんって、本当に真面目で厳しいんですよねぇ……。ねぇ鷹森君?」
「……ごめんなさい!!」
「謝ってもダメですよ。そんな可愛らしいメイド服を着て抱きついてくるなんて……
私を誘惑するつもりですか?小二郎というものがありながら」
「か、上倉さん……!」
上倉にぐっと抱きしめられ、鷹森は真っ赤になってうろたえる。
その腕から逃れる事もできないまま、髪を撫でられて耳元で囁かれた。
「さぁて……そんな困った子はどうしてしまいましょうか?
メイド部隊の方々に迷惑かけた分も含めて、お尻100叩きですかね……?」
「あ……の……」
「はい、決定〜〜☆」
「わっ!?」
鷹森はひょいっと抱き上げられて、近くの空き部屋に連れ込まれる。
そのままベッドに座った上倉の膝の上にのせられて……くるくると変わっていく状況に声も出せないでいた。
そして下着を下ろされると同時にこう言われた。
「まずは、さっき月夜さんがおっしゃっていた君の共犯の子達を
“全員”教えてください。いいですか?“全員”ですよ?“一人残らず”です」
「そっ……」
「言わぬなら 無理やり言わせます ホトトギス」
「い、言います!!言いますからっ!!(何で武将風の俳句!?)」
やっとの思いで一言反応で来た鷹森。
この後は本当に全員の名前を吐かされて、すでに真っ赤だったお尻を存分にお仕置きされた。

その後、鷹森は共犯だった先輩方から誠心誠意謝られ、
それでも彼らは『メイド部隊と合コンしたい!』と騒いでいたけれど
上倉の「そんなに恋人が欲しいなら、全員まとめて私の恋人になってもらいますよ!?」という一言で
その後一切合コンの話はしなくなった。

こうして執事部隊とメイド部隊に再び平和が訪れた。

が、メイド部隊ではしばらく“謎のメイド・あやや”の噂が流れていたらしい。




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【作品番号】BSE6

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