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廟堂院絵恋の可憐なる挑戦


ここは神々住まう天の国でも、街で噂の大富豪の屋敷でも、町の路地にひっそりと佇む小さな喫茶店でもなく
ピンクの雲とパステルカラーの星達に包まれた白い洋風円卓。
まるでオシャレなカフェの一席だけ持ってきたかのようなこの空間で、3人の女性がお喋りに花を咲かせる。

「……と、言うわけで結局、優君にされるがままだったよ……。
ごめんね。せっかくアドバイスしてもらったのに……」
そう言ってTさん(仮名)は、ほぅとため息をついた。隣のRさん(仮名)が楽しそうに笑う。
「そんなの気にしなくていいのよ。時子さんが頑張ってくれたおかげで面白い話が聞けたんだから♪
ああ、いいわねぇ〜〜わたくしもそんな風に情熱的に境佳様に求められてみたいわ〜〜
そんな二人のやりとりを不思議そうな顔で見つめていたEさん(仮名)は
大真面目な顔でTさんに尋ねる。
「ねぇ……無理やりむちゃくちゃにされるのってそんなにいいもの?」
「へっ!?」
突然の質問に、Tさんは恥ずかしそうにうろたえる。
「あ、いや……その辺の感じ方って人それぞれだと、思うよ?」
「でも玲姫が羨ましがってるわ」
そう話を持っていかれると、顔を赤くしているTさんに代わって、Rさんが悠々と語って見せた。
「愛する殿方に欲望のまま求められるって刺激的だと思うのよ。
理性の檻を外した“雄”の部分を大胆にぶつけられる……
普段とは違う愛の感じ方ができるんじゃないかって、そう思っただけ。
甘い囁きなんてもはや要らない!体だけで貪るように愛されるというか……ああ、素敵!
もちろん、お互いに信頼し合ってる事が大前提だけど♪」
「……そんなの変だわ。無理やりなんて野蛮よ。千賀流さんは絶対そんな事しない」
口ではそう言うものの、Eさんの俯いた瞳が好奇心に揺らいでいる……
それをRさんは見逃さなかった。クスリと笑って、この小さな人妻を優しくからかう。
「そんな事言って……絵恋ちゃんも興味あるんじゃないの?」
「そ、そんな事ないわ……だって、変よ。絶対おかしい。千賀流さんはそんな事、しない」
「殿方との愛し合い方に変も普通もないわ。色々あっていいし、色々試してみるのもいいと思うの。
千賀流さんがしてくれないなら、絵恋ちゃんがお願いしてもいいのよ?」
「れ、玲姫さん!!絵恋ちゃんにそんな事……!!」
目から鱗でも落ちたかのように、大きな瞳をパチクリさせるEさんを見てTさんが慌てるけれど……
「私、もう行くわ……」
「あ、絵恋ちゃん!?」
何かに誘われるようにフラフラと席を立つEさん。
「だ、大丈夫かなあの子!?どうしよう、私があんな話したから……無茶しなきゃいいけど……」
「大丈夫よ。彼女のところは旦那様がしっかりしてらっしゃるから。うふふ、また楽しい報告が聞けそうね♪」
Tさんがオロオロする中、Rさんはひたすら楽しそうだ。
こうしてこの日の“お喋りタイム”は終了し、舞台は夢から現へと戻っていく。



ここは街で噂の大富豪、廟堂院家の屋敷。
この屋敷の若い妻、廟堂院絵恋は昼を過ぎてもずっと、ベッドに寝そべって今朝の夢の事を考えていた。
(やっぱりどう考えても変よ。無理やりなんてダメ。まるでお父様みたいだわ……)
絵恋の脳裏に幼い頃のおぼろげな記憶が再生される。
はっきりとは思い出せない。黒い紙で作った切り絵の人形劇の様な光景だ。
若い男が美しい姫君を乱暴に押し倒す。男と姫君の影が重なり上下に揺れる。
幼い絵恋にとっては恐怖以外の何物でもなかった光景……けれど……
(変、ね……何だか……良く思い出せないからかしら?)
膨れ上がる奇妙な好奇心。
胸をくすぐられるような感覚。
怖いもの見たさ。
(いや……!!ダメよ!お父様!お母様……!)
絵恋は自分でも制御の聞かない感情を振り払おうと頭を振った。
シーツの上を無意識に滑った手が何かに触れて、自然とそこに目がいった。
『ラブ姫コミック増刊号 大好きな彼に無理やりエッチされて……大特集♥』
オシャレな題字と可愛らしく描かれた男女のイラスト。
絵恋が読みかけていた女の子向けのちょいエロ漫画雑誌だった。
「うっ……」
誰にも見られていないけれど、居たたまれなくなってポスンと枕に顔をうずめた。
うら若き乙女の欲望が、自制心を超えた瞬間だった。


それからの絵恋は恥ずかしがりながらも、彼女なりの努力を決行する。

その1 ある時は裸にフリルエプロン(白)だけ着用の上、ベッドにてお風呂上がりの愛夫をお出迎え。
「お、男の人ってこういうのが好きだって……聞いたから!」
心臓ドキドキでそう言うと、壮年の夫はいつも通り優しく微笑んで
「ありがとう。とっても可愛いよ。でも、風邪を引いてしまうから……」
と、娘にするように普段のネグリジェに着替えさせられてしまった。

その2 ある時は裸に赤ずきんちゃんのフードだけ被って、ベッドにてお風呂上がりの愛夫をお出迎え。
「きょ、今日の私は赤ずきんちゃんなの!だから千賀流さん……襲ってもいいわ!!」
心臓バクバクでそう言うと、夫は少し考え込んでから困ったように微笑みながら
「じゃあお言葉に甘えて……君を食べてしまおう」
と言って“優しく“押し倒された時点で気付いていたのだが、蓋を開ければやはりいつも通りの
紳士的でこちらを気遣うセックスだった。

その3 ある時はMっ気たっぷりのセクシーボンテージを着て、ベッドにてお風呂上がりの愛夫をお出迎え。
「こ、こういうの着ると、私の事むちゃくちゃにしたくならない!?」
心臓破裂寸前でそう言うと、夫は少し心配そうな顔をして
「今度は何のお話に影響されたんだい?映画?小説?それとも漫画かな?
そんな格好をしたって、私が君に酷い事できるわけないじゃないか……。さぁ脱いで」
と、優しく脱がされた上『こんな服どこで買ったの?』から始まって軽くお説教されてしまった。

様々な努力も虚しく、どこまでも紳士的で優しい夫。
(違う……何かが、違うわ……!)
頑張っていたことが次々と裏目に出て、絵恋は意地になっていた。
“千賀流さんに無理やりエッチされてみたい”という願望はいつしか
“千賀流さんに無理やりエッチさせてやる!!”という目標に変わって……
愛のためなら手段を選ばない絵恋の流儀がまた押し通されようとしていた。
(千賀流さん……貴方を、今夜こそ私の虜にして見せる!!見てなさい!!)
大きな瞳に愛の炎を燃やし、絵恋は怪しい小瓶の液体を黙々と調合していた。
横に『恋に効く黒魔術(上級編)』と書かれた本を広げながら。


その夜 ベッドにてお風呂上がりの愛夫をお出迎えした絵恋。
妻の姿を見て、バスローブ姿の夫は驚いた顔をしていた。
絵恋は裸に赤ずきんのフードをかぶって、腰下だけのフリルエプロン(白)を着けて
手首足首にはボンテージとセットになっていた革製の腕輪と足輪をはめている。
「どれがいいか分からなかったから、全部混ぜちゃったわ」
と、無邪気に笑って。
「……大味なんだから……すごく可愛いけどね」
と、夫もつられるように笑ってベッドに上り、絵恋に近づいてそっとフードを外す。
自然に近付くお互いの唇。しかし……
「あ!待って!」
絵恋はパシッと夫の顔を片手でせき止め、忍ばせておいた小瓶をぐいッとあおる。
そして夫に熱烈な口づけ。さらに口に含んだ液体を夫の口の中に送り込む。
(はい、ごっくん♥)
絵恋が心の中で唱えると、タイミング良く夫が液を飲み下す。それを確認して口を離した。
「くっ、絵恋……何を……?」
「“大淫魔の秘薬”。“シトリーの惚れ薬”の強力版なんですって♥
だって、千賀流さんったら全然私をむちゃくちゃにしてくれないんだもの……」
咳き込む夫を潤んだ瞳で愛おしそうに見つめる絵恋。
口に残った秘薬で舌先がピリピリする。心なしか体も熱い。口に含んだだけでこの威力……
飲んでしまった夫には、どれほどの効果があるだろうかと考えただけでもゾクゾクしてきた。
薬のせいもあり多少大胆になった絵恋は夫の袖を掴んで顔を近付け、蠱惑的に囁いた。
「私を、犯してよ千賀流さん……♥」
「っ、絵恋!!」
とたんに絵恋の体は勢いよくベッドに叩きつけられる。
初めて痛いくらいの力で押し倒され、絵恋は驚きのあまり悲鳴を上げた。
「きゃあっ!?千賀流さっ……」
呼びかける間もなく唇を奪われる。
今までされた事もないような貪る様なキスだった。
無遠慮に口内を掻きまわされ、何度も強く舌を吸われて、絵恋は頭がクラクラしてくる。
(食べられるっ、食べられる食べられる食べられちゃうっ!!)
そんな錯覚まで起こる始末。じゅぷじゅぷと濡れた音が嫌でも耳に入ってくる。
これでもかというほど激しい口づけの後、やっと顔を離した夫……
息を切らせて、何だか必死の形相だ。泣きそうな顔にも見える。
「君がいけないんだ……君が、そんな姿で、薬なんかで私をッ!!」
倒れこむように抱きつかれたかと思えば足の間に手を差し込まれ、
絵恋の柔らかい秘裂の敏感な部分を乱暴に弄られて快感に声が震えてくる。
「やっ、ぁっ!!千賀流さっ、やぁぁっ……!」
「どうして!?君が言ったんじゃないか“犯して”って!!」
「れっ、もっ、らっ、て……ひぅぅっ!!」
徐々に強さと速度を上げる愛しい手。一気に突きつけられる快感。
普段お姫様待遇の絵恋の体は一たまりもない。
喘ぎ声も甘い蜜も垂れ流しだ。
「やぁぁぁぁ!千賀流さんっ、あぁ気持ちいい……っあぁはぁぁっ!!」
絵恋はあっさりと最初の絶頂を迎えた。
叫び上げてビクンと体が震え、息を切らせているのに休む間もなく夫が首筋に舌を這わせる。
くすぐったくて顔を背ければ夫の甘い声が追いかけてきた。
「イッちゃったの?まだ私を受け入れてくれてもないのに、こんな手だけで……」
「ご、ごめんなっ、さっ……んっ……!!」
謝ろうとしたら強引に口をふさがれた。
まだ余韻を残す秘部を、再び夫の指が這いまわっている。
絵恋の2回目の絶頂を誘う様に。
「いいよ。君が飛ぶ姿は可愛いから……もっと見せて」
「やっ、やぁぁ!!ダメっ、また……!!」
「構うもんか。ほら、腰が動いてる。遠慮しないで、可愛い声を聞かせて」
「そ、そんなぁ……ぁうぅ……!!」
再び身を焦がすような快楽の波。
絵恋の体は歓迎するように同調し、揺れていた。
「ぁふっ、んっ……やぁっ……こんな……恥ずかし、のにっ……止まんな、あぁっ!!」
片手で胸を、片手で下半身を弄ばれる。
声も体も与えられた刺激の分だけ反応してしまう。
もちろん絵恋は無意識だし、恥ずかしくて堪らなかった。
「君はどこまでも私に従順なんだね絵恋。嬉しいよ。
“可愛い声を聞かせて”って言えば聞かせてくれる。じゃあ、“イッて”って言えばイッてくれる?」
「違う!違うのぉぉっ!いやぁぁっ!」
絵恋は、ただただ気持ちが良くてわけも分からず叫んでいた。
口では否定していたものの、ジンジン疼く下半身はすでに限界が近かった。
それなのに夫が……
「イッていいよ絵恋。恥ずかしがらずに」
その優しい声が一番のスイッチだった。また甘い感覚が爆ぜる。
出したくもない、いやらしい大声が出てしまう。
「んぁああああっ!!」
体が震えて、息が上がる。
2度目の絶頂。こうも休み無しにイかされたのは初めてだ。
確かに初めてのはずだった。だから、絵恋は夫の次の言葉に耳を疑った。
「とっても可愛らしかったよ絵恋。もっともっと見せてくれるよね?
君は私が言えば何回でもイケちゃうんだきっと……」
「ふ……へぇ……?もっ、や……」
またしてもキスで言葉は封じられる。
そしてクリトリスを中心に指で淡く引っ掻かれたり揉まれたり……
バテ気味の絵恋に否応なしに突きつけられる3度目の快楽。
さっき弾けたはずの気持ちよさが再び膨らみ始める。
「やっ、気持ちいい!千賀流さんっ……気持ち、い……!」
「そうかい。絵恋のここも、温かくて柔らかくてトロトロしてて気持ちいいよ」
「は、ぁん……」
こんな時でも愛する夫に褒められれば、体が単純なほどに反応してしまう。
そしてその快感が大きくなって……
「やぁああああっ!千賀流さ……いっちゃういっちゃう!ふぇぁああああぅっ!!」
大爆発。しかもその一連の状況の繰り返し。
4回、5回、6回……絵恋の体はヘトヘトな上に、無尽蔵の気持ちよさの嵐でもう頭は真っ白だ。
お尻の方や太ももまでもじっとりと濡れて落ち着かない。
本当に無我夢中で絵恋は叫び、悲しくもないのに涙を流していた。
「ふぇぇぇぇっ!千賀流さん、もうやだぁっ!もういい!
気持ちいいのもういい〜〜っ!!うぇぇええ、あぁああああんっ!」
「もういい?何言ってるんだい……私は全然君を犯してないのに。見てごらん?」
夫が絵恋に晒して見せたのは大きく反り返った自身のペニス。
そうして酔ったような興奮したような様子で言う。
「君があんまり可愛いから、前戯にずいぶん時間をかけてしまったよ……。
でももう、挿れたくて堪らない」
(前……戯……?今までの全部?ダメよ……これ以上気持ちよくされたら……)
絵恋が内心青ざめると、前髪を掻き上げるように優しく撫でられた。
愛しい夫に顔を近づけられて低く囁かれる。
「いいよね絵恋?……ああ、そうか。今日は君を犯すんだから、聞くまでも無かった」
「ちかう……ひゃん……も、限界……」
息も絶え絶えにそう訴えてみるけれど、夫は無言で絵恋の腕輪に付いている金具同士を繋いでしまう。
直接連結された腕輪のせいで手の自由が奪われて、怖くなった絵恋は一生懸命首を横に振る。
「ダメ……もうダメぇ……気持ちよくしないれぇ……」
「口答えするなんて悪い子だ。悪い子にはお仕置きしないと」
「ひっ!!」
悲鳴を上げる暇しか無かった。
夫は勢いよく絵恋の足を左右に押し上げ、ちょうどM字開脚のようになったところへ
自らの強張りを押しこんでくる。
そして絵恋の体の奥深くに叩きつけるように何度も突いてくるのだ。
「あっあぁあああっ!ダメ!ダメぇ!やだぁ!気持ちいいよぉぉぉっ!」
「気持ちいいのに嫌なの?変な絵恋。でもダメだよこれはお仕置きだから」
「だって、だって!やはぁぁぁぁああんっ!!」
小柄な絵恋の体は夫の激しいピストン運動に振り回されるように揺れているのだが
嫌というほど何度も絶頂を迎えたというのに、絵恋に襲いかかるのは今までより大きな快感。
体の中が張り詰めるたび引きつれるたび、下半身が強烈に疼いてたまらない。
「千賀流さん止めてぇ!おかしくなる!おかしくなるぅっ!」
「どうだい!?犯されるのは楽しい!?」
「ぁああああん!気持ちいい〜〜〜っ♥」
「良かった、私もすごく気持ちいいよ。もっと、もっと気持ちよくしてあげるね!」
「うわぁああああん!!」
泣いているのか喘いでいるのかもしくは両方。
絵恋は感じるがまま嬌声を上げるしかやりようがなかった。
「ひゃぁあああっ!死ぬ死ぬ死んじゃう〜〜〜っ♥」
そう、まさに“死ぬほど気持ちいい”と、それしか考えられないまま
混濁した意識でまた幾度目かの絶頂を迎える絵恋。
「んはぁああああああっ!!」
「っ!!」
自分でも信じられないくらい大きな声が出て、夫の方も同時に果てたらしい。
ぞろっと自分の体から熱い塊が抜ける感覚がまた気持ち良かった。
ガクガクと震える足は夫がまだ広げて押さえている。
今度こそ、絵恋は泣きながら訴えた。
「ふっ、ぇっ、も、やだぁ……壊れちゃう……壊れちゃう……!!」
「さ、て……君の薬のせいで全然萎えてこないね。もう一回しないと」
「やぁああああ!ごめんなさい!もうダメなの!本当にダメぇぇぇぇっ!」
「そうやって誘ってるんだろう?いやらしい子だ……ほら、いくよ!」
「ひゃぁあああんっ!やだぁああああっ!」
半分パニックで嫌がったのに、夫は強引だった。
また大きく揺さぶられながら地獄と天国をいっぺんに味わう羽目になる絵恋。
混じり合う二人の体液がずちゅずちゅと卑猥な音を立てている。
「あっ、あっ!!もう分かんない!やだぁぁ!気持ち良過ぎて意味分かんない!!」
絵恋の気力と体力はもう限界を超えていた。
かろうじて保っている意識はふわふわと頼りなく、絵恋の声はほとんど無意識から出ていた。
「あぁ好きぃ!千賀流さん大好きぃ愛してるぅ♥」
「私も愛してるよ絵恋!可愛い君をもっと犯してあげる!」
「いぁああああああっ!愛してる千賀流さぁぁぁぁん!!」
体だけははっきりと溺れるような快楽を感じていた。
そしてその快楽はまた絵恋の絶叫と共に激しい終焉を向かえる。

夫がベッドに絵恋の足を下ろした瞬間、絵恋は夫から逃れるようにごろんとうつ伏せに丸まって泣きだす。
「ごっ、ごめんなさい……ごめんなさい……もう嫌……絶対嫌……!!」
「絵恋……」
「ひっ!もう無理なの!絶対無理なの!!」
本気で怯えていていた絵恋は夫に抱き起こされた。向かい合わせにされてますます怯え泣く。
「やだぁぁっ!!壊れる!死んじゃうよぉぉっ……!」
「……じゃあ、少しは懲りた?」
「……ふ、ぇ……?」
そっと頬に手を添えられ、無理やり視線を合わせられて、絵恋は夫を見る。
怒りと悲しみの混じったような目で真っ直ぐ見つめられていた。
「こんな風に無理やり乱暴にされて、どう思った?満足?君はこういう私が好きなの?」
その言葉に絵恋は首を振る。
『いつもの千賀流さんだ』と本能で悟ると今までの恐怖心が一気に抜けて
感情が抑えられなくなって、ぶつかるように夫に抱きついた。
「ごめんなさい……!いつものっ……ぐすっ、いつもの千賀流さんがいいぃぃぃぃっ!!
うわぁあああああんっ!!」
「全く、また変な薬まで使って悪い子だ……」
「ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」
痛いくらい強く抱きしめられながら、絵恋はわんわん泣き喚く。
夫は根気よく自分の頭を撫でてくれていたのだけれど、少し落ち着いたところで体を離される。


「それじゃあ絵恋、お尻を叩くからこっちに向けて」
「……分かったわ……」
絵恋はしゅんとしながら言われたとおり、大きな枕に体を突っ伏して夫の方へお尻を突き出した。
さっきまでされた事を思うと夫に逆らう気は起きない。
途中、腕輪で連結されたままの……思う様に動かない手首をごそごそしてみるが
(これは外してもらえないのかしら……?)と、心の中で思うのが精いっぱいだ。
今の夫には怖くて直接聞けない。
(きっとたくさん叩かれるわね……千賀流さん何だかすごく怒ってるもの)
絵恋が今日の様に夫の飲食物に薬を混ぜると、大体こんな風にお尻を叩かれる事になる。
けれど今日は一段と叩かれそうな予感に絵恋はまた怖くなってしまったのだが……
その恐怖感と共にきゅんっと股間が疼く感覚が。
(え!?なんで!?)
あるはずのない感覚に驚いたと同時に、お尻に衝撃が走った。
パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!
「ひっ、やっ!!」
いつものように連続で振り下ろされる平手。その痛み。
――そして局部の快感。
(だから……なんで!?)
絵恋は戸惑った。
確かに痛い。怖い。今、気持ちいいはずがないのだ。
なのに叩かれれば叩かれるほど、痛みと一緒に気持ちよさも膨れ上がっていく。
パンッ!パンッ!パンッ!
「あっ……あぁっ!!」
「何回も何回も言ったよね絵恋?妙な薬を作って私に飲ませようとするのはやめなさいって」
「んっ……ふぅっ!!(ち、違うのに!!千賀流さんが怒ってるのに!痛いのに!)」
「なのにまた変な薬を作ってしまって!」
「やぁぁ……!!」
愛しい夫のお説教も半分上の空で、絵恋は謎の気持ちよさに身をよじっていた。
夫は容赦なくお尻を叩いてくるので、その分快感もどんどん溜まる。
「いやぁぁっ!千賀流さん叩かないでぇ!んぁぁっ!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
打たれるたび体が揺れて、秘部がきゅんと疼いて、絵恋はどんどん夢心地になっていく。
(ああ、どうしよう……!すごく気持ちいい……!)
痛い、けれど気持ちがいい。
絵恋は完全にこの言い表せない感覚の虜になっていた。
普段はお尻を打たれると嫌で仕方が無いのに、今はもっと叩いて欲しいとすら思ってしまう。
「はぅぅっ……千賀流さぁん!!もういやぁ!お尻痛いぃぃっ!」
もはや叩かれる動きに合わせて腰を揺すってしまっている絵恋。
体が貪欲に気持ちよさを追い求めているさ中、
この情けない声で夫に気づかれやしないかというドキドキさえ、興奮剤にしかならない。
けれど夫はまだ気付かないらしく、いつものように絵恋を叱っている。
「嫌がってもダメだよ。君はとっても悪い子だからいっぱい叩かないと」
(いっぱい叩かれちゃう……♥)
完全なる泥沼。
叱られる言葉にさえ感じている状況。
絵恋のお尻も真っ赤だが、きっと肉芽も赤く充血している事だろう。
それでも叩かれ続ける絵恋のお尻。
パンッ!パンッ!パンッ!
「ひゃふっ、千賀流……さぁん!!もっ、いやぁぁぁ!叩かないでぇぇ!」
「どうして“ごめんなさい”が言えないの?」
「ああんっ……ごめんなさぁぁい!!」
そう言えば絵恋は、気持ちがいいもんだから一言も謝っていなかった事に気付いた。
付け焼刃で謝ってみるものの、当然それで許してもらえるわけがない。
「君は全く反省してないみたいだね……今日は泣いても許さない事にしよう」
「いやぁぁぁっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!だって気持ちいいんだものぉっ!!」
「……え?」
直後、夫の平手が急に止まる。
絵恋の腰はとっさに止まれずに艶めかしく動いていた。
その時間差で全てが白日の下に晒される……。
「……どうしたの絵恋……?」
「ご、ごめんなさい!千賀流さんにっ、お尻ペンペンされたら気持ち良かったの!」
恥ずかしさのあまり枕に顔を押しつけながらバカ正直に答えてしまった絵恋。
夫の顔は見えないけれど、きっと呆れているだろうと絵恋は思った。
声にはそんな調子は一切出て無いけれども。
「あはは……参ったね……少し時間を置こうか?」
「……いや……気持ちいいからもっとしてほしい……」
「…………」
「…………」
5秒後、自分の言った言葉をようやく理解した絵恋は真っ赤な顔で叫ぶ。
「ち、違うっ、ごめんなさい!千賀流さん怒っちゃいやぁ……!」
「…………」
「うっ、ぐすっ……」
夫が無言だったので、恥ずかしさと情けなさで泣きだす絵恋。
けれどややあっていつもの優しい声が聞こえてきた。
「分かった。時間を置くのはやめよう」
「ううっ千賀流さん……」
「でも、今気持ち良くなるのは許さないよ?」
その言葉とほぼ同時に、だった。
パシィンッ!!
「きゃんっ!?」
お尻に感じた明らかに平手とは異質の痛み。
幸か不幸か絵恋には一瞬でその痛みの正体が分かってしまう。
(これ……パドルだわ!!)
身に覚えのある痛みが今、何度も激しく叩きつけられている。
パシッ!!パシッ!!パァンッ!!
「いっ嫌っ!!痛い!痛い痛いぃぃっ!!」
「気持ちよくは無いんだね?」
「痛いの!気持ちよくなんかないわ!!やだぁぁっ!」
「そうか良かった。今度こそお仕置きになりそうだ」
パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!
「ひゃぁぁぁぁんッ!痛いぃっ!ごめんなさぁぁぁい!」
与えられるのは肌が裂けるような痛み。
さっきまでのような気持ちよさを感じる余裕なんて全くない。
いつものような“痛いだけ”のお仕置きに絵恋は泣きそうになりながら叫んだ。
「ああっ!ごめんなさい!千賀流さんごめんなさい!痛い!痛いよぉぉっ!」
「うん。絵恋が悪い子だったからいっぱい痛くしようね」
「やっ、やだぁぁ!!ごめんなさぁぁい!!」
パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!
平手打ちの段階で赤く染まっていたお尻は、パドルで激しく打たれてさらに真っ赤になっていく。
すぐに耐えきれなくなった絵恋はあっけなく泣き出してしまう。
「うわぁああああん!ごめんなさぁぁぁい!お尻痛いぃぃぃ!!」
「今日は泣いても許さないって言ったよね?」
「もうしない!もうしないからぁぁ!いい子にするからぁぁぁ!!」
「その言葉はもう聞き飽きた。どうせ次も同じ事したらそう言うんだろうし」
「違うぅぅぅぅっ!本当にもうしないからぁぁぁぁっ!!」
痛くて堪らないので絵恋は泣き喚くけれど、パドル打ちはなかなか終わらない。
絵恋は泣く以外、自由にならない手でも気休めに枕を握るくらいしかできなかった。
……実際気休めにもならなくて、お尻は痛くなる一方だったけれど。
「ふぇぇぇぇっ!許してぇぇ!もう痛いのぉぉぉっ!」
「我慢して。君は何回言っても分からないんだから体に教えてあげる」
「いや!我慢できないぃぃ!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃ!あぁああああん!!」
パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!
「あぁっ!うわぁぁぁぁぁん!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃ!もう許してぇぇぇ!」
ぐずぐすと泣きながら痛いと同時に熱さも感じ始めて、絵恋は叩かれるたびにこれ以上は耐えられないと思う。
『ごめんなさい』『もうしない』『許して』、この3種類の言葉を使い回して必死に許しを乞う。
結果、大抵は全部聞き流されて叩かれ続けた。
「千賀流さぁぁぁぁん!もうムリぃぃっ!ごめんなさぁぁぁぁい!わぁあああああん!!」
「無理じゃないよ。じっとして」
「やぁぁぁあああっ!ごめんなさぁぁぁい!」

その後、絵恋の泣き声とパドルが肌を打つ音が延々と続いく事数十分。
今日もたっぷり泣かされて、ようやく許してもらえた絵恋。
また千賀流に抱きつきながらわんわん泣いて、撫でてもらって。

落ち着いた頃には優しくベッドに横たえれられていた。
隣に寝そべった夫が待っていたようにこう言う。
「ねぇ絵恋?さっきお仕置きの最中に気持ち良くなってた分のお仕置きをしなきゃね?」
「千賀流さん……やっぱり怒ってたの?」
絵恋は泣きそうになりながら、夫に体ごとくっついていく。
実はまだ腕輪が連結したままだった。
しかし、それを気にすることなく必死で夫にくっついて弁明する。
「ごめんなさい……!わざとじゃなかったの!私……おかしくなっちゃったのかしら?何かの病気??
で、でもっ、もうお尻は叩かないで……!」
「あ、いや……ええと、怒ってるんじゃなくて、その……」
夫は珍しく困惑したように目を泳がせ、そして恥ずかしそうに片手で顔を覆って
「ごめん、実は……可愛くて……!!
あんな風に可愛らしくおねだりされたら、もうどうしようかと……!!」
耳まで真っ赤にして笑う夫。
こんな表情はめったに見られないので、絵恋がじ――っと眺めていると、夫が覆いかぶさってくる。
「お尻は叩かない。お仕置きっていうのは、あの……
さっきの続きでたくさん気持ちよくしてあげるよ絵恋。っていうか、させて……」
「い、いっぱいはダメ……!」
とっさに夫の体を繋がった両手で押し返す……のだが、逆にその手が押し返される。
そんなに強引では無いものの、ずいっと体を近付けられる。
「怖がらないで。今度は君に無理をさせたりしないから。
可哀想に、少し脅かし過ぎちゃったね。それに君は病気じゃないから心配しなくていいんだよ?
お願い……優しくするから。ね?」
少し早口気味でそう言われる。
夫の必死な様子が伝わってきて、絵恋はドキドキしながら言った。
「……あのね、千賀流さん……」
「ん?」
「たまになら、今日みたいに疲れるくらい、いっぱいされてもいいわ」
「こら!」
冗談っぽく怒られ、じゃれつく様に抱きしめられた。
くすぐったくて笑いながら絵恋は夫の腕の中で転がる。
「きゃっ!あははははっ!ごめんなさい!ねぇ、これは外してくれないの?」
「もちろん。付けたままお仕置きだよ」
「んっ……」
優しい声と共に絵恋の唇に舞い降りたのはいつもの優しいキス。
絵恋はとたんに思いっきり夫に抱きつきたくなって……
腕輪に繋がれた両手をすごくもどかしく思った。



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【作品番号】BSE4

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