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2010年 11/22記念 廟堂院夫婦



絵恋「ねぇねぇ、千歳ちゃん千早ちゃん!私と千賀流さんが結婚するまでのラブストーリー聞きたい?」
千歳「大丈夫だよお母様……大体分かるから。どうせお父様の金に物を言わせた政略結婚でしょ?」
千早「なるほど。お父様のどこが良くて結婚したのかと思ってたけど、それなら納得できますね」
絵恋「違うわよ!私がパーティーで一目惚れしたのよ!それはそれはロマンチックな出会いから始まるのよ!?
    そう……あれは私が15歳の時……!!」
千早「やっぱり、お父様ってクソロリコン野郎だったんですね兄様……」
千歳「千早ちゃんったら今更だよ。いーい?お父様は、ロリコン・変態・サディストの三重苦なんだよ?」
絵恋「そして私はその時の婚約者を捨てて……って、聞いてるの二人とも!」
千歳「聞いてるよお母様。ロリコン変態お父様と末永くお幸せにね」
千早「今も何だかんだ言ってお母様を子供扱いなあたりが真性ですよね。寒気がする」
絵恋「もう何よ!聞いてよ!私は別に子供扱いだって構わないんだから!
   ……でも、たまには大人っぽくセクシーにしても……あら、それって素敵!ありがとう千歳ちゃん千早ちゃん!!」
千早「お母様もどうしてあんなにお父様に入れ込んでるんだか……」
千歳「そういう風に調教済みなんだよきっと」
千早「納得の下衆ですね。オレには付いて行けません」

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町で噂の大富豪、廟堂院家。
すっかり日も暮れて大きな洋風屋敷が闇に包まれる時間。
夫婦の寝室……ベッドの上では今宵も艶物語が繰り広げられようとしていた。
露出の高い黒のベビードールに身を包んだ絵恋が、妖艶な笑みを浮かべてガウン姿の千賀流に乗りかかる。
若い上に幼い印象の絵恋にじゃれつかれる壮年の千賀流は、少女にいたずらされる年の離れた兄の様だった。
「うふふ、千賀流さん……」
「こらこら絵恋……」
千賀流は優しい笑みを浮かべて絵恋を軽く抱きしめる。
頭を撫でると絵恋はますますくっついてきて、そのままキスされる。
果敢にも潜り込んでくる小さな舌にたっぷり挨拶を返して唇を離すと、
呼吸を乱した絵恋が潤んだ目で見つめてきた。
「あのね、今日の服どう?」
「とても可愛いよ」
この後の妻の嬉しそうな笑顔を思い浮かべながらそう答えた千賀流。
しかし絵恋の反応に笑顔は無かった。どちらかというと目を丸くして驚いた表情だ。
「それだけ?」
「え?」
「『可愛い』だけ?」
やや不服そうな絵恋に今度は千賀流が目を丸くする。
いつものように喜んでくれると思っていたのに全くの予想外で、慌てて別の言葉を探した。
「そうだね、可愛らしくてよく似合ってるよ……可憐っていうのかな……」
「本当に?」
「妖精みたいに愛らしいよ」
「もっとあるでしょう?」
「もちろんだよ。これだけじゃ言い足りないな……ええと……」
必死に“可愛い”という言葉をアレンジして贈るのだが妻は一向に満足してくれない。
最初の妖艶な表情は消えて、少し機嫌が悪そうな表情だ。
これではいけないと千賀流も頭をフル回転させて褒め言葉を絞り出す。
「思わず撫でてあげたくなるほどキュートだよ……可愛らしいって何度言っても足りないくらい、
そう、まるで妖精のお姫様……」
「ダメっ!!」
一生懸命褒めたがついに完全否定された。
絵恋は怒ったようなぐずったような感じで千賀流にくっついて捲し立てる。
「『可愛い』じゃダメなの!!千賀流さんさっきから『可愛い』しか言ってないじゃない!!」
「ご、ごめんね……君が可愛らしいからつい……」
「『可愛い』はイヤっ!!」
「ああ、そうか……そうだね、ええと……私のこの気持ちをどう言ったらいいかな?」
「もっと、今の私を見たまま言えばいいのよ♪」
絵恋が得意気に胸に手を当てて、「さぁ!」とばかりに期待に満ちた目で見つめてくる。
しかし千賀流はすっかり参ってしまっていた。絵恋の姿を見ても『可愛い』という単語しか出てこない。
「う〜ん」と唸って時間稼ぎをしたのだが結局は……
「愛くるしい……」
「いや――――――っ!!!」
大音量で拒否られてしまった。おまけに思いっきり枕を投げつけられた。
柔らかい羽根枕なので痛くは無かったが、地味に精神的なダメージを食らってしまう。
愛しい妻を上手く褒めてあげられない自分を情けなく思いながらも
このままでは埒が明かないので、とにかく絵恋を再び抱きしめて額に軽くキスをする。
無理くりに進めて機嫌を直してもらおうと、柔らかい肌をそっと撫でながら優しく言った。
「そんなに怒らないで?さぁ、ご機嫌ナナメでじっとしてると体が冷えてしまう……
続けてもいいかな?仕切り直して一緒に温まろうね、愛しいお姫様?」
「いや!お姫様じゃないのっ!」
(え?あれ?あ痛っ……)

絵恋が抵抗して手が当たったり蹴られたりするので少し痛い。
ちょうど機嫌が悪かった時なのかと困り果てながらも宥めるのだが、絵恋は大人しくならない。
抵抗は増すばかりだ。
「絵恋、どうしたの?今日はもう眠いのかな?」
「違うの!『可愛い』じゃダメなの!ちゃんと言ってくれなきゃイヤ!」
「そう言われても……よーし、絵恋の胸に直接聞いてみよう」
「あぁん!イ――――ヤ――――っ!!」
パァンッ!
突然響き渡る乾いた音。
絵恋の振り上げた手が、千賀流の頬にクリーンヒットしたのだ。
つまり偶然にもビンタされたようになった千賀流。
さっきまで大暴れだった絵恋も、この状況には真っ青になって固まった。
「……絵恋?何か言う事は?」
「だって、わっ、わざとじゃないの!手がね、当たっただけなの!本当よ!?」
「分かった」
「え?……きゃ!?」
千賀流は絵恋を無理やり四つん這いんさせて押さえつけ、ベビードールを捲くり上げる。
下着は元々着けていなかったらしく、露わになったお尻を思いっきり叩く。
パァン!と気持ちいいくらいの音が鳴った。
「あっ!」
「お返し。私は君の顔を殴れないからね。
絵恋?私の言葉が足りなかったのは謝るけれど、自分の思い通りにならないからって人に当たるのは良くないよ?」
「離して――!今日はお尻叩いちゃダメな日なの――!」
「そうかい……なら、ちゃんとカレンダーに付けといてくれないと」
「いや!」
千賀流は内心(今日はどうしても機嫌が悪いらしい……)とため息をつく。
やけに反抗的で、もうさっきから何度“いや”だと言われたか分からない。
素直に反省してくれないなら根気よく叱らなければと、逃げようとするお尻を何度か叩く。
パンッ!パンッ!パンッ!
「ダメぇ!いやぁ!今日はお尻叩いちゃダメなの――!」
「でも今日は絵恋が悪い子だから叩かないとしょうがないじゃないか」
「いやなの!ダメなの!いやぁぁ!」
「いやだばっかり言ってても終わらないよ。ちゃんと反省しなさい」
「いやぁぁっ!離してよ!やめて!」
パンッ!パンッ!パンッ!
しばらく叩いてみるが『いやだ』と喚くばかり、逃げようとするばかりの絵恋。
千賀流もだんだん手を強めて叱ってみる。
「人に暴力を振るうのは悪い事じゃないのかな?」
「やぁぁ!痛い!だってわざとじゃないもの!私は1回しか叩いてないのに
どうして千賀流さんはいっぱい叩くの〜〜!」
「君が全然反省してくれないからだよ。わがままばっかり言って」
「わがままじゃないの!千賀流さんがちゃんと言ってくれないといやなのぉっ!」
お尻も赤くなり始めて絵恋半泣きなのだが、それでも態度は頑なだった。
相変わらず“ちゃんと言って欲しい”言葉は分からないし……
どこで何を言えば今日は仲良く夜を過ごせたのかと千賀流は困ってしまう。
とは言え、絵恋がこんな風に癇癪を起す事は良くあったのでいつもどおりにお仕置きを続けることにした。
パンッ!パンッ!パンッ!
叩けば叩くだけ絵恋は暴れる。
「いや!もういや!いやぁぁ!」
「『いや』ばっかり言って、子供みたいだね」
千賀流が何となしにそう言った瞬間――
「うっ……うわぁああああああんっ!!」
急に火がついたように泣き出す絵恋。
本当に急に大泣きしだしたので千賀流がビクついてしまったほどだ。
「子供じゃないのぉ!今日は大人っぽいベビードールなのぉぉっ!!うわぁああああん!
せっかく黒の買ったのに!黒はセクシーな大人の色気が出るって聞いたのにぃぃっ!!」
「え、絵恋……」
「子供じゃない〜〜!!今日の私はオトナな女なのぉ!あぁあああん!!」
泣きながら喚き立てる絵恋の言葉に千賀流はすっかり申し訳ない気分になってしまう。
もともと一回り以上年が離れているし、絵恋は幼い雰囲気なのでついつい妻を子供扱いしてしまっていた。
いつもはそれで喜んでいたのだが今日はたまたま大人扱いしてほしくなったのだろう。
滅多に着ないような色の露出の高いベビードールを着た絵恋が、
必死に『可愛い』以外の言葉を求めていた理由が分かって千賀流は絵恋に優しい声で言った。

「絵恋、訂正するよ。君は立派な大人の女性だ」
「ひゃぁぁん!うぇぇ!……ぐすっ、千賀流さん!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
『大人の女性』だと認めると、すぐに泣き声も止まった絵恋。
絵恋が片意地を張っていた理由も分かったので、このままいけば素直に聞いてくれそうだ。
今すぐに手を止めるわけにもいかなかったけれどひとまず千賀流はホッとした。
「大人の女性なら、自分非を素直に認めて謝れるよね?感情に任せて人に暴力も振るわないはずだ」
「うっ……あぁん!!」
「素直に謝れるかい絵恋?君は大人だからここまで言えば分かってくれると思うけど……」
「あ、謝れるわ……ひっく、私は大人だもの!叩いちゃってごめんなさい千賀流さん……」
反射的に『いい子だね』と言いそうになった千賀流はそれを飲み込んで……
「分かってくれて嬉しいよ」
と、笑って絵恋を自由にした。
すぐに絵恋に抱きつかれて一しきり泣かれたが、その間はずっと背中をさすった。
そして絵恋が落ち着いた頃に改めてこう言う。
「今日は大人っぽくて素敵だよ絵恋」
「千賀流さん……!!」
さすがに今さらかと思ったが絵恋はすごく喜んだ様子でまた抱きついてくる。
自分の言葉にここまで喜んでくれる妻が心底愛おしくなって、抱きしめ返してキスをした。
お詫びの意味も込めて丁寧に。合わせて体を撫でると「んっ……」と切なそうに身じろぎをする絵恋を
優しく押し倒して唇を離す。絵恋はトロンとした目をしてか細い声で呼びかけてくる。
「千賀流さん……」
「絵恋……」
そのまま流れ的に胸に手をかけた瞬間、絵恋は目を閉じる。
……が、ここで千賀流はある違和感に気づいた。

「……絵恋、もしかして眠いの?」
「ん……眠く……ないわ」
恍惚……ではなく、うとうとしている妻は弱弱しく頭を振る。
誰がどう見ても眠りかけだった。
「ははは、無理しないで。今日はもう寝なさい」
「眠くない……眠くないの……」
「愛してるよ絵恋。明日でもいいんだから安心しておやすみ」
「千賀流さ……」
言いかけて絵恋の意識は途切れたらしい。
後にはすーすーと可愛らしい寝息だけが聞こえる。
それは今までずっと見てきた……出会った頃とあまり変わらない姿だ。
「ごめんね……私とって君はやっぱり可愛いお姫様だ」
千賀流はそう言って、妻の無防備な寝顔の頬を軽くつついて笑った。



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【作品番号】BSE3

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