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遊園地に来ました
※エロではないけれど一部性的な表現?が出てきます。注意書き要らないのかもしれませんが……
用心に越した事は無いですものね……!



(夢みたいだ……)

新人執事、鷹森絢音(たかもり あやね)。否、今日の彼は執事ではない。
友達の小二郎(本名:上倉 真由)を連れて遊園地に来ているただのシャイボーイだ。
二人は同じ日に休暇を取った。今日は平日というわけでもそれほど混んでもいない。天気もいい。
恒例の一時間前集合から始まって、無事に着いて、いくつかアトラクションに乗って今に至る。
鷹森の胸はずっとドキドキフル稼働中だった。
先ほど乗ったジェットコースターのせいではない。一昨日からこうだった。
(小二郎君……楽しんでくれてるかな?)
隣にいる小二郎は、豪華客船が360°高速回転しているアトラクションを眺めて楽しそうだ。
サイドで少しだけまとめたセミロングの髪を軽やかに揺らして歩いている。
服装は肩出しのふんわりした白シャツの上に明るい水色の、フリルをあしらった上下一体型ハーフパンツ……いわゆるサロペット姿。
普段のメイド服姿しか知らない鷹森には眩しいくらいだった。
(手、繋ぎたいな……でも『繋ごう』って声かけるのは恥ずかしいし……
小二郎君は嫌かな?嫌じゃないかな?案外言ってみたらすんなりOKしてくれるかも……いや、断られたら悲しいし……)
と、頭がオーバーヒート状態の鷹森。
繋ぐか繋がないか、必死で考えている最中の鷹森の手に小二郎の手が重なる。
(え!?)
反射的に小二郎の顔を見ると、小二郎もまた恥ずかしそうに鷹森を見つめていた。
縋るような視線は何かを訴えかけているようだ。
「た、鷹森っ……!!」
鷹森の手を小二郎がぎゅっと握る。
ドラムロールのように早鳴りする心臓。頭はますますヒートアップして、まともに声が出ない。
(なななな何だろう!?小二郎君、こんなに顔を赤くして、言いにくそうに……
しかも、この熱い視線は一体!?)
小二郎の唇が今まさにふわりと開き、鷹森に緊張が走る。
その運命の音色とは……
「トイレ……」
「へ?」
「トイレ行きたい……」
小さな声でそう言って、俯いてしまった。
鷹森は、しばし呆然として……
「ああああ、ああ!トイレ!トイレねっ!行こう!僕もちょうど行きたかったから!」
(バカバカバカ僕のバカぁぁぁッ!!どうして気を使ってあげられなかったんだぁッ!!)
鷹森は内心、壁に頭をガンガン打ちつける。
変に緊張して小二郎の気持ちに気付けなかった自分が不甲斐なかった。
あせあせと二人でトイレに向かい、そしてトイレの入り口に到着。
「じゃあ、後でね」
ナチュラルに手を振って、男子トイレに向かおうとした鷹森。
しかし、小二郎は頭に「?」を浮かべた表情。
結局……
(そ、そうだった……小二郎君は、そうだった……)
並んで用をたす事になった二人。
女子トイレでもいけそうな小二郎だが、身体的には男子トイレだ。
こっちに付いてきたということは普段から外では男子トイレなのだろう。
(他の部分は、女の子なんだよね……)
鷹森はついこの前、小二郎の体の事情は理解して真の友情を深めたつもりだ。
男女二つの性を抱える事実を知っても小二郎への淡い気持ちは変わらなかった。それが自分でも嬉しい。
(小二郎君が嫌う体なら、なおさら僕は体ごと愛してあげたい……でも、元々は自分の事完全に“男の子”だと思ってたらしいし
……小二郎君が好きになるのは、もしかして女の子かもしれないな……)
そう考えると少しさびしい気持ちになる。
でもその寂しさよりも温かい決意が湧き起こってくるのだ。
(それでも、例え僕が選ばれなくても……友達としてでいい。ずっと傍にいてあげたい……)
ふっと息をついて天を仰ぐ。
こんな事を考えるたび、鷹森は爽やかな気分になるのだ。
(まぁ、こんなカッコつけた事思ってても……ここトイレだけど……)
セルフツッコミで自己完結したところで、トイレタイム終了。
もちろん隣の様子は恥ずかしくて見られたものじゃなかった。
小二郎も終始無言だった。

そうこうしてトイレを出た二人。
次はどれに乗ろうかと話している最中、ふと小二郎の視線が一点に集中する。
「小二郎君?どうしたの?」
「赤レンジャー……」
鷹森に返事を返したというよりは、呟くようにそう言った小二郎。
その視線の先では、赤レンジャーが子供と握手をしていた。
(へぇ、近くでヒーローショーでもあったのかな?
けど、赤レンジャーが出てくるのは、僕とか小二郎君が子供の頃の番組なのに……
あ!最近は歴代のレンジャー集合とかあるし……それかな?)
鷹森は冷静にあれこれ考えるが、小二郎は瞳を輝かせてそわそわしている。
なんせ赤レンジャーが大好きなのだ。それを知ってる鷹森は微笑ましく思いながら言った。
「小二郎君、握手してくる?」
「ふぇっ!?バッ、バカ!子供じゃあるまいし!」
「でも、握手したいんでしょう?」
「別に勘違いすんなッ……しっ、したいよ!!したいけど我慢するよ!ハズいじゃん!」
「あはは、大丈夫だよ。今は誰もいないみたいだし」
鷹森がそう言うと、顔を真っ赤にしてますますそわそわする小二郎。
少し考えた末……おずおずと言った。
「じゃあ、ちょっとだけ、行ってくる……」
「いいよ。行っておいで」
「ちょっとだけ、サインとかもらってきていい?喋っていい?」
「いいよ。せっかくだもんね」
「あ……でもオレ、何にサインしてもらえば……ブラジャーでいいかな?」
「いけませんッ!!」
思わず大声で“お母さん怒鳴り”をしてしまった鷹森。慌てて笑顔で取り繕う。
「ほ、ほら!小二郎君、ハンカチ持ってたでしょ!?それにしなよ!ね?!」
「あ、そっか!そうする!行ってくる!」
小二郎はお菓子の刺繍の入った白いハンカチを握りしめて嬉しそうに走っていく。
鷹森は後ろからゆっくり追いかけながら微笑ましく見守っていた。
そんなに遠くない距離だ。小二郎と赤レンジャーの会話も聞こえる。
「あ、あの……オレ、昔から赤レンジャーの大ファンです!大好きです!サインください!」
小二郎が感動と興奮を織り交ぜだキラキラ笑顔でハンカチを差し出す。
赤レンジャーはそれを受け取り、小二郎の頭を撫でて、サラサラとサインを書いてくれている。
「赤レンジャー!オレ、赤レンジャーにずっと憧れてたんだ!いつも見てたよ!赤レンジャーってカッコイイし……」
すでに敬語すら投げ捨てた小二郎が興奮気味に話しかけると、身振り手振りで小二郎の声に応えてくれる紳士・赤レンジャー。
そんな赤レンジャーに小二郎がとんでもない一言。
「お願い!抱いて!」
「小二郎君はっちゃけ過ぎだよッ!!」
慌てて大声でツッコんだ鷹森。
紳士・赤レンジャー、小二郎の熱い一言にこう返す。
こくり。
「頷いた――――っ!?」
鷹森の2度目のツッコミ直後、なんと赤レンジャーは素早く小二郎をお姫様だっこして走りだしたのだ!!
もうわけが分からない。しかし体は冷静な判断を下したらしく、紳士改め誘拐犯・赤レンジャーを追いかけていた。
「どどどどうして!?何で赤レンジャーが小二郎君を連れ去っちゃうのぉっ!?
きっとあの赤レンジャーの中身は変態のおじさんなんだ……!!小二郎く――――んッ!!」
走りながら鷹森は必死に叫ぶ。
小二郎はその声に気づいたらしいが……幸せそうな笑顔でブンブン手を振っている。
「鷹森――――っ!赤レンジャーがオレの事抱いてくれた――――!すっげぇ嬉しい――――!」
「違うよ!?抱くってそういう……抱かれるのはこれからだよ――――!!怖い事されちゃうよ――――!?」
誘拐犯・赤レンジャー、足が速いのはヒーローの証だろうか……鷹森はどんどん離されてしまう。
それでも必死に走って、気がつけば遊園地内でも人の少ない所に来ていた。
(こんな人のいない場所に小二郎君を連れてきて……抱くつもりだ!ダメだ!小二郎君、絶対助けなきゃ!!)
心は焦るがもう足の動きが追いつかない。
鷹森は限界で立ち止まってしまう。はぁはぁと荒い息を繰り返しながら、必死に周りを見回した。
小二郎も赤レンジャーも見当たらない。
この辺はレンガ作り壁に囲まれ、うっそうと植物生い茂る薄暗い場所だ。
(嫌な雰囲気……小二郎君、早く探さなきゃ!!)
重くてだるい足を引きずって、とにかく直感を頼りに鷹森は小二郎を探す。
するとしばらくして
「いやぁあああああっ!!!」
「小二郎君!?」
ハッキリと聞こえた小二郎の悲鳴。
鷹森は足が重いのも忘れて声の方向に走り出した。
レンガのトンネルを抜けた向こう側。何本も柱の立ち並ぶレンガ造りの広場……最悪の光景だった。
赤レンジャーが嫌がる小二郎を無理やり床に押さえつけている。
小二郎が足をばたつかせて叫んでいた。
「やだぁっ!お前ふざけんな!助けて鷹森ぃ!」
小二郎の叫びを聞いた瞬間、鷹森は赤レンジャーめがけて突進していた。
「小二郎君を離せ変態!!」
鷹森の捨て身タックル。
どうにか赤レンジャーを小二郎から弾き飛ばす事が出来たが、地面に倒れこんだ鷹森に対して
赤レンジャーは受け身を取って綺麗に着地する。
鷹森は必死で起き上がって、小二郎を庇う様に駆け寄る。
「小二郎君!?平気!?何かされた!?」
「うっ、鷹森!!赤レンジャー、ニセモノだよ!オレのサインも……最低だよアイツぅぅ!」
半泣きの小二郎がぎゅっと抱きついてきたので鷹森も抱きしめ返す。
パッと見たところ服も乱れて無いし、サインうんぬんを気にしてるようなら、特にいかがわしい事もされてないだろう……と、心底安心した。
「そ、そうだ!あの変質者を警察に……」
そう気づいて慌てて赤レンジャーを探したが、どこにも姿が無い。
逃げられた……!と悔やんだが、くっついている小二郎が怒った声を上げる。
「あの赤レンジャー門屋だよ!門屋が変装してたんだ!許せねぇ!!」
「か、門屋さん!?」
小二郎の口から出たのは執事部隊の先輩の名前。
普段は気さくで楽しい先輩だけど、機嫌が悪いと手が出やすくなる。ついでに執事部隊の情報通。
鷹森にとっては“ちょっと怖い先輩”だ。その先輩がまさかこんな事を……
「でも、どうして門屋さんが!?」
「きっとオレに付いて来たんだ!あいつ“キャド”のリーダーだから!」
「キャ、キャド??」
「……『小二郎ちゃんを愛する同盟』。アルファベットで略してC・A・D。通称『キャド』……」
小二郎は顔を赤らめながらぼそっと言う。
鷹森は初耳のとんでもない団体の存在に、呆然とするしかない。
「何かの……資格みたいな名前だね……アイドルの追っかけみたいな感じ?」
「それより酷いよ!もうっ!ホンっトやだアイツら!」
「あはは……そんな団体があったんだ……僕も入れるのかな?」
「ダメッ!!」
「あ、ダメなんだ……」
急に小二郎が必死になるので鷹森は驚きつつも笑っておいた。
どうしてダメなのか……は、顔を赤くしてもじもじしている小二郎には聞けなかった。
でも、あの赤レンジャーの正体が執事部隊の先輩だと思うと、すべての緊張が解ける気がする。
せっかくの遊園地を邪魔されたのは腹が立つけど、もし本当に小二郎が誘拐犯に連れ去られていたらと思うとゾッとする。
(そっか、酷い事に……なってたかもしれないんだ……)
鷹森は腕の中の小二郎を見た。
「うう〜〜っ!門屋のサインなんかいらねーよ!どうしよう……ハンカチお気に入りだったのに〜〜!!」
先ほどもらったサインの事をまだ気にしている小二郎。
のんきで可愛いものだけど……危機感に欠ける感じもする。
(少し……注意した方がいいのかな?)
思えば小二郎は“赤レンジャー”というだけでいきなり「抱いて!」と言いだしたり
連れ去られても笑っていた。もしかしてテンションが上がれば誰でも付いて行ってしまうかもしれない。
それは非常に危険だ。
「小二郎君、今日はたまたま相手が門屋さんだったからいいけど、
知らない人には不用意に付いていっちゃダメだよ?もっと怖い目に遭ってたかもしれないよ?」
「うん分かった!鷹森、あの船のヤツ乗りにいこう?ぐるんぐるんしてたヤツ!」
「そ、そうだね……」(な、何か返事が軽い……分かってくれたのかな?)
不安を抱えながらも、無邪気な笑顔の小二郎にはとりあえず笑顔を返さずにはいられない鷹森。
一応は二人で船のアトラクションに向かって歩き出した。
歩きながらも鷹森は、めげずに小二郎に注意を促す。
「あのね、あと、良く知らない人に“抱いて”なんて軽々しく言っちゃダメだよ?」
「うん!あ、急流すべりも乗りたいなぁ〜♪」
「そ、そうだね……」(軽いなぁ……返事が軽いなぁ……ちゃんと聞いてるかなぁ?)
鷹森は不安だが小二郎の明るい笑顔には全力で応えたい。
そんな矢先、小二郎の視線がまた一点に集中する。
「小二郎君?どうしたの?」
「赤レンジャー……」
その視線の先では、赤レンジャーが爽やかに立っていた。子供もいない。
(どうして一日に二回も会うの?まさか、門屋さんじゃ……)
鷹森は何だか嫌な予感がした。しかし、小二郎は瞳を輝かせてそわそわしている。
今度は躊躇もないようだ。輝かしい表情のまま、くいくいと鷹森の腕を引っ張った。
「鷹森、握手してきていい?」
「いいけど……さっき言った事ちゃんと覚えてるね?」
「うん!行ってくる!」
小二郎は走りだす。鷹森も走って追跡する。
大好きな赤レンジャーと二回目の対面をした小二郎。
開口一番、弾んだ声でこう言った。
「赤レンジャー、オレ、赤レンジャーの大ファンです!大好きです!抱いてくだ……」
「小二郎君!!ちょっとこっちにいらっしゃいッ!!」
こうして、二回目の対面は10秒も経たずに終了した。



「小二郎君!良く知らない人に向かって、簡単に“抱いて”なんて言っちゃダメってさっき言ったでしょ!?
また連れ去られるかもしれないよ!?」
「痛い痛い!鷹森痛いっ!!」
小二郎の腰に手を回して、立たせたまま服の上からバシバシお尻を叩く鷹森。
とりあえず人のいない死角まで小二郎を引っ張ってきてのお仕置きタイムだ。
小二郎が痛がるのでしばらく叩いて手を止めるのだが……
「小二郎君反省できた?」
「はぁ、はぁっ……服がすっごい邪魔……もっとお尻出しやすい服着てこればよかった……」
「いや、服は関係ないからね!?小二郎君本当に反省してる!?」
「う、うん……もうちょっと強くても良かった」
「あ、全然反省できなかったね……本当にお尻出す?」
鷹森にすればただの脅しだったわけだが、小二郎は頷いて声を震わせる。
「出す……オレ直接叩かれた方が反省しやすいと思うんだ……脱ぐ……」
「こらこらこら!!脱がない脱がない!!こんな所で脱がないよ!!」
小二郎が両肩のつり紐から腕を抜くので、慌てて腰に回している手で服を押さえる。
さもないと支えを無くしたサロペットが地面に落ちて、小二郎は肩出しシャツ一枚と下着姿だ。
「お願い……その方がちゃんと反省できるから……」
「ダメッ!!」
心が揺さぶられそうな甘えた声。
鷹森は真っ赤になりながら必死で腰を……というか服をせき止めている。
「だってオレ……鷹森に叩いて欲しいし……鷹森に、直接裸のケツ叩いて欲しいし……」
「黙ろう!小二郎君黙ろう!黙って風の音に耳を傾けよう!」
理性と本能の狭間で戦う鷹森。
もともと臆病で慎重派な彼なので、そうやすやすと服を脱がせるような暴挙にはでない。
「脱がしたらオレのパンツ見られるよ?」
しかし臆病な理性は時として跡形も無く本能に飲み込まれてしまうのだ。
そう、一瞬にして。鷹森の中で何かが音を立てて切れる。
勢いよくサロペットが地面に落ちた。
「可愛い下着だね」
「え!?本当!?これにして良かっ……」
パァンッ!!
「あっ!!」
弾かれたように体をビクつかせて声を上げる小二郎。
鷹森がお尻に平手を叩きつけたのだ。そのまま一気に連打する。
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
「やっ、ああっ!!鷹森!?」
「小二郎君……あんまり“抱いて”だの“脱ぐ”だの“パンツ”だの、
男の人を挑発すると……(やめてやめて!!お願いだから落ち着いて!!)」
「ふっ……あっ!?」
「僕みたいに理性を失った男が……(黙れ静まれ口閉じろ!今ならまだ間に合うんだ!!)」
「や、痛っ……やぁぁっ!!」
「君を酷い目に遭わすッ!!(何か変な宣言出た――――ッ!ちょっと何言ってるか分からないです僕―――ッ!!)」
内なる理性のツッコミを受けつつも、鷹森は小二郎のお尻を叩き続ける。
打たれるたびにビクビクしている小二郎。
「あっ、あぅっ!鷹森痛い……!」
「痛い方が反省できるよね?今日の君は無防備過ぎるよ小二郎君?
少しは男の恐ろしさってもんを教えてあげる(何だろうこの寒いセリフ何だろう!?録音されたら死ねるッ!)」
背反する声と脳内の声。それでもお仕置きは続く。
お尻の右だったり左だったり、時には真ん中だったり、まんべんなく打ちすえていると
小二郎の声もだんだん苦しそうになってきた。
「あぁあっ!はっ、ぁ……」
「痛くなってきた?でも僕にお尻叩いて欲しかったみたいだし
たくさん叩いてあげるからしっかり反省しなさい。(神様どうか僕がこれ以上調子に乗りませんように!!)」
「は、はい……!!」
「うん。いい返事(ああ、脆弱すぎる僕の理性……!っていうか小二郎君はお尻叩かれたいだけなんだろうなぁ……)」
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
軽い音が一定間隔で響く。
ずっと叩いて、下着から少し見えるお尻も赤くなってくる頃……
さすがの小二郎も涙声になってくる。
「んっ、ぁあ!!鷹森痛いよぉ!」
「痛くても我慢して。男の人を舐めてかかった罰(もう僕そろそろダメなのかな……)」
「痛いよ!やだぁ……!!」
「いやでも続けるよ?君が反省するまで続けるからね(あ、やっとまともな事言えた!よし!)」
「んんっ……だめぇっ、痛くし……痛く……し……」
「なぁに?(“痛くし―ないで”って言いたいのかな?)」
「痛くして……」
「真面目にやれ!!(真面目にやれ!!)」
バシィッ!!
ツッコミと共に思い切りお尻をぶつ。小二郎は悲鳴を上げて、鷹森もここで声と脳内の声が一致した。
理性が舞い戻った瞬間だった。
(もうダメだ!この子ダメだ!生半可なお仕置きじゃ正してあげられない!!理性を飛ばしてる場合じゃ無かったよ!!)
我に返って心を引き締め、鷹森は改めて小二郎を見つめ直す。
細い体で精いっぱい呼吸を整える、年下のお友達だ。この子がわけも分からず誰かに付いて行って……
または軽率な発言で相手をその気にさせて、酷い目に遭わされないようにお仕置きしてるんだ。
その最初の目的にやっと戻って来れた気がした。
「上倉真由さん!」
「ひっ!?は、はい!!」
大きめの声で『名前』を呼ぶと、小二郎はビックリしながら返事をする。
「痛くして欲しいならお望み通り痛くしてあげる!でもね、喜んでばっかりいないでちゃんと反省してくれなきゃ困る!
全然真面目に聞いてくれないから今からは本気で叩くよ。これでダメなら、上倉さんに任せる事にするから!」
ちなみに“上倉さん”は小二郎の兄だ。
「申し訳ないけど下着も脱がせるね?」
「あっ……!!」
鷹森が下着を下ろすと、小二郎は怯えの混じった悲鳴を上げる。
ずっと叩き通しのお尻は赤く染まっていた。
痛そうで、一瞬このまま叩くのを憚られたが……
(た、たぶんここからが勝負……!!)
そう自分に言い聞かせて鷹森は平手を振り下ろす。
ビシッ!ビシ!バシ!
「僕言ったよね!?『良く知らない人について行っちゃダメ』、『簡単に“抱いて”なんて言っちゃダメ』って!
『連れ去られるかもしれないよ』って!」
「んぁあっ!言ったぁっ!」
まともに力を入れて叩いたので、小二郎の悲鳴も一段と大きくなった。
「それなのに赤レンジャーと見たら見境なく“抱いて”だなんて!」
「だぁって!!」
「だってじゃありませんッ!本気にされたらどうするつもり!?嫌な事されちゃうよ!?」
「ふぇっ、ううっ、嫌なことって……何ぃっ?」
「え!?それは、あの……怖い事だよ!」
「はぁんっ!!怖い事ってどんなぁっ!?」
「だ、だから、それは……何と言うか……」
ビシッ!ビシ!バシ!
思わぬ流れに混乱する鷹森。
必死に言葉を探しながら、それでも手だけは緩まないようにと……
(落ち着け落ち着け……!ここは冷静な単語チョイスを……でもたぶん、この感じじゃ
ハッキリ言わないと伝わらない気が……)
「たかもりっ……やだぁ!!もっ……痛いぃっ!!」
考えている間も小二郎の精神力や体力はガリガリ削られている。
それに気づいた鷹森は意を決して深呼吸。
「だからね、『抱いて』なんて言って、その気にされたら……エッチな事されちゃうよ!?」
「えっ?」
「……『抱いて』って、あの、せっ……『セックスしてください』の意味にも使われるんだよ……」
「えっ!?ええっ!?オレ、ただ……『だっこして』とか『抱きしめて』くらいの意味で……!!」
「だから、軽々しく知らない人に言っちゃダメって言ったの!」
ビシッ!ビシ!バシ!
「わぁんっ!!知らなかった!オレ知らなかったからぁっ!!」
「そんな事だろうと思った……でも僕が一回注意しても聞いてくれなかったでしょ?
君が危ない目に遭うといけないから注意したのに無視するし……」
「ごめんなさいっ……ごめんなさい!!」
「お仕置きしても真面目に受け取っててくれないし。ただお尻叩かれたかっただけでしょう?」
「やぁぁっ!ごめんなさい……!!今!今反省した!!だ、だから……」
「そう。やっと反省してくれたみたいで良かった。じゃあ今からしばらく反省しようね」
「ごめんなさぁいっ!!もうダメぇっ!やだぁぁぁっ!!」
やっと事の重大さを把握したらしい小二郎が『ごめんなさい』を連呼するが
鷹森が手を緩める事は無い。
ビシッ!ビシ!バシ!
「鷹森!やだ!やだぁっ!痛い!もう立てないぃ!うわぁぁぁああんっ!!」
「大丈夫、支えててあげるから」
「嫌だぁっ立てないっ!!お願い!反省したぁっ!いやぁぁぁああ!!」
すでに完全に泣きが入った小二郎は前のめったり地面を蹴ったりして抵抗を見せる。
その崩れ落ちそうな体を支えながら
(暴れてるし泣いてるし……反省してくれたかな……)
などと考える鷹森。なんせ自分の手も痛い。相手の感じる痛みも相当のものだろう。
本気で嫌がっている泣き方だと言う事は何となく分かる。
でもまともに反省し出してからはまだ時間が浅い。
もうやめてあげるべきか、まだ続けるべきか、心の天秤は揺れる。
「ごめんなさい!ごめんなさい鷹森っ!もうしないから……!おねがっ……あぁあっ!痛い!痛いぃぃぃッ!」
「……本当に反省した?」
「した!!したよぉっ!うわぁあああん!もうやだぁ!ごめんなさい!」
ビシッ!ビシ!バシ!
「ごめんなさいぃっ!やぁあああっ!鷹森〜〜〜〜っ!!」
助けを求めるように自分の名前を呼ばれると天秤はおおいに傾く。
“もうやめてあげる”の方の皿にばかり重りがドスドス積み重なって、もう地面スレスレだ。
「うわぁあああんっ!あぁぁぁああんっ!!」
ビシッ!ビシ!バシ!
ついに泣くだけになってしまった。
何度叩いても『ごめんなさい』も『痛い』も『嫌だ』も……意味のある単語は出てこない。
ただ痛々しい泣き声だけが響く。
可哀想だけどお仕置きだから、としばらく頑張って叩いていた鷹森も
(もうダメだ!限界!僕は好きな子の泣く声を聞いて平然としていられるほど強い人間じゃないッ!!)
すぐに限界をむかえる。
“もうやめてあげる”の皿が地面に追突して重りがバラバラと散らばった。
手を止めて、叩いていいた側なのに半泣きになりながら小二郎の体を起こす。
「(ごめんね!ごめんね小二郎君!)はい、終わり!お仕置き終わりだよ小二郎君!もうしないよね!?」
「うぁぁっ……もうしないぃっ!ごめんなさい鷹森ぃ……」
「うん、もういい!もういいから……!」
そう言いながら泣いている友達の体を抱きしめようとするのだが、手で押し返された。
「こ、小二郎君……?」
予想外の態度にもしや嫌われたのかと焦ったが、どうも様子がおかしい。
震える細腕で必死に鷹森の体を押し返しながら俯いて固く目を閉じて泣いている。
何かに怯えるように。
「ごめんなさい!!ごめんなさい……!!オレ、本当に反省してるんだよ!?本当だよ!?
で、でも自分でもどうしたらいいか……ごめんなさい!!」
「あ……」
しきりに下半身をもじもじさせているので気がついた。
小二郎の癖のようなものだ。小さくも立派にエレクトしているそれをじっと見つめるのも可哀想で、すぐに視線を外して。
何より小二郎が恥入っているので安心させるように声をかける。
「泣かないで。怒らないよ。小二郎君が本当に反省してくれたの、分かってるから」
「うっ……」
「だ、抱きしめてあげたいんだけど……あの、良かったら……こっち、来てくれる?」
「うわぁああああんっ!!」
小二郎が飛びかかるように抱きついてきた。
胸の中でわぁわぁ泣いている体を撫でていると、愛情も募ってくるわけで……
「赤レンジャーもいいけどさ……今日は僕と遊園地に来たんだから……
せめて今日一日は、僕だけを見てよ……」
自然と口をついて出た言葉に、一番驚いたのは鷹森本人だった。
「(なななな何言ったの!?何言ったの僕!?しまった、こんなセリフ……即取り消さないと!!)
ごっ、ごめん!!今のは何と言うか……!!」
「鷹森……」
鷹森が言い訳を完了する前に、小二郎がさらに深く抱きついてきた。
普段は存在感の薄い胸がふにゃりと押し当たる。
「ごめん……もうお前しか見ない……」
まだ涙も乾かぬうちにさらに潤んだ、うっとりとした瞳が鷹森をとらえる。
吸いこまれそうだと鷹森は思った。事実、顔の距離が近づいていくのだから。
雰囲気というものは斯くも恐ろしいものだ。小二郎も嫌がる事も無く目を閉じる。
(だって遊園地に来たんだし、遊園地だし、キスくらいは……許されるはず……)
鷹森にとっては奇跡に近い大胆な感情と行動。
催眠術にでもかかったようにお互いにスムーズに顔を近づけて、まさに唇が触れようとした時……
「へぶっ!?」
いきなり体にのめりこむ痛み。
同時に小二郎がすごい勢いで視界の端に追いやられる。
正しくは、動いたのは小二郎ではなく鷹森の方で、動いたと言うか吹き飛ばされて
地面に打ち付けられる頃には小二郎の興奮した声が聞こえた。
「すっげ――――!!スカーレット・ハリケーンキックだ!!初めてナマで見た!!」
(勘弁してください門屋さん……)
倒れ伏す鷹森の嘆きは正しかった。平然と立っているのはまたしても赤レンジャー。
小二郎はすごく嬉しそうだ。
お仕置きは済ませたものの、また『抱いて』だなんて言い出さないだろうか?とハラハラしたが、今回は様子が違った。
「でも、鷹森は悪いヤツじゃないんだよ?オレの友達なんだ。だからお願い赤レンジャー、蹴らないで?」
いそいそと服を着こみながら小二郎は悲しげに言う。
その悲しげな訴えに不服そうだが首を縦に振る赤レンジャー。
「それと、さっき『抱いて』なんて言っちゃったけど、あれ……嘘なんだ。
嘘って言うか、勘違いって言うか……オレさ、赤レンジャーは好きだけど……そーゆー意味じゃないし……
それに、オレはもう鷹森しか見えないから。赤レンジャーにはピンクがいるもんな?」
小二郎がそう言うと、赤レンジャーは急に背を向けて走り去ってしまった。
「あっ……赤レンジャー!?そうか……あっちの方に悪の気配を感じて……頑張れ!!」
キラキラした目でガッツポーズを決める小二郎を見て、門屋に一滴の憐れみ感じた鷹森だが
やっと起き上がって小二郎に近付いた。
「こ、小二郎君……」
「あ!鷹森!?大丈夫!?」
「うん……何とか……」
「マジで!?スカーレット・ハリケーンキック食らったのに、鷹森強いな!すげぇ!」
鷹森は何が何でも小二郎の明るい笑顔には全力で応えたい。
痛みをこらえて笑うと、小二郎がぴょこんと正面にくっついてきて服を引っ張った。
「オレ、赤レンジャーに『抱いて』って言わなかったよ?それに、ちゃんと言ったよ?『鷹森しか見えない』って!」
「うん。偉いね。ありがとう……」
「えへへ!」
照れて笑う小二郎の両肩に何気なく肩に手を置くと、自然とさっき――キス未遂の時と同じ格好になる。
それに鷹森は気づいてしまった。
(ど、どうしよう!?これが再チャンス!?ここで、キスってあり!?)
してしまいたい気もするが、意識すると余計にドキドキして動けない。
さっきのようにスムーズにいかない。
小二郎も不思議そうに見つめてくるだけ。
お互い無言の時が続く。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………小二郎君……」
根負けしたのは鷹森だった。顔を赤くして照れながら言う。
「手を、繋いで行こうか」
これが現実。
しかし小二郎は嬉しそうに片手を手を差し出した。
「ん♪」
「し、失礼します……」
鷹森は恐る恐る小二郎の小さな手を握る。
小二郎もしっかりと握り返す。
二人は顔を見合わせてお互い照れくさそうに笑った。
「今度こそ、あの船のヤツ乗りにいくぞ!」
「そうだね!」
「それから急流すべり!」
「うん!」
「閉園までいっぱい遊ぼうな!」
「もちろん!」
そんな会話を交わしながら、鷹森と小二郎は楽しげに歩いて行った。




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【作品番号】BSS4

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