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廟堂院家の双子の話17



町で噂の大富豪、廟堂院家には二人の息子がいた。
名前は千歳と千早。まだ幼い双子の兄弟だ。

千歳が千早に降伏宣言をした次の朝、
千早の部屋に遊びにやって千歳は、そこで衝撃の事実を耳にする。

“どうか私に……執事長の地位を”

執事の能瀬が、地位を手にいれるため千早に入れ知恵して、この状況を引き起こした事。
よりによって、すべてが終わったこのタイミングで知ってしまった。
千早が望むならと、千早に負けるならと、屈服する事も受け入れたのだ。
自分を陥れていい人物が存在するとしたら、世界でただ一人、千早だけだったのだ。
それが……“執事ごとき”の姦計だったなんて……!!
(許さない。あの男だけは、絶対に!!)
大きな怒りに震えつつ、深呼吸してそれを隠して。
千歳は千早の部屋に入っていく。
「お早う千早ちゃん!」
「!!お早うございます兄様!!」
嬉しそうに自分を出迎えてくれる千早。
ソファーで座っている千早の隣に座る。
この愛らしい笑顔が利用されたかと思うとますます能瀬への憎悪が募っていく。
「お早うございます千歳様」
「……お早う、能瀬」
能瀬の完璧な笑顔は何を考えているか分からない。それが千歳を余計に苛立たせた。
(“執事長”だって?冗談じゃない……お前ごときが……!!
プライドと野心の塊が、千早ちゃんに……この屋敷に相応しくないって教えてあげる……)
そんな事を考えながらも、普段通りのおっとり笑顔を能瀬に返していた。
作り笑顔にかけては、千歳だって負けるつもりは無い。
そんな中に意外そうな千早の声が入る。
「兄様……ゴミ虫以外の執事にはよそよそしいのに、いつの間に能瀬と親しくなったんですか?」
「そりゃあ、“未来の執事長”にはそれなりの態度で、ね?」
「!!やっとあの男を降ろす気になったんですね!!?」
嬉しそうに反応した千早。能瀬の方は目を丸くしていた。
千歳はしゅんとして言う。
「……上倉は可哀想だけれど……時代は変わってしまったものね……」
「さすが兄様!!話が分かる!!」
「僕ハッキリ言って、能瀬は嫌いだけど……
見目だけはいいし、僕の目の前で可愛らしく泣いてくれるなら少しは好きになれるかな?」
「え??」
「テストをしようよ千早ちゃん」
キョトンとする千早に、千歳は持ちかけた。
極上の笑顔で、憎き執事を辱める作戦を……きっと千早も乗り気になるだろう、と。
「能瀬が本当にこの屋敷の“執事長”に相応しいかどうか。
本当に、僕らの従順な犬になってくれるのかどうか……
この場で、能瀬のお尻叩いてお仕置きしてやるの。面白そうでしょ?」
「……確かに面白そうですね。できるか能瀬?」
「できません」
「だろうな」
「!?」
涼しい顔でキッパリ断った能瀬も、それに機嫌を損ねる様子もなく笑っている千早も、千歳にとっては予想外だ。
今度は能瀬が困ったような笑顔で千歳に言う。
「いけませんね。変な遊びばかり覚えて。そんな事では立派な大人になれませんよ?」
「……お前みたいに?」
「そうです、私みたいに。朝から手厳しいですね」
ただただ、困り顔で甘やかす様にクススク笑う能瀬の余裕が……頭にきて千歳は叫んだ。
「ねぇ千早ちゃん!コイツ生意気だよ!やっぱり執事長になんて……!!」
「兄様、ワガママばかり仰らないで」
けれど、千早も能瀬と同じように自分を宥めるのだ。
千早は喜んで賛成すると思っていたのに、その態度が理解できなくて、だんだん千歳は焦ってきた。
「な、何で……?!千早ちゃん、執事、お仕置きしていじめるの好きだったじゃない……!!」
「まぁ確かに、それなりに楽しかったですよ?」
千早は小首をかしげて、笑う。
「でも、貴方をお仕置きする楽しさに比べたらゴミだ」
それは、ゾクリと興奮を呼び起こすような笑顔だった。
その上で千早に距離を詰められて、千歳の心拍数は一気に上がって、
「兄様だって、オレが貴方以外をお仕置きしたら気分が悪いでしょう?」
「あっ……あ……♥!!」
「オレは貴方がゴミ虫をお仕置きしていた時、気が狂いそうになった……」
「そ、それは……!!」
ドキドキして、顔が赤くなって上手く言葉が出ない。
そんな中で能瀬が白々しく言う。
「私、お邪魔なようですね……出て行きましょうか?」
「そうだな。下がれ」
「ッ――出て行け!!」
千歳は思わず叫んだ。
作戦が上手くいかなかった悔しさで、逆に自分が窮地に立っている恥ずかしさで、なりふり構わず叫ぶ。
「お前なんか!この屋敷から!!執事長になんかさせるもんか!!絶対に!!」
「兄様どうしたんですか?随分ご機嫌な斜めで……執事に当たり散らすなんて悪い子だ」
「千早ちゃんだって……千早ちゃんだって……!!」
声が震える。こんな状況なのに千早の一挙一動に興奮しきってる自分が、恥ずかし過ぎて泣いてしまいそうだ。
全部見透かしたような千早が優しく優しく体に触れて、声をかけてくる。
「そうですね……オレは、心を入れ替えて貴方の立派なご主人様になります。
だから兄様もオレにお仕置きされて、いい子になってくださいね」
「千早ちゃん……!!」
「返事は??」
グイと顎を持ち上げられたら、千歳はますます瞳を潤ませて言いなりになるしかない。
「は、はい……」
「いい子」
軽く唇が触れ合うようなキスをされる。
同時に扉の閉まる音を聞いた。能瀬がどんな顔で自分を見ていたかと思うと、悔しくてやり切れない。
「もっともっといい子になりましょう。こちらに来て」
「うっ……うぅっ……」
けれども、千早が能瀬を追い払ってくれて良かった……とも思いながら、
千歳は千早のなすがまま、膝の上に腹這いになってお仕置きの恰好を取らされてしまう。
けれども、どうしても納得がいかない。千早に駄々をこねる。

「い、嫌だよ!千早ちゃん……どうして僕が能瀬のせいで叱られなきゃいけないの!!」
「前に言ったでしょう?オレは貴方を嬲れる口実ができれば何でもいいんです。
正直……貴方が執事共にどういう態度を取ろうとも文句は無いけれども」
バシッ!ビシッ!
「やっ……そんなぁ♥だったら許してよぉ」
「ふふっ、そんな甘い声で“許して”なんて説得力がありませんよ?」
ビシッ!バシィッ!
「ひゃんっ!!」
服の上からでも、強く叩かれてお尻がジンジンしてくる。
それでいて、全身が熱くなる。
千早はそんな千歳のお尻を嬉しそうに叩いて嬲っていた。
「言ってください。“もっとお仕置きして欲しい”って……」
「んっ……!!」
「ほら、もう興奮してる。何だかお仕置きするたびに感度が良くなってますね兄様?」
バシィッ!!
「ふぁっ!!い、意地悪……!!」
「意地悪はしていません。これは“お仕置き”」
ビシッ!
また一つ、叩かれて千歳は震えた。痛みと、駆けあがってくるような興奮は快感に変わる。
けれど“嵌められた”と分かった今は素直におねだりをする気にはなれない。
「あぁんっ!!やだやだ!千早ちゃん……もう許して!!」
「ズボンや下着は?“脱がせて”って言わなくていいんですか?」
「ち、千早ちゃん……痛いよ……!!」
「上手に言えたら、許してあげますよ」
「う、嘘だよ!言ったら、言質に取ってもっとお仕置きするくせに……!!」
「あはは!やっぱり兄様に隠し事はできませんね!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!
あくまで千歳を煽りながら、手を緩めない千早。
何度も何度も、痛い上から叩かれて、千歳は抵抗しながらも息が上がってくる。
しかもお仕置き慣れした体が無意識に、痛みの中から気持ち良さを拾って来てしまうのだ。
痛いながらも、クラクラしてくる。
「うっ、あぁあっ!千早ちゃん!やだぁぁっ!ごめんなさい!!」
「兄様……オレは今貴方が何をどう感じてるか分かります。謝って誤魔化そうったって無駄だ」
「うっ、ぇぇっ!!やだぁぁっ!痛い、痛いよぉ……だってぇぇ!!」
痛みと羞恥と快感がごちゃごちゃになって、千歳はわけが分からなくなってきた。
このままではポロッと、恥ずかしいセリフを口走ってしまいそう……。
千早との関係が確定した今となっては、こんな意地を張るのもバカらしいのかもしれない……
そんな事を色々考えていたら、先に声を出したのは千早だった。
「……仕方ない。たまにはオレからおねだりしていいですか?」
「へ……!?」
「“貴方の可愛らしいお尻を、思いっきり引っ叩いて、
それで貴方が泣き喚くところをオレに見せてください”、兄様」
「やっ!!?」
悲鳴を上げるのも、千早の言葉の意味を理解するのも、
千歳のお仕置きされて続けて赤くなっているお尻が、空気に晒されるのも同時だった。
そして、それが叩かれるのも一瞬だった。
ビシィッ!バシィッ!!ビシンッ!!
「ひゃぁあああんっ!?うわぁあああん!!」
急に増した痛みと、驚きもあって、千歳は思わず泣き出しまう。
千早はやっぱり嬉しそうだったけれど。
「あぁ、可愛い♥おねだりした甲斐がありました」
「やだ痛いぃぃ!うぇぇぇえっ!千早ちゃんごめんなさぁぁぁい!!」
ビシッ!バシィッ!!
「あぁあああん!うわぁああああん!やだよぉぉぉぉっ!!」
「今度からは、ご自分でおねだりできるようになってくださいね?」
「あぁん分かったぁぁぁ!ごめんなさぁぁぁい!うわぁあああん!!」
「お仕置き、気持ちがいいですか?」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「あっ、あぁああああっ!!気持ちっ……んぁああああっドキドキするぅぅぅっ♥」
千歳の方は泣き出した事で、理性が吹き飛んで、痛みと共に増した快感に振られるがままだった。
タガが外れたように泣き叫んでしまう。
「うわぁああああん!千早ちゃんごめんなさぁぁぁい!!」
「いいですよ。兄様はオレの可愛い奴隷ですから。お仕置きで気持ち良くなっても許してあげます」
「あっ、あぁあああああっ!!」
千早と二人っきりだから思いっきり泣き喚ける。そんな安心感もあった。
しかし、その時……
「千歳、千早、何か用……え!!?」
「「!!?」」
部屋を訪ねてきた父親の千賀流が目を丸くする。
もちろん千歳と千早も驚いた。いや、千歳は驚いた程度の言葉では済まされない。
「ど、どうしたの……?」
「見て分からないか?兄様が悪い子だったからお仕置き中」
「…………!!!」
千歳が黙っている間にも千早は何食わぬ様子で話し続ける。
「だって、また執事をいじめようだなんて言い出すから。ねぇ兄様?でも反省しましたよね?」
「……ッ、……ぅ、ぁ……!!」
千歳はもう絶望でほとんど声が出ない。
しかし、そこへ千歳の心にトドメを刺す出来事が。
「可愛い〜〜っ♥千賀流さんのまねっこしてるのね!?」
「あぁ、そうか……そういう事なんだね。参ったな……」
後ろからひょっこり顔を出した母親がはしゃいで、父親が困ったように笑う。
「いや、麗が、君達が私達に何か用があるみたいだからって言うからさ……」
「ノックもぜずに入ってくるなんてデリカシーが無いな。早く出て行ってくれ。兄様が傷ついてる」
「わ、分かったごめんね……!いや、もうそんな事言っちゃダメだよ千歳……?」
「うふふっ♪千早ちゃんがお兄様みたいね!」
「絵恋、行こう」
両親がバタバタと出て行って、千歳は両親にこんな姿を見られた羞恥で、
千早に何を言われたか覚えていないほど、本気で叫び出しそうになって……


「うわぁあああああん!!上倉!上倉ぁあああああっ!!」
「ど、どうなさいました千歳様!?」
次のハッキリした記憶は、酷く驚いた世話係の顔と勢いよく飛び込んだ自分の部屋だ。
けれども、千歳は錯乱したように叫ぶ。感情が止まらない。
「もういい!!もういいもういいもういいもういいッ!!」
「お、落ち着いてください!!何がありました!?上倉がここにいますよ!」
「上倉お願い!もう、僕は後でどうなってもいい!どうなってもいいから!!」
真っ赤な顔で、千歳は泣きながら言う。
「僕の目の前で能瀬をお仕置きして泣かせてぇぇぇっ!!」
「えぇっ!!?」
「うわぁあああああん!こんな屈辱初めてだぁぁぁぁぁっ!!」
「千歳様……!!」
上倉は、泣きわめく千歳を抱きしめる。
そして、あやす様に背中を撫でて、明るく言う。慰めるように、元気づけるように。
「お任せください!私を誰だと思ってるんですか?!この屋敷の執事長ですよ?!
貴方様に目を付けられるとは……あの男も実に運が悪い!
あぁ〜、もう終わりですね!この屋敷で生き残れない!
一緒に、あの高慢チキに身の程を教えてやりましょう?!ね?!」
「ぐすっ、う、うん……!!ごめんね……!!」
「謝らないでください。私もやられっぱなしは悔しいので。
嬉しいですよ、リベンジのチャンスをくださって♪」

やっと落ち着いた千歳を抱きしめながら、ホッとする上倉だった。






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