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廟堂院家の双子の話13



町で噂の大富豪、廟堂院家には二人の息子がいた。
名前は千歳と千早。まだ幼い双子の兄弟だ。

千早の部屋に手を引かれて連れてこられた千歳。
強引に中に押し込まれてやっと手を離してもらえたかと思ったら
千早は千歳の恐れる不敵な笑みで嬉しそうに言う。
「さっそくお仕置きを始めましょうか兄様?
自分から言い出すなんて、奴隷としての素質が開花してしようとしているのですよ!
オレは、それが早い方が嬉しい」
「嫌っ!!」
千歳は“お仕置きしてほしい”の演技も忘れて駆け出そうとする。
けれど
「逃げるな!!」
千早がそう叫んで背を向けた千歳から後ろから抱きしめた。
そして、逃げられなくなった千歳に怒りと怨嗟の混ざったような低い声をかける。
「やっぱり“お仕置きしてほしい”なんて、嘘だったんですね……。
あの男を庇おうとしたんでしょう……?」
「うっ……」
焦りと恐怖で急激に喉が渇いて声が詰まる。
早く取り繕わないとさらに恐怖の展開が……!と思った千歳だが、
意外にも次の千早の一言は弱弱しい声だった。
「どうして?何故ですか兄様……!!」
「!!」
顔が見えずとも千歳は敏感に感じ取る。千早の泣き出しそうな気配……
悲しさや悔しさを、隠そうともしない大声で千早は喚き散らした。
「あんな男のどこがいいんですか!?あんな、下品で、変態で、頭のおかしいクズ男!!
貴方の気に入る要素なんてどこにも無いじゃないですか!どうして!?
あいつが大人だからですか!?大人の男がいいんですか!?」
力強く抱きしめられ、か細い声で言われた。
「オレは、貴方の年上にはなれないんです、兄様……!!」
「千早ちゃん……!!」
弟の必死の叫びに、千歳の胸が締め付けられる。
心の中の恐怖が消えて、温かさと罪悪感が灯る。
(そうだ……やり方が、前より強引になっただけで、千早ちゃんは僕を愛してるんだ……!
それは僕だって同じなのに……!)
「ごめんなさい、千早ちゃん」
とっさに口から出たのは心からの謝罪だった。
「君に変な誤解をさせちゃったままみたいだね。僕は、本当に上倉に恋愛感情を持ってるわけじゃないんだ」
「じゃあどうしてあの男を特別扱いするんですか!?貴方が傍に置くのは、いつだってアイツだけだ!!」
「それは……」
改めて考えてみても、上倉を傍に置いておく理由は千歳にもハッキリとは分からない。
気が付けば幼いころからずっと一緒にいた。
けれどもその答えでは千早は納得しないだろう。
心の中を整理するような気持ちで千歳は、迷い迷い言葉を紡ぐ。
「いじめると……楽しいからかな……?」
「……そんなのより夢中になれる事をオレが体に教え込んであげますよ」
少し機嫌を損ねたらしい千早にぎゅぅとお尻を鷲掴みにされて、千歳は慌てて次の言葉を吐き出す。
「そっ、それに!可哀想なヤツなんだよアイツは!!」
「可哀想?」
「そう……可哀想なの!哀れな男なんだよアレは!僕が傍に置いて、見ててやらないとダメな弱い男なの!」
言っているうちに、千歳の頭の中でおぼろげな記憶が再生される。
号泣している上倉を一生懸命慰める幼い自分。
幼子を慰めるように、泣いている彼を心配しながらただひたすら頭を撫でていた。
それだけで後は……例えば上倉がなぜ泣いていたかとか、細かい事は思い出せなかったけれど。
「…………」
千早は黙り込む。
その、一秒後。
「感動いたしました兄様!!」
とびきりの明るい声でそういう千早。
千歳はぐるんと体を回されて、力強く両手を両手で握られた。まるで、熱狂的なファンがアイドルに対して行う握手のように。
そして瞳をかつての狂信に輝かせて興奮気味に捲し立てる。
「兄様は、あんな何の取り柄もないゴミ虫にも慈悲の心を注いでおられたのですね!?
あの汚らわしい、地球から拒絶されるべき存在を清らかな愛情で見守っていらしただなんて……!!
あぁ、オレは自分の勘違いが恥ずかしい!!やはり兄様はこの世の天使だ!!」
(僕の事はともかく、上倉の事言い過ぎだよ千早ちゃん……!!)
と、圧倒された千歳だが、千早の様子が以前の千早なので心の中に希望の光が差す。
(これはもしかして……いい流れ?)
千早が今にも自分に膝を折る――“復権”の予感に高鳴る胸。
注目の千早の、次の一言!
「つまり!オレがあのゴミ虫を、まぁとても不本意なのですが『監視して保護』すれば、
兄様は心置きなくオレの愛の奴隷になれるというわけですよね!?」
「えッ!?」
期待したのに、いきなり飛び出した斜め上理論に驚く千歳。
けれど千早の勢いはもう止まらない。
千歳の両肩をガシッとつかんで、瞳の輝きと頬の紅潮は増すばかりだ。
「オレはあの男は大嫌いですが、貴方の心を安らげて、貴方を手に入れるためだ!何でもします!
適当な奴に監視させておけばオレは関わらなくて済むわけですし!
ええ、あの男は守られるでしょうね!オレという権力に庇護されるでしょう!
だからもう、何も心配しなくていいんですよ!お優しい兄様!!」
「ち、千早ちゃん!僕は……!」
「いい子の貴方にはご褒美をあげましょう!ね?」
「……っ!!(可愛い……!!)」
千歳は言い返せない。
久しぶりに見た気がするような千早の心底喜んでいる眩しいくらいの笑顔……
その笑顔に、思わず頬を赤らめて魅了されてしまったから。
恐怖で抑え込まれようとするならまだ抵抗できた。けれど、純粋な愛情で迫られたらどうだろう?
千早を奴隷にするのは自分。逆に奴隷になるのなんてまっぴらだし怖いと思っていた。でも
“そんなにご主人様になりたいの?千早ちゃんったら仕方ないなぁ……”の、
可愛い弟のワガママを受け入れる兄心で譲歩するという形なら?
(ど、どうしよう!?)
いともたやすく転んで突っ込んでしまいそうだ。奴隷街道に。
千歳は真っ赤になりながら内心真っ青になった。
(あんなに嫌だったのに、マズイ!気持ちを持ち直さないと!!)
焦れば焦るほど思考が滑る。
嬉しそうな千早は千歳の手を取ってベッドにエスコートする。当然千歳は流される。
四つん這いにさせられて、ズボンや下着を脱がされて、やっと我に返った時には遅過ぎた。
「さぁ、ご主人様からのご褒美です!遠慮せずに悦んでくださいね、兄様!!」
「!!?」
ピシィッ!!
「ひゃんっ!!?」
痛い!と思った瞬間に無意識で情けない声が出てしまって、千歳はぐっと俯く。
良く見ていなかったけれど千早はいつもの笏状鞭を持って叩いているらしい。
「ふふっ、嬉しいでしょう?」
「あっ……あっ……!!」
いきなり叩かれた驚きのあまり口をパクパクさせるだけで、なかなか言葉を喋れない。
それをいい事に……と、思っているかは定かではないけれど千早はどんどん千歳に鞭を振るっていた。
ピシッ!ピシッ!ピシンッ!
「やっ……千早ちゃん、痛い!」
「すぐ気持ち良くなりますよ」
「そ、そんな事……」
ピシッ!ピシッ!
「あぁん!」
“そんな事あり得無い”と言おうとしたら強い痛みで強引に遮られた。
過剰に跳ね上がって反応してしまったのもなんだか恥ずかしい。
(気をしっかり持たなきゃ!)
「全部オレに委ねてしまえばいいんです」
心の声と真逆の声がすぐ傍で誘惑してくる。続けてお尻を打たれる。
ピシンッ!ピシッ!ピシッ!
「ひゃぅぅっ!千早ちゃん!」
もがく小さなお尻は赤みがさしていた。
痛みが積みあがって、油断したら自分の意思を手放して千早に縋ってしまいそうだ。
(ダメ……ダメ、それはダメ……!!)
また千早に泣いて縋れば、彼は優越感を肥大させてますます自分を支配しようとするだろう。
また一つ奴隷の階段を上ってしまうのだ。
耐えなければ。みっともなくなる前に終わらせてもらわなければ。千歳は頭の中でそう繰り返す。
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
「いやぁぁっ!ダメ!ダメごめんなさい!!」
「謝らなくてもいいんですよ。これはご褒美なんだから」
「やめてぇっ!許して!」
「許してと言われましても……」
わざとらしい困った声で、さらに激しくお尻を打ってくる千早。
ピシッ!ピシャンッ!ピシッ!
「あぁぅっ!や、だ!!ダメ!千早ちゃん、お願い!!あぁっ!」
「どうしてこの前みたいに泣いてくださらないんですか?何を我慢してるんです?」
「違う!ちが」
「違わない!!」
バシィッ!!
「あぁあああっ!」
思い切り叩かれた激痛で、千歳は思わず崩れ落ちる。
自然と上半身を伏せてお尻だけ突き出す形になった。
そこをまたバシバシ打たれるんだからまさに追い打ちだ。
「だってこの前は、あんなにお可愛らしく泣き叫んでいたじゃないですか!
オレに何度も何度も謝って、あんなに怯えて……オレはね、すっっっごく興奮しました!」
千早が震えの混じった大声を上げ、突き出された千歳のお尻をめちゃくちゃに打つ。
バシッ!ビシッ!バシッ!
「ひゃぁぁああっ!やめてぇ!痛い!痛いよぉ千早ちゃぁぁん!」
暴れるよりも、痛みに耐えようと必死でシーツにしがみつくのが精一杯で。
まともな抵抗もできないお尻はすぐに真っ赤になってしまった。
「ほら!あの時みたいにお尻が真っ赤じゃないですか!
泣き叫んで、オレに縋っていいんですよ兄様!恥ずかしがることは無いんです!」
「やだぁぁっ!いやぁぁあああ!うわぁああああん!」
“嫌だ”とは言ったものの、千歳は我慢できずに泣き出してしまう。
「ごめんなさい!もうやめてぇぇっ!許してよぉぉぉぉ!」
「兄様……そのお姿が見たかった……!!」
恍惚と呟いた千早に千歳の声は届いていないらしく、千歳の真っ赤なお尻をますます激しく叩き続ける。
ビシィッ!バシッ!バシィンッ!
「うぁああああっ!やぁあああああっ!」
「兄様!愛しています!オレ、貴方に叩かれていた時は痛かったけど……だけど
貴方の愛情も感じていたんですよ!だから貴方もオレの愛情、感じるでしょう!?」
「うっ、ぅっあはぁああああああん!!」
千歳はよっぽど痛いらしく大号泣。
けれど、千早の『愛してる』の言葉だけは彼の心を揺さぶっていた。
「愛してる!愛してます兄様!オレは貴方のすべてを支配したい!貴方はオレのものだ!」
「わぁああああん!千早ちゃぁぁぁぁん!」
ビシィッ!ビシィッ!バシィンッ!
すっかりハイになっている千早。
千歳は泣きながらもだんだん彼の異様な興奮に飲まれていく。
応えずにはいられなくなってしまった。
「ぼ、くも!!ぼくもぉぉぉっ!!」
涙を流しながら、悲鳴を上げながら、千歳は叫んでいた。
「僕も愛してる!あはぁあ!愛してるうぁああああぁぁ!!」
「兄様!嬉しい……お仕置きが終わったら、次は気持ちよく愛し合いましょうね!」
バシンッ!バシィンッ!
「んはぁぁああああ!千早ちゃぁぁぁぁん!!」
さんざん叩かれ、千歳の精神は弱り切っていた。
痛い。でも、なんだか悪くはない気がしてきた。堕ちそうだ。
(上倉……ごめんなさい僕、千早ちゃんを愛してるんだ……!
すごく痛いし、もう抵抗できない……また明日から、きっと強くなるから、だから今日だけは……)
自分の事を庇ってくれた執事を思うと何だか申し訳ない気がかすめて消えた。
(彼の奴隷で、いさせてください……!)
そう、ここにはいない執事に宣言した瞬間に千歳は気丈さを全部手放したらしい。
「うわぁあああああ!ごめんなさい!ごめんなさぁぁあああい!!」
泣き叫ぶ千歳の瞳が被虐の喜びに染まった。


* * * *


「は、ぁ……いや、脱ぐか」
ぐちゃぐちゃになったベッドの上で、千早は着ていたシャツを放り投げた。
それで靴下一枚になっても平然としている。
近くには、シャツだけがかろうじて引っかかっている程度のぐったりとした千歳が横たわっているから、千早の関心はそこ一点のみだ。
眠っているのか動けないのか定かではない千歳の髪を千早が愛おしそうに撫でて微笑む。
「まだ早いかな〜って、思ってたけど……今度、首輪を買ってあげましょうか?
貴方に似合いそうな白……いや、赤?あ、やっぱ白?待てよ、ここは思い切って青……?」
千早の問いかけに千歳は答えない。それでも千早は嬉しそうだった。
その時にちょうどノックの音が聞こえて、入ってきたイル君が硬直する。
「千早様……!」
「何だ、イルか……」
そっけなく答えた千早だったがふと、イル君の視線が千歳を捉えているのではと不機嫌になる。
「おい!何をジロジロ見ている!?」
「……貴方の、裸を……」
「フン、変態め」
「申し訳ありません……」
鼻で笑ってやると、イル君は慌てて顔を背ける。
心なしか無表情が頬を染めて動揺しているようなので千早は面白かった。
クスクス笑いながら、さらにイル君にこう切り出す。
「なぁイル?お前、今日から上倉の監視役だ」
「監視役……ですか?」
「そう。慈悲深い兄様……あんな男を憐れんで守っていたらしい。
だから兄様が安心してオレの奴隷になれるように、あの男をお前が守って見張ってろ。
まぁ何から守ればいいのかよく分からないけど、守る方は適当でいい」
「は、はい……」
要領を得ない命令にイル君は珍しく困惑した様子で頷く。
「でも、アイツが兄様に妙な事を言ったり、妙な事をしないかは特に見張って警戒しろよ?
考えてみたら、兄様はオレを愛しているけれど、あの男はもしかして兄様を狙っているかもしれない!」
「分かりました」
今度は、しっかりと頷いたイル君を一瞥して、千早は忌々しげに呟いた。
「あんな男、早くこの屋敷からいなくなればいいのに……いっそ、追い出してやろうか?」
「……その時が来るまでは、しっかり彼を監視したいと思います」
「へぇ?頼もしいな。ぜいぜい役に立ってくれ」
「もちろんです」
千早には力強く答えたものの、少し悲しそうな目をしたイル君だった。



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【作品番号】BS13

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