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 正しい嫁の躾け方3(アシュラフの場合) 
BL





俺はワルイ13世。
最近結婚したばかりの新婚フレッシュで若くてイケメンな王だ。
我が国の繁栄のためにも、愛しい妻とラブラブな毎日を過ごし、優秀な後継者を授かることが急務!
……なのだが……そんな事は今どうでもいい!!
そんな事より愛しい嫁……まぁ男だが、とにかく愛しのアシュラフとの今夜の逢瀬の準備だ!
俺がせっせと野菜カレーやスープなどをお盆に乗せ、“夕食セット”の準備をする横でリリアが心配そうに言う。
「今日も部屋で夕食なんて……彼、あんまり部屋から出てこないし口数も少ないし……
私には会うたび殴りかかってくるし、大丈夫かしら?」
「心配ない。今は慣れない環境で緊張しているだけだろう。
しかしアシュラフが俺と打ち解けてラブラブになる瞬間はもう目前だ!」
「あら、大した自信なのねワルイ様」
「当然!アイツの今までの生活環境を考えればおのずと分かる事だ!」
アシュラフは周りを砂漠に囲まれたオアシス国家の王子。
父王は大変な好色家だったらしく、城に巨大なハレムを形成していた。作った妻&愛人は数知れず。
しかも男女問わず!ここが大事なところだ!男女問わず、だ!
つまりアシュラフは男同士の恋愛に理解がある!!
奔放に妻らと愛人らと愛し合う父の姿を見て育ったアシュラフはきっと、包み隠さない愛情を俺に注いでくれるだろう!
愛とは素晴らしい、という事を遺伝子に刻まれているはずだ!
「フフフ……俺達のめくるめく愛の千夜一夜がこれから始まるわけだ!」
「今の短い一瞬で何を妄想したのワルイ様?」
「よーし!アシュラフにご飯を届けてこよう!」
俺は張り切ってアシュラフの部屋へ旅立つ。彼の食事を持って。


「アシュラフ!入るぞ!」
俺は勢いよく爽やかにドアを……ん?開かないぞ?
「アシュラフ!どうした?」
「待ってくれ!今開ける!」
ドアの中から声がして、ほどなくして扉が開いた。
「ご飯を持ってきたぞ!」
「…………」
アシュラフは何も言わずに俺を見つめたまま後ずさるように部屋に入った。
そのまま器用に後ろ歩きでベッドに座る。
(片時も俺から目を離したくないという事か!可愛らしい!)
俺は感激しながらも今晩のおかずの説明をした。
「今日は野菜たっぷりのカレーライスだぞ!付け合せはサラダとスープだ!」
「…………お前、食えよ」
「え?いや、俺はさっき同じものを食べたし……」
「人の飯目の前で見て、お腹すかないのか?一口やるよ」
「アシュラフ……!」
何て細やかな気配りなんだ!さすがは俺の嫁!よし、ここはお言葉に甘えて……!
アシュラフの食事をあまり奪わないよう、俺は少なめに一口食べる。
「うまい!お前の優しさが五臓六腑に染み渡る!」
「そうかよ……」
アシュラフが俺をじっと見つめる。
分かっているアシュラフ……俺も愛しているぞ?と、微笑み返す。
すると、アシュラフは慌てて食事に手を付けた。そして小さく小さく食べる。
意外と小食なのか?
俺がそんな事を考えつつ、気楽に話しかけながら見守っているとアシュラフは食事を終えた。
ここで俺は気づく。
「しまった!デザートも持ってくれば良かった!今から取ってくるから待っててくれ!」
「いいぜ」
「リンゴでも剥こう!」
「ああ……」
相変わらず俺を見つめてくるアシュラフ。オアシスの澄んだ水でできた宝石のような……彼のオアシス色の瞳から
目をそらしてしまうのは名残惜しいけど、俺は背を向ける。
早くリンゴを取ってきてまたアシュラフと見つめ合おう!!あ!!
「そうだアシュラフ!!ついでに何か酒も……ん??」
勢いよく振り返ると、驚いた顔で動きを止めるアシュラフ。
彼の手には鈍く光るナイフ……もうリンゴを剥く準備を始めただと!?なんてできた嫁だ!
「アシュラフ!!」
「ひっ!?」
俺は感激のあまりアシュラフの頭を勢いよく撫でる。
「お前は優秀な嫁だな!俺は鼻が高い!!」
「さ、触るな!早くデザート取って来いよ!」
「無論だ!」
嫁とのささやかなスキンシップを終えた俺は、リンゴを持って再び舞い戻り、
アシュラフと分かち合いながら思う存分見つめ合った。楽しく会話もした。
やはり、最初の一口は俺に食べて欲しいと懇願するアシュラフ……!意外と淑やかな嫁だぞアイツは!
(気に入った!あとは彼の緊張がほぐれて、もっと笑顔を交えて話せたら最高だな!)
順調な新婚生活……俺はルンルン気分で眠りにつくのだった。


【次の日だ】

俺が何気なく庭の木陰で読書を楽しんでいた時の事だ。
大樹に寄りかかって座って本を読み進めていると……服のボタンが取れて落ちてしまった。
「あ、ボタンが落ちた」
そう思ってボタンを拾おうと頭を下げて身をかがめた瞬間……!
ズトッ!!
頭の真上、さっきまで俺の頭があった位置の木の幹に仰々しいナイフがざっくりと刺さっていた。
しかも……猛毒を持つ蜂がナイフに貫かれて死んでいるではないか!!
「これは!蜂に刺されたら命が危なかったぞ……!」
ふとナイフが飛んできた方角に顔をやるとアシュラフが慌てて走り去っていく。
「アシュラフ!!俺を守ってくれたのか!?」
声をかけても、アシュラフは戻ってこなかった。でも……
(陰から……いつも俺を見守ってくれてたんだな!なんて健気な嫁だ……!)
俺は温かい気持ちのまま、再び読書を始めて一日を終えた。
読んでいた“正しい嫁の口説き方(ナイトバージョン)”をしっかりと読み込みながら。


【その次の日の夜だ】

「ブルンブルンブルン♪ハルチルガルトルブル♪」
ぷしゅ!ぷしゅ!
風呂を済ませた俺は陽気に歌いながらボディに香水を振りかける。
これは、アシュラフの故郷で最もポピュラーな香水らしい!
彼が少しでも打ち解けるように香りから気を使う男……それが俺だ!!
「どうだリリア!なかなかスパイシーでワイルドな香りのする男になったぞ!」
「そうね!何だか美味しそうな匂いがするわワルイ様!」
リリアにも褒めてもらって、俄然自信が湧いてきたぞ!
今日こそはアシュラフと愛のサウザンドナイトを!!
俺は張り切って、就寝用の薄着を着て(何となくアシュラフの故郷風の衣装にしてみたぞ!)、
いざアシュラフの自室に突入……!
「って今日も鍵が開かない!おーい!開けてくれ!」
「まっ、待てよ!今開ける!」
ドアの中から声がして、ほどなくして扉が開いた。
「…………」
「……(綺麗だ)」
もはや見つめ合うのは恒例行事だが、俺の内心は愛に燃えていた。
昼間よりも飾り気のなくなった、質素な薄着のアシュラフなのに、何故だろう同じくらい魅力的だ!
「アシュラフ……」
腕を伸ばす。
けれど、アシュラフは途端にベッドに駆け戻った。
背を向けたままベッドに上って、震える声で言う。
「恥ずかしいんだ。心の準備をさせて」
(なんて純情な……!)
俺は瞬き震える星空のような心で一歩二歩と……ゆっくりアシュラフに近づく。
自分の香りが勝手にムードを盛り上げる。
アシュラフが、天井から垂れ下がる飾りのリボンを不安げに握って引っ張っている。何度も何度も手に力を込めて。
(そんなに不安がらなくていい……!)
その言葉を、態度でぶつけたかった。もう、我慢はできない!!
俺はアシュラフに後ろから思い切り抱き付く。
「アシュラフ!!」
「うわっ!!?な、何で!?何で!!?」
「怖がらなくていい!!」
俺はリボンを握っているアシュラフの手を上から握る。
2人分の力が掛かってするりと飾りのリボンが千切れてしまうと……

ガシャァァァァァン!!

突如、天井の照明が下に落ちる。あっぶない!何だ、照明の留め具が緩くなってたのか!?
無残に散った派手な照明。オシャレな造形をしていたのにバッキバキに折れてしまっていてガラスも散り散り。
真下にいたら下手をすれば死んでいたかも……恐ろしいな。城の全照明の留め具検査をしなければ!
「びっくりした……!怪我はないかアシュラフ?」
「うっ……ううっ……!」
アシュラフは呻いていた。怖かったのだろうかとぎゅっと抱きしめたら、逆に暴れ出した。
俺からもがき逃げるように体を離して、睨みつけてくる。
「寄るな!!帰れ!!」
「えぇっ!?どうしたんだ急に!?」
「俺は、その匂いが嫌いなんだよ!!」
アシュラフのその一言で、俺は撃沈した。



結果、一人寂しく部屋へ戻ってきて泣いた。
リリアは傍で慰めてくれるけど心は晴れない。
「うっ……ぐすっ、定番だからといって、全員がその香りが好きなわけじゃないんだ!
香水なんかやるんじゃなかった!」
「元気を出してワルイ様。ささいな失敗よ」
「ひっく、それとも、急に照明が落ちてきてムードが無くなって怒ったのだろうか……!
ちくしょう!あのタイミングで落ちてくるなんて!」
「明日きちんと全域検査をするから……」
「もう寝る!俺は寝る!!」
ヤケクソのあまり布団に勢いよく潜り込んだ俺!もう寝るぞ!やってられっか!
「おやすみなさい」と優しいリリアの声がして、部屋の明かりが消える。
まだ残っている香水の香りが恨めしい。しかし好ましい。
(俺はこの匂い、好きだな……アシュラフは、どんな匂いがしたっけ……?)
そんな事をうとうと考えていると意外とすんなり眠りにつけた。

そして、夜中にふと目が覚めた。
(……まだ夜中だな)
再び目を閉じる。
キィと、小さく扉の開く音がした。
(誰だ?リリアか?残念だが今日は寝汗をかいてないぞ?)
ヒタヒタと、気配は近づく。
目は開けない。俺はこの“謎の気配は誰でしょう!?”ゲームを楽しむことにした。
「……ムカつく匂いさせやがって……!」
あ。答え分かった。アシュラフだ。
忌々しげに呟いたその声で分かってしまった。あっけないクリアだったな。
しかしアシュラフ……こんな夜中に俺の部屋へ何をしに?
……なんて、考えるのは野暮だな。
(夜這いに決まっている!!)
気配がアシュラフと分かれば、俺は余計に硬く目を閉じてドキドキと展開を待ってみる。
暗闇の中で伝わる気配と重みが……俺の脳内に直接映像を流しこんでくる。
アシュラフは今、仰向けの俺に跨っている。
くそう俺達を隔てる布団が邪魔だ!
む?首に何か冷たい物が巻きついてくるぞ?まさか……ネックレスのプレゼント!?
夫婦生活に小さな幸せサプライズも欠かさない……なんていう良妻だ!アシュラフ!俺はお前がますます……
く、苦しい!!首が締まる!!
(何だ!?アシュラフ、ネックレスの留め方が分からないのか!?可愛いじゃない!)
頑張れアシュラフ!力任せにやっても駄目だ!うぐっ……、ネックレスの留め具の形を良く見て考えろ!
く、苦し……暗いのか!?手元が狂うのか!?明かりをつけてもいいぞ!?し、死ぬ!!!
(くっ、嫁のいじらしい頑張りを応援したいが!これ以上は俺の命が危ない!!)
意を決してアシュラフを止めようとした瞬間、その声は響く。
「そこまでよ!!」
大きな声!灯る明かり!体にかかる重さが倍に!!
そして、何より一気に苦しさから解放された俺は、盛大に息を吸い込んでむせた。
「げほっ!がほっ!すは――――っ!ふぅぅぅぅっ!」
息を整えてどうにか状況を確認すると、アシュラフがリリアに羽交い絞めにされていた。
リリアは怒っているのだろうか?鋭い眼光でアシュラフを見ながら笑う。
「まったく、ぶきっちょさんねぇ坊や?ワルイ様が死んじゃうじゃない。プレゼントは起きている時になさい」
「くっ……!離せ妖怪!!」
「い、いやいや……リリア、離してやれ!不器用さは人それぞれ!お前が怒る事無い!
俺は気にしてないぞアシュラフ!お前の気持ちは嬉しかった!」
「黙れぇぇぇぇぇっ!!」
「えぇっ!?」
庇ったのにアシュラフに怒鳴られて俺は面食らう。
怒りを湛えたオアシスの湖面が俺を映していた。
「ふざけた事、言ってんじゃねぇよ!毎度毎度しぶとく生き残りやがってゴキブリ野郎が!!
お前みたいな下衆に汚されるくらいなら、殺してやる!今すぐ絶対に、殺してやるぅぅぅぅっ!!」
「…………」
アシュラフの叫ぶ言葉が信じられなかった。
殺すだって?俺を?毎度毎度?今までも殺そうとしていたのか?
「ワルイ様に何て事言うのよこのガキャ!黙らないとこのまま両腕の関節外すわよ!?」
リリアの怒鳴り声。
何だ?これは夢か?アシュラフが俺を、殺す企みをしていた、なんて……!
まさか……あの蜂を退治してくれた時も!?照明が落ちた時も!?
あれらは俺を狙っていたというのか!?
「嘘だと言ってくれアシュラフ!!お前が俺の命を狙ってたなんて!俺は、お前を嫁として、愛して……!」
「ダメよワルイ様!話し合ってはダメ!もうお尻でも何でも叩いて身の程を分からせましょう?!」
「アシュラフ!!」
リリアを無視して、俺はアシュラフに望みを託した。
しかし、アシュラフの瞳はますます怒りと憎悪に濁っていく。彼は叫んだ。
「俺はもう後が無いんだ!!お前を、殺すしか、方法が!!」
「!!」
ショックだ……ショックで心が砂漠化する!こんなの耐えられない!
「うおおおおおおお!!」
俺は雄たけびを上げて香水を床に投げつける。
中身の液体と割れたガラスが飛び散って、部屋の中に香りが充満した。
「うっ……!!」
途端にアシュラフが顔をしかめた。やはりこの香りが嫌いらしい。
お仕置きにはこのくらいの舞台装置も必要だろうがな!!
俺はアシュラフに向けて宣言する。
「お前は良妻だと思ったのにとんでもない悪妻だったようだなアシュラフ!
夫の俺が全力でお仕置きしてやるから覚悟しろ!!」
「う、うる、さい……!」
小さく震える声でアシュラフが言う。息を吸うのが嫌らしい。
知った事か!今から大泣きさせてこの空気を吸い込ませまくってやる!!
「リリア!」
「分かってますわ」
俺は起きてベッドに座り、一旦アシュラフを退けたリリアから彼を受け取る。
「離せ!何する気だ!」
「“何を”?さてさて、王族でも俺は身に覚えがあったがお前はどうかな?」
吠えるアシュラフを膝の上に押さえつけて薄着の裾を捲って下着を下ろす。
「お、お前まさか……!や、やめっ……!!」
多少焦りを見せたという事は、何をされるか悟ったという事だろうか?
けれど分かった所でお前にもう逃げ場はない!!
俺は力いっぱいアシュラフの尻に平手を叩きつけた。
バチンッ!
「うぁっ!?」
バチンッ!バチンッ!バチンッ!
「んぁあっ!ひゃぁぁっ!」
お尻を叩けば叩くほどアシュラフは跳ね回って暴れた。
何度も叩かれてやっと、言葉を出せる余裕が生まれたらしく喚きだした。
「いっ、痛い!ふざけんなこんなのっ……ガキじゃあるまいし……!」
「子供なら、まだ俺も手加減したんだがな!」
「くぅっ……!!」
脅してやると悔しそうな呻き声で返される。
けれども同時に身を固くしたアシュラフ……守りに入ったか?賢明な判断だ!
(しかし俺の平手はその盾すら砕く!!)
尻を叩く俺には謎の力が漲る。今日だってそれは絶好調だ。
バシィィッ!!
「あぁああああっ!!」
強く叩けば大きな悲鳴が上がった。
「痛い!」「やめろ!」と立て続けに喚かれるがそれでも叩く!叩く!
力んだ所で食いしばった所で、すべて無意味なのだと……、
痛みと恐怖の前に泣き叫んで慄くしかない絶望を味あわせてやる!
お前を心の底から改心させるためにな!
バチンッ!ビシィッ!バシィッ!
「やめろぉぉっ!痛いぃっ!やっ、やだぁぁぁっ!!」
「お前は俺の命を狙っていたんだろう?!国王暗殺未遂の大罪人が、この程度で許されると思うな!
泣きながら許しを乞うてもまだぬるいわ!」
「うっ、うぅううううっ!あぁあああああっ!」
悲鳴と泣き声の中間地点を彷徨うアシュラフの声に、被せて俺の全力で彼の尻を叩き続けた。
熱を持って、褐色にも分かる赤みが浮かび上がっても俺はペースを落とさない。
バチンッ!バチンッ!バシィッ!
「ひっ、あぁああっ!いやだぁ!痛い!痛いッてばぁぁっ!」
ビシィッ!バシィッ!バチンッ!バチンッ!
「うぐっ、わぁぁああん!も、うっ、やめてくれぇぇ――っ!!」
「まだまだ!自分の罪の重さを心身に刻み付けてやる!」
「お、ぉ、俺が悪かったぁぁっ!悪かったからぁぁっ――いやだぁあああああっ!!」
徐々に必死さを増す抵抗と悲鳴で、手を緩めそうになるのをぐっと我慢だ!
アシュラフに二度と殺人鬼の真似事などさせるものか!
その為には相応の報いを受けさせて反省させなければな!
バチンッ!バチンッ!ビシィッ!バシィッ!
「痛い!痛い痛い!痛いぃぃぃっ!うわぁああああん!!」
もはや“痛い”を連呼して泣き叫ぶアシュラフ。お尻は真っ赤で可哀想だ。
俺もさすがに手を振り下ろすのが心苦しい。
確かに命を狙われていた事はショックだった。けれど、アシュラフを妻として愛しているのも確かなのだ。
でも……ここで許していいものだろうか?
俺の漲る力が“もっと叩け”と言っているようにも思えるし。
バチンッ!バチンッ!バシィッ!
叩くたびに大きな悲鳴を上げて、体いっぱいで抵抗するアシュラフ。
肌はじっとりと汗ばんでいた。
「ごめんなさい!ごめんなさいぃぃっ!こ、こんなのもういやぁああああっ!!」
「もう二度と俺を殺そうとしないか?!」
「しない!しないから!もうしないからぁぁぁ!うわぁぁぁん!!」
むむ……“殺してやる!”と威勢が良かったのが、これだけ泣いていたら……しかし、事が事だし……
そうだな、休憩くらいは。よし、攻め方を変えよう。
バチンッ!
「んぁあああああっ!」
思いっきり叩いた後、俺はいったん手を止める。
アシュラフは手を止めた後もヒィヒィ言いながらぐずっていた。が。
「ひっく、ぐすっ……うぅっ!!も、もう……許してくれるのか……?」
明らかに恐る恐ると俺に尋ねてくるアシュラフ。
そのしおらしさに許してしまいそうになって首を振る。
「ただの休憩だ。まだ半分以上残ってるからな」
「!!嫌だ!頼む!何でもするから!何でもするからもう勘弁してくれ!!」
涙声で懇願するアシュラフ……うぅ。胸が痛い。でも、これでだいぶ懲りたはずだ……もうひと押し!
「ほう?じゃあ残りを一日100回ずつにして3日に分けるか?」
「そんな……!うっ、ぐすっ……!い、嫌だ……そんなの、無理なのに……!!」
「なら今、一気に残りのお尻叩きを受けることだな」
そう言いながら軽くペタペタとお尻を叩くと、アシュラフは声を震わせながら……
「もう、いっそ殺してくれ!!こんな辱めを受けるなら、受け続けるなら殺せ!」
「何言ってるんだお前は!!」
バシィッ!
「ひゃぁぁぁっ!うわぁああああん!!」
また強く叩いてしまったのでアシュラフの泣き声に火が付いたけれど、俺の怒りにだって火が付いたぞ今のは!
せっかく言葉で怖がらせてお仕置きしようと思ったけど、作戦変更だ!元通りお仕置きする!
「殺すだの殺せだの……どうしてそうも発想が殺伐なんだお前は!!
全然反省してないじゃないか!!俺が愛するお前を殺すわけがないだろうが!バカ!バカこのっ、悪い子め!!」
ビシィッ!バシィッ!バチンッ!バチンッ!
「あぁああああああん!わぁああああああん!!」
「お前は!今たくさんお尻を叩いてなおかつ!3日連続でお尻叩きの刑だ!今決めた!」
「ごめんなさいぃっ!ごめんなさいやめてぇぇぇぇっ!!」
「決まった事だ!せいぜいたくさん反省するがいい!」
「うわぁあああああん!!」
バチンッ!バチンッ!バシィッ!バチンッ!
暴れて泣くアシュラフを力任せにたくさん叩いてしまった。
俺の怒りが落ち着いたところで止める。
「あぁあああああっ!うわぁぁぁああああん!」
アシュラフはお仕置きが終わったというのに大泣きしているけれど。
(酷く叩いてしまったし、仕方がないか……)
そう思っていた。
けれど、どうも様子がおかしい。
いつまで経っても俺の膝の上で、ベッドにガンガン拳を叩きつけて、大声で泣き続ける。
いや……泣いているというより俺には“嘆き”に見えた。
「……アシュラフ……何か思うところがあるなら言っていい。今なら何を言われても許してやろう」
「うぐっ、ひっく、何、でッ……!!」
アシュラフがか細い声を出す。それは次の瞬間に大声になった。
「何で!?何でこんな事になったんだよ!?
男に、嫁がされるなんて!俺は……俺には、あんなっ!!
もう俺には帰る場所なんてないのに……!殺すしか、無いじゃないか!!逃げられないなら、殺すしかぁぁぁっ!!」
「お前は“男同士の恋愛”には理解があると思っていた。違うのか?
“殺すしかない”と思い詰めるほど俺の妻になるのが嫌か?俺が嫌いか?」
「当たり前だぁぁぁぁっ!!」
言い切られてもちろん悲しかった。
でも、それよりアシュラフの苦しげな胸中をどうにかしてやりたい想いの方が大きかった。
母親の死後、父王の後妻……つまり継母に厄介払いされる形でここに来ることになったアシュラフ……
俺はもっと彼の心を思いやるべきだったのか?今更ながら反省した。
泣きじゃくるアシュラフを起して抱きしめる。
「よせ!離れろ!お前の匂いは嫌いなんだよ!兄様が!兄様がっ……!!」
「兄様……?そうだぞ、アシュラフ。これから共に過ごしていけば俺達はきっと兄弟のように理解し合える!」
「やめてくれ!!俺は兄様みたいにはならないぃぃっ!!」
「どうしたというんだ?お前の兄がロクでもない男の元へ嫁がされたというトラウマでもあるのか?」
「うっ、ぐすっ……!!」
アシュラフは本当に辛そうな顔で涙を流した。
俺が頬を撫でると薄く目を開ける。そしてぽつぽつ話し始めた。
「小さい頃、よく遊んでくれた男がいたんだ……!すごく優しくて、一緒にいて楽しかった。
俺とか他の兄弟も……お互い関係が希薄で、良く知らなかったから……
初めて兄弟らしい兄弟ができて嬉しかった!毎日、日が暮れるまで遊んでて……!
いつしか“兄様”って呼んで、大好きで!!
でも、夜になると父様が必ず兄様を連れて行ってしまうんだ!
俺、それが不満で……ある時こっそり後を付けたら、そしたら……!!」
(あ……あー……)
何だか分かってしまった。きっと、アシュラフは見てしまったんだろう……子供が見てはいけないものを。
「兄弟だと思ってたのに!!兄弟の誰かだと、思ってたのにぃぃぃっ!!」
「父王の、愛人だったか……」
そうか。アシュラフはショックのあまり、“男同士”に理解を示すどころか嫌悪感を覚えてしまったのか……。
むむむ、男女混合ハレムにはこんな落とし穴もあったなんて……!!
俺の嫁になんてトラウマを植え付けてくれたんだ義父様……!!
まてよ?これは、義父様からの挑戦状か!?この心の傷を癒してこそ、アシュラフの夫としてふさわしいという事か!?
(そうなってくると……頑張りたい!!)
俺だって、アシュラフとラブラブになりたいんだ!こんな過去の一つや二つ!アシュラフを抱えて飛び越えてやる!
見ていてください義父様ッッ!!
俺はアシュラフを優しく撫でながら言う。
「怖かったんだな?その時にみた光景が……」
「俺にはあんな事無理だ!あんな、恐ろしくて痛い事……!」
(アシュラフは一体何を見たんだ?まさか義父様……ハードアブノーマルSMプレイヤーとかそんなんでは無かろうな?)
やや心配になったが、俺はなるべく刺激しないようにアシュラフと話した。
「お前が何を見たのかは分からないけれど、男同士であろうと“愛し合う”と言うのはそんなに恐ろしい事ではない。
最初は痛いと言う人もいるけど、だいたい最初だけで(たぶん)……」
「嘘だ!!兄様はずっと苦しそうだった!“もうやめてください”“我慢できません”って、ずっと言ってたし!
後で聞いてみたら“あれはお仕置きされてたんだ”“すごく痛かった”って!!」
(その兄様とやらも子供相手だと思って適当に誤魔化しやがったな!!?)
恐るべきハレムの罠!!こうなってくると先ほど俺がアシュラフを酷くお仕置きしたのは仇になってくるぞ!?
アシュラフにとって“お仕置き=すごく痛い”が、愛の営みとも“=”で結ばれてしまう!
ぐぬぬ……負けるかぁぁぁっ!!この公式を、展開を!覆してやる!!
「アシュラフ、どうかその怖い光景よりお前がその“兄様”を大好きだった気持ちを思い出してほしい」
「兄様を、大好きだった時の気持ち……?」
「そう。俺達もそんな信頼関係を結べたら素晴らしいと思わないか?俺は、そうなりたい」
「…………」
「まずは、お互いをよく知って、好きになるところから始めようじゃないか!
体を擦り合わせるのはその後でもいいんだ!」
俺が元気よく笑顔でそういうと、アシュラフは涙を流して抱き付いてきた。
「俺、オレっ……俺も、お前と仲よくなりたい……!!」
「ああ。良き友人として夫婦として、これからもよろしくな?アシュラフ」
「うん!!本当は、この匂いも好きなんだ!兄様と、同じで……!」
「なら……俺は明日からこの香水を止める」
「え?」
「兄様の匂い付きじゃなくても、お前に俺を好きになって欲しいからな」
「……うん……♥」
俺がその時に見たのは、まるで蕩けるような……
アシュラフが初めて見せてくれた笑顔だった。


アシュラフを落ち着かせて眠らせた後、俺はリリアに言った。
「リリア、頼みたい事がある」
リリアは俺の頼みを聞いて、張り切って頷いてくれた。

【3日後だ】

俺がリリアに頼んでおいたアシュラフの“兄様”からの手紙が届いたようだ。
さっそくアシュラフの元へ急ぐ。
「アシュラフ、どうだった兄様からの手紙は!」
「べ、別に。兄様が元気そうでよかったよ……」
顔を赤くして目を逸らすアシュラフ。
お仕置きした夜は甘えん坊な感じがしたけれど……その次の日には「昨日はおかしかった!」と
俺を邪険にし始めて、今では割と距離を置かれている。悲しい。
それでも初期の警戒心や命を狙われている感じ、思い詰めてる感じも無くなったっぽいので安心したけれど。
「ちょっと!俺にも見せてくれ!」
「……ほらよ」
アシュラフはぶっきらぼうに手紙を俺によこす。
「おお!読ませてくれるのか!」
「どうせお前、字ぃ読めないだろ?」
「俺は世界の言語を習得してるぞ?」
「え?」
「え?」
アシュラフは顔を真っ赤にして……
「ふっ、ふざけんな!読めるなら返せ!返せよ!兄様のプライバシーの侵害だぞ!!?」
「読ませてくれるって言ったじゃないか!なかなかいい事が書いてあるぞ!?
ほら、ここの『アシュラフも、きっとワルイ様と愛し合』……」
「読むなぁぁぁぁぁあっ!!」
大慌てで飛びついてくるアシュラフを交わしながら、追いかけっこを楽しむ。

(アシュラフめ、元気になって良かったな……!)
そんな事を思った、とある一日だった。





気に入ったら押してやってください
【作品番号】TYS3

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