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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後23

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おっ、ぉおおは……おはようございます……!
妖怪研究家兼、妖怪の麿拙者麿です……!!
い、今、朝なんですけど……
珍しく僕が目が覚めた隣で桜太郎君が寝てるんですけど……!
な、何だか今日の桜太郎君……ちょっと甘えん坊さん!!?
こ、これは、起こしたくな……いや、起こせない!!

*******************

ここはある朝、妖怪御殿。
桜太郎は目覚めた途端に驚愕する事になる。
(なっ、何で隣に煤鬼が寝てっ……!?)
なんと、自分の隣でぐっすり眠っているのは同室の麿ではなく煤鬼。
桜太郎は混乱しつつも状況を確かめようとする。
(きっと私か、それとも彼が寝ぼけて部屋を間違えて……!
と、とにかくここがどっちの部屋なのか確かめないと……!!)
そうやって起き上がって辺りを見回そうとした時、桜太郎は次の異変に気付く。
何故だか自分の体が、服が……
(わ、私……何だか体が……それに、この服……)
明らかに自分のものではない小さな体。
着て寝た覚えのない可愛らしい寝間着。
ふと視界に入った髪の色。
そして決め手に……
「んんっ……何だ恋心姫……?もう起きるのか?まだずいぶん早いぞ……?」
「っ!!?」
眠そうな煤鬼が体に触れてくる。
桜太郎の中である種の答えが出たものの、訳が分からな過ぎて声も出ないし動けない。
そうすると隣で煤鬼も起き上がる気配がする。
「……どうした?怖い夢でも見たか?ん?」
「ひっ!?」
優しく抱き寄せられ、見た事も無いような優しげな顔と声であやす様に尋ねられる。
それに安心できないほど、桜太郎はどうしようもなく焦って。
どうにかパニックになっている頭をフル回転させて煤鬼に告げる。
自分のものではない、案の定の聞きなれた幼い声で。
「だ、大丈夫だから……!ここで、少し待っててください……!!」
「……そうか。分かった。戻って来たらもう少し眠ろうな?」
煤鬼はにっこりと笑って頭を撫でてくる。
蕩けるように優しい彼を警戒してしまう自分に罪悪感を抱きつつ、
桜太郎は猛ダッシュで自分の部屋に向かった。


「恋心姫!!」
襖を開け放って叫ぶと、麿が驚いている。
眠りながらべったりとくっついている自分を抱きしめながら。
桜太郎は一気に赤面して叫んだ。
「恋心姫!!起きて!起きなさい!!」
「えっ!?こ、恋心姫君!?どうしたの!?」
麿も混乱しているようだけれど、この状況が周りにどう見えようと、
桜太郎としては必死で“相手を”起こすしかない。
きっと、自分と同じような状況に陥っているであろう……
「……んん??……あれ?妾が……」
体が入れ替わってしまった、相手を。


さて、朝から大混乱の妖怪御殿で起こった事はこうだった。
『桜太郎と恋心姫の体が入れ替わってしまった』
つまり、恋心姫の体の中に桜太郎の精神が、
逆に桜太郎の体の中に恋心姫の精神が入っている事になる。
「恋心姫……!!大丈夫ですか?どこか痛かったり気分が悪かったりしますか??」
「大丈夫ですよ!あはは!妾が妾に心配されるなんて、変な感じですね!」
桜太郎はひたすら心配そうで、恋心姫は何だか楽しそうだった。
そして周りの反応もやっぱりマチマチで……
「はっはっは!何だか新鮮な二人が見れるなぁ!」
楽しそうな帝に、少し興味がありそうなぬぬ。
麿は興味と心配が半々といった様子で……
(よ、妖怪研究家としては興味深い現象に立ち会ったけど……
早く二人には元に戻って欲しいし……!!)
「おい!!元に戻るんだろうな!?」
一番焦ってダメージを受けているのは煤鬼だった。
そんな煤鬼を宥めるように帝が言う。
「まぁまぁ、ここは神の国……何が起こっても不思議じゃない。
今日寝て起きれば元に戻るかもしれんし、一日ぐらいは原因を探りながら
様子を見てみよう。そんなに心配するな」
「……恋心姫……」
心配そうな煤鬼がいつもそうするように、恋心姫の頬にそっと触れる。
そして恋心姫もそれに応えるようににっこりと笑う。
「大丈夫ですよ煤鬼。早く元に戻れるように頑張りますから」
見慣れたいつものやり取り……と、そうもいかないのが麿と桜太郎だ。
慌てて二人を引きはがす。
「煤鬼君!!ごめんねそういうの僕の目の毒だから!!」
「こっ、恋心姫は!今日一日麿さんと一緒にいてください!!
私が煤鬼と一緒にいますから!!ほら!とにかく朝ご飯にしましょう!?」
と、見た目重視のコンビで一緒にいる事になった。
そんな一日が始まって……

麿と桜太郎の部屋で。
恋心姫は着替えようとしているらしいけれど、桜太郎の箪笥を探りながら唸っている。
「う〜ん……」
「だ、大丈夫恋心姫君?着替えの場所分かる?」
「分かるんですけど!桜太郎って可愛い着物全然持ってないんですか?!」
「え!?えっと、どうだろう??桜柄でピンク色の綺麗な着物は見た事あるけど……」
「桜太郎、綺麗なのに可愛い服着ないともったいないです!
もっとああいうのを……桜太郎の服はココだけですか?」
「そうだなぁ……」
恋心姫に押されて、麿も一緒に押し入れなどいつも見ない場所を探していると……
「「わぁ!!」」
荷物に隠されるようにあった小さな箪笥に、何着か美しい着物が入っていた。
恋心姫も麿も大喜びだ。
「すごい……!!桜太郎君こんなの持ってたんだ!」
「どうしていつも着ないんでしょう!?こんなに素敵なのに!
麿!どれを着て欲しいですか?」
「えっ!?僕が決めていいの!?」
「せっかくですので」と、笑う恋心姫の言葉に乗っかって、
麿は美しい着物を着た“桜太郎”の姿が見られて感激する事になる。
ちなみに、髪型も恋心姫が楽しがって、いつもと違う華やかな感じにアレンジしていた。
「すごい……!さすがだね恋心姫君……!!素敵すぎる桜太郎君だ……!!」
「妾も楽しいです!そうだ!この後、
一緒に可愛い着物をお買い物に行って、桜太郎にプレゼントしませんか!?」
「いいね!きっと桜太郎君も喜んでくれるよ!」
と、こちらは楽しそうに時を過ごして一方……


恋心姫と煤鬼の部屋では。
桜太郎も着替えようとしているらしいが……
こちらも箪笥の中身を見て苦心していた。
「信じられない!!何でどれもこれも露出の多い服ばかり……!!」
「…………」
「全部貴方の好みに合わせて健気なものですねぇ!?」
「そ、そんな事……」
頬を赤らめた桜太郎と、やりにくそうな煤鬼が言い争って(?)いた。
いつもと違い、怒鳴り返してこない煤鬼に
(中身が私だとしても恋心姫相手には言葉すら荒くできないのでしょうか)と感心してる
と、一呼吸した煤鬼が言い返してくる。
「俺を喜ばせようとしてくれているところもあるけど!
恋心姫自身もそういう華やかな色柄の愛らしい服が好きなんだ!
ほとんどは自分で気に入って着てる服だぞ!?」
「それも、そうでしょうけど……」
桜太郎の方も少し言い返しづらくなったところで
煤鬼がまたおずおずと言う。
「だ、だから……桜太郎も、もしそういう服が好きなら……遠慮せずに着ればいい」
「私は……この中から選べと言われても……」
「そうじゃなくて!その……」
必死そうな大声に桜太郎は一瞬驚いた。
煤鬼らしからぬしどろもどろさで彼は言葉を続ける。
「……昔は……着ていただろう。もっと、何というか……派手な、着物を。
髪型だってもっと……そういうのが、全部俺の所為なら……その、悪かった。
……あの時は、……っ、ごめん……なさい……」
「……あぁ……」
言われて初めて思い出した。
昔々の事。まだ妖怪御殿に来て間もなかった、粗暴な鬼に嫌がらせをされた。
何の前触れもなく、突然着ていた着物がダメにされてしまった。
『何だ、お前本当に男だったんだな』
嘲る悪い笑顔に、屈辱よりも恐怖が勝ってしまったのが本当に悔しくて。
震えながらも精一杯一発ビンタして、それでも楽しそうに笑う相手から泣きながら逃げた。
そんな嫌な記憶だけれど、今の今まで忘れていた。
「…………」
目の前の煤鬼は視線を彷徨わせながら不安げに俯いている。
次に言うべき言葉を探しているようにも見える。
桜太郎の中に少し仕返ししてやろうかと悪戯心が芽生えた。
「貴方……ずっとそんな事気にしてたんですか?
別に私は今の服の方が楽だと気付いたからそうしてるだけで。
あの事は特に関係ないです」
これは事実。
「そう、なのか……」
煤鬼はホッとした表情で、泣きそうにも見える。
果たして自分が“本来の姿”なら、彼はそもそもこの件を謝っただろうか?
こんな顔をしただろうか?
そう思いつつもそっと煤鬼の頬に触れる。
もちろん煤鬼は驚いてビクリと震えた。
「な、何を……!?」
「いえね、当時の事思い出したら何だか腹が立ってきてしまって」
コレも事実。
桜太郎は笑顔で煤鬼に畳み掛ける。
「悪いと思ってるんですよね?謝りたいんですよね?だったらお尻を出して」
「なっ……!!?」
「早く。いい子だから」
「おっ、ぉ、ぅ……桜、太郎……!!」
「はぁ〜〜すごいですね!今“お前”って言おうとしたの訂正しました!?
に、しては……準備が遅いですよね。この姿と声で言ったならば、喜んでお仕置きされてくれると思ったのに」
「俺を何だと……思っ……!!」
煤鬼は真っ赤になって、おそらくは羞恥心でガクガクと震えている。
言葉もまともに紡げていない。
桜太郎ももうひと押しと煤鬼に言った。
「煤鬼?“わらわ”の言う事が聞けないんですか?」
「やめろ!!」
「やめません」
耳を塞ごうとした手をとっさに押さえ込む。
じっと見つめ合うと、煤鬼が耐え切れなくなったようにボロボロと涙を流した。
「あっ、あぁ……謝らなきゃ、良かった……!!」
「あらあら、その程度の反省だったんですか?
せっかく謝ってくれた事は嬉しかったから……
少しはいい気分にさせてあげようと思ったのに。気が変わりましたね。
やっぱり体が元に戻ってからのお仕置きにしましょうか?」
「!!っ、くそ……!!」
「―-と、なるとやっぱり恋心姫がいいんですか?
いつも恋心姫にはどうやって“お仕置きして”ってお願いするんです?
いっそ、私を恋心姫だと思って甘えてしまってもいいですよ?」
「お前は恋心姫じゃない!!」
バンッ!!
と、悔しげに煤鬼が畳を叩く。
普段の何倍も気弱げな涙目で、悔しげに睨みつけられた。
「俺の愛する声と姿で……!!俺を惑わせるな!!」
「!!?」
その瞬間に、大きな衝撃のような痺れのような何かが、体の中を駆けあがる。
一瞬で心臓がドキドキして体が熱くなった。
(ビックリした……!!そうか、恋心姫の能力……!!)
“恋心”を“愛情”を、彼は認識できる。自分に向けられたものは、体感できる。はず。
桜太郎も詳しくは分からないものの、気を取り直して、というより平静を装って言った。
「……何にせよ。選んでください。今の私にお仕置きされるのか、普段の私にお仕置きされるのか。
いっそ元に戻った後に恋心姫にお仕置きしてもらいます?」
「頭が、おかしくなりそうだ……うぅ、もう……!!今すぐ、済ませてくれ!!」
「なるほど。じゃあ、道具取ってきます」
「えっ!!?」
軽く絶望気味の煤鬼を呆れたように桜太郎が見やった。
「当たり前でしょう?“痛くないから”で、選んだつもりですか?“わらわ”怒りますよ?」
「あぁもう喋るなぁっ!!」
涙声で恥ずかしそうに喚く煤鬼。

そして。

ビシッ!バシィッ!ビシッ!!
「ひぃっ!うぅっ……!!」
「煤鬼〜〜?ちゃんと反省してるんですか?」
下半身裸で四つん這いにさせた煤鬼のお尻に、躊躇なく
木製のパドルを打ち込んでいく桜太郎。
煤鬼の方は泣きながらも悲鳴を噛み殺すように痛がっているが、
桜太郎が声をかけるとまた喚いた。
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「今ぁっ!俺に!話しかけるな!!」
「……煤鬼……わらわとお話するのイヤになっちゃったんですか……??」
「ち、違っ……!!ッッ〜〜あ゛ぁくそう!!」
「コワい声出さないで??いつもそんなんじゃないでしょう?」
バシィッ!!
「うぁああ!桜太郎ぉぉっ……!!」
わざと甘え調子で声をかけると、煤鬼はどんどん参っていくようで、
単純な五感を理性で否定するのに必死らしい。
反省するどころか少々の怒りすら感じる。
それでも桜太郎はお尻を打つのも声をかけるのも止めなかった。
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
「煤鬼ったらまさか怒ってるんですか?今は反省する時間なのに……
悪い子はもっとい〜っぱいお仕置きしちゃいますからね??」
「あぁ!!調子に乗って、嬲ったら……!!後で……!!」
「……これは、当分許せませんね」
バシッ!バシィッ!!
「あぁぁっ!!」
「怒って悔しがってばっかり……。
もう“ごめんなさい”は言ってくれないんですか?
結局、私に悪いって気なんてあんまり無かった、って事ですね」
桜太郎は少し寂しい気分になりつつパドルを振るう。
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「いいんです。それならそれで。私もあの時の仕返しをさせてもらいますから。
さてぇ、貴方が蕩けるこの声で……もっと貴方が恥ずかしくて悶え苦しむような
セリフが言えたらいいですけど」
「ぃいっ!待っ!!待て!違っ、違ぁああっ!!俺、だってぇぇっ!!」
煤鬼の方も大きく呼吸を整えながら、必死に桜太郎に言い返す。
「ごめ、んなさい!!ずっと!!んっ、気になって!!謝りたいって、思って……!!
いつも、なかなかっ……!!ちょうど、服の話が出たからぁぁッ!!」
「…………」
バシッ!バシィッ!!ビシッ!!
「あぁっ!!でも!!おまっ、桜太郎!!狡いぞ!!やめてくれ!
タイミングっ、間違ったぁぁッ!!うわぁああん!!」
「…………」
「ごめんなさい!!ほっ、本当に悪いと思ってるんだ!!
戻ってからだって……“お前”にだって!謝れる!!
謝るからぁ!!もう、許してくれ……!!うぅうっ!!」
バシッ!ビシッ!!バシィッ!!ビシッ!!
桜太郎は手を止めなかった。煤鬼の言葉を疑った訳でもなく、
むしろ彼の胸の内の言葉に、嬉しく思っていた。
けれど……
「お尻、真っ赤になっちゃいましたね〜煤鬼??」
「ひっ……!?あ……」
「わらわがいっぱい叩いちゃったから……でも煤鬼が悪い子なので、仕方ないですよね」
言葉通り、真っ赤になった煤鬼のお尻を優しく撫でると、
また煤鬼は苦しげに呻きだす。
「うっ、ぅぅ……やめ……ろ……!!もう、頼むからぁ……!!」
「……あの時……怖くて悔しくてたくさん泣きました。
貴方の気持ちは分かったし、信じます。けれど……“仕返し”は続けさせてくれるでしょう?
……貴方が泣くまで」
「俺は泣いてるだろうがぁぁっ!!」
煤鬼渾身の涙声の叫びだったけれど、桜太郎は軽く無視して、
努めて可愛らしい声を作って言った。
「煤鬼?“もっとお仕置きして下さい”って、言えますよね?」
「うっ……うぅうう……!!言えるかぁああああっ!!」
「あ〜!口の悪い!言うまで許しませんからね!」
こうして、煤鬼は顔を真っ赤にしたままお尻を叩かれ続けて……
ビシッ!バシィッ!バシッ!
「うわぁああああああん!!ごめんなさいごめんなさぁぁい!!」
バシィッ!バシッ!バシッ!
「ごめんなさぁぁい!うわぁああん!
恋心姫ぇぇっ!!早く戻ってきてくれぇぇぇっ!!」
桜太郎の言うように泣きながらお仕置きされることになった。
結局どんなに泣き喚いても“もっとお仕置きして下さい”とは言わなかったものの、
桜太郎もひとしきりお尻を叩いたら許してあげたのだった。

その後。
(煤鬼……寝てしまいました。う〜ん、意地悪し過ぎたかも……)
お仕置きの後、泣きながらふて寝……からの昼寝タイムに突入してしまった煤鬼だった。
寝言でも恋心姫の名を呼ぶ彼の頭を優しく撫でながら、桜太郎は思う。
(麿さんも、こんな風に私の事を恋しく思ってくれてるでしょうか?
それにしても……一体、どうしてこんな事に……)
考えていると、桜太郎の頭の中にある事が思い浮かんだけれど。
(まさか……そんな事で??まさか……)
ひたすら考え続ける桜太郎。


一方でその頃。
麿と恋心姫は仲よく外出をエンジョイしていた。
今は茶屋でお菓子を食べているところだ。
「桜太郎の着物も買えたし!良かったですね!
妾、お花が出せて楽しいです!!」
「楽しかったね!それに、妖怪の能力って精神じゃなくて
肉体の方に紐づけられてるって事が分かって……いやぁ!研究捗るよ〜〜!!」
「妾、麿のお手伝いができたって事ですか??」
「そうそう!ありがとうね恋心姫君!」
「わーい!やったぁ!」
無邪気に笑う恋心姫を、すこしドキドキしながら撫でる麿。
道中も手を繋いだり、恋心姫が無邪気に麿にくっついたりしていた。
麿はそのたびにドキドキしっぱなしで、同時に……
(恋心姫君となら、こんなにもスキンシップできるのになぁ……)
と、遠い目で思う。そして何気なく言う。
「でも、どうしてこんな事になっちゃったのかなぁ??
恋心姫君、何か心当たりある?良くある話だと……桜太郎君と頭をぶつけた、とか?」
「いいえ……けれど……」
恋心姫はふと悲しげな顔で言う。
「妾のせいかもしれません……妾……えっと、あの、麿、気を悪くしないで下さいね??
あ、あと……どうか怒らないで聞いてください……」
「大丈夫だよ。聞かせて」
麿が安心させるように笑うと、恋心姫もホッとした表情で続きを話す。
「妾、時々桜太郎の事が羨ましかったんです。煤鬼と並ぶと、妾よりいい感じだから」
「それって、身長の事?」
麿の言葉に恋心姫が頷く。
「妾は、どう頑張っても煤鬼と恋人同士に見てもらえません……。
高確率で兄弟に見られてしまいます。でも桜太郎は……
三人で出かけた時に、あろう事か妾のとと様とかか様に間違えられてて……!!」
ぷくっと頬を膨らませて恋心姫は悔しげにしていた。
「桜太郎達には聞こえていないようでした。妾も言い出せなかった。
言う必要もない事です。二人に気を使わせてしまうだけで……。
煤鬼はいつも慰めてくれます。“俺がデカすぎる”って……優しいから、自分に非があると。
でも、妾だって“小さすぎる”んです!!」
「恋心姫君……」
麿は何と声をかけていいか分からずに、恋心姫の話を聞き続ける。
「……この小さな体、利点も多くあります。皆が可愛がってくれる。
妾だって、気に入ってて悪くないと思ってます。煤鬼だって体の差なんて気にせず愛してくれてる。
けれど……時々、本当に時々……無性に羨ましくなってしまうんです。
しなやかな、成長した体……妾には、きっと永遠に手に入らないものだから」
そう言って、切なげに“自分の”、桜太郎の体を抱きしめる恋心姫。
麿は何か言おうとして、やっぱり笑顔の恋心姫に止められた。
「麿??慰めようとしちゃダメですよ?悩むのは本当に本当に“時々”ですから」
「……恋心姫君は、すごいね」
「えへへっ!褒められちゃいました!
けど……妾の気持ちが原因だとしたら、麿にも……桜太郎と煤鬼にも悪い事しましたね……。
す、煤鬼は!いい子でお留守番できてるでしょうか!?」
「ふふっ、大丈夫だろうけど、そろそろ帰ろうか?僕も桜太郎君が心配だし」
急に心配が押し寄せたらしい恋心姫を微笑ましく思う麿。
そうして二人で帰る事にした。
“今度は恋心姫が大人になれる異変が起きればいいね〜”などと話しながら。

そして妖怪御殿に到着してからは……
「桜太郎ただいま!可愛い着物買ってきましたよ!麿と一緒に選びました!」
「ありがとう恋心姫。二人ともお帰りなさい」
桜太郎に飛びつき気味の恋心姫がしゃがみこんで話している。
桜太郎は、いつも彼が着るような服のミニサイズを着て髪も清楚に束ねていた。
恋心姫がそんな桜太郎の姿も可愛いと興味ありげに話していて。
そのうち思い出したように心配そうに言う。
「煤鬼はいい子にしてました……??」
「えぇ、とってもいい子でしたよ。
今まで寂しそうにお昼寝してました。行ってあげてください」
「は、はい!!」
恋心姫が慌てて走っていく。
と、桜太郎と麿は穏やかに話し始める。
「桜太郎君……お疲れ様?で、いいのかな?大丈夫だった?」
「大丈夫です。煤鬼は“この姿”には逆らえないし、強くも出られないみたいで。
可哀想なほど大人しいものでした」
「あはは、煤鬼君らしいね。ところで……原因の事、分かったかも」
「えっ!?それはどういう……!?」
「恋心姫君が言ってたんだけど……」
麿は恋心姫の言った事を桜太郎に話す。
すると、桜太郎は驚いた様子で狼狽していた。
「そんな……!恋心姫……!だったら、私だって……!!」
桜太郎は恥ずかしそうに、麿に縋り付いた。
「ま、麿さん!!情けないお話ですが、聞いていただけますか……?」
「う、うん!!もちろん!!」
桜太郎のただならぬ様子にドギマギしながらも、
しかし見た目は恋心姫なので違う意味でもドギマギしながら聞く麿。
「わ、私も……嫉妬、してたんです。時々、恋心姫に……その、
麿さんに自然と甘えているのが……う、羨ましくて……!!
あぁ情けない話です!!保護者失格です!!」
桜太郎は嘆くように顔を覆うが、すぐに勇ましく顔を上げて話を続ける。
「だから、彼の所為だというのなら、私にだって責任はある……!!
でもそれならば……どうしたら、いいのでしょう?!」
また恥ずかしげな、縋る様な表情で麿を見る桜太郎。
対面している麿は……意を決して小さな桜太郎を抱きしめる。
そして恥ずかしさを抑えて震える声で言った。
「僕に……遠慮しないで甘えてくれたらいいんだよ……」
「麿……さん……!!」
「桜太郎君……」
固く抱き合う二人。
数秒そうしていると……腕の中の小さな体がモゾモゾと動く。
そして……
「麿??」
パッと顔を上げたのは姿も雰囲気もいつもの恋心姫で。
「煤鬼には、ナイショにしててあげますね?」
悪戯っぽく嬉しそうに笑って言うものだから、麿は慌てて腕を離した。
「うわぁぁああ!ごめん!ごめん良かった!戻ったんだね!?
ぜ、ぜひ内密でお願いします!!」
「分かりました!」
恋心姫と麿が笑い合う。

一方で……
「こら。いつまでメソメソしてるつもりですか??恋心姫に笑われますよ?」
ひたすら桜太郎の手を握って俯いて泣いていた煤鬼が、
桜太郎におでこをちょんとつつかれて顔を上げる。
「ぅ、え??おま、え……桜太郎??か?戻っ……た!?」
「恋心姫なら玄関の辺りです」
「こっ、こ……恋心姫ぇええええええっ!!」
転びそうになる勢いで走り出した煤鬼を見送って、桜太郎は苦笑するのだった。
そして……
(たまには、恋心姫を見習って……麿さんの為に着飾ってみてもいいかもしれません)
艶やかに着飾った自分自身に、恥ずかしいような嬉しいような気持で一人微笑んだ。


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【作品番号】youkaisin23

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