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☆1

立佳が“閻濡お姉ちゃんがお仕置きされる”と、ノートに書き込んだ、約一時間後……
保健室では不穏な空気が流れていた。

「今の貴女はまるで罪悪感の塊だ。免罪符が欲しいんでしょう?
だったら僕が方法を教えてあげてもいい……」
「いっ、いや……」

保健室のベッドで後ずさるは、コバルトグリーンのブルマー姿が麗しい閻濡。
それに迫るは無表情な若い補助調理師、優。
カーテンに仕切られた薄暗い空間に逃げ場はない。
彼に強引に手を取られた瞬間、閻濡の瞳が大きく見開かれて溢れた涙が頬に伝う。

「いっ……いやぁああああっ!!」
「何してるの優君ッ!!」

少女の悲鳴と熟女の怒鳴り声はほぼ同時だった。
猛然とカーテンを開け放った時子を平然と振り仰いだ優は、いつもの調子で言う。

「……だって、この子が体育の授業をザボった事をあまりにも気にしているので。
要らない罪悪感を消すのにお仕置きを、と思いまして」

「キミのお仕置きは過激すぎるから年頃の女の子はトラウマになるよ!
っていうかその罪悪感は要るよ!?
それにそんなっ……女子高生のお尻を見ちゃうなんてワイセツだよ!!」
「失敬な!僕は30以下の女に興味はありません!」
「そんなこと声高に宣言しないで!!」
「うわぁあああん!ごめんなさいぃ!!パパぁぁあああ!!」

急に火がついたように泣きだした閻濡を、時子は慌てて慰める。

「わぁああっ!泣かないでキミ!優君は後で時子さんが『めっ!』って、しとくからね?」
「学園のアイドルを泣かせるなんて時子さん……貴女、男子から総攻撃を食らいますね。
夜道には十分気をつけてください」
「泣かせたのはキミでしょっ!いい加減にしないと怒るよ!?
ああもう!どうしてこんなややこしい事態に――っ!」

実は時子、たまたま保健室に来たところ、玲姫先生にお留守番を頼まれた。
彼女は半強制的に臨時の保健室の先生にされてしまったのだ。
食堂の事以外は管轄外の時子は、オロオロと生徒たちの手当てや看病をしていた。
途中から手際の良い優が来てくれてある意味助かったのだが、このように別の問題も起きてしまって……

(うぅう〜〜っ、泣きたいのは私の方だよ〜〜……)

時子は心の中で涙を流しながらも、閻濡の頭を撫でる。
すると、閻濡はしゃくりあげながら言葉を紡いだ。

「ご、ごめんなさいっ、ひっく……ぼく、走るの苦手で……いっつもビリで……
皆もう走って無いのに……一人で走るの、ひっく、とっても恥ずかしくって……
ダメって分かってたけど、どうしても……体育、行きたくなくて……」
「キミ……」

未だにボロボロと涙を流す少女。
涙が止まらないほど、後悔しているのだ。十分苦しんで、反省しているのだ。
時子は許してやりたかった。
だから、目の前で泣いている少女に微笑みかけ、いっそう優しく頭を撫でた。

「大丈夫だよ。キミはもう十分反省してる。もう泣かなくていいんだよ?」
「……でもっ、ぼく体育サボっちゃったから……
悪い子はパパに嫌われちゃう……ごめんなさいパパ……」
「反省したならいいんだよ。いつまでも自分を責めないで?」

時子の言葉を聞いても、閻濡は首を横に振って泣き続ける。
何かに怯えるように目を伏せて、体を震わせていた。
そんな閻濡を心配そうに見つめていた時子の肩を、優がポンと叩く。

「無駄ですよ時子さん。彼女は自分で自分が許せるだけの報いが欲しいだけ……
お仕置きすればいいんですよ。僕にさせたくないなら、貴女がすればいい。
たかがサボリの罪悪感でこんなに苦しまれると目も当てられません」
「たかがって、キミねぇ……」
「“たかが”って思えるほど、繰り返したんですよ僕は。
罪悪感も感じなくなるほど繰り返しました。
でも初めのころの罪悪感は、今思い出しても胸クソ悪いですね。
放っておけば彼女、良心の呵責で3日間は苦しみ続けますよ」
「……助けてあげてって、言ってるの?」
「いいえ。どうでもいいです。
でもどうせ、哀れな彼女を救ってやりたいとか思っているであろう、お節介な時子さんに対する助言です」
「分かったよ」

顔には出ない優の心の底を汲み取って、時子は困ったように笑う。
そして閻濡がいるベッドに座ると、涙目で不安げにこちらを見ている閻濡にもその笑顔を向けた。

「私がお仕置きすれば、キミはキミを許してあげられる?」
「はい……ちょっと怖いけど……」
「そっか。じゃあ時子さん、頑張るよ。
こっちに来て膝の上に乗ってくれる?」
「は、はい……」

緊張気味に時子の膝に横たわる閻濡。
時子も時子でやや緊張していた。彼女は人のお尻を叩いた事が無い。
固いブルマを脱がせてプルンと出てきた可愛らしい柔尻にも、
その瞬間に閻濡が漏らした恥ずかしそうな声にもおっかなびっくりだった。

(優君を参考にすればいいのかな?……できる気はしないけど……)

自信を無くしそうになるが、弱音を吐いてはいられない。
この子を、救うのだ。
優のように一人で罪悪感に苦しまないように。優がそう望むから。

(ねぇ優君、キミをこんな風に叱ってくれた人はいた?)

心の中でそう優に問いかけて、時子は力いっぱい平手を振り下ろす。

ぱしん!

「きゃっ!」

乾いた音と甲高い悲鳴が重なる。
一瞬躊躇した時子だが、躊躇してはいられない。
続けて何度も平手を振り下ろしていく。

ぱしん!ぱしん!ぱしん!

「いっ、やっ……ぁあ……」
「痛い?」
「は、ぁ……」
「我慢するんだよ?」
「んんっ……」

声は上げるものの抵抗する気はないようで、閻濡の体にぐっと力が入る。
痛いのかな……?
力加減の分からない時子はそんな事を気にしていた。
でも、これが“罰”ならきっと痛い方がいいだろう。良い気分ではないけれど、彼女の為なら仕方が無い。
色々考えながらお尻を叩いていると、閻濡のお尻は存外早くピンクに染まる。

ぱしん!ぱしん!ぱしん!

「ごめんなさい……ごめんなさい!!」

閻濡は辛そうにしながらもそう言った。
彼女が最初、泣きながら言い続けていた時と同じように悲痛な声だった。
「もう謝らなくていい」……時子としてはそう言ってやりたいところなのだが、そうもいかない。
中途半端にすれば、彼女は彼女を許せない。
だから……

「授業サボったりして、悪い子だったね」
「あぁっ、はい……!ごめんなさいいっ!」
「二度とこんな事しないように、きつくお仕置きしますからね」
「ううっ……はい……ごめっ、なさ……」

叱って叩いて、彼女が納得できるだけのお仕置きをするしかない。
閻濡が泣きだしても止まる事なんてできないのだ。
今泣かせないと、彼女は自分の罪の重さでまた余計に泣く事になる。

ぱしん!ぱしん!ぱしん!

「うぇぇっ、ごめんなさい!ごめんなさぃぃっ!」
(そろそろ……許してあげてほしいな……)

泣いている閻濡に時子はそう語りかける。
足の蹴り上げも出てきたし、本当に痛くなってきたのだろう。
何よりお尻が真っ赤だ。
時子の手も痛いのだが、それよりも時子は自分が叩いているせいで
女の子が泣いているのが辛かった。

(私、やっぱり叩かれる方が性に合ってるかも……)

優君も少しは、叩かれてる私の事可哀想に思ってくれてるのかな?……
一瞬関係の無い事を考えてしまった時子だが、慌てて思考を引き戻す。
今は、この子に集中しなくちゃ。
そう自分を叱咤して、再び閻濡に声をかける。

「反省したの?」
「反省しましたぁ!ごめんなさぃぃっ!あぁあっ!」
「もう授業はサボらないんだね?」
「サボりませんっ、ひっくっ、ごめんなさぁぁい!」

ぱしん!ぱしん!ぱしん!

痛む手を一生懸命、赤いお尻に叩きつけて、時子は思う。
こんなにお尻を真っ赤にされて、泣いてるし……お仕置きとしては十分だよね?
あとは、彼女の気持ちと、私のタイミング……

「本当にもうしないの?」
「本当ですぅ!本当ですからぁ!!うぁああんっ!ごめんなさぁあい!!」
「良い子になった?」
「良い子になったぁっ!やぁああっ!」

ぱしん!ぱしん!ぱしん!

もう少し、もう少し……
あとほんのちょっと、彼女の気持ちを引き出せたら……
そう思って、時子がお尻を叩いていると、急に押さえていた体が強い力で動こうとする。

「こら、逃げないよ?」

ぱしぃっ!

「あぁんっ!ごめんなさいママぁ!!」

強く叩いた瞬間、悲鳴を上げた閻濡。
その悲鳴は時子にも、閻濡自身にも軽い驚きだった。

「ごっ、ごめんなさい!!」

すぐさま今までとは音色の違う、恥ずかしそうな声で謝る閻濡。
今までとは違う意味の“ごめんなさい”だろう。
思わぬアクシデントだったが、時子はほんのり温かい気持ちになった。

「うふふっ、“ママ”でもいいんだよ?」
「うぅっ……」

恥ずかしそうに呻く閻濡。
時子は閻濡を励ますようにパンとお尻を叩いた。

「ぴゃっ!?」
「じゃあ最後に質問ね」

ビクリと体を震わせる閻濡のお尻を、もう時子は叩かない。

「自分の事、許してあげられた?」
「……!!」

閻濡は少し間を置いたものの、力強く頷く。

「はい……」
「よかった。じゃあお仕置きはお終いです。
もう泣いちゃだめだよ?キミはちゃんと反省したからね?」
「はい。時子さん、ありがとうございます」

自分で起き上がろうとする閻濡を時子は支えて起こす。
その時の閻濡の清々しい笑顔を見て、心底ほっとした時子。

そんな和やかなムードの中、大人しく様子を見ていた優が、急に閻濡に近づく。
キョトンとする閻濡に、優の言った事はこうだった。

「貴女に、僕を“パパ”と呼ぶ権利を授けます」
「優君ッ!!」

恥ずかしそうに叫ぶ時子と澄ましている優をを見比べて、閻濡は本当に楽しそうに笑っていた。
そうして閻濡が晴れ晴れとした様子で教室に帰った後は特にやってくる生徒も無く、
時子と優はいつものように二人っきりで過ごす。
先ほどからずっと気になっていた事を、時子は優に聞いてみる。

「優君、キミがザボった時は誰か叱ってくれた?」
「いいえ。僕には誰もいませんでした。
叱ってくれる人も、気にかけてくれる人も」

ひどくあっさりした答え方で、時子にはそれが悲しかった。

「じゃあずっと苦しかったね」
「最初だけです。罪悪感なんて慣れてくれば微塵も……」

優の言葉が止まる。
時子が優に抱きついたのだ。抱きついて、強く抱きしめてくる。
優はすっと目を細めて、止めていた言葉を再び吐き出していく。

「微塵も、感じなくなるまで繰り返したんです。
そう言ったの、聞いてなかったんですか?
結局最後にはサボるのもバカらしくなってやめました」
「私が、叱ってあげようか?お尻ペンペンして」
「血迷わないでください。僕のはもう時効です。それより……」

優も時子に負けないくらい強く彼女を抱きしめる。
自然と二人で抱き合う形になった。

「しばらくこうしていてください。快適です」
「うん……。これからは優君が悪い事したら、ちゃんとお尻ペンペンして叱ってあげるからね!」
「引っ張りますね時子さん……でも、その場合は貴女のお尻に100倍返しですよ?
身の丈に合わない事はせずに、大人しく僕の傍にいた方が賢明です」
「へ!?傍にいるけどさ……100倍返しは、手がさ、痛くなるからやめたほうがいいよ?」
「手が痛くなっても構いません。道具に頼るだけです。
僕は叩かれるより叩く方が性に合う……貴女が傍にいれば僕は満足ですから」
「ね、ねぇ、もうちょっと普通に愛を語ろうよ〜〜……」

生徒の事はお仕置きできても、結局は泣く事になる時子であった。


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