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「ごめんなさい……」 しゅんとした表情で俺を見つめる健人を、俺は腕を組んで見据える。 俺の家で、寝る部屋で向かい合って座る俺達の間には未だかつてないほどの気まずい空気が流れる。 原因は単純明快。 俺がちょっと買い出しに行っている間に、健人が俺の秘密日記を読んでいた。 本当に死ぬかと思って、焦り過ぎて今は逆に心が落ち着いた。 「健人……やってしまったものは仕方ないんだ」 「……許してくれるの?」 「生かしては帰さん」 俺がそう言って笑うと、健人は目を丸くして余計居心地悪そうにそわそわしている。 さてどうしてくれようコイツ。どうしてくれよう。 健人でなかったら勢いよくのしかかって床に押さえつけ、5,6発殴っていたところだ。 ……ってのはさすがに言い過ぎか。とにかく俺は恥ずかしさと怒りで今どうにかなりそうなのだ。 とりあえず深呼吸して健人と話してみる。 「健人、今の俺はどんな気持ちでいると思う?大切に隠していた日記を暴かれて」 「ん……怒ってる?」 「そうだな。怒ってる。そして死ぬほど恥ずかしい」 「で、でも、恥ずかしがるような事なんて何も書いて無かったよ!? その日に起こった事や気持ちが素直に、丁寧にまとめられてて、すごく素敵な日記だったよ!? 温かい気持ちになれたよ!!」 慌てて捲し立てるのは健人なりのフォローだと思う。 けれど……この状況では言い訳に聞こえてしまって何だか不愉快だ。 「俺はアレに、無性にムラムラする日の気分とかも綴ってたのだが?思いついた下らないシモネタギャグとか」 「お、男同士じゃない……」 この手の話が苦手らしき健人が顔を赤くしてぎこちなく笑う。 くそうコイツ……読んでやがるッ!! 俺の心は決まった。冷静に、こう告げる。 「不公平だと思うんだ。俺だけこんなに恥ずかしい思いをするのは」 「え?」 「お前も恥ずかしい思いをしやがれ!!」 健人の胸倉を掴んで思い切り引き寄せて、下方に叩きつける。 ちょうど俺が胡坐をかいている上に腹這いになった。 「いっちゃん!?な、何する気!?」 「決まってんだろ!!お仕置きだ!!」 ズボンも下着も躊躇なく下ろすと、健人が慌てて抵抗しながら叫ぶ。 「やっ、やめて!!こんなの僕の方が恥ずかしいよ!!」 「ほっほう??」 カチンときて思いっきり尻を引っ叩いてやる。 バチンッ!! 「ひぅっ!!」 「心の中を丸々覗かれた俺より、たかだか肌を晒してるお前が恥ずかしいって? お前は事の重大さを全然分かってない!!」 バチンッ!バチンッ!バチンッ! 「ぁああっ!痛い!痛いよごめんなさい!!」 「なぁ健人恥ずかしいかよ?いい大人がこんな風に“お尻叩かれてお仕置き”されて……」 「や、やめて!!」 「でも俺の恥ずかしさはこんなもんじゃない!!」 俺は、健人の尻を結構手加減なしに叩いている。 恥ずかしがらせる目的なら……痛みは無くていいのかもしれないけれど。 悪いな健人。俺は怒ってるのもある。この怒りはお前の尻で晴らさせてもらう!! バチンッ!バチンッ! 「うぁぁあぅっ!いっちゃぁぁん!!」 健人が跳ねながら悲鳴を上げる。 人より力が強いという自負はある……健人の尻はもう真っ赤だ。 半泣きの声が痛みを訴える。 「ご、ごめんなさい!もう、許してぇ!お願いだからぁぁ!」 「おいおい、こんな格好で泣き出すなんて子供みたいじゃないか?」 「や、やだ!それやめて!!言わないでっ!!んぅうっ!」 痛みに悶えながらも恥ずかしそうにしている健人。 逆に健人をいじめている錯覚を起こしそうだったけど、もう少し懲らしめて……! なんて、思うのは俺がねちっこい男だからだろうか。 バチンッ!バチンッ!バチンッ! 「ひっ、いぃっ!!や、ごめん、なさい!ぁああああっ!」 息を弾ませるみたいな苦しげな声に、ビクビクしている体と真っ赤な尻。 もしかしてやり過ぎ?と、思いながら声をかける。 「なぁ、このままベランダ出る?」 「そんな……!!」 意地悪く聞いてみて、健人の返事は絶望感溢れていた。 「おねが……ひっく、もう、しないからぁぁぁっ!許して!そんな事しないでぇぇ!!うっ――!!」 「行こう!」 掴めるはずもない床を掴もうとした手を後ろに縫いとめて、 ワザとらしく動こうとしたら…… 「嘘っ!?うそうそうそうそ〜〜っ!やめて!お願いやめてぇぇぇ!! いやぁああああっ!うわぁあああああん!!」 健人が本気泣きしていた。 さすがにもう怒れない。叩けない。 座り直して手を止めた。 「しないって。少しは反省したか?」 「う、ぁっ……ぁあああああああ――ん!!」 「そ、そんなに泣かなくても……悪かったよ……」 最後は逆に俺が謝ってしまった。 で、健人が落ち着くとまたまた流れる気まずい空気。 今度は俺もうなだれて黙り込む。 しばらく黙っていたけど健人から話しかけてくれた。 「……ねぇ、いっちゃん。本当にごめんね……」 「いや、もういいんだ。俺もちょっと悪ノリしすぎた」 「仲直りしてくれる?」 「もちろん。ぜひ」 俺が、――ベタだけど片手を差し出すと、健人は嬉しそうに両手で握ってくれた。 「ありがとう……」 そうやって握手すると、お互いにホッと息をついて。 やっぱり慣れないケンカなんてするもんじゃないな……そう思ったら、ふと、健人が言う。 「僕、そろそろ帰るね……」 「え?もう少しゆっくりすればいいのに」 「ううん。今日は僕がご飯作ってあげたいし、それに……」 そこで健人は目を逸らしながら俯く。 「あの、いっちゃんの顔見てると、恥ずかしい、から……」 「え!?あっ……」 「あの、たぶん今日だけだと思う!!また遊びに来るね!」 「あ,ああ!またな!」 結局、何となく最後までぎこちないまま健人は帰宅した。 健人の真っ赤な顔を思い出すと俺まで恥ずかしくなるぜ……。 その夜の事。 俺の携帯電話に健人から一通のメールが届く。 『sub:見たら絶対消してね! ●月×日 今日は、いっちゃんの秘密の日記を勝手に読んでしまいました。 いけないと思ったんだけど、どうしても気になったから。 それがバレてしまって、いっちゃんにたくさんお尻を叩かれました。 とっても痛かったです。 でも、僕はお尻を叩かれる事よりいっちゃんに嫌われる事の方が怖かったです。 だからいっちゃんが僕の事を許してくれて、仲直りしてくれた時すごく嬉しかったです。 ありがとういっちゃん。それに、本当にごめんなさい』 日記風の文章が健人の声で再生されて思わず吹き出した。 (健人の奴……) ニヤケながらすかさず返事を送る。 『sub:お前の日記見たぞ((´∀`*>)! 安心しな。さっきのメールは責任を持って消しておくよ。 ありがとう、親友!』 そんなやり取りの後、しみじみと……健人は俺の大事な親友だな、と感じたのだった。 |
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