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◆◆ある日保健室で3

「せ、先生!お待たせしました!」
「…………」

俺の名前は藤堂寺至(とうどうじ いたる)。私立沙華味小学校で養護教諭として働いている。
いわゆる保健室の先生ってやつだ。けれど今日の俺は保健室にいなかった。
どこにいたかというと、とある公園の噴水の前だ。
今日は日曜日で、午後から生徒の遠野綴君と映画館に行く約束をし て い……た……
うわぁぁあああああっ!!

「つつつつ綴君!?どうしたのその格好!?」
待ち合わせの噴水の前にやってきた綴君を見て、危うく叫びそうになった。
彼は上品なブラウンのフリルワンピースの上からリボン付きの白のボレロを羽織っていて
頭にはうさぎのカメオ飾りとリボンのついたアンティークなかチューシャをしている。
パッと見、絵本から飛び出した清楚なお嬢様の様で……
どこから、どう見ても、“美少女”だったからだ。
綴君本人も自分の姿には違和感があるらしく、恥ずかしそうにもじもじしながら俺の質問に答えてくれた。
「あの、そのっ……学校の先生と、生徒が“でーと”してるのがバレたらダメだから、
“へんそう”していった方がいいって、たばね君が言って、それで、あのっ……
ぼく……やっぱり、変ですか……?」
そう言った綴君の真っ赤な顔に涙目がプラスされる。
俺は慌てて首を振った。
「変じゃない!全然変じゃないよ!可愛いよ!似合いすぎて怖いくらいッ!!」
「良かったぁ……」
綴君がふにゃりと微笑むと、その瞬間に俺の鼓動は高鳴り、全身の筋肉が緩む。
天使だ……天使様がいらっしゃる……!!
そのくらい、今日の綴君は可愛過ぎて……目の前の楽園を振り払う様に頭を振る。
いけない。俺は教師。保健室の先生。今日は、しっかりと生徒を引率しないといけないのに!!
(束君ありがとう!!そしてグッジョブ!!)
ええい!静まるのだ俺の本音!!静まってください頼むから!!
そう念じながら、俺は綴君の小さな手を取って声をかけた。
「それじゃあ、行こうか綴君?見たい映画は決めてきた?」
「はい……!!」
綴君が頬を赤らめて笑うたび、跳ねあがる俺の軟弱ハートのバカ野郎。
そんなことより、この小さな手をうっかり離して彼を迷子にしない様にしなければ。
あと、綴君の体調にも気を配らないと。
そうやって一生懸命自分の使命だけを考えていた。



そんなこんなで俺と綴君は映画館にやってきた。
束君オススメの、この辺で一番大きくて新しい映画館。ここなら色んな映画がやっているし、
設備も綺麗で近くに大きな百貨店もある、とのこと。映画を見た後も綴君と遊べそうだ。
休日だし割と人はいたけれど、無事にチケットを買って座席に着く事ができた。
今は売店で買ったジュースを飲みながら会話しつつ、上映を待っている。
綴君の選んだのは意外にも『恋スル教室』という恋愛映画だった。
男の子だったら、今子供らに流行りのミラクルレンジャー!とか……
そんな子供向けヒーローアクションを選ぶと思ったけれど。
まぁ、俺としては綴君と見られればどんな映画でもよかったし、彼の好みを優先するつもりだったので
文句もなく……そのうち辺りが暗くなり、映画が始まった。

さて、映画『恋スル教室』の概要はこうだ。
大人しくて目立たないけれど心優しい少女、撫子と
明るくて学校のアイドル的存在、愛。二人の高校生美少女が同じ担任の教師を
好きになってしまう。仲の良い撫子と愛はお互いの気持ちに悩み、
また教師と生徒という禁断の恋にも悩み、教師も教師で自分の立場や二人の教え子の告白で悩み。
最終的に教師が選んだのは『撫子』で……その教師の家で二人は……
(えっ!!?)
スクリーンの光景に驚いた。
互いの両思いを確認した二人は濃厚なキスシーン→教師が撫子をベッドへ押し倒し……
(おいおいおいおい待て!!子供が見てるんだぞ!?)
完全に個人的な都合を突っ込みつつ、俺は焦って隣の綴君を見る。
暗闇で顔色ははっきりしないけれど彼は俯いて、目を両のお手手で覆っていた。
綴君……先生は心底安心して、キュンとしました。
結局そのシーンは、押し倒す→再びキス→暗転→別のシーンへ……だったので
教育に良くないシーンは映らなかったのだけれど、何とも心臓に悪い出来事だった。

それからは特に問題のあるシーンもなく、映画は無難なハッピーエンドで幕を閉じた。
綴君も喜んでいて俺はホッとした。
それから、大量の人々と一緒に映画館を出る頃はちょうど夕飯時だったので
綴君にさりげなく聞いてみる。
「綴君お腹空かない?何か食べたいものはある?それか、行きたい場所とか……」
「ええと……」
「遠慮しなくていいからね?何でも好きな物……好きな場所、言って?」
「…………」
大人しい綴君が遠慮しないように、優しく言った。
すると綴君はしばらく考えこんでから恐る恐るといった様子でこう答える。
「藤堂寺先生の、おうちに行きたいです……」
「へ?」
「先生の、おうち……」
「…………」
「ダメですか……?」
小さな唇が紡ぐ言葉を理解するのに数秒かかった。
え……?『俺の家』……?
いや待て、違う、落ち着け、ダメな事は無いな?
ヤマシイ事なんかない。うん、そうだ。先生の家に生徒が来るなんて普通、だよな?
だって、さっきの映画だって……さっきの映画……

――その教師の家で二人は……互いの両思いを確認した二人は
濃厚なキスシーン→教師が撫子をベッドへ押し倒し……

「俺が目指す藤堂寺先生はそんな事しないッ!!」
「ひゃっ!?」
「あ!違うんだ!今の独り言だから!脅かしてごめんね、綴君!!」
いかんいかん!!思わず心の叫びが口から飛び出してしまった!!落ち着け俺!!
目をまん丸くして俺の顔を覗きこむ綴君。
そんな彼のために良心の導きに従い、俺は冷静かつ、大人な判断を下す。
(俺の手料理なら、お金もかからない。体にいい物を作ってあげられる。綴君の好感度UPのチャンス)
(綴君が俺の家に来る!!いきなり自宅だなんて急接近過ぎだろヒャッハ――――!!)
(歩き疲れさせて体調が崩れるよりいい。自宅なら体調が崩れてもすぐ寝かせてあげられる。添い寝もできる)
(どうやって過ごそうテンション上がるぅぅぅっ!!!)
……良心どれだよ!!?
俺は心の中で(PTA・教育委員会・強制解雇)と理性復活の呪文を唱えながら
乗ってきた車に綴君を乗せて自宅に向かった。


自宅に着いてから、綴君は嬉しそうにキョロキョロしていて
それでも大人しい彼だけに案内したリビングのテーブルの前にちょこんと座っているだけで。
特にどこかをいじったり歩き回ったりはしなかった。
夕飯は、綴君のリクエストで“カレーライス”になって……俺の適当カレー(甘口)を
ドギマギしながら振る舞ったわけだが……
「ど、どうかな綴君……おいしい!?」
「はい!お母さんのと違うけど……ぼく、この味好きです!
先生は、あのっ、いいおよめさんになれると思います!!」
「……ありがとう……」
綴君の一生懸命な褒め言葉に、複雑な気分になってしまったのでした。

ご飯の後は並んでゆっくりテレビを見ながらお喋りをした。
綴君の学校の事、家族の事……束君や二宮の話題がたくさん出てきた。
そして、今日の事。
「映画、面白かったです。ちょっとえっちなのがあってびっくりしたけど……」
「そうだね!ビックリしちゃったね!ハハッ!ハハハハッ!」
俺はなるべくあのシーンを思い出さないようにしつつ、ひたすら笑って誤魔化しておいた。
すると、綴君が少ししゅんとした顔になる。
「ごめんなさい先生……」
「ど、どうして謝るの??」
「だって、“子供はえっちなもの見ちゃいけません”ってお母さんが……」
「いやいや、綴君はちゃんと目を塞いでたじゃないか!先生、エライナ――って、オモッタヨ!」
若干セリフが棒読みになってしまったけれど、綴君は安心したようにはにかむ。
これ以上映画の話題は避けたい……他の話題を……って、あ!
今気付いたけど、そろそろ綴君を家に帰してあげないと!じきに19:30になる!
名残惜しいけれど……俺は綴君に切りだした。
「綴君、そろそろ夜も遅くなるし、お家に帰ろうか?先生が送ってあげるから」
「え……?」
綴君が悲しそうに驚いて俯く。
そのまま、全然動こうとしないので俺はもう一度声をかける。
「遅くなるとお母さん、心配するよ?またいつでも来ればいいんだから!ね?」
「……たい、です……」
「ん?」
「先生と、一緒にいたいです……」
「だっ、ダメだよ!先生も寂しいけどさ、ほら、すぐ明日も学校で会えるし!」
絞り出すような弱弱しい声が、嬉しい事を言ってくれるので
ますます名残惜しくなるのだが……彼をこのまま置いておくわけにもいかなくて必死に説得する。
すると……
「……先生っ!!!」
「!!!」
いきなり綴君が抱きついてきた。
ドクンと、大きく脈打った心臓がそのまま早鳴りする。
小さな、柔らかい体を俺に押しつけながら綴君が震えた声で俺に言う。
「今夜は、帰りたくないんです……!!」
「あ……」
俺の鼓動がさらに早鳴る。
綴君の言葉は、映画の中で『撫子』が言ったセリフそのままだった。
それも、教師が撫子をベッドへ押し倒す直前の。
(落ち着け!!)
俺は反射的に心の中で叫んだ。
(綴君は、ちょっと見た物に影響されやすいところがある……この前だって、二宮のイタズラを
そのままマネした事があったじゃないか!俺が流されちゃダメだ!!)
これは映画じゃない。映画のようにはいかない。強く、そう念じる。
当然、映画の教師とは違うセリフを返す。
「つ、綴君……いい子だから帰ろう?わがまま言わないで」
「生徒が、先生を好きになるのはいけない事ですか……?」
「うっ……!!」
まだ映画のセリフをなぞるのをやめない綴君。
もう次は、俺が押し倒すシーンだ。けれど、ダメだ。これは乗っちゃダメだ。
俺はこの子を、何としても家に帰さないと!!だから、言わなくては!シナリオを書き変えなくては!
「帰ろう?ね?聞き分けのない子は、お尻ぺんぺんしちゃうよ?」
「……生徒が、先生を好きになるのはいけない事ですか……?」
「綴君!!」
「つづりがッ!!」
俺の怒鳴り声を跳ね返すような綴君の声は、切なげに続けた。
「つづりが……先生を好きになるのはいけない事ですか……?!」
「……くっ!!」
気がつけば俺は膝の上に綴君を引き倒していた。
ワンピースのスカートを捲くって、下着を下ろしていた。
彼の質問に答えもせずに、裸にしたお尻に平手を振り下ろしていた。
パァンッ!!
「きゃうっ!?せんせっ……!!」
パン!パン!パン!
綴君の言葉を遮る様に何度も叩く。
可哀想な悲鳴が何度か跳ねた。無意識だけれど力が入ってしまったのかもしれない。
それでも俺は何も言わずに叩き続けた。
パン!パン!パン!
「やぁぁっ!あぁっ!せんせ……ぁうぅっ!!」
めげずに何かを言おうとする綴君の声は、お尻を打つたびに
悲鳴にかき消される。何度かそんな事を繰り返して、なのに彼は諦めなかった。
必死に紡いだ言葉が、ついに俺に届く。
「せんせっ、答えて下さい!!!」
普段の綴君からは想像できないほどの、強さを秘めたハッキリとした言葉だった。
一生懸命叫んだから、というのもあっただろう。けれど、それにも勝る情熱が感じられた。
でも俺は……この場で、この言葉に答えてはいけない気がしたんだ。
だから、とにかく彼のお尻を叩き続けた。
パン!パン!パン!
「んぁぁっ!やぁぁあああん!!」
幼い悲鳴はだんだん涙声になってきて、色白だったお尻もだんだん赤くなってくる。
痛みから逃れようと小さな体が膝の上でもがく。
「せんせぇ!いやぁぁっ!!痛いよぉぉっ……!!」
手足をばたつかせているけど元々体力のない綴君の抵抗なので
俺には痛くも痒くもない。よって、それまでどおりお尻を叩くお仕置きを続ける。
「ひぃっ……ふぇぇっ!うぁぁぁああん!」
と、綴り君が泣きだところで俺はやっと声をかけた。
「綴君反省した?」
「ごめんなさい!うぇぇっ、せんせぇっごめんなさい!」
「うん。ちゃんとお家帰ろうね?」
「うぇっ、ひっく、どぉして……映画みたいにならないのぉっ……」
一人でそう呟きながら綴君はしゃくりあげる。
その姿を見て、困った事に……ズブズブと嗜虐心に火が付いてきた。
ああ……俺の悪い癖だ。綴君についつい尋ねてしまう。
「綴君、先生と映画の中みたいになりたかったの?」
パン!パン!パン!
尋ねながらリズミカルにお尻を叩き続ける。綴君の答える声は苦しそうだ。
「んっ、ぁ!なり、たかった、です!ふぁぁっ!」
「それってつまり……」
「せんせっ……と、ちゅー、したくて……あぁんっ!!」
「ホワッ!!?」
驚きのあまり変な声が出た。
ちゅー!?ちゅーって何だ!!?いや、キスだろうけど!!
ど、どうして綴君が急にそんな事……綴君、映画の中のキスシーンは目を塞いで……
目を塞いで……
「……なかったんだ……見てたんだね。綴君」
「ご、ごめんなさい!指の間からちょっとだけ……!ごめんなさい!」
泣き声交じりに、何度も謝る綴り君。きっと、俺に叱られると思ってるんだ。
お母さんに“子供はえっちなもの見ちゃいけません”って教わってるから。
彼だって“男”である以上、同じ男として俺はその好奇心を叱る気はあまり無い……けど……
(期待に答えてあげないと……)
意識はハッキリしてるのに、思考がひどくクラクラして夢心地だ。
綴君を必死で家に返そうとしていた時の使命感はもはや思い出せない。
そのお仕置きされている姿や声に、いつもより大胆な発言の数々に、俺のイケナイ欲望がムクムクと頭をもたげる。
(綴君が、叱られると思ってるなら叱ってあげないと……)
俺の本能は告げていた。“もっと彼をお仕置きしたい”あるいはそう……
“もっと過激な告白が聞きたい”。
気がつけば少し強めに手を振り下ろしていた。
ビシッ!バシッ!ビシッ!!
「あぁあああっ!先生ごめんなさい!!」
真っ赤なお尻にこの平手は応えたようで、悲鳴が一層大きくなる。
俺は綴君を叱った。
「悪い子だね綴君。こっそりエッチなシーンを見ていただなんて」
「ご、ごめんなさい!先生ごめんなさいぃぃっ!わぁぁぁん!!」
「全部見てたんだね?キスした後あの二人が何をしてたか……!」
「あぁああああん!!見てましたぁぁぁっ!!」
「それで、俺とも……そういう事したいって思ったんだ!?」
ああ、今俺はどんな顔をしてるんだろう?絶対今だけは鏡を見たくない。
そんな自己嫌悪に陥っているけれど、俺は綴君のちっちゃで真っ赤なお尻を叩き続ける。
ビシッ!バシッ!ビシッ!!
「うわぁああああん!先生ぇぇぇ!せんせぇぇぇっ!!」
縋る様な声が胸を甘く締め付けて、余計に答えが知りたくなる。聞きたくなる。
「ねぇ綴君、俺とキスしてあんな風に押し倒されたかったんだよね!?その後どうして欲しかったの!?」
PTA?教育委員会?強制解雇?しゃらくせぇぇぇぇぇっ!!
んなもんど―――――でもいいわぁぁぁぁぁ!!!
愛の暴走機関車と化した俺の問いに綴君の可愛らしい叫び声が返ってきた。
「あぁあっ、わぁあああん!分かりません!真っ暗に、なっちゃったからぁぁぁっ!!」
「そりゃそうだ!!じゃあさ、あのあと二人は何をしたと思う!?」
「んぇぇぇえっ、えっとぉぉぉっ……!!」
バチィンッ!!
「きゅふっ!!」
叩かれた衝撃で跳ねあがった頭。震える唇からその答えは零れ落ちた。
「う、海がめごっこ……!!」
『ジュッ』。
愛欲の業火は一瞬にして消えた。
「ふぇぇっ!ごめんなさい!もうしません!もうワガママ言いません!わぁぁぁあああん!!」
「…………」
心の中を爽やかな高原の風が吹き抜けていく。
俺は何を考えていたんだろう?綴君はまだ何も知らない子供だと言うのに。
愛するという、愛されるという行為をいたいけな彼が知るはずもないのに。
さぁ解放しようこの無垢なる存在を。
俺は、教師だ。
「……うん。綴君反省してくれたみたいだし、お仕置きはお終いね」
「うぇぇぇっ、はぁっ、先、生……!!」
理性を取り戻した俺は、綴君を膝から抱き起こしてそのまま抱きしめた。
綴君は嗚咽を漏らしながら俺にしがみついていて、そんな彼の頭を泣きやむまで撫でる。
その後いつもみたいに、火照った柔尻に優しく指を食い込ませつつ薬を塗って……
学校で使っている塗り薬、家にも常備しておいて良かった。
綴り君が落ち着いた頃に、彼と向かい合って座っって、そして答えた。あの時答えられなかった質問に。
「綴君が先生を好きになるのはいけない事じゃないよ。もしそうなら、先生は嬉しい」
あぁ、神様仏様PTA様教育委員会様……!
今だけ、今夜だけは、このセリフは師弟愛って事にして俺の気持ちを言わせてくれ……!
潤んだ瞳を嬉しそうに細める綴君に俺の気持ちは止まらない。
「映画みたいに唇にはできないけど……ごめんね、これで我慢して」
俺は綴君の手を取って、細くて小さな指先に軽く口づけをする。
綴君は真っ赤な顔で驚いたかと思うと、泣きそうな笑顔で言う。
「ありがとうございます……」

胸の前で大事そうに手を重ねてた彼を、心から愛おしいと思った。
いつかこの愛を、彼の唇に届ける事ができますように。

※もちろん綴君はこの後、俺が無事に家まで送り届けました。



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【作品番号】AS3

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