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◆◆ある日保健室で |
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俺の名前は藤堂寺至(とうどうじ いたる)。ここ私立沙華味小学校で養護教諭として働いている。 いわゆる保健室の先生ってやつだ。 そんな俺は昼休みの今、悪ガキのお仕置きの真っ最中。 膝にのっけて裸のお尻をぶってるわけだが…… 「わぁあああん!!はーなーせーばーかー!!」 「そんな口のきき方じゃ、いつまでたっても終わらないぞ?ごめんなさいは?」 「うるさーい!!ボクが何したって言うんだよ――っ!!」 「田中先生の車に落書きしただろうがッ!!」 ビシッ!バシッ!ビシッ! 「ぎゃぁあああんっ!!」 泣き喚きはするものの、全く謝りもしないこの悪ガキ。 何もしなければ明るくていつも皆の中心にいる人気者、教師としても接しやすい子なのだが…… いかんせん、思い付きで予想外の行動ばかり起こすトラブルメーカーなのだった。 今日だっていきなり担任の田中先生の白い車にスプレーで落書きをしたのだ。 子供達は面白がっていたけど、気の弱い田中先生は泣いていた。本気で泣いていた。新車だったのだろう。 なのでその田中先生に代わってお仕置きしているのだ。 制服もすっかりカラースプレーで七色の悪ガキは、泣きながら足をばたつかせて騒ぐ。 「ひっく、田中の車が地味だったからカッコよくしただけじゃないかぁっ! あのファンタスティックなセンスが分からないなんて頭が固すぎるよ!これだからET(石頭ティーチャー)は……ひゃうんっ!」 「ごちゃごちゃ言い訳するなら5時間目はお仕置きの時間にするぞ?」 「わぁああんっ!オーボーだ!小学校はギムキョーイクなんだぞ!ジンケンシンガイだ!ジドーギャクタイで訴えてやるぅ!」 「小難しい言葉ばっかり覚えて……それ漢字で書けるか?」 「書けないよぉぉっ!!わぁぁぁん!つづりぃっ!キミもこのETに何か言ってやってくれよぉ!!」 涙目の悪ガキが向かいのソファーに助けを求める。 そこには大人しそうな小さい男の子がちょこんと座っていた。 今の今まで読んでいる絵本そっちのけで大人しくこちらをじーっと見つめていたのだが、 悪ガキに助けを求められると、慌てて本で顔を隠してしまった。 彼は『遠野 綴』(とおの つづり)君。 体が弱いため、何かと保健室で過ごす時間が長い。ここで給食を食べたり、勉強をしたりする事もある。 綺麗な栗色の髪を短めのおかっぱ風に切りそろえ、女の子のような可愛らしい顔立ちの小柄な彼は さしずめ“保健室の座敷わらし”といった感じだ。 そんな綴君に加勢を求めるなんてこの悪ガキは……俺は膝の上のお尻を思いっきりひっぱたいてやった。 「下級生に助けを求めるな!」 「痛い――!わぁあああんっ!」 「よーし決めた!今日はお前が反省できるまでとことん付き合ってやる! 素直に謝らない限り、放課後まででも叩いててやるからな?!」 ビシッ!バシッ!ビシッ! この後は力任せで押しに押した。お尻は真っ赤で悪ガキは大号泣なわけだが、コイツの悪戯は今回だけではないので 甘やかすわけにはいかない。最後まで付き合って、きっちり謝らせた。 そして、謝った後ぐらいは抱きしめてやる事にする。 ああ言えばこう言う悪ガキも……素直に謝って抱きついてくれば可愛いと感じる。 「うわぁあああんっ!ごめんなさい!ごめんなさぃ〜〜!」 「よしよし……もういいから。これからは、悪戯は控えろよ?」 「うぇええええんっ!」 抱きしめて撫でてあやして……泣きやんだ後は意外にケロッとしているものだ。 コイツはもう平気だろうと思い、一部始終をじーっと見ていた綴君に声をかける。 「さぁ綴君、ずっと起きてると身体に障るよ?少しベッドに入ろうか」 「へぇ〜……ボクの時と全然話し方が違うじゃないか?このショタコン教師!」 「違うのは綴君とお前だ。あんな不良のお兄ちゃんになっちゃダメだよ〜?綴君」 悪ガキの茶々を軽く流して、綴君をベッドに誘導する。綴君は俺と悪ガキをオロオロ見比べて遠慮がちに口を開いた。 「でもあの……二宮さんは明るくて、何でもできるし、皆さんにも人気で……ぼく、憧れちゃいます……」 「つづり!キミはやっぱり人を見る目があるよ〜〜!!キミにはボクの直筆サインを……」 「こら!チャイムが鳴ってるぞ!早く教室に帰りなさい!まだお尻を叩かれたいか!?」 俺が一喝すると、悪ガキ(二宮)は脱兎のごとく教室へ帰っていった。 帰り際に「ばーか!ET!」と暴言を残して。全くアイツは…… 痛くなる頭を抱えながら、ベッドに横たわる綴君を見る。ああ、癒される……。 よし、綴君もベッドに入れたし……午後の校内巡回に行こうかな。 「綴君、先生ちょっと学校の中を見て回ってくるからね。すぐ戻ってくるから。しばらく一人で寝ててね」 「はい」 可愛らしい笑顔でそう答えた綴君。 「綴君は大人しく寝ていてくれる」。そう思って俺は何の疑いも無く、彼を一人残して保健室を出たのだ。 帰ってきてあんな事になっているとは考えもしなかった。 「綴君……??」 帰ってきて、俺は目の前の光景が信じられなかった。 ベッドが……保健室のベッドが七色だった。ついでに綴君の服も七色だった。 おそらく原因は近くに転がっている水彩絵の具……保健室に置いてあったものだけど、なにがどうなって!? これを、綴君がやったのか!?この大人しい綴君が!?何で!?理由は!?目的は!? 当人の綴君は恥ずかしそうに俯いて、布団をいじっているだけだ。 俺は混乱しつつ、恐る恐る聞いてみた。 「これは綴君が……やったの?」 「はい」 「ど、どうして?」 「ファンタスティック、だと……思います」 「…………」 「そ、それが分からないなんて……せんせっ、は……いっ、ET……ETさんですね……」 たどたどしくそう言いながら、ますます俯いて頬を染める綴君。 俺は絶句した。このセリフ……完全にあの悪ガキの模倣犯じゃないか!! なんてこったい!綴君が悪ガキにあてられてしまった!! 「あの、あのね……あのね、綴君……」 「う、うるさい……です。ばぁーか……」 「…………」 おそらく、あの悪ガキの口調をマネているのだろうけど……こざ憎さというか、勢いが無い。 そんなふんわり、オドオドな口調じゃ、暴言には程遠い。しかし〜〜…… よりにもよってあの悪ガキのマネをするなんて……さっき「憧れてる」とか言ってたけど…… ぜひとも、考え直していただきたい!! 「綴君、そういう悪い子は、お仕置きしなくちゃいけないなぁ〜〜さっきの二宮君みたいに」 「ばぁーか……ET……さん」 軽く脅してみるが、綴君はあくまで“悪ガキのマネ”をやめようとしない。 やっぱ、口で言ってもダメなのだろうか?一度体に教えてあげた方がよろしいのだろうか? 元々大人しくて、病弱な彼なので少々気が引けるが、このまま悪ガキ化するくらいなら俺は叩いてでも阻止したい。 綴君はこちらの出方をうかがっているのかチラチラと俺を見ている。 まぁ、相手は綴君だ。一度恐ろしい目に遭えばすぐ直るだろう。ごめんよ綴君……これもキミの純情無垢さを守るため!! 葛藤の末、俺はベッドの上の七色座敷わらしを抱き上げる。 綴君は小さく声を上げただけで大して抵抗もしない。俺がベッドに腰掛けて、膝に乗せて、ズボンや下着を下ろして スベスベで柔らかそうなちっちゃいお尻とご対面してもそれは同じ事だった。 (まさか綴君……抵抗できないほど怯えて無いだろうな……?) そう考えていると、綴君がきゅっと膝にしがみつく。 「せんせぇ……」 消え入りそうな声。怯えてるのか!?やっぱり怯えてるのか!?で、でもそれにしては…… 「んっ……」 甘える子猫のように、膝に頬を擦り寄せる。どうしてしまったんだろう綴君は…… あんまり様子がおかしかったら早めに切り上げようと思いながら手を振り上げた。 「じゃ、あ……お仕置き、するよ?綴君……」 「………せ」 バシッ!! 「ひゃっ!!?」 深く息を吸うような悲鳴。俺は間髪いれずにお尻を打ちのめす。 ビシッ!バシッ!ビシッ! 「やっ、あ!!痛い!痛い先生!」 「痛いよ〜〜?先生は悪い子には容赦しないからね」 「はっ、ぁ!!ああっ!やだっ!!」 さすがの綴君も本当に痛いらしく、体をよじっていたが大人しい子は抵抗も控えめだ。 単に力が無いだけかもしれないけど……。 押さえつけるまでも無く、俺はお尻叩きを続行する。 ビシッ!バシッ!ビシッ! 「いやでも反省してください。さっきここで二宮君が怒られたばっかりなのに。 悪い事真似して……学校の物に落書きしちゃいけません!綴君も汚れちゃったでしょう?」 「だって……ご、ごめんなさい!!こんなに痛いと……思わなかった……っ!!」 「ん?“先生に逆らってもお仕置きは痛くなさそうだし大丈夫〜”って、思ってた?先生をバカにするのはいかんね〜綴君。 これは、たくさんお尻をペンペンして先生の怖さを思い知ってもらわないと……」 「きゃぅぅっ!!違う!違いますぅぅっ!」 軽く脅すと必死になって否定してくる綴君。よっぽど痛いらしい。声も普段は拝聴できない大きな声だ。 「ははっ、冗談だよ綴君。綴君がきちんと反省したらそんなにたくさんは……」 「ごめんなさい先生!!ぐずっ、つづりは悪い子です……二宮さんが、せんせっ、に、ぺんぺんされてるの、見て…… おひざの上……抱っこされてて……は、ぁ、いいなって……!!」 「え?」 「二宮さっ……泣いてたけど、うっ、くっ、先生に、最後、ぎゅって……してもらって…… 抱きしめて、もらって……それは、とっても……ステキな事に見えてぇ……つづりも、つづりも先生に……ふぇ、ぅ!!」 ビシッ!バシッ!ビシッ! 綴君の言い分を聞いて、俺は予想外過ぎて呆然と叩き続けてしまった。 呆然とし過ぎてここで手を緩める事が出来なかった。 だって、綴君はちょっとしたアウトローへの憧れで悪ガキのマネをしていると思っていたのに…… まさかあのお仕置きが原因だったなんて……。 この膝に乗せて叩くスタイル……抱っこに見えるのか?と、そんな事より綴君が俺に“抱っこ”や“抱きしめて”欲しいって事だ。 これは……何と言うか……かなり、ニヤける。 「つ、綴君……」 「あふっ、せんせぇ……ごめんなさい!!」 静まれ!静まれ俺の表情筋!!どうせ綴君からは見えないだろうけど!! 涙声すら愛おしく感じてきた俺を俺はどうしたらいい!? 笑いだし寸前の震える声を抑えて抑えて、俺は綴君と会話する。 「ずいぶん……危ない橋を渡ったね綴君……二宮君があんなに泣いてたのに。怖くなかった?」 「にっ、二宮さん……は、何でも少し大げさに表現するから……あっ、つづりは……平気かなって……!! れも……本当に、いた、い……!!」 「二宮君のマネなんてしなくても、言ってくれれば。綴君ならいつでも抱っこして抱きしめてあげたのに……」 「そんな、言うなんて、恥ずかしい……!!ああんっ、ごめん、なさい、先生ぇっ!!」 今が、手を、緩める時だよ、藤堂寺至!! しかし情けない事に俺はテンションが上がってきて、やわっこい桃をバシバシと叩き続けてしまう。 あまりに嬉しい事があると、悶絶してクッションをパフパフしちゃう時あるだろ?あの感じ。 傷一つない白いお尻は今やピンク色だった。 「ごめんなさっ、せんせ……!!ひっく、お尻……終わってください!!あぅぅっ!!」 「綴君?お仕置きは“ごめんなさい”って言えば終わるってもんじゃあないんだよ」 「そんな……つづり、どうしたら!?ぐしゅっ、えぅぅっ!!」 本気で驚きつつ泣く寸前の綴君。 悪ガキに“ごめんなさい”って連呼させて終わったから、“ごめんなさい”って言えば終わるぐらいに思ってたんだろうなぁ…… (ああ、この子……意地悪したく、なりません?) 自分で自分に問いかける。そして俺は俺にはこう返す。 (今世紀最大の愚問だな。なる。に、決まっておろう!!) うわぁ!教育者としてどうなんだろう俺!!いや、違う!これはれっきとした教育だ! 「理由はどうあれ、自分からお仕置きされたくて悪い事するなんて余計悪い事だよ。癖になっちゃいけないから早く治さないと。 治すには“もうお仕置きいやだ”って思うくらいいっぱいお尻ぺんぺんしなきゃね?」 ――と、このようなこじつけで自分を正当化した俺。 綴君はといえば、怯え惑っていた。 「やっ、やっ……!!いやぁ!せんせぇっ!つづり、もうお仕置きいやですぅ!!」 「ううん。まだ足りない」 ビシッ!バシッ!ビシッ! 「うわぁああああんっ!」 まだ叩くと、泣き出してしまった綴君。 うん。泣かせたんだから、反省したよな…… 見てみろ。可愛いお尻も真っ赤じゃないか。 …………いや、でも、もし万が一ってことがあるからもう少しだけ…… (いい加減にしろ!!俺は変態か!…………手加減はしろよ?) と、いうわけで少し手加減して叩いた。 ペシッ!パシッ!ペシッ! でも散々叩かれたお尻に少しくらいの手加減は意味が無いのか、綴君の泣き声は止まない。 「やぁぁぁああっ!せんせ〜〜!お尻壊れちゃいますぅぅ!!わぁあああんっ!!」 ペシッ!パシッ!ペシッ! 「ひゅぁああああんっ!!」 ペシッ!パシッ!ペシッ! 「あぁあああん!!つづり反省しました〜〜!!もうしません〜〜!!」 ペシッ!パシッ!ペ…… (いつまで綴君の無垢なる叫びを無視する気だ――――ッ!!) 理性の叫びで俺は我に帰る。 わんわん泣いている綴君……。これ以上は可哀想だ。 ……もっと早くそう思うべきだったかもしれないが……。 とにかく、お仕置きは終わりにしよう! 「綴君、綴君が反省できたようなので、もうお仕置きは終わりにします。」 ついでに俺は後で色々反省します。 そう心の中で呟いて、綴君を叩くのを止めた。 「ひぅ、ひっく……せんせ……ぺんぺん、終わり……?」 「うん。終わり。一旦お膝から降りようか?痛いのが長引かないように、お薬塗ってあげるから」 「はい……ひっく……」 しゃくりあげる綴君をベッドの上に座らせる。 そして悪ガキやら他の問題児らの御用達の塗り薬を取ってきた。 どこにでもありそうなジェルタイプの塗り薬だが、綴君が使うならもっと高いのに買い替えよう。 美肌効果とかもある、爽やかで甘い桃の香りがいい。うん。それがいい。買おう。今日の帰り買って帰ろう。もう自腹でいい。 ……地味に狂ってきたなぁ、俺。 そうこうしながら、再び綴君をお仕置きの時みたいに膝に乗せる。 すると、また俺の膝にしがみつく綴君。今ならこの行動の意味も分かる。 (抱っこされたかったんだよなぁ……綴君……) しみじみと、薬を綴君の赤いお尻に滑らせた。ああ、少し熱を持ってるな……。 可哀想に思って丁寧に薬を塗り込めていく。柔らかくて気持ちの良いものだ。でも綴君はくすぐったいのか、身じろぎをしていた。 「んっ、ふっ……」 「ははっ、くすぐったい?」 「いえ……冷たくて……きもちい……です……」 「…………それなら、良かった」 一瞬感情の暴発を感じて、返事に時間がかかってしまった。 いかん……これは誠にヤバイ。綴君に対するこの言いようのない愛しさはきっと、教育者としての、いわば師弟愛……。 「せんせ……」 「ん?」 「お薬終わったら、ぎゅって……してくれますよね?」 「……〜〜〜!!」 ごめん。今した。 勢いに任せて綴君を抱き起こしてガバッと抱きしめてしまった。 小さなぬくもりに我に帰って、慌てて少し体を離して綴君の顔を見たら 頬を真っ赤にして、困ったように目を逸らして……それから…… 今度は彼から俺に抱きついてきた。 「先生……」 そう呟いて、俺の服を握る小さな手にきゅっと力がこもる。 (ここでキスしたら解雇……ここでキスしたら解雇……ここでキスしたら解雇……) お経のように唱えて、俺は理性の大いなる働きを促す。 衝動と教師生命の間で揺れ動きながら、俺と綴君はしばらく抱き合っていた。 “保健室の座敷わらし” が俺に運んでくれた幸運は、温かい春のような“恋”だった。 ……本格的に狂ってきたなぁ、俺。 |
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