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◆◆くじ引き二回目:夕月/閻廷

『昼下がりの人妻は、黒いレースの下に物憂い秘密を隠しているものですよ』

「そうそう!分かるよそれ!私もそうなんだよね〜」
「アンタは人妻じゃないですよ」
テレビの前で、ほぅとため息をつくのは黒いレースの下に物憂い秘密を隠しているらしい、画聖と名高い女流画家の大堂夕月。
その夕月にツッコむのは、水玉模様の下に特に何も隠していない彼女と同居中の姉妹の妹、健介子。
特にやることも無い二人は、お昼の放送劇を観賞中……

『時子さん、前の男の事なんか……僕が忘れさせてやりますよ……』

「このエロい昼ドラ変えますね?」
「あッ!!」
――のはずが、健介子が素早くチャンネルを変えて、テレビ画面はお昼のワイドショーになった。
夕月はますますつまらなそうにため息をつく。
「まったく、私が実は超スイートな魔法少女だって言うのに
事件の一つも起こらないなんて退屈で仕方ないよ……健介子ちゃん、おやつ」
「おやつはさっき食べたでしょ?それに夕月さんはどっちかというと“魔法熟女”ですよ」
「魔法熟女なんてヤダよ!抹茶色してそうじゃん!
もういいよ!事件が無いなら探すから!パトロール行ってくる!」

実は“魔法熟女”だった夕月は、退屈に耐えられずにパトロールに出かけた。
そして事件は結構ご近所で起こるものである。
夕月は見た。近所の公園の物陰で、怪しげにうごめく男女の影を。
「いいじゃないか閻濡……もう一回だけ……」
「ダメだよパパ……もう10回目だよぉ……」
高校生ぐらいの可愛らしい女の子にキスを迫る若い男は銀髪ロン毛で、どちらかというとイケメンの部類……
顔を赤らめる毛先ゆるパーマの少女も、まんざらでもなさそうな様子。
それをこっそり見ていた夕月はとっさに思った。
(え……援交だ!!)
若いカップルって線もあるけど、それなら女の子が相手を“パパ”なんて呼ばない!
しかも男がスーツで女の子が制服っていう組み合わせがすでにおかしい!
きっとあの若い男は青年実業家か何かで、金を持て余して高校生を……
許せない!!こんな日も高いうちからイチャついて!!
と、正義の怒りに突き動かされ、夕月はコンパクトに変身呪文を唱える。
「マジカルアーティスティックパワー・ラブリーチェンジ!!」
すると柔らかい光が夕月を包んで、着ていた服が何故か消え
フリルがいっぱい夢いっぱいの可愛らしい魔法服に変身した。
これぞ彼女のもう一つの姿、 「魔法熟女 マジカル夕月」であった。

マジカル夕月は、ふんわりミニスカートを翻して援交カップル(?)に対峙する。
「コラそこの援交カップル!!止まりなさい!!
このマジカル夕月が来たからにはお昼の不純性交遊は許さないよ!」
「え!?何だお前は!?」
「問答無用!子供の健全な成長を脅かす悪い大人はお仕置きです!」
マジカル夕月がパチンと指を鳴らすと、若い男の体が魔法の力で動く。
ちょうどマジカル夕月にお尻を向ける感じで、∩の字型に不安定に浮いていた。
「なっ……体が勝手に!」
「そして服も勝手に!お尻のとこだけね」
マジカル夕月のマジカルパワーで若い男のお尻が露わになる。
「あ!何するんだやめろ!」
「やめないも~ん。悪い大人はマジカルお仕置きステッキでお尻ペンペンの刑です!」
先端が大きな手の形になっていたマジカルステッキを、
マジカル夕月は大きく振りかぶって男のお尻に振りおろした。
パシンッ!!
「うあっ!!」
跳ね上がった男のお尻を、マジカル夕月は二度三度と続けざまに打ちすえていく。
パシンッ!!パシンッ!!パシンッ!!
「いぁぁっ!痛い!痛いぃっ!!」
「このマジカルお仕置きステッキは、威力はパドルの5.5倍!音はパドルの7倍なんだよ☆」
「ひぁっ、無駄にうるさい!!」
パシンッ!!パシンッ!!パシンッ!!
「あぁっ!やだっ!!いやぁぁっ!!」
無駄な音のデカさが恐怖をあおって、男は早々に足をばたつかせ始める。
男の悲惨な姿に、完全に青ざめていた立ち尽くしていた少女が泣きそうな声を上げる。
「パパぁ!!やめてください!!パパをいじめないでください!!」
援交(?)相手の男を庇う少女に、マジカル夕月は大人ぶって説教を開始する。
「目を覚まして!君はお小遣いのためにこんな男に体を許していいの!?」
「そ、そんな……ぼくはお小遣いのためにちゅっちゅしてるんじゃないです!!パパの事が好きだから……!!」
「それがこの男の手口だよ!君の本当のお父さんが今の言葉を聞いたらどう思うかな!?」
「うっ、嬉しい!!」
男が急に口を挟んできたので、マジカル夕月は男を睨んでお尻を強めに引っぱたいた。
バシッ!!
「うぁああっ!!」
「嬉しいわけないでしょ!?口はさむんじゃないの!君ってば、あの子のお父さんに失礼極まりないよ!」
「だっ、だってそれ私……」
「言い訳するんじゃないの!よくもうら若い乙女をたぶらかしたもんだね!女の敵!!」
パシンッ!!パシンッ!!パシンッ!!
「あぁ……んあぁっ!!やめろぉっ!どうして私がこんな目にぃっ!!」
真っ赤になったお尻も、手足もバタつかせて悔しそうに涙を浮かべる男。
若いイケメンの泣き落としにもマジカル夕月は動じない。
若人の過ちを落ち着いて諭す大人の女……を意識してマジカル夕月は男を諭す。
「分からない?乙女の純情を金で買うような悪い事をしてるからこうなるの!しかもあの子、いくつだと思ってるの!?」
「じゅっ……じゅうろくっ……!!」
「16!?高校生じゃないか!しかも高校生と分かってて淫らな事を……!
これは魔法少女として……いや、全国のPTA代表として許すわけにはいかない!!
君が改心するまでお仕置きしてあげるから覚悟しなよ!」
「そっ、なぁっ……わけが分からない!!閻濡とちゅっちゅして何がいけないっていうんだ!」
「…………キスくらい挨拶だって言いたいの!?
ちょっとばかし顔がイケメンだからって調子に乗るんじゃない!
う~もう怒った!マジカルお仕置きステッキ、フルパワーモードにしちゃうから!」
マジカル夕月はマジカルステッキのスイッチ押し上げ、設定を“フルパワー”にした。
バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!
「あぁあああっ!!」
“フルパワー”の威力を証明するように、男は今まで以上の悲鳴を上げて暴れる。
泣きだすのにも時間はかからなかった。
「痛いやだぁっ!!いやぁぁっ!!うわぁぁああんっ!!」
「どうだ参ったかこのヤロウ!女をナメるんじゃないよ!」
「やぁ――だぁ――!!痛いぃ――!わぁぁああんっ!!」
「ふん、口ほどにも無いイケメンだね!さぁさぁ、今までたぶらかした女の人に謝りなさい!」
バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!
「うぁああんっ!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさぃぃっ!!」
男は泣きわめきながら、イヤイヤするように顔を振って暴れている。
ここまでくると、さすがにマジカル夕月にも情が沸く。
それに、ずっと傍で成り行きを見ている女の子も男に負けないくらい泣いていた。
「パパ――!!うわぁぁああん!!パパ可哀想――!!パパ――!!」
……これはさすがに女の子が可哀想だ。
マジカル夕月は手を止めて、男を解放してあげた。
地面にへたり込んだ男に、さっそく女の子が寄り添っていて、
そんな二人に、マジカル夕月が一言キメる。
「二人とも今後は二度と援交なんてしちゃダメだよ?お嬢ちゃん、その涙は本当のパパの為に流しなさい」
カッコイイ(とマジカル夕月が自分で思った)台詞がキマった直後……
「パパが、本当のパパです!!」
女の子の怒ったような声。彼女は続けて言う。
「ぼくは彼の娘です!!どうしてパパに意地悪するんですかぁっ!
ぼく達はただ、親子で公園をお散歩してただけなのに!!いきなりパパをお仕置きするなんてひどいです!」
「そうだ!酷いぞお前!!私達ラブラブ親子に何の恨みがあるんだ!閻濡――!!お尻痛い――!!」
男が女の子に抱きついて、またマイペースにイチャつき始める二人だが二人が言うには二人は親子……?
マジカル夕月がだんだん焦ってきたところに、さらなる追い打ちがかかる。
「どういう事ですか夕月さん……」
聞き覚えのある声に振り返ったマジカル夕月の背後には、冷たい視線の健介子の姿が。
「事件が無いからって、一般市民に冤罪ふっかけてお仕置きしたんですか?」
「だ、だって……援交かと思って……そっちの彼、どうみても16の娘がいるようには見えないよ!」
“一般市民に冤罪ふっかけてお仕置きした”事実を否定しないマジカル夕月を
呆れた視線で一瞥した健介子は、援交カップル改め一般親子に何度も頭を下げる。
「すいません!すいません!うちのアホババアがご迷惑をおかけしまして……」
「ババアじゃないもん!アラフォーだもん!」
「夕月さん、黙ってください!バカな事してないか心配になったから
探して来てみれば案の定……何てことしたんですかアンタ!姉貴が帰ってきたら、うんと叱ってもらいますからね!」
「え――!ヤダよ!!私は正義のために~~!!」
「あ、このババアの戯言は聞き流してくださって結構です~~。すいませんね本当。今連れて帰りますんで……
帰りますよ夕月さん!帰って、まずは俺がお仕置きします!」
「うわぁぁああんっ!!や――っ!」
健介子にズリズリと引きずられて行くマジカル夕月を、男と少女はぽかんと見送った。
少しして、女の子の方が口を開く。

「せっかく地上に来たのに散々だったね。
ちゃんと人間っぽいお洋服を着たのに何がいけなかったのかな……?パパ、まだお尻痛む?」
「ん~……もうそんなに……あ!やっぱ痛い!閻濡がちゅっちゅしてくれなきゃ治らない~~!!」
「もぅ……パパってば……」

今度は邪魔も入らず、しっかりとキスをして……またまた懲りずにイチャこき始める二人であった。



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