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◆◆くじ引き一回目:閻濡/健介

ある日、俺と夕月さんは買い物帰りに休憩がてら公園に寄った。
「わ~ん!健介君返してよ――っ!!」
俺の方に手を伸ばしてジャンプするおっさん。狙いはオレの持っているたい焼きだ。
少しからかうつもりでおっさんのを取り上げて走ったら必死で追いかけてきた。
そして今、俺が真上に伸ばした手に向かって必死にジャンプしている。
でも身長差で届かない……おっさんの必死さが面白くて、俺も調子に乗ってしまった。
「勝手に取ればいいじゃないですか。俺はこうして体を伸ばす運動をしているだけですよ?」
「届かないよ――!健介君の意地悪――っ!!」
こんな風に俺たちが騒いでいると……
「こ、コラ――!そこの青年!おじさんをいじめちゃいけません!!」
いつの間にか俺達の近くに、女の子が立っていた。腰に手を当てて、怒ってますポーズで。
毛先だけウエーブがかかっているふわっとした長髪の……なかなか可愛い顔をした女の子だ。
中……いや、高校生か?そのぐらいの女の子にまさか怒られるとは思っていなかったので俺も慌てた。
「い、いや……これはイジメじゃなくて……ほら、たい焼き返しますよ夕月さん」
「イジメだよ!この若者はいつも私をいじめるんだよ!もっと言ってやってよお嬢ちゃん!」
たい焼き返してやったのにこのおっさん!この子が可愛いからって調子に乗りやがった……!
夕月さんによって悪者にされてしまった俺に、その子が近づいてきた。
「お兄さん、あのっ、いじめっ子なんですか!?その……、いじめっ子は、だっ、ダメです!」
何だか恐る恐るといった感じに説教してくる女の子。実は気が弱いんだろうか……。
俺もどうしていいかわからなくて、とりあえず誤解を解こうとしてみた。
「いや俺、本当にいじめっ子じゃなくて……」
「……い、言い訳ばっかりしちゃダメですよ!ぼく、さっきの見てたんですから!いじめっ子さんはお仕置きです!」
「えっ!?」
急に視界がぐらっとして、一瞬意識が遠のいて……
気がつけば俺はいつの間にかベンチに座ってる女の子の膝の上に……えええええっ!?
しかもズボンとか何でずりおろされてるよ俺!!
これじゃあまるで……!!
パンッ!
「……!!」
う そ だ ろ !?

尻が、尻がちょっと痛い……叩かれてる!?
嘘だ!!ここ野外だぞ!?しかもこんな年下の女の子に!?
「ちょっ、ちょっと!キミッ……あのっ!!」
頭が真っ白になって、顔が真っ赤になって、俺はパニックで言葉が続かない。
しかも体が金縛りに遭ったように動かない!何なんだコレ!
その間も女の子は俺の尻を何度も叩いてくる。
パンッ!パンッ!パンッ!
「やっ、やめっ……やめてください!人がッ……!」
そんなに痛くは無いものの、こんな状況、人に見られたらと思うと……
『あら、見て奥さんあそこ……』
『まぁ、何かしら……あんなに大きい子がお尻叩かれてるなんて……』
『恥ずかしくないのかしらね~……いやぁね、最近の若い人は……』
……わぁぁぁぁっ!!もう外歩けない!!家近いんだぞここ!!
「人が来る!!やめてください!お願いっ……やめて!!」
羞恥心で泣きそうになりながらも、俺は必死で女の子に向かって叫ぶ。
しかし女の子はのんびりと言った。
「大丈夫。人は来ません」
「何を根拠にッ!?」
「結界を張りましたから。それより、おじさんをいじめた事を反省しなきゃダメですよ?弱いものいじめはめっ、です!」
パンッ!パンッ!パンッ!
結界って何ですか―――っ!!?
くっそう、痛くないから恥ずかしさばっかりが頭を回ってくる……!!
どうして俺は見ず知らずの女の子にこんなッ……!?
「ふっ、うっ……もう勘弁してください……!!」
「もういじめ、しませんか?」
「だから俺はいじめなんて……」
パチンッ!
あ、微妙に強く叩かれた!!でも痛くないけど……。
「嘘ばっかりつくと許しませんよ?もう、悪い子ですねぇ……!」
「……すいません……」
何故か敬語で謝る俺。
……どうして俺は年下の女の子に、野外で、お尻をぶたれてるんだ……誰か教えてくれ。
深く考えたら負けなのか?いっそ、時期外れの“おままごと”だと思えばいいんだろうか?
これなら家の中で兄貴にぶたれた方がマシだ。恥ずかしさの面で。
「ごめんなさい。許してください。(この羞恥プレイを)」
「反省しました?」
「反省しました。泣きそうです。(恥ずかしくて)」
「うふふっ、反省したならいいんですよ~」
パンッ!パンッ!パンッ!
謝ったら許してもらえそうな雰囲気になったが、なかなか手は止まない。
「最初から素直に謝ればこんな痛い事にはならなかったんですよ?ね?」
「はい、すいません……」
「嘘ついた分、もう少しお仕置きします。頑張りましょうね?」
「はい、頑張ります……」
ああ……まだちょっと続くのか……お尻が微妙にピリピリしてきた。
もう赤くなってるのかな?彼女にも見えてくのかな?……考えちゃいけない!!
この現実を直視したくなくて、目を閉じたり開けたりしながらじっと耐えた。
「……っと、これでお終い!!」
ペシンッ!
「……っあ!」
思わず漏れた声にガバッと口を塞ぐ。
あ……金縛り(?)解けた。
頭で思ったのと同時に体が動いて、女の子から離れてズボンを穿いた。
「あのっ、もう、本当、すいませんでした!!俺、帰りますんで!!」
女の子の顔を直視できないまま、早口で告げる。
そして次の瞬間には女の子に背を向けて走りだしていた。
「待ってよ――!健介く――ん!」
おっさんの声が聞こえたけど止まれない!
俺は一刻も早く家に帰ってベッドに潜り込んで泣きたかった(情けなさで)。


でも、家に帰って最初に兄貴にはち合って……
「あ、健介君おかえり。あれ?お買い物袋は?」
「うっ……うわぁぁあああんっ!!」
兄貴にすがりついて泣いていた。
「ど、どうしたの健介君?何かあった?」
「あのねー、健介君、私をいじめたから可愛い女の子にお尻叩かれちゃったんだよ。痛かったんだよね?」
後から買い物袋持って入ってきたおっさんが早速バラしてる……もう最悪だ。
兄貴に撫でられてもちっとも気分が晴れない。
「そ、そっかそっか。健介君、痛かったね……。」
「痛く無かったぁぁぁぁっ!!うわぁぁあああんっ!!もぉヤダぁぁぁっ!!
外だったんだもん!女の子だったんだもん!年下だったんだもぉぉぉん!俺恥さらしだぁぁぁぁっ!!」
「そ、そんな事ないよ?外でも年下でも女の子でも……ほ、ほら、恥ずかしくないよ!もう忘れようか?うん、忘れよう?」
兄貴のフォローになってない慰めが悲しい。
夕月さんも俺の腰をポンポン叩いて……慰めてるつもりか?
「誰も来なかったよ?私達の周りだけ空の色がね、違ってた。不思議な色。だから、誰も見てないと思うよ?私以外」
「うわぁぁあああんっ!!」
それから二人がかりで一生懸命慰めてくれたけど……

俺の人生で一番恥ずかしい体験は、しばらく忘れられそうに無かった。




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