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姫神様フリーダム


ここは神々の住まう天の国。
この国の幼い姫君、琳姫は机に頬杖をついて憂いを秘めた顔でため息をつく。

「……巨乳とか滅びればいいのに……」
「……どうしたんですか琳姫様……気でもふれたんですか?」

傍から声をかけたのは琳姫の従者の少女だ。
なかなか無遠慮な従者の物言いに、琳姫はムスッとした顔をする。


「黙りなさい遊磨。わたくしは、巨乳という悪について真剣に考えているのです。」
「何ですか急に……巨乳は個人の勝手じゃないですか。」
「いいえ!!巨乳は紛うことなき悪なのです!!胸が大きいだけで重宝されて、こざ憎いったらありません!!
奴らのせいで、罪無き巨乳じゃない人々が肩身の狭い思いをするんです!!
巨乳は有罪!有罪です!!」

バンバン机を叩きながら力説する琳姫を、遊磨は大してなだめようともしない。
琳姫が急に訳の分からないことを言い出すのはいつもの事、そして琳姫の戯言は遊磨にとって
彼女の小さな主君をからかって遊ぶきっかけでしかないのだ。

「あーあ、だったらぁ……あたしも有罪かぁ……。」

遊磨はわざとらしく胸を寄せるように腕を組んで頬を染める。
普通にしていても十分に存在感のある彼女の胸は、寄せるとさらに魅力的な存在感を醸し出して、
それが琳姫にはたまらなく不愉快であった。


「遊磨……わたくしにケンカを売っているのですか!?
だいたい、あなたのそれ、偽乳じゃないでしょうね!?ちょっと触らせなさいっ!!」
「ぎゃぁぁああっ!!ちょっと琳姫様!!セクハラですよ!!」

勢いづいた小さな手に胸をわしづかみにされて、「やぁんっ!」と色っぽい悲鳴を上げてしまった遊磨。
一方の琳姫は、ぱっと遊磨から離れると驚いたようにまじまじと両手を見つめる。
やがてプルプルと小刻みに震え出して……

「おのれ巨乳……巨乳め……巨乳など殲滅です!!
裁きの炎で焼き尽くして、その血の最後の一滴まで蒸発させてやりますっっ!!」

「めちゃくちゃ怖いこと言ってる―――っ!!」
「心配は要りません。
遊磨は巨乳ですが、悔い改め、わたくしの傍に仕えているので、10億歩譲って許します。」
「いや、別に悔い改めてるわけじゃ……」
「何か言いましたか?」
「いいえ。何も。」

ションボリとした遊磨に琳姫は満足げな表情で頷く。


「よろしい。さて、巨乳をどうやって殲滅するかが問題ですね。う〜ん……そうだ!
父上のお仕事部屋にご本がたくさんあったからそれを見ればいい案が浮かぶかもしれません!」
「うわっ!!いきなり超大胆な手段に出るつもりだ……やめたほうがいいですよ琳姫様!
あそこは入ってはいけないって、いつも言われてるじゃないですか!そんな勝手な事したら、絶対叱られます!」
「何を言うのです!わたくしは悪を殲滅するのですよ?褒められこそすれ、叱られるわけがありません!」
「だ、だから……まず巨乳=悪っていうのが……」

一応説得を試みながらも、遊磨は内心諦めていた。こうなると琳姫は止められない。
この自分の信じた“善”を貫く、無謀なまでの行動力が彼女の持ち味だからだ。
例えそれが、果てしなく間違っていようとも。

「ごちゃごちゃうるさいですね!行きますよ遊磨!」
「あ!待ってください!!」

ああ、やはり止まらなかった。
勇み足で出ていく主君に、遊磨はただ付いくのであった。


しばらくして……


「ん―……、なかなかいい本が見つからないものですね〜……。
それに、さすがに巨乳といえども、炎で焼くのは可哀想というものでしょうか?
罪人に情けをかけるのも我々の務め……あ!これなんてどうでしょう!?
雷が直撃する!いいじゃないですかこれ!!ほら!遊磨!見てみなさいこれ!!」

(ああ、荒らしてる……めっちゃ荒らしてるよ琳姫様……)

琳姫は気ままにあちこちの本を引っ張り出して
少し読んでは放りだしてを繰り返し部屋は見事に荒れ放題だった。
この状況で琳姫の父親に遭遇したらと考えただけでも遊磨は頭が痛いが
しかし遭遇する確率が高いわけで、そうなったら……と、必死に対策を練った。


(琳姫様を庇うように立ち塞がって
「琳姫様も悪気があったわけじゃないんです!ただ彼女には彼女なりに―(略)」
とか、上手い言い訳を並べ立てられるだろうか?いや、無理!!できることはせいぜい
何が起こっても琳姫様の傍を離れない事……よし、あたしは何があっても琳姫様のお傍に!!)

と固く決意した遊磨。
決意した瞬間、タイミングのいいもので、背後に誰かの気配が……

「お前たち……何をしている……?」

地の底から響くような声。
振り返れば琳姫の父親が笑顔で立っていた。笑顔といっても、見ていて恐怖心しか湧かない笑顔だ。
目が笑っていない。


「あら、父上。我々が常に行うべきは、善行ただ一つのみです。」

当然のようにそう返す琳姫に、父親の仮面のような笑顔がピクりと引きつった。

「ほう……じゃあ、お前のやっているそれは“善行”か……?」
「もちろん!」
(笑顔で言い切った―――――っ!!)

遊磨はもう、ダッシュで逃げ出したかった。
しかし先ほど琳姫の傍にいると自分に誓ったばかり……
さりとて、目の前には噴火寸前の火山のような琳姫の父親……

(誰か早く避難勧告をください!!)
心の中で遊磨が叫んだ瞬間、火山が噴火した。

「人の部屋を勝手に散らかすのは“善行”じゃなくて“悪戯”だ!!
そもそも、この部屋には入るなと言ってあるだろう!!全くお前は……こっちに来なさい!」
「きゃんっ!!?」
「ああああああ!!琳姫様―――――っ!!」

乱暴に抱きあげられて連行された琳姫を、慌てて追いかける遊磨。
行き着いた先は琳姫の部屋だった。


「いやーっ!!何なのですか父上!!下ろしてください!!」

ここまできても状況が分かっていないのか、暴れている琳姫。
父親はベッドに腰かけると、琳姫を膝の上にのせて、その小さなお尻を丸出しにてしまう。


「えぇ――――っ!!?父上っ……待って!!ストップ〜〜〜!!」

下半身裸で膝の上でパタパタしている琳姫の制止が聞いてもらえるはずもなく……

「待たない!私の言いつけを破って悪戯する子はお仕置きだ!」

パシッ!

「ひぁっ!!」

最初の一発が振り下ろされて、琳姫はきゅっと目をつぶる。

パンッ!パンッ!パンッ!

「いやぁっ!!誤解ですっ!!確かに入ってはいけないお部屋に入りましたがっ……
あれには深い訳があるのですぅっ!!」

琳姫はお尻に平手打ちを喰らいながらも、必死に主張するがそれでも叩く手は止まらない。

パンッ!パンッ!パンッ!

「わたくしは……んっ、巨乳という悪を滅ぼすために、いい案を探していたのです!!
それでっ、雷を直撃させる案で決定したのです!!」

パンッ!!
「ひゃんっ!」


やっとの思いで言うべきことを言ってしまうと、手が止まった。
あぁ、わたくしの無罪が証明されたのですね、当然です。と勝手に結論付けた琳姫が
これ幸いと必死で膝から降りようとするがダメだった。
ポカンとしていた父親が、思い出したように琳姫の腰を押さえつけたので結局動けなかった。


「……う―っ、わたくしの無実は証明されましたよね!?
下ろしてください!!このような扱いは心外です!!」
「いや、待て待て待て……何で巨乳が“悪”になる?」
「だって巨乳だから!!」
(あ゛あ゛〜〜〜〜!!もう喋らないでください琳姫様〜〜〜〜ッ!!)

ここまで二人のやりとりを見てきた遊磨は、全力でそう助言したくなったが
うかつに割って入れないのでハラハラしながら事の成り行きを見守るしかない。
父親は少し考え込んでいた。若干疲れた表情で。

「……琳姫、もしお前が“背が低いから”という理由で雷を直撃させられたらどうする?」
「そんな理不尽な!!!」
「お前のやろうとした事はそういう事だ。」

バシッ!

再び始った平手打ちは不意打ちのようになって、琳姫を驚かせていた。
しかも、一旦許してもらえたと思った琳姫にとっては精神的にもショックだったようで
その目に涙が浮かぶ。

「やぁぁあっ!!何でっ……違います―っ!!背が低い人は謙虚に生きているではありませんか!!
巨乳は驕り高ぶってるあたりが気に食わないのですぅっ!!」
「巨乳の人がいつ驕り高ぶった?それに、巨乳が悪だというのなら遊磨や母上はどうなる?」
「遊磨や母上はいいのですっ!!特別免除!!」
「言ってる事がめちゃくちゃだな……。」

独り言のように呟いて、父親は琳姫のお尻を何度か叩く。
琳姫が喚こうが冷静だ。

パンッ!パンッ!パンッ!

「やぁああんっ!!」


「いいか、琳姫……胸が大きかろうが小さかろうが、その人には何の罪もない。
その人が決めたことではないのだから。
それを巨乳だという理由だけで滅ぼそうなど言語道断……
私の言いつけを破った上に罪もない人々を苦しめようとした……善行どころか重罪だぞ?
しっかり反省してもらおうか。」
「やっ……そんなっ……だってぇっ……」

そろそろ平手打ちが効いてきたのか、琳姫の声が弱弱しくなってきたし、お尻も赤い。

パンッ!パンッ!パンッ!

「ひゃぁあっ!!ふぇっ……うぇぇっ……」


半泣きになりながらもがいている琳姫をしっかりと押さえつけながら
父親は諭すように話しかける。


「琳姫、私の言っていることが分かるか?」
「んっ、ぇうっ……巨乳に罪は無いような気がしてきました……」
「そうだ。元々、何で巨乳が悪という考えに至ったんだか……」

パンッ!パンッ!パンッ!

「わぁんっ!!女の子はっ……自分で自分がっ、分からなくなる時があるのです――っ!!」
「なるほど。なら今、改めて自分のしたことを省みる事だな。」
「痛いです無理です―――っ!!あ――――んっ!!」
「反省する気がないということか。分かった。」

パンッ!パンッ!パンッ!

父親はぐずるように泣き出した琳姫を少し強く叩く。
ただでさえ泣いていた琳姫は余計に大声で泣き出した。


「やぁあああっ!!やだ―――――――っ!!」

パンッ!パンッ!パンッ!


「あぁ―――――――んっ!!ごめんなさ―――――――いっ!!」
「反省したのか?口先だけの謝罪なんて聞きたくないぞ。」
「しました!!反省しましたぁぁっ!!わたくしが間違っておりました――――――――っ!!」

パンッ!パンッ!パンッ!

頬を紅潮させてボロ泣きしながら謝る琳姫に、平手が少し弱まる。
ただし当の本人はそれも分かっていないようで、相変わらず盛大に泣いていた。


「やだぁあああっ!!父上―――――――っ!!わ――――――――んっ!!」

パンッ!パンッ!パンッ!


「うわ―――――んっ!!ごめんなさいぃっ!!もうしませ―――――んっ!!」

父親はため息一つつくと、手を止めて、まだ息の整わない琳姫を抱き抱える。
そして俯いている泣いている顔を上げさせるように撫でて、まだ悲愴なその顔に微笑みかけると
琳姫も目を細めて少し安心したような顔をした。

「悪を滅ぼそうとする志だけは良かったのだがな……
本当に何が悪なのか、もっとよく考えて行動しなさい。
あとはもう二度と私の仕事部屋に勝手に入らない事。いいな?」
「んっ……ぐすっ……はい……ひっく……」
「遊磨、琳姫を頼む。」
「は、はいっ!!」

父親は部屋から出て行くと、遊磨はほっと胸をなでおろす。

(終わった……戦いが終わった……)

琳姫が苦しんでいる姿を見るのは遊磨にとって辛かった。新手の拷問だと思うほど。
正直、この場でへたり込みたいほどの心労を感じていたが、そういうわけにもいかない。
今一番辛いであろう琳姫様を慰めなければと、遊磨はベットの上にちょこんと座っている琳姫に
恐る恐る声をかけてみる。

「り、琳姫様……」

声に反応して、こちらに振り向いた琳姫の濡れた瞳と目が合って……

「なっ、泣いてなどいませんっ!!」
「いや、思いっきり泣いてたじゃないですか!?」

突っ込みつつも、遊磨は意外といつもの調子の琳姫にホッとした。


「何ですか!?悪いのですか!?泣きますよ!!痛いんだから泣きますよ!!
貴女も叩かれてしまえば良かったのです!!」
「うぅ、急に開き直られても……でも、確かに遊磨も叩かれるべきでしたね……
琳姫様だけをあんな目に合わせて……」
「う、嘘です!!冗談です!!遊磨は叩かれなくて良かったのです!!
貴女は勝手に付いてきて、突っ立っていただけなので、叩かれる必要は無いのです!!」
「……琳姫様……!!」

ワタワタしながら一生懸命慰めてくれているらしい琳姫を、遊磨は感激のあまり力いっぱい抱きしめる。
急に抱きしめられた琳姫は「ひゃっ!!」と小さな悲鳴を上げていた。

「も、もう……遊磨は甘えんぼさんで仕方がありませんね……。」

そう言って嬉しそうに抱きついてくる小さな主君に、更なる忠誠を誓った遊磨であった。

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