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友達ができました


(鷹森君から実家への手紙)

七美お姉ちゃん、お元気ですか?伯父さんや伯母さんはどうしていますか?
僕は相変わらず大変だけど充実した日々を送っています。
この前も新しい友達ができたんです。名前は小二郎(こじろう)君。
ちょっと変わった子だけど、きっと根はいい子なんだよ。仲良くなれそうです。
その小二郎君とは、びっくりするような出会い方をしたんだけど、七美お姉ちゃん聞いてくれる?
伯父さんや伯母さんには、話せない気がするけど……。

その日の僕は、ハッキリ言って浮かれてました。
憧れの上倉さんと一緒に仕事をしていたから。
上倉さんはすごいんだよ?若いのに執事長だし何でもできるし……
でも、全然気取ってなくて優しい。時々信じられないような冗談を言ってくるのが玉にキズだけど……。
とにかく僕がその憧れの上倉さんと仕事をしていると、急に部屋にメイドさんが乗り込んできたんだ。
「おい執事長!来てやったぞ!べっ、別に勘違いすんじゃねーよ!
散歩とかしてたんじゃなくて、執事長に会いたくて来たんだからな!」
これがそのメイドさんのセリフ。
スカイブルーのワンピースの上に純白のフリル付きエプロン、おまけにフリルのカチューシャっていう、
お約束のメイドファッションの、僕より年下っぽくて結構可愛い子。
それに加えて廟堂院のお屋敷ってメイドさん珍しいからしばらく目が離せなかったよ。
でもその子の言った事をよく考えると、僕もはっとして、上倉さんに声をかけたんだ。
「すっ、すごいですね上倉さん!メイド部隊にファンの子がいるなんてさすがです!」
僕はてっきりこの後、上倉さんが照れながらも女の子とニコやかに握手でも交わして
エプロンにサインの一つでもしてあげるのかと思った。だって上倉さんは優しいから。
だけど僕の予想に反して、上倉さんはすごく不機嫌そうにこう言ったんだ。
「小二郎……それで私が“ありがとう”と言うとでも?
仕事はどうしたんですか?仕事があるのに自分の持ち場を離れて私に会いに来るなんて
“ご主人様に仕える”という我々の聖職を舐め腐ってる証拠です」
……この場合、優しいと思っていた上倉さんが女の子を邪険にしている事と
目の前の可愛い年下のメイドさんが“こじろう”っていう酷く男らしい名前で呼ばれている事、
どっちに驚けばいいんだろうね、七美お姉ちゃん。
でもこの後が一番驚きだったんだよ?
「お前のようなダメなメイド、略してダメイドは根性を叩き直してやる必要がありますね」
違う違う。この古典的な冗談に驚いたわけじゃないんだ。
上倉さんが急にその女の子を小脇に抱え上げてスカートと下着を……あぁ、恥ずかしくて書けないや。
代りに女の子の渾身の叫びを書いておくよ。
「いやぁぁああっ!何すんだよ執事長!!強引にオレの裸を見やがって……このドスケベ豚野郎!!」
「お仕置きを受ける前にしては最悪のセリフを吐きましたね小二郎……後悔しますよ?」
ぺちん!
何が起こったか分かる?上倉さんがね、うら若き乙女の生まれたままのお尻を叩いたってわけ。
僕、もう、見てられなかった。両手の拳を握って俯くしか無かった。
ぺちん!ぺちん!ぺちん!
「あっ、やっ……痛い!!はなせよコラ――!」
「静かにしなさい。人が来ても知りませんよ」
「ああっ!くそっ……痛い!痛い痛い痛いぃっ!!」
上倉さん、僕はここにいます。
視界にチラチラ揺れる肌色が映ったり映らなかったり……肌色の誘惑で頭がカクカクしちゃうよ。
見たいような、でもやぱり見たくなくて……だって可哀想だし。
でもね、目には見えなくても音はハッキリ聞こえちゃうんだ。
「いやっ!痛い!痛いっつってんだろ――!?やだぁぁぁっ!」
「黙らっしゃい!白昼堂々仕事をサボっておいて、この程度のお仕置きは当然です!
そのお尻もっと真っ赤になるまで許しませんからね!」
「いやぁぁっ!あぁんっ!」
わぁぁ……何て色っぽい声を出すんだ年下メイドさん……。
視界から省いてる肌色はもうほんのり桃色なんだろうか……
いけない!見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ!!
「やぁんっ!いたぃぃっ!」
「その口は“痛い”しか言えないんですかねぇ……“ごめんなさい”と謝れば許してあげなくもないというのに」
「やぁっ……らって……ま、……ぁ……!!ふぁあんっ!やめてぇ!」
「やめません。“ごめんなさい”以外の単語は無効です」
ぺちん!ぺちん!ぺちん!
「やめぇぇっ!!あはぁんっ!」
やめて!その色っぽい声をやめて!
聴覚情報だけだと視覚に脳がいやらしい情報を補って……ダメだぁぁぁ!!
これは音だけ聞いているよりも実際に見ていた方が健全な気がしてきたので
七美お姉ちゃん、僕は怖々見てみたんだ。
うん、バッチリ見えた。泣きながらもがいている女の子とか、その赤いお尻とか
ひたすら叩いている上倉さんとか。
やっぱり女の子と見ると、叱られている子供みたいで可哀想だった。変な気分にならなかった自分にホッとしたよ。
だから僕も女の子が助かるお手伝いがしたくて……
「か、上倉さんもうやめてあげてください!もうお尻が痛々しいですよ!」
「外野は黙ってなさい!」
「かしこまりました!黙ってます!」
……この状況で僕にできる事なんて無かったよね。
助けにならなくてごめんねって、心の中で呟きながら女の子を見ている事しかね、できないんだ。
ぺちん!ぺちん!ぺちん!
「やぁあああっ!ふぁあっ!ごめんなさいぃっ!」
「やっとですか。遅いですよ。素直じゃない子はもう少し反省してもらいます」
「やだぁぁあっ!お尻痛いのぉっ!もうぺんぺんしちゃいやぁぁっ!」
「嫌だじゃないでしょう?何て言うんですか?」
「ごめんなさいぃ!はぁぁんっ!
……やっぱり、たまに悲鳴が色っぽくなるんだね……。
女の子の顔は今や涙でぐしゃぐしゃだった。それでもあんまり崩れないのは元の顔が可愛いってことだよね。
そんな女の子がお尻丸出しで色っぽい声を上げているのを見ている僕……
こんな状況じゃなければ、もっとドキドキしていたのかな?
それにしても、すごく暴れてる。小さな子どもじゃなくてもこんなに必死に暴れるもんなんだね。
そのあともお尻を叩く音と(たまに色っぽい)悲鳴がしばらく続いて、
いつ終わるんだろうかと思っていたら、上倉さんの手が止まった。
「そろそろ反省できましたか?もう仕事をサボって私に会いに来たりしてはいけませんよ?
メイドも執事もすべての行動原理はただひとえに“ご主人様の為に”でないと。
ご奉仕の最中に私欲で動くなんてもってのほかです」
「んっ、ふっ……わかぃましたぁ……ひっく……」
「よろしい。では、お仕置きは終わりにしましょうね」
女の子は解放されてもまだすすり泣いていたけど、お仕置きは終わったみたい。よかったでしょう?
でもあんまり良くなかったんだ。上倉さんったら、あんなに叩いておいてまだその子を邪険にするんだもん。
「小二郎、用が済んだんだから、早く涙を拭いてち場に戻りなさい」
「……うっ……うわぁぁああん!!他人行儀にしやがってぇぇええっ!!」
女の子は泣きながら走り去って行ったよ……さすがに僕も我慢できなくなって、女の子を追いかけたんだ。
後ろから上倉さんが何か言ってきたけど、よく聞こえなかったし僕の決意は変わらなかった。

女の子はすぐに見つかったよ。廊下の突き当たりで、背中を向けてうずくまって震えてた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……何だよお前……」
振り返ったその子に涙目で睨みつけられた。何だろう……声のかけ方が悪かったかな?
僕もどう慰めるべきか戸惑ってたら、女の子の方が急に思いついたようにこう言ったんだ。
「まさか……おにぃがオレのケツぶっ叩いたの見て、お前もやりたくなったのか……!?」
「えっ!?おにぃって……」
「やっ……やるんなら早くやれよ!!」
「へっ!?やっ、ちょっと……待って!!」
あああ、そんな期待に満ちた潤んだ瞳で見つめられても!!
わぁぁ!メイド服のひらひらスカートをちょっとたくし上げるのやめて!!
女の子の予想外すぎる態度に僕は大混乱だよ。
「あ、あの!違うんです!僕は君が泣いてたから心配で……追いかけてきただけです!追いうちはしません!」
「……何だよ……しないのかよ……脅かしやがって……」
……どうしてここですごく残念そうな顔をするのかなぁ……上倉さんに叩かれてあんなに嫌がってたのに……
それに、さっき……たぶん上倉さんの事“おにぃ”って……
色々考えてたら、またその子の方に話しかけられた。
「お前、オレの事知らないのな……オレって執事部隊じゃ有名人だと思ってたけど……」
「そ、そうなんですか!?ごめんなさい。僕、新人だし、そういう話には疎くて……」
「じゃあ、執事長の上倉がオレの実兄で、オレが時々ああやっておにぃに会いに行くついでに
お仕置きしてもらうのが大好きって事も知らないのか?」
「ええ。知りませ……ええぇっ!?」
「何だよ!オレがおにぃにお仕置きされるのが好きで悪いかよ!!」
七美お姉ちゃん、僕は、“ノリツッコミ”という技を会得しました。
でも驚きすぎて怒られちゃった……そうだね。いくら驚くべき情報が満載っていっても、失礼だもんね。
「ご、ごめんなさい……君が辛くないならそれでいいですよね……」
本当に僕はこの時、目の前のメイドさんが元気を取り戻して良かったと思ったんだ。
……上倉さんに叩かれてる時もこの子の心はハッスルだったんだろうけど。
僕のこの言葉で、メイドさんはさっきよりは機嫌が直ったみたいだけど、まだ怒ってるのかな、プイって横向いた。
「ふんっ!ま、ま、まぁ、オレのこと心配して追いかけてくるぐらいだから、
お前がいいヤツだって事は分かるし、こ、これも、何かの縁だし……オレと友達に……
友達になりたいのはオレの方だけどな!」
「あ、いいですよ?僕は鷹森っていいます。
よろしくお願いしますね。君は小二郎君……って呼べばいいですか?」
「え!?そんな……!?」
メイドさんは慌てていた。上倉さんが“小二郎”って呼んでたから、
結構男の子っぽい名前だし“小二郎君”でいこうかなって思って……でも、女の子に“君”はまずいかなー……
って思っていたら、そうでもなかったみたい。
「いや、オレの事は“小二郎君”でいいぜ?でも、あの、いっ、いいのかよ!?
オレなんか……ケツ叩かれるのが好きな、変な子だし……
体も、変だし……!オレと友達だなんて、や、やめといた方が……」
「あの、お尻叩かれるのが好きとか云々は趣味の範囲ってことで……。
僕なら気にしません。それに、君の体に変なところなんてないじゃないですか」
「……!!」
小二郎君に何故か泣きそうな顔で見つめられて、そして急に手にジュースの缶を押し付けられた。
……どっから出してきたか分かんないけど。
「これ、やる!友達になってくれたから!」
「あ、ありがとう……ございます……」
「まだオレ、お前に話さないといけない事あるんだけど……
そろそろ戻らないと……また遊びに来るからな!?話そうな!?」
何だか必死な小二郎君が可愛らしくて、僕は笑顔で答えたんだ。
「はい、話しましょう。僕も楽しみにしています」
「……!!これも、やる!」
「あはは……ありがとうございます……」
感極まった様子の小二郎君に2本目のジュースをもらって……小二郎君と別れた。
僕も急いで上倉さんのところに戻ったんだけど、怒られるかと思ったら逆に感謝されたんだ。
「小二郎と仲良くしてくれてありがとう」って。
上倉さんも本当はやっぱり優しい、小二郎君の“お兄さん”なんだよね。
今度手紙書くときには、小二郎君と写真でも撮って同封できたらいいなぁと、思っています。
じゃあね、七美お姉ちゃん。伯父さんと伯母さんによろしくね。


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【作品番号】BSS1

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