11デイ〜お宅拝見〜



俺がここに来てから軽く15分は経っただろう。

それはつまり、俺がこのテーブルに鎮座して
隣で繰り広げられる兄弟の言い争い
―といってもゆうが一方的にまなぶを説得している感じなのだが
をドギマギしながら聞き始めて15分ということになる。


「な〜まなぶってば〜、キゲン直せよ〜…」

「……」

「そりゃさ、兄ちゃんのこと黙って連れてきたのは悪かったよ?
でもそれはお前の事ビックリさせたくて…」

「……」

「な?分かってくれよ…せっかく兄ちゃん来てくれたんだし
向こうで3人で遊ぼうぜ??絶対楽しいから!!」

「……」


まなぶはゆうが何を言っても仏頂面のまま無視を決め込んでいる。

この前ゆうと『家へ遊びに行く』と約束して、やってきたのが今日だった。
意気揚々と二人で家に着いたものの、俺の顔を見た瞬間に
リビングで本を読んでいたまなぶが最高に不機嫌になってしまった。

やっぱり俺は相当嫌われているらしい。
下手に口出しもできないので、ゆうにすべてを託して事の成り行きを
見守っているのだが…完全だんまり状態のまなぶにゆうもお手上げの様子だ。
声にも苛立ちがこもってきている。


「まなぶー…何がそんなに気に入らないんだよ〜…」

「……」

「おい〜…何とか言えよー…」

「……」

ゆうが苛立っているのを感じてか、時折ゆうの顔を見ているけど
それでも黙り込んでいるまなぶ。
その後何度かゆうは話しかけ続けたが、まなぶは黙ったままだった。

埒が開かない。ゆうもさすがにしびれを切らしたらしい。
バンッ!!と勢いよくテーブルから立ち上がると、まなぶに向かって叫んだ。


「もういいよ!!一生ここで本でも読んでろ!!
俺たち二人で遊ぶから!!
後で来たって一緒に遊んでやんないからなっ!!」


「……勝手にすればっ!!」

やっと一言返して、ゆうに負けじと睨み返すまなぶ。
二人はしばらく睨み合ってフイとお互いに目をそらした。


「行こっ!兄ちゃん!!」

俺はゆうに引っ張られてリビングを後にした。


引っ張られて連れてこられたのは二階、ゆうの部屋らしき所。
ゆうは少々乱暴にドアを閉めると、くるりと振り返った。


「兄ちゃん何して遊ぶ?あ、別に外でもいいけど♪」

「まなぶ君は…いいの?」

「いいよ。ほんっと、意地っ張りなヤツ。
兄ちゃんごめんねー。アイツの事は放っといて…何しようか??」


明らかに無理をして笑っているゆうが何だか可哀想だった。
元々、感情表現が素直な彼なので感情を隠すのが上手くない。
口ではああ言ってもまなぶのことを気にしているのだろう。
どうにかして…まなぶも連れてきたいけど…


「俺って本当、まなぶ君に嫌われてるからな〜…。」

「そんな事ないッ!!!」


ポロリと出た本音を思いっきり否定したかと思えば
弱弱しく俯いたゆうに俺も慌てた。


「そ、そうだよね!そんな事ないよね!!」

「兄ちゃん…まなぶのこと嫌い?」

「そ、そんなわけないじゃないか!!」

「本当は3人で仲良くしたいんだ…」

悲しげにゆうが呟く。
そうだよなぁ…俺だって…

「よし!もう一回まなぶを誘いに行こう!
俺が説得してみるよ!」

「本当ッ!?」

俺の言葉にゆうの顔が嬉しそうな顔をする。
うまくいくかは分からないけど…
俺だってまなぶと仲良くしたいからな。

一階に降りてきた俺達はリビングの様子を覗く。

本を読んでいるまなぶのそばにエプロン姿の
綺麗な人が近づいて声をかけていた。
お母さんだろうか…


「まなぶ、何読んでるの?」

「んとね、畑の本。」

「そう…面白い?」

「うん!『二期作』と『二毛作』があるんだよ!」

信じられない…あのまなぶが笑顔で会話している…
ま、まぁ、母親が相手だからそりゃそうか…
その時、ゆうが意外な言葉を発した。

「ちぇっ…豊太郎…父さんには愛想いいよな。」

「と、父さん!!?」

俺はもう一度エプロン姿の人物を見る。
華奢な体躯に綺麗な顔立ち…とても男には見えない…
中性的ってこの事だ…
その綺麗なお父さんがまなぶと会話を続ける。

「ゆうとは遊ばないの?」

「……遊ばない…。」

「どうして?」

「だってゆうが…ゆうが…ボクのこと…
仲間はずれにするんだもん…。」

まなぶの言葉に俺の隣のゆうが小声で怒る。

「はぁッ!?さっきから誘ってんだろ!?」

偶然にもお父さんがそれに近い言葉をまなぶにかけた。

「ゆうはまなぶと遊びたそうにしてたよ?」

「……。」

「まなぶ…?」

「だって、だって!!ゆうってばこの前から
『兄ちゃん兄ちゃん』って!!きっとボクよりあの人の
方が好きなんだよ!!ボクのことなんてどうでもいいんだ!!」

響くような大声でまなぶが叫んだ。

「ゆうは…ボクの…お兄ちゃんなのに…。」

…結局、発言を総合すると…まなぶの不機嫌の原因はヤキモチ。
ゆうを俺に取られたと思っているらしい。

「なんだ…ヤキモチだよ、ゆう…」

「まーなーぶーッ!!!」

俺が声をかける前にゆうは猛ダッシュで走っていってまなぶに抱きつく。
半ば飛びついた感じなので、まなぶは悲鳴を上げて
ゆうと一緒にリビングの床に倒れこんだ。

「バカバカバカぁッ!!
オレお前の事どうでもいいなんて思ってねーよー!!
まなぶのこと好きに決まってんだろ――――っ!!」

ゆうはまなぶに抱きついたまま彼に頬ずりしている。
だいぶ力強い抱擁にまなぶが苦しそうだ。

「くっ、苦しい!!離してよゆう!!」

「まなぶ―――!!愛してるぜまなぶ――――!!」

「やぁぁぁっ!!気持ち悪い――――!!」

全身で愛情表現するゆうにまなぶが必死で抵抗している。
そんな兄弟の様子をポカンとした顔で見ているお父さん。
そして俺も完全に出て行くタイミングが分からない。

微妙な状況の中に、また別の声が響く。


「何〜?そいつらまた兄弟でラブラブしてるわけ〜?」

俺の後からの大声に皆がいっせいに注目する。
振り返ると、女の人が立っていた。
スーツをビシッと着こなしていて、悪戯っぽい笑顔で笑う。

「鏡花ちゃんおかえり〜。」

「だだいま〜豊太郎!」

その女の人とお父さんがお決まりの会話。
ってことはこの人…

「ほら、ゆうとまなぶもママに『おかえり』は?」

「「おかえりー。」」

やっぱりゆうとまなぶのお母さんらしい。

「ただいまー。今日は大きい坊やが増えてるわねー。
どう?家で夕飯食べてく?って、作るのは豊太郎だけどね〜。」

アハハと笑いながらお母さんが俺の肩を叩く。
すごくフレンドリーなお母さんだ。
どうしよう…夕飯ご馳走になってもいいのかな…。

「え、えーっと…。」

「そうしなよ!兄ちゃん!!」

「だっ…ダメッ!!」

ゆうとまなぶから間逆の答えが返ってきて余計混乱する…
しかも、俺まだまなぶに嫌われてるよ…。
悩む俺をお父さんが助けてくれた。


「夕飯カレーだし、いっぱいあるから
食べていきなよ。ね?まなぶ?」

「え?!ぁぅ……。」

お父さんが不満げなまなぶをなだめるように頭を撫でる。
まなぶは反論したそうだが、表立った反論はしない。
お父さんは偉大である。

「わーい!!兄ちゃんとご飯!」

ゆうが決定しましたとばかりに騒ぎ立てるが、
まなぶ顔がまた不機嫌になっていくのに
気づくとピタッと騒ぐのをやめる。

「わ、分かってるって!まなぶも一緒に…な?」

「ボク、お父さんとご飯食べるッ!!」

まなぶはそう叫んでお父さんにピタリとくっついてしまった。
俺が早くまなぶと仲良くならないとゆうが板ばさみだ…
勇気を出してまなぶに声をかけてみる。

「じゃあ俺、ゆうとまなぶ君の間に座ろうかな〜…」

「いっ、嫌です!!」

そう言って向こうへ行ってしまったまなぶ。
拒否られた。しかも逃げるようにどっか行っちゃった…。
ゆう、すまん…お前の気苦労はしばらく耐えそうにない。

「に、兄ちゃん!落ち込むなって!!」

「そうそう。気にしないで。
まなぶはすごい人見知りだから…。
でもキミならすぐ仲良くなれるよ。」

「うんうん!!」


しょげかえる俺をゆうとお父さんが慰めてくれる。
優しいなぁ二人とも…



結局のところ、まなぶは先の宣言どおりお父さんにべったりで
それを時々お母さんにからかわれたりしながら
皆で楽しく夕食をとった。

俺はカレーを食べながら
まなぶが仲良くなれる日が早く来るように祈るのだった。


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【作品番号】ME11


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