7デイ〜即席兄弟〜




どうしてお腹が減るのかな?

ちよっと小腹がすいたので、近くのコンビニで食べ物を買った
その帰り道、だらだらと歩いていた俺の目の前に
サッカーボールが転がってきた。

その直後によくある「すいません!ボール転がっちゃって!」
などという少年の声。
“いやいや、いいんだよ。”とにこやかに振舞おうとした俺は
ボールを取りにきた少年を見て驚いた。


「ゆう…くん?」

そこにいたのは、先日『毎日スポーツ競技場』で見た男の子。
俺が送り届けた『まなぶ』と親しげに話していた『ゆう』だった。

この前と違って制服姿の彼がきょとんとした顔をする。

「れ?アンタどっかで会ったことある?」


あ、そうか…まなぶとは面識があるけどゆうは俺が一方的に
知ってるだけだよな…この場合どう言うべきだろう?

“実はこの前、お宅のまなぶ君を案内して差し上げまして…”
などと自己紹介するのも何だか違う気がするし…
かといって他人のフリをするのもどうなのだろうか?

いっそまなぶがいてくれたら…そう思ったら本当にまなぶが現れた。
ゆうを追いかけるように走ってきたのだ。


「ゆう!置いて行くなよ!!」

「おおっ!ごめーん!ボール飛んでったからさぁ!」

「だから道でボールなんか蹴るなって言ったのに!!」


俺を無視して言い合ってる2人を止めるわけにもいかず
まなぶに声をかけようと無意識にあげかけた右手は行き場を失った。

このままそっと立ち去ったほうがいいのかとしどろもどろの
俺の存在にまなぶがようやく気づいた。

「あれ?貴方は…」

「あ…久しぶり!」

「ん?まなぶの知り合いだったのか?」

「まぁ少し。俺はこの前…」

「あ――――――っ!!」


いきなりまなぶが大声で俺の言葉をさえぎって、俺の服の裾を力強く引っ張る。
驚いてまなぶの顔を見ると、彼も俺の顔を直視している。
そりゃもう、突き刺すような視線で。


「余計な事、言わなくていいですからっ!!」


“いいですから”というより“言うな”という様子で
睨みつけられ、俺は息を止めたまま首を縦に振る。

まなぶは納得したように手を離すが、ゆうはまだ状況が飲み込めない様子だ。

「なぁ、お前らやっぱり知り合い…」

「知らないよこんな人!ボク、先に帰るからね!!」

言い放って、まなぶは脱兎のごとく帰っていった。
取り残された俺とゆうは互いに顔を見合わせる。


「普通、知らない相手に『余計な事言わなくていい』って言うか?」

「いや…でも彼がああ言ってるから。俺は知り合いじゃないってことで…」

そして、互いに吹き出して大笑いした。



そのまま何気なく話しているとすぐにゆうと打ち解けて、
俺たちは近くの公園のベンチに並んで座った。


「へー!じゃあ、ゆう君とまなぶ君の学校ってこの近くなんだ。」

「そ。だから帰りにこの辺通るんだ。
なぁ、それよりこの前まなぶと何があったの?」


ずいっと近くによってきたゆうが目を輝かせる。
まなぶに口止めされているので少し困った。


「あの…まなぶ君が言うなって言ってたから…」

「大丈夫!!まなぶには内緒にするから!だってさ、
まなぶがあんな必死で隠してるの、気になるじゃん!!」


ゆうがますます目をキラキラさせて『言っちゃえ』ビームを
出してくる。俺もさっきのまなぶの必死さを思い出すと
こっそり言ってしまいたくなってきた。
そんな大した内容じゃないし…

俺の中の悪魔がニヤリと笑った。


「実はね、俺がこの前まなぶ君を毎日スポーツ競技場まで
連れて行ってあげたんだ。ほら、ゆう君の試合があった日。」

「え?ってことはあの時、まなぶが一人で来たんじゃないのか?」

ゆうは目を丸くする。
かとおもえば、次の瞬間笑い出した。


「あはははは!!おかしいと思った!
アイツ方向音痴でさ、家の周りでもたまに迷子になるんだ!
それが何駅も離れた競技場まで来れるわけないんだよな!!
で、オレが『一人で来たのか?』って聞いた時、何て言ったと思う??
『当然だね。もう子供じゃないんだから。』って言ったんだぜ!?
あーあ、我が弟ながら見栄っ張りだよなー!!」


言いながら、ゆうはケラケラと笑い続ける。

そうか…まなぶは俺に案内された事黙ってて
一人で行ったことにしてたんだな?
それで『余計な事言うな』って…確かに見栄っ張り。
俺も可笑しくなってゆうと一緒に笑った。


「っはは、まなぶ君らしいといえばらしいよね。」

「うん!まなぶってさ、何でも完璧にやりたがるっていうか…
完璧にできる人間になりたいって思ってるみたい。
色々頑張ってるけどカラ回りしてて、見てたら面白いぜ?」


「へぇ。頑張り屋さんなんだね。」

空回りってとこが引っかかるけど…


「そうそう。だから頭もいいんだ。
テストとか100点ばっかだもんな!あ、運動はからっきしだけど。
へへっ、こんなに色々喋るとまなぶが怒りそうだな。」


スッと立ち上がって、ゆうが楽しそうに笑う。
人懐っこい笑顔で気軽に話してくるゆうは
まなぶと全然似ていない。


「ゆう君は運動得意なんでしょ?」


「まぁな!でも、オレ勉強全然ダメでさぁ〜…
よく母さんが『ゆうとまなぶを足して2で割ったら丁度いいのにね〜』
なーんて言ってる!」


「あーそうかもねー。」


「でも、足して2で割ったらオレたち同じようになりそうだろ?
だから個性があったほうがいいんだって父さんは言うんだよ。
オレは父さんの意見に賛成!!」


「あー…そう言われたらそうだね…。」


「もー!どっちなんだよアンタは!」


曖昧に返事をしてたら
ゆうが不機嫌そうに口を尖らせた。


「ごめんごめん。ゆう君もまなぶ君もそれぞれいい所が
あるみたいだから、俺もお父さんの意見に賛成だよ。」


俺が慌ててそう言うと、ゆうは満面の笑みでVサインを突き出してみせる。


「だろ?オレはオレ。まなぶはまなぶ。
だからオレたち、このままでいいんだよな!」


「このままでいいったって、勉強サボっていいわけじゃないけどね。」


「うっ…ソレ言われるとイタイ…」


さっきまで嬉しそうだったのに、今度はガクッと肩を落とすゆう。
オーバーリアクションな彼に思わず笑ってしまう。


「でもいいなぁ。俺、兄弟っていないから。
ゆう君とまなぶ君みたいな兄弟って羨ましいよ。」


「んー…兄弟っていったって双子だから年も同じだし…
あんまり兄弟の感覚無いかなぁ…友達みたいな?」


「なおさらいいじゃないか!友達みたいな兄弟って!」


俺は心底羨ましく思ったからそう言ったのだが
ゆうはう〜ん…と唸って複雑な笑顔を見せる。


「オレ、もちろんまなぶは好きだけど…本当は
兄ちゃんが欲しかったんだ。一緒にサッカーしたり
ぶら下がったりできる大きい兄ちゃん。」


サッカーはともかくぶら下がるって…というツッコミは置いといて。
ゆうはお兄さんが欲しかったのか…
その気持ちはよく分かる。
俺も小さい頃は兄が欲しいと思ったものだ。


「じゃあ、俺がゆう君のお兄さんになってあげようか?」


軽い冗談のつもりだった。
しかし冗談のつもりは俺だけだったようだ。


「え!?本当!?アンタが兄ちゃんになってくれんの!?」


「え…」


本気にされた。
ゆうの表情を見てすぐそう直感した。


「やった―――っ!!じゃあオレ、アンタのこと『兄ちゃん』
って呼んでいいんだよな!?」

「あの…」

「兄ちゃんは、オレの事『ゆう』って呼んでくれるんだよな!?」

「そ、そうだね…」


矢継ぎ早に話しかけてくる
ゆうに圧倒されて、あいづちを打つしかできない。

何で子供の笑顔ってのはこうも抵抗できないのか…

その間にもどんどん話は進んでいく。


「そんで、兄ちゃんは兄ちゃんだから
今度オレの家に遊びに来てくれるんだよな!?」


「ええっ!?」


「約束だよ!兄ちゃん!今度迎えに来るから!絶対ね!
わーい!!兄ちゃんができちゃった―――!!」


もう、俺が何を言っても彼には聞こえないだろう。
ゆうはとても嬉しそうにその場を走り回っている。
ここまで喜ばれるともう取り消せない。
もしここで“冗談です”などと言おうものなら、瞬時に
この無邪気な笑顔を壊す事になるだろう。

俺も弟ができて困る事は無いじゃないか…うん。
これでいいや。

この急展開を何とか自分に納得させて、走り回るゆうを眺めた。
しばらくして立ち止まったゆうがその場から元気良く叫ぶ。


「兄ちゃん、オレ帰るね!まなぶにも教えてあげなきゃ!
アイツもきっと喜ぶから…だから絶対、うちに遊びに着てね!」


それだけ言ってゆうは走っていった。
上下に揺れる背中のカバンが、だんだん小さくなっていく。


「兄ちゃん…か…」


この年になって弟ができるとは思わなかった。
全く知らないところから振って沸いたような弟が。

しかし俺は、不思議と楽しい気分だった。
これからきっと面白い事になる…そんな気がした。



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【作品番号】ME7


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