3デイ〜兄を訪ねて三千里〜




気持ちのいい昼下がり。
俺はちょっと遠出の買い物から帰る途中だった。
通いなれた道を歩いて、バス停でバスを待つ。

バス停で同じように人々がバスを待つ中、
一人の男の子が路線図をじっと眺めている。
そして、自分の持っているメモのようなものと一生懸命見比べている。

どうしたのだろう…行き先が分からないのだろうか…

何となく心配でしばらくその子を観察していたが、
やはり路線図を見たまま不安そうにしている。

お節介かなと思いながらも、俺はその子に声をかけた。

「キミ、どこか行きたい場所があるの?」

「え…?」

振り返ったその子は、メガネをかけた利発そうな子供だった。
俺はなるべく脅かさないようにと優しく話しかける。

「一緒に行き先を探そうか?そのメモ見せてくれる?」

「……っ!!」

何がいけなかったのだろうか
男の子はムッとした表情になって、俺からメモを遠ざける。
そして、無愛想に言い放った。

「ご心配なく!!ボクはバスくらい一人で乗れます!!
子ども扱いはやめていただきたい!!」


彼の剣幕に驚いていると、バスが来た。
ちょうど俺の乗るバスだったが、俺が乗る前に
男の子がズカズカと乗り込んでしまった。


バスの車内でも俺は彼から目が離せなかった。
彼は必死で電光掲示板と車内アナウンスに集中している…ように見えた。


そうこうしているうちに、俺の降りるバス停に着いた。
男の子も降りていた。
俺はあと家に帰るだけ…あの男の子は目的地までいけるだろうか…
少々後ろ髪引かれる想いでバス停を去ろうとしたその時…

「あれ!?」

上ずったような子供の声。
振り返るとあの男の子がバス停にいた。
今度は近くの地図を見て慌てているようだ。

気になって、気づかれないように近寄ってみる。

「どうしよう…ここじゃなかったのかな…」

不安げな彼の声が聞き取れた。
やっぱり見ていられない…俺は再度彼に声をかける。

「どうしたの?降りるところ間違えちゃった?」

俺の顔を見た男の子は、明らかに不機嫌そうな顔をした。


「また…貴方…
何でもないです!!あっちへ行ってください!!」


またしても邪険にされてしまう。
俺…子供受けが悪い顔をしているのだろうか…?
しかし、このまま置いて行く事はできない。
俺はそーっと彼が持っているメモを盗み見る。

『毎日スポーツ競技場』。
それが目的地らしい。
丁度、家の近所で有名なスポーツ施設だから知っている。
それなら、一つ前のバス停で降りるべきだった。

「『毎日スポーツ競技場』なら、
一つ前のバス停で降りなきゃダメなんだ。
俺、場所知ってるけどついていこうか?」


「よ…余計なお世話です!!そんな事言って、
貴方、誘拐犯じゃないでしょうね!?」


「そ…そんな事…」


「だったらこれ以上構わないでください!!
あんまりしつこいとケーサツ呼びますからねっ!!」


そういい残して、男の子は走り去ってしまった。
ああ…心配だ…どうかあの子が無事にたどり着けますように…おお!?

祈りを捧げていた俺は驚いた。
さきほどの男の子が悪党面の男に声をかけられている。
や…ヤバイ!!これは助けないと!!


「ねー、キミ一人?お兄ちゃんと遊ぼうよ〜♪」

「いっ…急いでますので…」

「そんな事言わずにさぁ…ほら、手ぇ繋いで行こう!」

「やっ…はなしてください!!」


このままでは彼が連れ去られてしまう!!
くそう!!変質者め!!
俺はむちゃくちゃにパンチを繰り出していた。

「その子を放せ――――っ!!」


バキィィイイイイイイッ!!

「ぐぉあっ!!」


俺のむちゃくちゃなパンチがまぐれで当たったらしい。
男は路上に倒れた。

「さ、今のうちに逃げよう!!」

「あ…!!」

俺はすぐに男の子を連れてその場を離れた。
走って走って、そして、近くのバス停までたどり着いた。


「最近、ああいうの、多いから…気をつけてね…。」

だいぶ走ったため、息が切れていた。
しかし、男の子の方はもっと辛そうだった。

「…貴方…ふぅ、まだ…うろついてた、はぁ、ですね…」


…そのくせまだ俺を警戒しているとは大したものだ。
しかし、さっきの出来事で俺はますます彼が心配になる。

「ねぇ、やっぱり俺が連れてってあげるよ…。」

自分でもしつこいかなと思った。
しかし、どうしても彼を一人にはできない。
バスの降りすごしのウッカリさといい、絡まれやすさといい…。

男の子は少し戸惑っていたが、結局はうなずいてくれた。
暴漢から救ったことで信用してくれたらしい。


それから、一つ前のバス停に戻り、『毎日スポーツ競技場』に向かう。
道中、俺は男の子に何気なく話しかけた。

「スポーツ、得意なの?」

「なっ…何でですか?」

「だって『毎日スポーツ競技場』に行くんでしょ?」

「ボクはスポーツなんて興味ありません!!
余計な詮索はやめてください!!」


…怒られてしまった。
スポーツに興味が無いのに、なぜ『スポーツ競技場』に行くのだろうか…
素朴な疑問も、彼の怒ったような顔を見て喉の奥に引っ込んだ。
その後は、彼を怒らせないように無言で歩き続けた。


しばらくして『毎日スポーツ競技場』に着いた。
男の子が少し嬉しそうな顔をしていた。

彼は一歩前に出ると、くるりと回って俺に向かい合った。
そして、俺から目を逸らして小さな声でこう言った。


「あの…一応…ありがとうございました…。」

頬が赤い。照れているのか?
しかし、一応って何だ、一応って。
というツッコミがよぎったが、言わない事にする。


その後サッと踵を返して駆け出した彼。
しかし、すぐに立ち止まってしまう。

どうしたのだろうか?
立ち止まった男の子は、ぼんやりと呟いた。

「ゆう……」


彼の視線の先には、一人の男の子がいた。
どうやら、競技場から出てきた選手のようだ。
あの選手の男の子が『ゆう』か?
『ゆう』も、彼に気づいたようで、こちらに走ってきた。

「まなぶ!?なんで!?」

ゆうが驚いたように彼を見る。
『まなぶ』と呼ばれたよばれた彼は、弱弱しく言った。


「ゆうの試合…終わったのか…?」

「え?ああ…オレらのチーム負けちゃったけどさ!!
次は必ず勝――――つっ!!」

オーバーにポーズを決めるゆう。
負けたと言っているが、その顔は明るかった。
だが逆に、まなぶの顔は悲しそうだ。

「そっか…ゆうの試合…終わっちゃったのか…。」

「まなぶ…もしかして、試合見に来てくれたのか?」

「ばっ…違う!!ボクはちょっと暇だったから近くを散歩しようと…!!」

「近く…?アハハッ!まーなーぶー?
オレらの家、こっから何キロ離れてると思ってんだよ!!」

「あ…」

まなぶが顔を赤くする。

親しげな会話…そっくりな2人…『オレらの家』…
だんだん状況が読めてきた。
『まなぶ』と『ゆう』の2人は兄弟、おそらく双子で
『まなぶ』が『ゆう』の試合をこっそり見に来た。
しかし試合は終わっていた…そういう感じだろう。


結論づいたところで、ゆうの明るい声が響く。


「しっかし、まなぶもぬけてるよなー!
試合が終わってから応援にくるなんてっ♪」

「ううっ…またそうやってボクをバカに…」

「でーも…」

さえぎられたまなぶの言葉。
ふっと、ゆうが優しい目でまなぶを見つめて言った。

「ありがとう…まなぶ…」

「ぁ……」

まなぶは顔を赤くしてもじもじしていた。

うーん…まなぶは無愛想だが意外に照れ屋さんらしい。
それに、メガネで賢そうだが、ちょっと抜けている所があるようだ。

しかし、まなぶも送り届けたことだし、もう俺の出る幕も無いな。
そう思って、俺はゆっくりと帰っていった。

後ろで、兄弟の会話を聞きながら…



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【作品番号】ME3





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