9デイ〜お嫁さんゴッコの乱〜




「♪奇〜跡の戦〜士〜キツ耳仮面〜♪」

「……」

「♪今日〜もっ、正義の〜…フ〜フフフ〜ン〜♪」

「覚えてないのかよ!!」

俺のツッコミに顔を上げたみつきはいつも通りの愛らしい笑顔を向ける。
ちなみに今彼がうやむやに歌っていたのは
大好きなお子様アニメ、『キツネ耳仮面の大冒険』のテーマソングである。


「っていうかさっきから何してるのみつき…」

いきなり俺の部屋にやってきたかと思えば、
みつきはさっきから何か書いているようだ。

「作文だよ〜!お兄ちゃんの事書くの!」

「俺のこと!?何で!?」

「う〜ん…本当はパパとママの事書かなきゃダメなんだけど…
ボク、よく分かんないから…」

「みつき…」

みつきの悲しげな笑顔に胸が締め付けられる。

俺もみつきとみずきの両親の事はよく知らない。
関係者から聞いたのは彼らが物心ついた頃にはすでに両親は
行方不明になっていて、母親は他界してるらしいという事。
みつきとみずきの出生を語れば、昼ドラが一本作れるとか作れないとか…


「お兄ちゃん…」

みつきが急に俺に抱きついてきた。
両親を思って寂しくなったのだろうか…
俺も彼を抱きしめる。

「お兄ちゃん…ぎゅってして…」

「うん…。」

やっぱり何となく寂しくなってしまったのだろう。
甘えてくるみつきを精一杯優しく抱きしめる。

「それでね…」

「うん…」

「新しいお洋服買って…」

その言葉の意味を理解するのに1秒も要らない。
俺はみつきをそっと抱き上げると
ベッドに向かって思いっきり投げ込んだ。

「却下―――――ッ!!」

「きゃ――――っ!!」

ベットにボフッと落下したみつきは頭をさすりながら
密かに舌打ちをしていた。
全く、油断も隙もあったもんじゃない!!


「うえ―――ん!!お兄ちゃんが投げた―――!!」

みつきがベッドの上で騒いでいるがそこはあえて無視だ。
しかもアレ絶対嘘泣きだ。恐ろしいヤツ…。
俺はみつきに背を向けるように座って雑誌を読みはじめた。
でもすぐに背中にまとわりついてきたみつきに妨害される。

「お兄ちゃ〜ん…怒ってるの〜…??」

「ん〜?う〜ん…」

雑誌を読みながら適当に返事をすると、みつきが
余計まとわりついてくる。

「みつきの事〜…キライになった〜…?」

「……。」

はぁ…やっぱりみつきには敵わない…
雑誌を折りたたんで、かまってオーラ全開のみつきに向き直る。

「分かった分かった…遊んであげるから…」

「えへへっ…お兄ちゃん好き〜♪」


う〜ん…その笑顔に弱いんだなー俺…。
で、その後みつきが提案してきたのが…

「おかえりなさ〜い、アナタ☆」

「た、ただいま〜…」

目の前に楽しそうなエプロン姿のみつき。
俺はTシャツなのにネクタイだけ結んで
カバンを持って『帰宅』。
このビニールシート一枚の空間が『家』らしい。
みつき曰く『お嫁さんごっこ』だ。

「お風呂にする?ご飯にする?それとも…」

「ご飯ッッ!!」

勢いよく叫んだ俺にみつきが少し不服そうな顔をした。
しかしすぐ笑顔に戻ってオモチャの皿を差し出してくる。

「はい、これご飯ね。今日はアナタの大好きな
コロッケですよー!」

「わー美味しそうだねー!いただきまーす!」

皿に何も乗ってないとか思ってはいけない。
こういうのは心の目で見るんだ。
食べるフリをしている俺をみつきがうっとりした顔で
見つめてきて…ちょっとドキドキする。

「えへへっ…おいしい?」

「うん。おいしいよ。」

「良かったー!アナタのために一生懸命作ったのー!
そうだ、アナタのカバン、片付けてくるね!」

軽い足取りでカバンを持ったみつき。
その瞬間、何かがポトリと落ちた。
それを拾い上げたみつきが急に大声を上げる。

「アナタ!何なのこのライター!!」

「え!?」

その手には『クラブ・エンジェルキッス』と書かれた
ピンク色のライターが…何だこの展開。


「ひどい!みつきに隠れてエッチなお店に通ってるなんて!!」

「ちょ…ちょっと待ってよみつき…!!」

「待てない!!きちんと説明してよ!!」


それはこっちのセリフだ―――!!
いつの間に仕込んだんだよそんなライター!!
ってかどっから持ってきたんだよそのライター!!
色々突っ込みたかったがみつきの迫真の演技に声が出ない。

「ボク達まだ結婚して一ヶ月しか経ってないのに…
愛してるっていうのは嘘だったのね…うううっ…。」

「ちょっと…あの…」

誰か!!誰か俺にも台本ください!!
みつきはいよいよ泣き崩れるし!!
こ、こうなったら俺も…!!

「ち、違うんだみつき!!
これは課長に無理やり連れていかれて…」

「しらじらしい!!
もっとマシないい訳考えなよ!!」

「本当だ!!信じてくれ!!
付き合いで仕方なかったんだよ!!」

「そんなこと言って、
どうせ可愛い女の子に鼻の下伸ばしてたんでしょ!?」


「違うって!!ああもう、まどろっこしい!!」

「きゃっ!!?」


俺はみつきを押し倒していた。
みつきが戸惑った表情で俺を見つめる。
それは演技なのか…本当に驚いているのか…
どちらにせよ、今の俺には関係ない。
俺はただ、誠実な夫を演じきるだけ!!

「みつき…愛してる…お前を一生守りたい…。」

「アナタ…」

みつきのが嬉しそうに微笑む。

決まったぁッ!!

内心ガッツポーズを決めたその時だった…



「お兄ちゃん…」

近くで聞こえたみつきとは違う声に、一気に血の気が引いた。
ゆっくりと見上げると、いつの間にかみずきがそこに立っていた。
彼の顔も俺と同じくらい真っ青だ。
一体いつからそこに……ととととにかく早く弁解をっ!!


「み…みずき…これは…」

「ご、ごめん…オレ…っ、お邪魔しましたッ!!」

「ぎゃ―――ッ!!違うんだみずき―――ッ!!」

完全に勘違いしたみずきに手を伸ばすが、
彼は猛スピードで自分の部屋に駆け込んでしまった。

硬直する俺をみつきがぐいぐいと引っ張る。
みつきの方を見ると、彼は心配そうにこう言った。

「お兄ちゃん、みぃくんにも『愛してる』って言ってきたら?」

そ、そういう問題じゃ…
しかし、早めに誤解を解かないといけないのも事実…


「みずき―――!!俺の話を聞いてくれ―――!!」


俺はみずきの部屋に走っていった。
こんな俺って…みつきの作文に何て書かれるか不安だ…。


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【作品番号】ME9


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