13デイ〜アイツがやってきた〜 今日は俺もみつきもみずきも部屋にいた。 朝から外がどしゃぶりの雨なので、みつきも 「お買い物行きたい――――っ!!」とは騒がない。 今日の彼の興味は弟にあるらしく、 さっきからみつきは必死にみずきにまとわりついている。 俺はこの静かな一日を堪能しようと目を閉じた… ピンポーン!! のにこのチャイム…誰だよ全く… しぶしぶドアを開けると、ガタイMAX…つまり逞しい男がいた。 男は大きなダンボールを抱えていた。 「ちはーっす!!宅配便で―――す!!」 筋肉全開の男はダンボールごと俺に突進してきて、俺をなぎ倒した。 「みつき〜!みずき〜!ジンにぃちゃんが来たよ〜!!」 この部屋の主=俺をそっちのけでマッスル男は双子に呼びかける。 「あ!ジンおじちゃん久しぶり〜!!」 「おー!みつき元気だったか〜??」 マッチョ野郎はみつきを発見すると、そのまま抱き上げてぐるぐる回す。 その際投げ捨てたダンボールが俺の傍に落ちてきて死にかけた。 「きゃ――っ!!元気元気〜〜〜☆」 大喜びのみつきの近くで、みずきがボディービルダーを白い目で見ていた。 俺もやっとこさで起き上がってみずきと一緒に筋肉バカに冷たい視線を送る。 このマッスル男、実は俺の先輩で双子を預けてきた張本人である。 本名は『後鳥羽門 陣』。 仲の良かった先輩だし人間的には好きなのだが いきなり来てダンボールで人を殺そうとするのは止めて欲しい。 ちなみにみずきも回そうとしていたが全力で嫌がっていたので 諦めていた。そしてちょっと落ち込んでいた。 「先輩!!来るんだったら3日前ぐらいに連絡してください!!」 「おー後輩!固い事言うなって!今日はいつも我が子が お世話になってるお前に貢物を持ってきたんだ!」 この人は一度も俺を名前で呼んでくれたことが無い。 いつも「後輩」と呼んでくる。 ちなみにみつきやみずきと血縁関係はない。 双子の両親の知り合いらしい。 「お土産なぁに?おかし?おかし?」 何か持ってきたと分かると、みつきが先輩にくっついている。 みつきにくっつかれてニヤニヤしているマッチョが腹立たしい。 「残念ながらお菓子じゃない。しかし、もっといいものだぞ〜? さぁ、何かな何かな〜?」 くっついているみつきの頭をなでて、先輩は持参したダンボールを開ける。 俺もみずきもダンボールを覗き込む。中から出てきたのは… 「ほーら!みつき、可愛いだろ?」 先輩が中身の一つを広げてみつきに見せる。 「あー!可愛―――いっ!!」 嬉しそうなのはみつきだけ。俺とみずきはドン引きだった。 中から出てきたのは…大量の下着。 「へっ……変態……」 みずきのナイスなツッコミに先輩は慌てる。 「違うんだみずき!俺は今、色々な下着を扱うメーカーで働いていて… お前達の為に下着を持ってきたんだよ!!」 「だってそれ!!女用!!」 みずきは先輩の持っている下着を指差して叫ぶ。 どんどんみずきに不審がられているマッチョ、ざまあみろ。 っていうかこの男所帯に女物の下着を持ち込む意味が分からん。 「あ、いや…これはたまたま手に取っただけで… ほら、ちゃんと男の子のもあるんだ!みずき、これとか穿かないか?」 先輩が焦って拾い上げたのは『厚揚げ戦隊☆キツ耳レンジャー』の イラスト入り下着だった。普段大人びているみずきにコレは完全なる墓穴。 案の定、みずきは顔を真っ赤になったかと思うと先輩に近づいて… 「は・く・か!!!このバカが!!」 ナイスキックのの後、台所へかけこんでしまった。 蹴られた足を押さえて呻いている先輩にみつきが呆れ顔だった。 「ダメだよ〜…みぃくんはもっとオシャレなのはいてるもん。 めーさい柄とか星柄とか英語入ってるヤツ。」 「そ…そうか…じゃあ…コレとか?」 「うん。あ、でも色がもっと大人っぽい方が喜ぶよ!」 勝手にみずきの下着を選び始めたこの二人… このまま玄関先でパンツの品定めされても困るし まずはこのすべての元凶の筋肉野郎をどうにかしようと思った。 「先輩、ずっと玄関にいるのもアレなんで中にどうぞ?」 「おーそーか?悪いね後輩。ちゃんと紳士用のもあるから使えよ?」 「そりゃどーも…。」 「ねーねー、お兄ちゃん!!」 「はーい?みつきもお部屋に入るからこっちにおい……」 振り返った俺はとんでもないものを見た。 「可愛いからはいてみたの!似合う??」 みつきはいつの間にかイチゴ柄の紐パンを着用していた。 もとが女の子っぽいみつきが穿くと洒落にならない… 可愛いのは確かだが…なんだかイケナイ光景だ…。 このどうしようもない先輩は大喜びだったが。 「おー似合う似合う!今度スカートも持ってきてあげよう!」 「先輩ッッ!!アンタはみつきをあっちの世界に誘い込むつもりか!! みつき…早くそれ脱いで…!!」 「うわ!!みつきの紐パン姿じゃ飽き足らず 脱がそうなんて…いやーっ!!最低!!破廉恥な後輩!!」 「ええ!?そういう意味じゃ…アンタの思考おかしいよ!!」 そんなツッコミ合いをしていると、後ろからすごい殺気を感じた。 黙っていても怖さ4割り増しのみずきは、持っていたお盆を先輩に投げつけて 「お茶の用意できたから、皆来て。」 と去っていった。 それから平和なティータイムでは4人で楽しく話した。 「みつきもみずきもお兄ちゃんと仲良くしてるか? 変なことされてないか?」 「ぶっ!!なんて聞き方するんですか先輩!!」 「少なくともジンおじちゃんと一緒に暮らすよりは 安全だと思うけど。」 「何!?そりゃないぜ…みずき…。」 みずきの氷の一言にしょんぼりする先輩を気にせず みつきが嬉しそうに話しかける。 「あのねー、この前、お兄ちゃんと遊園地行ったよ! 楽しかった!!それでお金が無い時は、お家で遊んでくれるの!! お医者さんゴッコ!!」 「お前また…マニアックな……」 「違ッ!!ほら、そういう変な発言をするから みずきがフォークで先輩の顔面狙ってますよ?!」 「み、みずき!!早まるな!!」 フォークは当たらなかったものの、先輩はまたみずきの冷ややかな視線に 晒されることになった。 その後、みつきとみずきは先輩の持ってきたお小遣いで おやつを買いに行ったので、俺と先輩はしばらく二人きりになった。 みつきやみずきの前と違って、先輩は何だか落ち着いる。 というより、双子の前では必要以上にテンション上げて 面白いお兄さんを演じている感じだもんな。 「お前さ、みつきやみずきの事 本当に可愛がってくれてるんだな。ありがとな。」 「そんな…気にしないでください。 俺はあの子達のおかげで毎日が楽しいんです。」 改まって先輩から『ありがとう』なんて言われるとなんだか照れくさい。 みつきとみずきを大切に思ってるのは俺も先輩も同じなのだ。 だから俺達は、昔以上に親しく語り合えるのかもしれない。 先輩は嬉しそう笑った後、少し遠慮がちにこう言った。 「お前さ、みつきとみずきの里親になる気ないか…?」 「里親?」 いきなりそんな事を言われて俺は戸惑った。 「ちょっと待ってください。両親はどうしたんですか? 母親は亡くなったって聞いてますけど…父親は? 先輩、探してくれてたんですよね?」 『父親』…その単語を出したとたん、先輩がすごく辛そうな顔をした。 彼は視線を外したまま言いにくそうに答える。 「父親の居場所は分かってるんだが…ダメなんだよ……。」 「ダメって…?」 「父親は絶対にみつきとみずきを引き取らない…。」 父親が引き取らない!? 俺は驚いて先輩に問い詰める。 「え…どうして!!?向こうがそう言ったんですか!? みつきやみずきを捨てるって事ですか!? そんな自分勝手な……!!」 「アイツは悪くないんだ!!」 「……っ!!」 急に大声で怒鳴られ、思わず体がビクついてしまった。 怒鳴ってしまった先輩の方もハッと我に返り たちまち申し訳無さそうな表情になる。 「…すまない…。 里親の事、考えといてくれ…。」 「先輩……」 どうして父親はみつきとみずきを引き取らないのか… どうして先輩がその父親を庇うのか… 事情が全く分からないまま、それでも 悲しそうな先輩の顔を見ていると何も言えなかった。 その場はしばらく重い空気が流れたが みつき達が帰ってくると、先輩は何事も無かったように彼らと遊んでいた。 俺はさっきのことがあったからこの光景を 最初のように微笑ましい気分では見れなくて複雑な気分だった。 そうこうしているうちに、もう先輩が帰る時間。 「えー!!ジンおじちゃんもう帰るの〜〜!!?」 「何だ寂しいか?また来るから、二人ともいい子にしてろよ〜??」 残念そうなみつきの頭を思いっきりなでて、抱き寄せる先輩は いつもの明るい調子で、みずきにも同じ事をしていた。 この時のみずきは嫌がらなかった。 「悪かったな。」 俺にそう言った時の先輩は少し悲しそうに見えた。 「いえ……」 「皆でパンツ穿けよ。」 「……はい。」 前言撤回。 大げさに手を振って帰った先輩。 俺は、今日の先輩の言った事をずっと考えていた。 みつきやみずきの里親… 答えを出すには時間がかかりそうだけど… まだ時間はたっぷりあるはずだ… そう自分に言い聞かせた。 ******************* 気に入ったら押してやってください 【作品番号】ME13 |
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