5デイ〜ショッピングモール〜 テーブルの上に3つの焼きそばを並べてほっと息をつく。 毎週土曜日の午前中は俺の天下。 しかし昼頃は一つの仕事に取り掛からなければならない。 それは学校から帰ってくる2人のお昼ごはん作り。 みずきほどではないが、俺だって料理はできるから せめてみずきが学校の時ぐらいは俺が作ってやらなきゃな。 出来上がる頃には、彼らの元気な声が聞こえてくるというわけだ。 「ただいまー。」 おっと、今週もナイスタイミング!! この落ち着いた「ただいま」はみずきの方だろう という俺の予想通りみずきが部屋に入ってくる。 「おかえり。みずき。みつきは?」 「あー、今日遊んでくるって。」 「え!?昼ごはんは!?」 「たぶん友達の家で食べるだろ…。」 言いながらみずきは部屋に入っていく。 焼きそば一皿がムダに…ならないようにラップでもかけとくか。 そのうちみずきが着替えてきて、俺たちは2人で昼食をとる。 普段3人で昼食を食べる時は、みつきが延々と喋っているのだが 今日は彼がいないので静かだった。 「みつきがいないと静かだなー。」 「まぁな。」 みずきはみつきと違って、あまり話すほうではない。 大人しい―というよりは寡黙といった言葉がピッタリで 無邪気に喋らない分、余計大人びて見える。 双子同士ではよく話しているのを見るが、それにしても みつきがガンガンに話しかけて、みずきがそれに応じるという感じだ。 今だって、みずきは黙々と焼きそばを食べている。 そんな彼の顔を見ながら俺は考えてみた。 (そういえば最近、みずきとゆっくり話してないな… みずきはしっかりしてると思ってあんまり構わなかったか? いや…俺はみつきとみずきを差別しているつもりは… でもでも、みつきとはよく遊んでやるけどみずきとは…? 感情を表に出さない分、寂しがってはいないか…?) 「…何?お兄ちゃん…」 我に帰るとみずきが複雑な表情で俺を見ている。 じっと見つめすぎたようだ。 「い、いや…ほら!午後からみずきと買い物でもどうかなって!」 「オレと?」 「おう!お菓子でも何でも買ってやるぞ!!」 勢いに任せてみずきを買い物に誘う。 とっさに出た割には良い案だ。 欲しいものを目の前にすれば、みずきだって子供らしくはしゃぐだろう。 「でも…みつきがいないのにオレだけなんて…」 みずきの言葉に、俺はハッとする。 (みずき…みつきに気を使って今まで色々我慢してたのか!??) これは大変だ!そうか…みずきがそんな… 俺は目の前の現実しか見えてなくて…みずきっ!! 俺はみずきをもっと見てやるべきだった。 よし、今日はみずきに思い切り我がままを言わせてやろう! 「大丈夫!みつきにはお土産を買ってあげたらいいんだから! な?今日一日は…いや、これからはもっと無邪気に楽しもう!!」 「は?…はぁ…。」 燃えている俺とは反対に、みずきは イマイチ意味の分からないといった顔でうなずいた。 しかし、みずきを楽しませてやろうという俺の決心は変わらなかった。 午後から俺はみずきと出かけた。 こういう時、近所のショッピングモールというのは便利なもので おもちゃ、ケーキ、ゲームセンター…子供の喜びそうなものが目白押しだ。 (さぁみずき!どっからでもこい!) 財布も心も準備は万端の俺。 みずきはキョロキョロと辺りを見回していて 露骨に喜んでもいないが、まんざらでもなさそうだ。 よしよし、好きなものを選ぶんだぞ? そう思いながらみずきと歩いていたが、ふとあることを思った。 (あれ…手って繋ぐのか?) 道行く親子連れはみんな手を繋いでいる。 うーん…俺とみずきは親子でも兄弟でもないけど… でも、手を繋いでいる子供達は皆嬉しそうだ。 みずきも喜ぶかもしれない。よし、俺も… なるべく自然にみずきと手を繋いだ。 「えっ!?」 みずきがビクリと震えて、 驚いたように俺の顔を見上げる。 「ん?嫌だったか?」 あまりにみずきが驚いていたので 手つなぎ作戦は失敗かと思ったが、みずきはフルフルと首を振る。 「べっ…別に…ヤじゃ…ない…。」 「そうかー。何でも好きなもの買っていいからな?」 「う…うん…。」 めずらしく歯切れの悪いみずきの様子が引っかかったが 嫌がってはない様なのでそのまま手を繋いで歩いた。 しばらくみずきの様子を見ていたが何やら俯きっぱなしだし 心なしか頬も赤い。歩き疲れたのかな? そう思ったので近くの喫茶店に連れて入った。 「今日…お兄ちゃん優しいよな…」 パフェを食べながらポツリとみずきが呟く。 「なっ…失敬な!俺は毎日優しいぞ!!」 冗談まじりにそう言うと、みずきは小さく笑った。 「いや、サービス気味っていうか… あ!何かやましい事でもあるんだろ!?」 「え!?いや、無いよ!」 「どうだかな…今度、掃除ついでに お兄ちゃんの部屋を色々調べとくよ。」 「何!?みずき…お前も大人になれば分かると思うが… 男の部屋には調べられると困る箇所が最低三つはあってだな…」 「ん?ベッドの下のエロ本…タンスの一番上の引き出しのエロDVD… あと一つはどこだ…?」 「みずき――――っ!!」 みずきの爆弾発言は俺の平常心を吹っ飛ばした。 何、大人の秘密をあっさり把握してるんだよ!!しかも2つも!! くそ…あと一つは本気で死守…じゃなく!! 大人としてどうなんだろう俺!!? ああ…みずき恐るべし…。 イスから立ち上がらんばかりの勢いで 焦りまくりの俺に、みずきは余裕の笑みをみせる。 「食事中はお静かに。お兄ちゃん? あ、それと…」 そして、少し俺に顔を近づけて真剣な顔つきで囁く。 「みつきには見つからないようにしろよ?教育に悪いから!」 アンタも…同い年じゃないですか…。 俺の密かなツッコミは心の中で流れ星になって消えた。 その後、みずきの提案で近くの雑貨屋へ行った。 こじんまりした店内には、控えめだがセンスの良い小物がたくさん並んでいる。 なるほど。落ち着いた、いかにもみずきの気に入りそうな店だ…。 みずきは適当に店内を回って、中くらいの子猫のぬいぐるみを持ってきた。 「これ。」 「これ?いいけど、みずきがぬいぐるみなんて珍しいな。」 「違うよ!これはみつきのお土産!」 「みずき…。」 こんな時までみつきの事を… 俺はしみじみした気分になった。 自分の欲しいものより先にみつきのお土産を選んでくるなんて… 「なぁみずき…もっと自分やりたいようにやっていいんじゃないか?」 「え…?」 「みつきに気を使ってやるのはいい事だけど それでみずきが色々我慢する事ないんだぞ?」 みずきは俺の顔をじっと見た後、静かに首を振った。 「…違うよ…。ずっと気を使ってくれてたのはみつきの方。 環境が変わって不安だったオレを一生懸命励ましてくれて… 早く新しい家に慣れるようにって オレを引っ張ってお兄ちゃんにどんどん話しかけて… アイツが明るかったから、オレも安心できたし新しい家にもすぐなじめたんだ。」 言われて、俺は思い出した。 みつきとみずきが俺の家に来て間もない頃 みずきは全く喋らなかった。 俺もなるべく仲良くしようと努めてたけど、それ以上に みつきの方がどんどん俺に話しかけてきて家の雰囲気は明るかった。 そして、みつきはいつもみずきの傍にいて引っ張りまわして… それからみずきも徐々に話すようになった… 「それにオレ、我慢なんかしてないし。 みつきの事は子供っぽいから気を使ってやりたくなるけど… オレはオレでやりたいようにしてるつもり。」 「そっか…」 みずきが色々我慢しているかもしれないというのは思い過ごしだったようだ。 今の笑顔も言葉も心からのものだろう。 俺はやっと今日の目的を果たせた気がした。 果たせたまではよかったのだが… 「ってことだから、遠慮なく言わせてもらうけど… 『これから色々買出しするから、荷物持ちヨロシクね。お兄ちゃん?』」 「へ?」 「何の為にショッピングモール来てんだよ! 買い時のものはバーッと買っちゃうから大荷物になるぞ? まずは『毎日スーパー』から!」 一気に『家事モード』に突入したみずきにつき合わされ 俺は山のような荷物を抱えて歩き回る羽目になった。 同時に、別にみずきは色々我慢してるわけではない事を 嫌というほど思い知った。 帰りは来た道の何倍もの距離に感じられたが、 それでも今日はみずきと一緒でとても楽しかった。 「おーそーいぃーっ!!もー!どこ行ってたんだよ!2人とも!!」 家に帰るとすでに帰ってきていたみつきがお冠。 両手を腰に当てて、いかにも『怒ってます』ポーズだ。 「ごめんなー?ほい、これお土産。」 これ以上怒らせる前にみずきが選んだ子猫のぬいぐるみを手渡すと みつきが不思議そうにそれを受け取る。 表情から察するに“何?何のお土産?”といった感じなので教えてあげた。 「俺とみずきで買い物に行ってたんだ。なぁ?」 俺の問いかけにみずきがぎこちなくうなずく。 怒るかと思っていたが、みつきは逆に楽しそうな顔をしていた。 「ふぅん…お兄ちゃんとみぃくんが2人で、ね…フフン♪ じゃあ寝るとき、今日のラブラブ秘話を た〜っぷり聞かせてもらうからねっ!みぃくんっ??」 「ラ…ラブラブって…」 みつきの興味津々な態度に、流石のみずきも困ってるようだ。 だが諦めろみずき。 こういうときのみつきは芸能リポーターなみにしつこいから。 2人の後ろで傍観者のようにつっ立っていた俺に、 突然みつきが振り返って笑顔を向ける。 その笑顔の意味が分かりかねて戸惑う俺に、 みつきがチョコチョコと近づいてきて、耳元でこう言った。 「あのね、お兄ちゃんのベッドの下のエッチな本と、 タンスの一番上の引き出しのエッチなDVD… もっと分かりにくい所に移動したほうがいいと思うなぁ〜。 みぃくんに見つかったら怒られちゃうよ?」 それだけ言ってスキップでどこかへ言ってしまったみつき。 俺は笑いたいけど笑えなかった。逆に泣けてきた。 (みつきにもバレてやがんの…) 双子…恐ろしすぎる… どうしてこうも俺の秘密グッズを… (場所…移動させなきゃ…) ただそれだけ思って、俺は呆然と立っていた。 ******************* 気に入ったら押してやってください 【作品番号】ME5 |
||
前へ | 戻る | 次へ |