1デイ〜みつきとみずき〜




今日も空は気持ちいいくらいに晴れていて
いつもと同じ朝はいつもと同じように過ぎていく。

今日は休日。
久しぶりにゆっくり寝ていた…が…

「おっはよー!!お兄ちゃんっ!!」

「ぐえっ!!」

突然腹部にかかった重圧で、俺は蛙のような悲鳴を上げる。

「起きた?ねぇ起きた?早く遊ぼうよー!!」


ぼふぼふと腹の上に馬乗りになりつつ飛び跳ねる物体A。
その名は『みつき』。俺が今家で預かっている子供パート1だ。


みつきは元気な男の子で、いつも俺に『遊んで〜』とせがんでくる。
もちろんこっちの都合は全く無視。
そんなわけで今日も退屈に耐えられず、寝ている俺を無理やり起こしたのだろう。


普通より小柄なみつきなので、
重さはそんなに感じないが、飛び跳ねるたびに
尻で腹部が圧迫されて苦しい。
やめろ。俺はトランポリンじゃない。と、いうことを
柔らかく主張してみる。

「み…つき…苦しいよ…」

「あ!お兄ちゃん起きた!!わ〜い!ね、あ・そ・ぼ!」


飛び跳ねるのはやめたものの、未だ俺の上に馬乗りになっている。
この金縛り状態でどう遊ぼうというんだこの子は…。

「起きられないから降りてね、みつき。遊ぶのはご飯の後。」

「うん!わかったぁ!じゃあお兄ちゃん、早くご飯ご飯☆」

やっと俺の上から降りたみつきだが、今度は俺のパジャマを
ぐいぐい引っ張ってダイニングへ連れて行こうとする。
よっぽど早く遊びたいらしい。

「待って待って!顔ぐらい洗わせてよ!」


みつきに急かされながらも、どうにか顔を洗ってダイニングに行くと
そこには預かっている子供パート2の『みずき』がいた。
みずきは手際よく朝食を作っている。

「おはようみずき。」

「おはよう…っていうには遅いんじゃないか?」

「うっ…ごもっとも…。」

時刻は正午過ぎ…
みずきに反論できない俺は、うなだれつつイスに座る。


みずきは、家事全般が得意な珍しい男の子。
可愛らしい顔はしているのだが、あなどれない。
クールというか…落ち着きがあるというか…
小さいくせに何だか大人びていて、時々頭が上がらない。


「ほら、朝ごはん。」

みずきに差し出されたのは美味しそうなハムエッグ。
他にもトーストやサラダ…ご丁寧にヨーグルトも用意されていた。
少し前の俺ならこんなきちんとした朝食は考えられない。

みずきの家事能力に、俺はずい分と助けられているのだ。

「お兄ちゃん、おいしい?」

隣に座ったみつきが俺に尋ねる。
キラキラ期待に満ちた目が「おいしい。」という返事を求めていた。
というか、みずきの料理は本当に美味しいので、俺は思ったままを答えた。

「美味しいよ。」

「だってさ、みぃくん!よかったね〜!」

みつきがまだ調理台に立っているみずきに声をかける。

「当たり前。マズイとか言ったら食わせないし。」

こちらを振り向かずにこたえたみずきを見て
みつきが楽しそうに俺の耳元で囁く。

「ふふっ…みぃくん、ホントは嬉しいんだよ?
だって、ほっぺたちょっと赤いもん。
あのね、みぃくんもお兄ちゃんのこと…」

「みつき!!」

みつきの声が聞こえていたのか、みずきが大声で怒鳴る。
みつきは慌てて俺のそばから離れるが、みずきに思いっきり
睨まれていた。


みつきとみずきは双子の兄弟。
みつきが兄でみずきが弟なのだが、
子供っぽいみつきと落ち着いているみずきを見ていると
どうもみずきが兄に思えて仕方がない…。

まぁ、双子だから関係ないといえば関係ないか…。


俺が朝食を食べている間、みつきが嬉しそうに話しかけてくる。

「お兄ちゃん、食べ終わったら何して遊ぶ?
今日お休みだから、お外で遊ぶのがいいと思うな〜。
ボク、遊園地行きた〜い!!」

「ん〜俺ね〜、今日ちょっと出かけるんだ。」

さらりと否定した俺に、みつきは一瞬固まって
次の瞬間猛抗議を始める。

「えええええ!!ダメ!!ヤダ!!お兄ちゃんみつきと
遊ぶって言ったもん!!」


ああ、そういや言ったかな。と思いながら、俺は謙虚に謝る。


「ごめんなーみつき。帰りは5時ぐらいになるから。
その代わり、おいしいケーキを買ってきてあげよう!」

「いや―――っ!!ケーキいらないからみつきと遊ぼうよー!!」


足をバタつかせながら俺の腕を揺さぶってくるみつき。
まぁ、この展開はいつもの事だ。俺は必死でみつきをなだめる。

「なー、みつきー?みずきがいるだろう?
みずきと遊べばいいじゃないか。」


「う…んむぅ…。」


みずきの名前を出すと、とたんにみつきが大人しくなる。
しかし、顔はだいぶ不満そうだ。
みつきは弟が大好きなので「弟と遊べ」と言われて
嫌だとは言えないのだろう。

そして、急に名前を出されて振り返ったみずきと目が合う。


(…めんどうだからってオレに押し付けたな…)

(頼むよ。弟として兄の面倒を見てやってくれ。
 みつきを任せられるのはお前しかいない!)

(…しかたない…)

目と目の会話が終わり、みずきがため息をつく。
そして、悲しそうに俯いているみつきの肩をポンとたたいた。

「みつき。」

「みぃくん……。」

2人の間ではそれだけで通じたようだ。
みつきはそれ以上行くなとは言わなかった。


こうして、俺は予定通り出かけた。








時刻は午後5時10分。
約束どおりケーキを持って自宅に戻ってきた俺。
みつきが泣いたり拗ねたりしていないか心配だったが
帰ってきた俺を笑顔で迎えたのはみつきだった。


「おかえりーっ!おにいちゃんっ!
んも〜みつき待ちくたびれて死んじゃうかと思ったー!」

ぴょこんと飛び跳ねて俺に抱きついてくるみつき。
良かった…思ってたより機嫌がいいぞ…。

「ただいまみつき。ほら、約束のケーキだよ!」

「あー!ホントだー!わ〜い!!ケーキ!ケーキ!
男に二言は無かったんだね〜お兄ちゃん!よっ!男前!」

みつきはケーキの箱をもって、キッチンに走っていく。
だいぶ喜んでるみたいだな。落とさなきゃいいけど…。


キッチンから、やけに明るいみつきの声が聞こえる。

「ねぇ、みぃくん!ケーキだよケーキ!100年ぶりだよね〜!
もうサイコー!今日のデザートケーキね!あはっ!」
などと大はしゃぎだ。それに対するみずきの返事は全く聞こえないのに。


なんだ、だいぶご機嫌じゃないか。これはみずきに感謝だな。
そう思いつつキッチンに行くと、みずきは夕飯を作っていた。

「ただいま、みずき。助かったよ。みつきすごく機嫌いいし…
ずっと遊んでてくれたんだろう?」

みずきの手が止まり、俺に向き直る。
笑顔で尋ねた俺とは反対に、みずきは複雑な表情で言った。

「いや…実はオレ…お兄ちゃんが出かけてからすぐに急用で出かけて…」

「え?」

「委員会の仕事で急に呼び出されて…
帰ってきたのついさっきなんだ…ごめん…」

みずきが申し訳なさそうに目を逸らす。
俺は慌ててフォローした。

「い、いや、それは仕方ないよ!謝る事ない。
でも…それなら何でみつきはあんなに機嫌いいんだ?」

「それが…オレもよく分からなくて…。オレが出て行く前は究極に不機嫌そうで…
声かけても返事しないし、背中向けたまま床に座り込んでたから心配だったんだけど…
帰ってきたらずっとあの調子…。」


みずきが指差したみつきは、鼻歌を歌いながらぬいぐるみで遊んでいた。
可愛らしい笑顔も、この時ばかりはすこし不気味である。

「オレ正直、寂しさに耐えかねておかしくなったのかと…
でも、アイツ気分がころころ変わるところがあるから…。」

「そうだな…きっと面白いテレビでも見て機嫌が直ったんだろう。
みつきがご機嫌で良かったじゃないか。」

そう言うと、みずきが苦笑する。
俺も気がかりだったが、機嫌がいいのは変わりないので深く考えないことにした。

だが俺はその後すぐに、みつきがご機嫌な訳を突き止める。



それは夕食時。
引き続きテンション高めのみつきが、夕飯のハンバーグを見てはしゃいでいた。


「わぁ!みぃくんのハンバーグ、今日も超おいしそう!
ね、食べるのもったいないね!お兄ちゃん!」

「そうだね、みつき。あ、忘れてた…」

俺はあることを思い出して冷蔵庫に向かった。
確か昨日買ったチューハイが残っていたはず…
俺はチューハイの缶を探す。が…

「あれ…?」

無い。チューハイが無いぞ?
確かに昨日はあったし、俺は飲んでない…とすると、みつきかみずきが飲んだのか?
酒だから飲むなって言っておいたのに…

そこで、キッチンのゴミ箱に目をやると、そこには探していたチューハイの缶。

(やっぱり飲まれてる…)

俺の頭に、犯人は一人しか浮かばなかった。

(…酔ってたからあんなご機嫌で…)

みつき…顔色一つ変えてないのに酔ってたのか…
ああ…俺のチューハイが…
俺はガックリと肩を落とした。

振り返ると、みつきがご機嫌でハンバーグを食べていた。




夕飯後。
チューハイの件を問いただそうとみつきを部屋に呼んだ。

「なに?お兄ちゃん。」

この頃には酔いも冷めたのか、通常に戻っていたみつき。

「あのさ、みつき俺のチューハイ知らない?
昨日『お酒だから飲まないでね』って言ったヤツ。
黄緑のカンカンの。」

みつきの表情が変わった。
ますますみつきが犯人だという可能性が高まる。
俺はもう一度聞いてみた。

「知らない?」

「みつき…知らない…。」

あくまでも白を切るみつき。
俺はちょっとした意地悪を思いついた。


「そっか…知らないのか…。」

ワザと納得したフリをして…

「じゃあ、みずきだな。」

「え?」

「みつき知らないんだろ?後はみずきしかいないじゃないか。
この家、俺たち3人しかいないんだから。」

「えっ…みぃくんは…」

予想通り、みつきがそわそわし始めた。
自分の罪が弟のせいになっているんだ。動揺しないわけが無い。
俺は内心笑いを堪えて、さらに演技を続ける。

「実は、あのチューハイ誰かに飲まれたみたいでさ。
あーあ、俺『飲まないでね』って言ったのに。
みずきは悪い子だな。きついお仕置きをしなくっちゃ。」


俺のこの発言にみつきがさらに慌てる。

「あ…ダメ!待って!えっと…みぃくんじゃないと思うな…
だってほら、今日みぃくんお出かけしてたもん!」

「ん?昨日の夜に飲んだかもしれないだろ?」

「でも…でも…あの…」

飲んだのは自分。
それが分かっているので必死にみずきを庇おうとするみつき。
しかし言葉が見つからないらしい。
見ていると面白いのでもう少し意地悪続行。


「ははは。みつきがオドオドすることないよ。
悪いのはみずきなんだからね。さーて、みずきは
台所かなぁ…あの悪ガキを捕まえてくるとしよう。」


俺が台所へ向かうフリをすると
みつきは俺の服を必死でつかむ。

「待って!待ってよ!違う!みぃくんじゃない!
絶対みぃくんじゃないんだから!!
お兄ちゃんは、みつきの言うこと信じてくれないの!?」

今にも泣きそうな声で訴えるみつき。
よし、もう一押しだな…。

「信じるよ?
でも、今日の場合はみずきしか考えられないじゃないか。
だってみつきは知らないんだろう?」

「みつき…みつきは…」

俺の服をつかんだまま俯くみつき。
自分のしたことを言うべきか言わざるべきか悩んでいるようだ。
瞳を潤ませて、一生懸命思案しているみつきがだんだん可哀想になってきて
俺はそっと助け舟を出してやった。

「みつき、今謝ったら許してあげるよ?」

「え…」

弾かれたように顔を上げたみつきが、俺をじっと見つめる。
俺もじっとみつきを見つめた。


「お兄ちゃん…っ…ごめんなさいっ!!」


俺に抱きついて泣き出すみつき。


「ボク…ボクっ…一人でさみしくて…
お兄ちゃん…飲んじゃダメって言ってたけど…っ…
お兄ちゃんがボクの事置いてったから…
ボク…お兄ちゃんに仕返ししようと思って…
ごめ…なさい…!!」


「みつき…」

俺はすがりつくみつきの頭をそっとなでる。


「いいよ。今日は怒らない。でも、本当にお酒は飲んじゃダメ。
頭痛くなっちゃうかもしれないからね。」


「お兄ちゃ…うっ…うえぇぇぇぇぇぇん!!」


みつきはまた盛大に泣き出して、俺はなだめるのに
苦労したのだった。



みつきが泣き止んだ後、3人でケーキを食べた。
いつもの調子に戻ったみつきを見て、みずきも安心したような表情を浮かべる。


「えっとー、みつきこれ!」

みつきが嬉しそうに選んだのは酒の入ったケーキだ。

「みつき、それお酒入ってるよ?」

「いいの!ボク大人だから食べれる!」

酔ってハイテンションだった事は覚えてないのだろうか…
自信満々のみつきをからかってみた。

「留守番も一人でできないのは子供だよ。」

「でっ…できるもん!!
今日はちょっと調子悪かっただけだもん!!」


普段子供っぽいくせに、子供と言われるのが嫌いな
みつきは顔を真っ赤にして抗議する。
ああ、今日のみつきは本当にからかいがいがあるな。
俺は調子に乗って、またみつきに意地悪を言ってしまう。


「本当かな〜?じゃあ、明日は遊園地に行く予定だけど
みつきには留守番頼もうか?」


「えっ…そんな…うっ…お兄ちゃんが…いじめるぅ…」


みつきがまた泣きそうになってしまった。
しまった!やりすぎたか!?

ああっ、みずきも睨んでる睨んでる…。
俺はすぐに言い直した。

「ご、ごめんみつき!みつきも遊園地行こうな?な?
一緒にメリーゴーランド乗ってやるから!!」

「…ホント!?わ〜い!みつき、明日楽しみっ!!」

みつきはご機嫌でケーキを食べ始める。
みずきも何事も無かったかのようにケーキを食べている。

手がかかるけど可愛いみつき。
兄想いでしっかり者のみずき。

こんな双子と一緒の毎日。明日も楽しくなりそうだ。



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【作品番号】ME1





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