6デイ〜安産mistake〜 俺はまた神社の前に立っていたが、別にお参りに来たわけではない。 原因はこのお守り。 赤い布地に金色の刺繍が美しく、触り心地もなかなかだ。 そしてお守りの中央にはいかめしい字体で『安産』文字。 それが二つ。 すなわちダブル安産…ってなんだそりゃ。 (俺は『恋愛成就』と『家内安全』を買ったんだよ…かぐや君…) 前に一緒にお守りを選んでくれた小さな巫女さんを思い出す。 確かに少しそそっかしい子みたいだったけど… 『安産』二つはないだろう…俺男だよ…。 キミは『恋愛成就』をすっごく薦めてくれたじゃないか… 心の中でかぐや君に語りかけるがやるせない。 境内の中央まで行ってみてを見渡しても、かぐや君はいなかった。 う〜ん…どうしたものか… しばらく立ったまま考えていると、どこからか声がした。 「どうかなさいましたか?」 子供の声。 かぐや君の声ではないが、俺はこの声を知っている。 「やと君!」 「こんにちはお兄さん。 またお参りに来てくださったんですか?」 落ち着いた物腰で挨拶してくれたやと君は 相変わらずしっかりしてそうだった。 きっとこの子に聞けばすぐかぐや君に会えるだろう。 「あの…かぐや君にちょっと…。」 お守りを交換してもらいたいんです。 「かぐやは丁度出かけていて… 私でよければご用件をうかがいますよ?」 「あー…実は前に『恋愛成就』と『家内安全』のお守りを買ったんだけど 二つとも『安産』のお守りになってて。 かぐや君、間違えちゃったみたいなんだけど交換とかは……」 つい何も考えずに用件を伝えた瞬間、俺は気づいた。 待てよ…こういう事やと君に伝えたら…。 (…かぐや君が怒られてしまう…。) 気づいた時には言ってしまった後。 何とかかぐや君をフォローしようと口を開きかけたが… 「本当に申し訳ございません!!すぐ交換します!」 深々と頭を下げたやと君は 俺がフォローの言葉を言う間もなく素早い動作で走っていって すぐに交換のお守りを持ってきてくれた。 丁寧に包装されたそれを受け取った俺は再度かぐや君のフォローを試みる。 「あの、本当に気にしてないんで。かぐや君にもそう伝えといて… というか、あんまり怒らないであげてね。」 「いえ…そういうわけにはいかないですよ。 アレは昔からそそっかしい所があって…全然直らないんです。 今日こそはビシッと言ってやらないと本人の為になりませんので。」 俺のフォローを跳ね除けたやと君は目が笑ってない。 結構本気なのかも…怒ったら怖そうだなこの子…。 ああ…ごめんよかぐや君…せめてもうちょっと粘ってみるからね… そう思って、俺はまたフォローの言葉を探す。 「で…でもさ、かぐや君一生懸命選んでくれて… ほんと、最後でちょっとトチッちゃっただけだから… 小さなミスだよ!許してあげて…?」 「お兄さんはかぐやの普段の姿を知らないからそんな事が言えるんです。 あの子は本当にドジばかりで…あんなんじゃこの先どうなるか…」 そう言って大きくため息をついたやと君は 俯き加減に話を続けた。 「私だってあんまり厳しい事は言いたくないんですけど… 不安なんです。あの子が将来ちゃんとやっていけなくなったら… 私がいつも傍にいられるとは限らないんです…。」 保護者か!!と突っ込みたくなったが、やと君は真剣だ。 正直驚いた。小さいのにそんな弟の将来まで考えてるなんて大したものだ。 きっとかぐや君の事がとても大切なのだろう。 何だか、かぐや君のフォローより この弟想いの兄を励ましてあげたい気分になった。 「かぐや君はね、大丈夫だよ。 ちょっと…だいぶ?うっかりさんみたいだけど 優しい、いい子なんでしょ?俺、見てて分かるよ。」 「それはもう。あの子はとても優しい…いい子ですよ。 兄の身贔屓を抜きにしてもね。それは保障します。」 「だったら…そんないい子が幸せになれないはずないじゃない。」 「お兄さん…」 やと君の表情が和らぐ。 弟の事なのに本当に嬉しそうな顔をして… 俺は無意識にやと君の頭をなでていた。 「やと君は本当に優しいお兄ちゃんだね。えらいえらい。」 「あ…やっ…いやです、お兄さん… これでは私が子供のようではありませんか…。」 やと君はさっと身を引いて、照れたように笑う。 実際子供じゃないか…とは言わなかったが 珍しく慌てたようなやと君が面白くて、もう少し一緒にいたくなった。 「かぐや君が帰るまで待ってていいかな?会って帰りたいし。」 「ええ。結構ですよ。かぐやもきっと喜びます。 立ったままもなんですから、こちらにどうぞ。」 やと君に縁側のような案内してもらって、そこで待つ事になった。 しかもご丁寧にお茶のサービスつきだ。 「どうぞ。」 「あ、お構いなく。やと君も色々お手伝いあるんでしょ?」 「いいえ。今日は暇をもらってるんです。それに かぐやの為に待っていただいてるんですから、これくらい当然ですよ。」 本当に頭が下がる礼儀正しさ… ま、せっかく一緒にいられるんだからゆっくり話そうと、お茶をすすった。 しかし俺は、ある違和感に気づく。 「あれ?でも、お手伝い無いのにその格好なんだね。」 そう、やと君はこの前と同じく巫女さんっぽい格好だった。 「ああ、これは…朝に境内の掃除をしてましたから。 暇をもらってるっていっても、働いてないと申し訳なくて… 仕事するのにこの格好の方が都合がいいんです。 汚しても平気だし…」 やと君の話を聞いていると、だんだん頭に疑問符が湧いてきた。 俺は彼をこの神社の子だと思っていたが、だとすると口ぶりが不自然だ。 ただのお手伝いなら『仕事』だなんて言わないだろうし それが言葉のアヤだとしても『働いてないと申し訳ない』っていうのはおかしい。 どんだけ家族に気を使ってるんだよ。 それに『暇をもらってる』ってのも変な言い方だ。 気になったので、やと君に聞いてみた。 「ここお家じゃないの?まさか住み込みで働いてる、とかじゃないよね…?」 だとすると法律違反じゃないか?たぶん。 俺の言葉を、やと君が驚いたように否定する。 「まさか!!仕事っていってもたいしたことしてませんし、 ここでお世話になる代わりの恩返しって言うか… 本当は『手伝わなくていい』って言われますけど そういうわけにもいかなくて…とにかく、雇われてるわけじゃないです!」 よかった。法律違反では無いみたいだ。 「そっか。じゃあお父さんやお母さんと離れて暮らしてるの?」 「両親は…」 「兄上―――!!」 丁度その時、もう一つの聞きなれた声がした。 かぐや君が帰ってきたようだ。 スーパーの袋を持って嬉しそうに走ってくる。 ちなみに彼は私服だったのでちょっと新鮮だ。 「兄上!お菓子いっぱい買ってきましたよ! もう僕、早くお茶会始めたくて……」 言いかけたかぐや君の視線がパッと俺に向いた。 「あれ!?お兄さんじゃないですか!! お久しぶりです!!今日もお参りに来てくれたんですか?? あ、そうだ!!お兄さんも一緒にお茶会…」 「かぐや。」 はしゃいでいるかぐや君をやと君が制止する。 「お兄さんは、お前がこの前お守りを間違えて渡したから 交換に来られたんだ。」 やと君がそう言った直後だった。 ドサッ…!! かぐや君の持っていたスーパーの袋が地面に落ちた。 俺もやと君も一瞬ギョッとする。 「僕…また…」 顔面蒼白で呆然と立ち尽くしたかぐや君は微動だにしない。 明らかにショックを受けている彼にどう声をかけたらいいのか分からず 静かな空気だけがあたりに流れた。 ややあって、かぐや君が思い出したようにオロオロと謝りだした。 「ごっ…ごめんなさいっ!! どうして僕はいつも…ああっ!! もう、何てお詫びしていいのか…!!」 心底反省しているらしく、必死で謝ってくれているかぐや君。 謝りながらも一人で何か悩んでいるようだ。 そこまで深刻にされるとこっちが謝りたい気分になってくる。 俺が「もういいよ」と声をかけようとすると 彼は急に決意に満ちた顔で俺を見てとんでもない事を言い出した。 「いっそ気の済むまで殴ってください!! 僕…僕が悪いんですから頑張って我慢します!!」 「え…ええええっ!?」 そんな青春ドラマじゃあるまいし!! それ以前にもう気は済んでるって言うか元々怒ってもないわけで… 今度は俺がオロオロする羽目になってしまった。 「いや、ちょっと…俺、別に気にしてないし…」 「いいえ!!殴られるくらいじゃないと申し訳が立ちません!!」 「えーっと、大丈夫だから。本当、怒ってないし…。」 内心、冷や汗ダラダラでなだめてみるが、かぐや君の真剣な表情は変わらない。 殴られるまでは絶対に引かないだろう。 この場合嘘でも殴るフリをしたほうがいいかもしれないが… いや、フリで納得していただけるだろうか…? 考えれば考えるほど硬直してしまう。 そんな時、やと君がかぐや君の前に立った。 「なかなか殊勝な考えだけどな、かぐや… お兄さんは優しいからお前を殴れないよ。 でも安心しろ?私が遠慮なく殴ってやるから。」 と、笑顔で告げた瞬間に右手を大きく振り上げた。 (待って!!キミそういうキャラだっけ!?) そう叫ぼうにもいきなりの事で声が出ない。 息を吸っている間にも手は振り下ろされて… 「やっ…!!」 かぐや君の悲鳴はすれども肌を打つ音はしない。 よく見れば、やと君の右手はギリギリのところで止まっていた。 彼はそのまま低めのトーンで警告するように言う。 「今度から気をつけろよ。 また同じ失敗したら本当に殴るからな。」 かぐや君は驚いて声が出ないといった様子。 まばたきも忘れたようにじっとやと君の顔を見ている。 「返事は?」 再びかけられた兄の声に、かぐや君は慌てて返事をした。 「ぁ、はっ、はい!分かりました!!」 「分かればいい。さて、お茶会だったな。 すぐ着替えてくるからお兄さんと待ってろよ?」 やと君はいつもの優しい表情に戻って ポンポンと弟の頭を撫でると、奥へ入っていった。 「やと君って…何かすごいね…。」 「ええ。兄上は…優しいです…。」 思わず呟いた俺の隣で、かぐや君が嬉しそうに笑っていた。 その後、『お茶会』に混ぜてもらった俺は、おいしいお菓子を食べたり 2人と話したりと、なかなか充実した時間を過ごしたのであった。 ******************* 気に入ったら押してやってください 【作品番号】ME6 |
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