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☆閃き

俺の名前は浅岡健介。
齢20の俺だが、ひょんな事から学生になり、私立ボルボックス学園という学園に通うことになった。
学園生活は苦労もあるけど嫌いじゃない。それなりに馴染んで友達もできた。
今日も楽しい仲間たちが教室で俺を迎えてくれるはず…
このいつもと変わらない教室のドアを開ければ、いつもと変わらない日常が…
「皆、お早う!!」
ドアを開けた瞬間、俺は見た。
「ほ、本当にこんなので分かんのかよ……」
制服を大胆にはだけて裸の胸丸出しの級友。美少女少年の小二郎。
「分かるよ〜!むむ、今日の小二郎ちゃんは好きな人と急接近の予感!」
「ほ、ホントかよ!!?」
露な胸をニヤニヤ見つめる級友。エロ小僧の立佳。
何やってんだこの二人!?違う!!俺の日常はこんなんじゃない!
しかし、同級生の裸の胸を見てとっさに声が出ないのは普通だと思う。
「続きが知りたい?でも、もっとよく占うには触らせてくれないと……」
「りりり立佳!!何してるんだよ!?」
立佳が小二郎の胸に手を伸ばすのを見て、さすがの俺も止めに入る。
うちのクラスでセクハラ事件が起きるなんて嫌過ぎる!!
慌てる俺に、立佳が爽やかな笑顔を向けた。
「何って、見ての通り“立佳のカリスマおっぱい占い”だよ☆健介君ったら乱入?ダメだよ、オレが先♪」
「違う!!またそんな事してると琳姫に燃やされるぞ!?小二郎も、もういいだろ!?早く胸しまって!」
「う、うん……!」
「ちぇ〜……いいところだったのに〜〜!」
言えばすぐ従ってくれたのが唯一の救いだ……もう朝から心臓に悪すぎる……
残念そうにしている立佳に小声で怒鳴っておいた。
(全く、どうやって小二郎をそそのかしたんだよ!?)
(いや〜、『男同士だから恥ずかしくないよね?』って言ったら簡単にさぁ♪)
(立佳ってこういう事には知恵が回るよね……」
俺は呆れつつも言う。すると、立佳が俺を見て真剣な顔で首をかしげた。
「ん?健介君にはお尻に災いありの相が出てる……」
「え……?」
「服の上からでも分かるよ?“立佳のカリスマおっぱい占い”」
「えぇっ!?男に胸見られるとか複ざ」
「皆まで言うなッ!!オレだってそんなシュミ無いよ!!友達だから忠告したんだよ!?」
お互い青ざめて叫び合ったのはいいんだけれど……良く考えたら
“お尻に災いあり”だって!?誰かに叩かれるって事か!?
そ、そんな、どうして……
その瞬間に、俺は思い至ってしまった。
「ま、まさか今日持ってきたタバコがバレるとか!?」
「「…………」」
「うわぁぁぁ!!やめてくれ!そんな“可哀想に”みたいな目で見ないでくれ!
吸ってないんだ!お守りみたいな感じで持ってるだけで!!
くっ……!!こんな時あの伝説の『タスポ』があれば……!!」
ダンッ!
思わず拳で机を叩いてしまった俺に、小二郎が寄り添ってくれる。
「オレが色画用紙で作ってやろうか?」
「画用紙じゃ、バレると思うんだけど……うん、ありがとう……。
俺……もうダメなのかな……?」
「し、しっかりしろよ健介!やっぱりオレが作ってやるよタスポ!」
下がりゆくテンションと湧き上がる絶望感。
そんな中、立佳が明るい笑顔で言う。
「大丈夫、とっておきの秘策があるよ健介君!ズボンの中に鉄板を入れておけばいいんだよ!お尻の所に!」
「……いやいやいや!!脱がされたら終わりだよそれ!!」
「違うよ!ラッキーアイテム的なアドバイスをしてるのさ!お尻を鉄板でガードしとけば
今日の健介君はラッキーボーイ!お尻の不幸も吹き飛ばせるかも!」
「ほ、本当か!?」
自信満々で頷く立佳の様子に、俺の未来と尻に希望が見えた!!
けど……あれ?
「良く考えたら……それ、すごく不格好になりそうな……」
「ケツの所だけボコってしそうだよな……。もっとさ、自然な感じじゃダメなのか?
“ズボンの後ろポケットに、金属のアクセサリーを入れておく”とか……」
「小二郎頭いい!!君はきっと東大(東ボルボックス大学)いけるよ!!
あ、でも……俺、金属なんてクリップぐらいしか持ってない!!何て事だ……もはや、ここまでか!!」
ダンッ!
「しっかりしろよ健介!クリップでもいいかもしれないじゃん!なぁ立佳!?」
考えこむ立佳。拳で机を叩いてしまった俺と小二郎は固唾を飲んで立佳の言葉を待つ。
立佳は力強い笑顔でこう言ってくれた。
「うん!無いよりマシ!それを、お尻のポケットに入れておくんだ!
「「!!」」
俺と小二郎は笑顔で顔を見合わせた。
時間はちょうど、ホームルーム開始の時間になる。球里先生が入ってきた。
「皆さん、席に着きましょう」
俺は席について、持てるすべてのクリップを後ろポケットに突っ込んだ。
よし……これから何事もなく今日一日を過ごせるようにボルボックス神に祈りを……
「では、今から持ち物検査をします」

――神よ、なぜ俺をお見捨てになられたのか。



時刻は変わって今は昼休み。
“生徒指導室”のプレートが厳めしいこの室内には俺と球里先生の二人きり。
俺達を分かつ机の上には俺のタバコがきちんと置かれていた。
球里先生の冷静な声が言う。
「さて……どうしてここに呼ばれたか分かりますね?」
「違うんです球里先生。俺、この箱が気に入っててですね、小物入れにして持ち歩きたかったんですけど
入れるものが無かったんです。それで仕方なくタバコを入れて持ち歩いてるんです」
「……いかにも立佳さんが考えそうな言い訳ですね」
「考えてもらいました」
「そうですか。もういいからお尻を出しなさい」
俺は膝の上で拳を握る。
諦めるな……これは好機だ!だって、兄貴でも境佳先生でもなく、球里先生なんだから!
ラッキーアイテム=クリップの効果がくれた僥倖の人選!!
生き残れる……俺は生き残れる!!念じながら、俺はポケットから取り出した一枚の紙を球里先生に差し出す。
カードの大きさに切られた水色の画用紙に、修正液で“タスポ”と書いてある。そしてプリクラが貼ってある。
球里先生は、呆れ気味の表情でその紙を見つめた。
「これは?」
「タスポです」
「……浅岡君?先生本当に怒りますよ?」
「小二郎が、俺のために一生懸命作ってくれたんです!!先生はこれを見て何も感じないんですか!?
俺には、帰りを待ってくれている友達がいるんです!!」
思わず立ち上がるほど俺は必死だった。立ち上がり、机から身を乗り出して必死に訴えた。
「球里先生、貴方なら分かってくれるはずだ!
持ってただけです!吸ってたわけじゃない!それに、二度と持たないと誓います!
今回だけは穏便に済ませていただきたい!なんなら反省文書きます!
俺……いや、僕は、この人選をボルボックス神に感謝してるんです!
健人先生でも境佳先生でもない、貴方となら、平和的解決ができる!そうでしょう!?」
「そうですね……分かりました」
(きた!!)
自分の顔が笑顔になったのが自分で分かった。
でも、やったぞ!球里先生は分かってくれたんだ!俺は生還するんだ!
そう思った瞬間
「私は君にずいぶん見くびられてるようだ」
球里先生が立ちあがる。そして、俺の方へ歩み寄ってくる。
俺の方はとっさに動けずに椅子ごと微妙に後ずさるのが精いっぱい。
ガゴッと、椅子を引いた時の耳触りの悪い音が響いたと思えば、球里先生は俺の目の前だ。
「生徒にこうも甘く見られたままでは、境佳先生に叱られてしまいます。
きちんと教師の威厳を示さなくてはね?」
「い、いや俺は……見くびってなんか……」
球里先生がいつもより恐ろしく見えて、声が震えた。
手を取られて無意識に身を引いた。
けど……
「立ちなさい。今から君をお仕置きします」
「先生待って……!」
「ほら、早く!」
乱暴に腕を引かれて、部屋の奥に連れて行かれて。
ドアの近くから離してくれたのはせめてもの優しさだろうかと思いたいけど……
痛い痛い痛いッ!ものすっごく乱暴に体を膝の上に押し付けられた!乱雑だよ!人の体の扱いが乱雑!!
球里先生が座ったのがソファーじゃ無かったら確実にどっか打ってたぞ!?
……それだけ、怒ってるってことなのかもしれないけど。
しかも、しかもズボンと下着まで下ろされて、恐怖は一気に恥ずかしさに変わった。
ヤバい!兄貴ならともかく、他人にこれやられると死ぬほど恥ずかしいッ!!
その心情そのままに俺は叫んでいた。
「や、やめてください!!そこまでしますかっ!?」
「当たり前でしょう?これはお仕置きなんです。……そういう態度を取られると困ります」
「んな事言われたって!!」
「大丈夫。すぐに恥ずかしいなんて言っていられなくなりますよ」
もうダメだ……と、何となく怖くなったと同時に手が振りあがる気配。
パン!パン!パン!
打音と同時にくる痛みに身を捩る。
「いっ……あぁっ!た、球里先生っ……!」
「立佳さんのストッパー役の君だから、まともな子だと思っていました。
まさかタバコなんて最悪の校則違反をやらかすなんて!
いや……校則違反どころか法的に……」
「ひっ、う……!!」
パン!パン!パン!
球里先生の平手打ちは思ったより痛かった。
さっき言われた様に、恥ずかしいなんて気持ちは吹き飛びそうなくらい。
けど、黙っていても始まらない!俺はどうにか自分の無罪を主張しようと
頑張るんだけど……
「俺は二十歳です!そ、それに、くっ、何度も言いますけど吸ってません!
前に健人先生に叱られてから、ぁ、一回も!」
「それをどうやって証明できるんですか?」
球里先生が厳しい口調と平手で問い詰めてくる。
パン!パン!パン!
「あのタバコ、何本か減ってました。それを吸ったのが……
いつだか知りませんけど、健人先生に叱られた後じゃないという証拠がどこにあるんですか?」
「そ、それは……んっ!ぁ、あ!」
うわぁぁぁ!意外と手厳しい!
それに、だんだん痛みが増してきて気持ちが焦ってくる。
何か言おうにも上手く頭が動かなくて、悲鳴の上げっぱなしでまともに息ができない。
そんなで言葉に詰まっていると球里先生のお説教が続く。
「あんなもの持ち歩いていたら、いつも吸っていると思われて当然ですよ?
あれを君がいつ買ったかなんて誰にも分からないんですから」
「痛いっ……せんせっ……!」
「それに君は……」
パァンッ!
「いぁああっ!」
痛いところに、さらにぶっ叩かれて俺は飛び上がった。
でも、球里先生はそのまま連打してくる。痛いマジで痛い!
パン!パン!パン!
「最初から今まで言い訳ばかりで、謝りもせずに!
へ理屈で逃げ回れば私が見逃してくれると思ってたんですね!?」
「ちがっ、ごめんなさい!ごめんなさい球里先生!ふ、ぁぁっ!」
「今更謝っても遅いんですから!君が言ったんですよ?
“貴方なら分かってくれるはずだ!”とか“貴方となら、平和的解決ができる!”とか!
生徒に甘く見られてるだなんて先生だいぶショックでした!」
「ち、違うんです!傷つけるつもり、なんて……ごめんなさぁぁい!」
「いいえ!私の事はともかく、違反行為をして反省もしない生徒はしっかりと教育しなくては!
境佳先生に代わって!」
ビシィッ!
「うぁあああああん!!」
その一発限界を越えた。
だってもう本当に……痛いなんてもんじゃない。熱い。熱さと痛みのダブルコンボだ。
恥ずかしいけど涙が出てきて止まらなくなった。
「やぁぁぁっ!もう嫌です球里せんせぇぇぇっ!ごめんなさいぃっ!」
ビシッ!バシッ!ビシッ!
「ごめんなさい!わぁああああん!ごめんなさぁぁぁい!
ふぇぇぇぇっ!ごめんなさい――――っ!」
何か言おうとすると子供みたいな泣き声になってしまう。
泣き声だけじゃなくて、きっとこの足掻きようも子供みたいだと思う。
自分でも嫌になるけど、泣き声とか暴れ具合なんて自分で調整できるもんじゃない。
「もうしません!絶対にしませんからぁぁぁ!!」
「何を?」
「タバコ持ってきません!約束しますからぁぁぁ!うぁああああんっ!」
泣きながら謝っても、球里先生はなかなか許してくれない。
引き続き何度も何度も叩かれた。
うわぁぁぁん!もう嫌だ!また尻が腫れる!!
「やはぁぁぁんっ!勘弁してください!お願いですぅぅぅッ!」
ビシッ!バシッ!ビシッ!
「ごめんなさいぃぃ!ごめんなさいって言ってるのにぃぃッ!」
「言うくらい誰でも言います。本当に反省したんですか?」
「しっ、しました!しましたぁぁぁっ!ごめんなさい!んぇぇっ、もう許してくださぁぁぁい!」
もうハァハァ言いながら必死に謝った。
押さえつけられてる所が若干痛くなるほど暴れた。
「あぁああっ!ごぇんなさい!先生!せんせっ……わぁぁあああん!」
ビシッ!バシッ!ビシッ!
あぁ許されるのはまだなのか!?
このままじゃ涙が枯れる!!って思っていたら、やっと球里先生の声が聞こえた。
「もう本当にしませんね?」
「わぁぁああん!もうしません!ごめんなさい!」
「分かりました。今日はこれで終わりにします」
そう言って球里先生は俺を膝から下ろしてくれた……ああ助かった!
安心して深呼吸したら、そっと頭を撫でられる感触が。
「んっ、球里先生……?」
「痛かったでしょう?でも、きちんと反省できましたね。
浅岡君……君の帰りを待ってくれてる友達は、きっと君に
タバコなんて吸って欲しくないと思います。もちろん私も」
「うっ、ぇっ……ごめっ、なさっ……!」
感極まってしまって、また泣きだしそうになってしまった俺を
球里先生が何も言わずに抱きしめてくれた。

そのさりげない優しさに、俺は球里先生に抱きついてまた大声で泣いてしまった。
何て……何て包容力のある教師なんだ球里先生……!!

この日、俺の球里先生へのイメージががらりと変わったのだった。

****************

【おまけ】
―あくる日

健介「あ、球里先生だ……」

生徒A「ねぇキューちゃん!あーちゃん達と遊ぼーよー!」
生徒T「いいでしょ〜キューちゃん!看護婦さんごっこするんだよ〜!」
球里先生「こっ、こら!先生はキューちゃんじゃありませんッ!
       それに何ですか“看護婦さんごっこ”って!」
生徒A「あれぇ?キューちゃんお顔真っ赤だよ?」
生徒T「ホントだ〜!オレ達の看護婦さん姿、妄想して照れちゃってるのキューちゃん?」
生徒A「やーん♪キューちゃんのえっちぃ
球里先生「ちちちち違います!先生をからかうんじゃありません!
       それに、先生はキューちゃんじゃありませんッ!」
生徒A・生徒T「「あはははっ!キューちゃんかっわい〜〜いっ♪♪」」

健介「……この間と別人だ……」




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