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司さんと僕


『あずにゃんの彼氏カッコいいよね!』
『クールで大人って感じ!あずにゃんの彼氏!』
『しかも笑った顔が優しそうで可愛い!いいな〜あずにゃん』
(そうそうそうそう!皆分かってるよね!あと“あずにゃん”って呼ぶのやめて!)

友達が僕の恋人に向ける褒め言葉を反芻しながら、僕は誇らしげに恋人の司(つかさ)さんの横を歩く。
花の金曜日、学校帰りの夕方から待ち合わせをしてデート中。そのままお泊りしちゃったりなんかして。
今の僕は間違いなく“リア充”ってヤツだろう。
(それも、かなり恵まれた部類の……!!)
心臓をドキドキさせながら、隣を歩く恋人の顔をチラッと盗み見る。
何気ない表情さえクールでカッコいい。なんせ大人っぽい。いや、実際僕より大人。
もう僕みたいな平凡な学生がこんなカッコよくて優しい大人の恋人を掴んでていいのでしょうか!?
いえ、でもダメと言われて離すつもりはありません!やっと実った初恋なんです!
うっとり見惚れていたら司さんがこっちを向いて笑った。
「どうした?」
「えっ!?えっ、あ、なな何でも無くて!強いて言えば僕って恵まれてるなって思っていたところです!」
「恵まれてる……」
僕の唐突な会話を不思議そうに復唱して、司さんはキョトンとした。
心の中で(だって司さんみたいな素敵な恋人がいるんですから!)と強く念じて。
でも口に出しては言えなくて。
そうしたら司さんが
「じゃあ、俺も恵まれてるな」
「え?」
「梓みたいな可愛らしい恋人がいるから」
恥ずかしそうな笑顔で、先に言われてしまいました……幸せすぎて梓(あずさ)は死んでしまうかも♥

だから……僕は今日も司さんを喜ばせてあげて恩返しをしようって決めたんだ!
皆知らないだろうけれど僕の(“僕の”なんて言ってしまえる幸せ!)
ぼ、僕の!司さんはただカッコいいだけじゃないんだから!


そうして司さんの部屋に来たよ!何度来ても緊張します!
(さ、さて……どうやって切り出そう??)
“鍵”は持ってる。僕はただ、唱えるだけでいい。でも、どのタイミングで?
テーブルに座って、そう考えながらそわそわしていたら、司さんがお茶を出してくれた。
「ほら、梓……お茶」
「ありがとうございますっ!」
「何だよ緊張してるのか?いい加減に慣れてくれないと」
「そうですよねっ!」
「敬語もいつ抜けるのかな〜〜?」
(貴方が、そんな顔で笑うから……!)
司さんはどんな顔をしていてもカッコいいんだ!それは今だって例外じゃない!
困ったような笑顔最高です!僕ばっかりが、悪いんじゃないんだ!
そう思ったから、押され気味の僕はついつい司さんに仕返しがしたくなった。
司さんも嬉しい仕返しだから別にいいよね?
タイミングは、今にした。僕は唱える。
「司君……」
「!!」
「今日は、いい子にしてた?」
「あっ……」
司さんの表情が一瞬にして変わる。
顔を真っ赤にして、コップを握ったまま指をモジモジしている。
「い、いや……今日は……特に……」
「そう。いい子だったんだね」
「いや……」
「だったなら、テレビでも見ましょうか司さん?」
蹴られたのかな?そう思って別の過ごし方を提案してみる。
実は僕もちょっと期待してる。だって、司さんが迷ってるみたいだったから。
まだ視線をあちこちに飛ばしながらしどろもどろなんだもん。
「俺……その……ゴミ出すの忘れたかな……」
「えー!ダメですよ溜め込み!う〜んでも、また来週出せますよ」
「う、うん……そうなんだけど、あと……昼間から、ビール……」
「だから今日歩きだったんですか?まぁ、司さんはお休みだったからそういう過ごし方もアリですよね」
「あ、梓……!」
羞恥心をいっぱいに滲ませた縋るような目で、司さんが僕を見る。
彼が何を言いたいのかは分かるんだけど……ノラクラかわすと、司さんが可愛いから意地悪をしてしまいました。
そろそろ落としどころかな?僕は司さんに喜んでもらいたいし。
だから、こう言ったんだ。
「僕に言ってます?」
「……っ、先生……!!」
来た!
こうなったらもう確定だ。僕も頑張らなくっちゃ!
「どうしたの司君?ハッキリ言ってくれないと先生分かんないよ」
「……い、言わない……隠してる……悪い事したけど、隠してる!!先生には言わない!」
むちゃくちゃ恥ずかしそうな司さんがむちゃくちゃ可愛い。
っていうか、何も思いつかなかったんですね司さん……考えたようで考え無しです。
「あらー……司君いつになく反抗的だね。
仕方ない、いい子になってどんな悪い事をしたのか先生に謝ってもらわないと!
おいで!お尻ぺんぺんするから!」
「う、ぁ……ごめんなさい……」
「ダメだよ。ズボン、緩めるだけ緩めて。先生がお膝の上で全部脱がせてあげるから」
司さんは何度も頷いて……ズボンのボタンを外してチャックを下ろしていた。
ダメだ僕も頭がバカになりそう。いつもと違うこんな司さんがすっごく良い。
司さんのベッドに座って「早く早く」って急かしたら、彼が大人しく膝に乗ってくれた。
だから言った通りズボンと下着を剥ぐ。
あ、でも叩く前に彼に一言言っておいてあげなくちゃ……
「司さん……」
「!?」
膝の上で司さんがビクンと震える。
急に“先生”じゃなくなったらルール違反かな?でも、これだけは“僕”から忠告してあげたい。
「お仕置きされる理由も無しで始めちゃって、貴方どうやって終わらせるつもりですか?
何を許してもらうつもりですか?」
「あっ……!」
「叩かれてる間に、頑張って、理由でっち上げてくださいね?」
うん、忠告完了。僕は、司さんのお尻に手を振り下ろす。
バシィッ!
「ぅあっ!あ、ず……!ど、どうしよう!?」
「さぁ司君?君はどんな悪い事をしたんだい?ん?」
ビシッ!バシッ!
「ひっ!あ、あのっ……!あの……!」
「まだ言わないのか強情な子だな〜〜」
バシッ!バシィッ!
「あぁっ!うっ!」
僕は強めに叩く。その方が司さんが可愛い声を出してくれるから。
あと、僕は司さんのお尻が真っ赤になって泣いているところが好き。
司さんだって厳しいお仕置きの方が好きっぽいし。
叩きながら僕は話しかけた。
ビシィッ!バシィッ!
「ね、司君……話す気になった?」
「せんせっ……俺っ……うぅっ!!」
「どうして隠すの?そんなに悪い事なの!?犯罪!?」
バシッ!バシィッ!バシッ!
「やっ、あぁぁっ!ちがっ……!うぅ!」
苦しそうな声を上げる司さん。
まだいい理由が思いつかないみたい。
僕もそっちの方がたくさん彼をお仕置きできて都合がいいから、
もっと司さんの思考を散らすために司さんに話しかけた。
「ねぇ司君、君はいくつ?」
「えっ……?」
ビシィッ!!バシィッ!
「あぁぁっ!んっ、あっ!」
呆けた声を出す司さんのお尻を叩いたら身を捩ってる。可愛い。
こんな質問、何度となくしてるのに……“理由”を考えるのに必死だったのかな?
「司君はー何歳?」
「にっ、じゅう、よん、……24、です……!」
「そうだね。もうとっくに大人で、学校なんて卒業して、僕のことを“先生”なんて呼ばなくていいのに、
君だけずーっと先生にお仕置きされてるんだよ?子供みたいにさ、恥ずかしくない?」
「ご、ごめんなさい……!」
「恥 ず か し く な い の ?」
ビシッ!バシッ!パァンッ!
「はっ、あぁっ!恥ずかしいです!」
ふっふ――ただの教師と生徒プレイだと思ってたでしょう?
違うんだよ。僕だけが先生なの。司さんは今の司さん。ややこしいでしょ?
でも司さんはこれが好きみたい。
僕が何か言うたびに、司さんが何か言うたびに、お尻を叩く手を強める。
司さんのお尻赤くなってきちゃって、声も震えてる。……恥ずかしいってのもあるんだろうけど。
「だったら、早く謝っていい子になろう。このままずーっと君だけお仕置き、卒業できないよ?」
「いっ、いやっ……先生っ……!!」
「早く。何をしたの?」
優しい声で問いかける。
さすがに何か適当に言うかなって思った。
でも司さん……呻きながら首を左右に振ったんだ。
状況だけで言えば“言わないor言いたくない”。でも彼の真意を僕は知ってる。
(思いつかないんだ……)
だとしても、司さん……お手上げだって、事実上の、降伏宣言だって、それだけは、やっちゃいけなかった。

僕が貴方に意地悪しちゃうから。

「あ、そう。いいよもう。先生怒った。もう怒った」
ビシッ!バシィッ!
「ご、ごめんなさい!せんせっ、ごめんなさい!痛い!」
「痛いでしょ?でも、それでもどうしても言わないならそれでいいよ。
たぶん、そこまで隠すからには相当に悪い事だ!だったら、先生は君を勝手にたっくさんお仕置きします!」
「やっ、やだぁぁぁあああっ!」
「だったら隠さなきゃいい。お尻真っ赤になっちゃって。でもダメ。泣きながら謝って」
司さん、本気で嫌がってる。声が怯えてる。
けれど僕は司さんの赤くなってるお尻を思いっきりぶった。
バシッ!ビシィッ!バシィィッ!
「ひっ、ぁっ!やだぁぁっ!先生ごめんなさい!ごめんなさぁぁぁい!」
(ちょっと、キツイかな……!)
暴れる司さんを押さえるためにぐっと力を入れる。
でも、司さんに余裕がなくなって来たって事は僕が有利になっていくって事だ。
泣かせるのも混乱させるのも容易いってこと。
僕はそれっぽく怒鳴る。
「司君!こら暴れないの!いい子にしないと縛るよ!?」
「うぁあああん!やだごめんなさぁぁああい!」
声は一段大きくなったけど、抵抗は弱まった。よしよし。
僕はどんどん司さんのお尻を叩く。
真っ赤なお尻は控えめな抵抗をしながら、彼は声を上げて泣いていた。
バシッ!パァンッ!バシィッ!
「痛いぃ!先生痛いよぉっ!ごめんなさぁぁぁい!」
「ダメだよ!司君はもっとお尻真っ赤にしないと反省しないでしょ!?何悪い事したかも言わないし!」
「うわぁああああん!ごめんなさい違うぅぅぅっ!!」
泣きじゃくる司さんが可愛くて、ドッキドキしながらお仕置きしていたら……
司さん、混乱がピークになっちゃったんだろうね。
「ひっく、ごめんなさぁぁぁい!嘘つきましたぁぁっ!」
「はい!?」
「俺、悪い事なんかしてなっ……ごめんなさい!せっ、先生に、お仕置きしてほしかったからぁぁぁぁ!!
悪い子だって、嘘ついてぇぇぇ!!うわぁああああん!」
「…………」
司さん……司さん、司さん……貴方って人は……
(バカじゃないの♥!?)
もう最高だった。知ってたよ司さんは最高だ。
僕はワザと手を緩めて言う。努めて冷静に。
「困るよ」
「うっ……ぇ……?」
「そういう事されると困る!先生忙しいんだからね!?
司君をお仕置きする以外にもいっぱい仕事があるの!分かる!?」
ピシッ!パシッ!!
「ぁ、んっ!ご、ごめんなさい……!」
「司君、そうまでして先生にお尻を叩いてほしかったの?!お尻叩かれるの好きなの!?
先生そういう子は初めて見たよすっごく困る!そういう嘘やめて!」
「ご、ごめんなさいっ……ごめんなさい!!」
僕が責めるように言いながらお尻を軽く叩いていると、司さんは恥ずかしそうに声を震わせて平謝りしていた。
可愛くて笑いそうだよ我慢我慢……!!
我慢しながら続けた。
「う〜ん、でも……今後、司君がお仕置き欲しさにワザと悪い事したら困るし。
こうしよう!司君、今後はきちんと正直に言うんだよ?
“先生にお尻ぺんぺんしてほしくなったから、お仕置きしてください”って。分かった?言える?」
「は、はい……」
「じゃあ、練習してみようか!」
「えっ……?」
上ずった声。僕は急かす様に彼のお尻を叩いた。
パンッ!パンッ!
「練習!言って!」
「っ、……あ、あの……先生、に……お尻ぺんぺん、して、ほしくなったから……
お仕置きしてください……」
「……45点。本番ではもっと大きな声でスラスラ言ってね?」
「は、はい。ごめんなさい……」
本当は100点あげたっていい。可愛いって観点から言えば。
司さんは息を乱しながら、本当に恥ずかしげな震え声だった。
僕は思わずにっこり笑って……もう一度司さんのお尻を思いっきり叩いた。
ビシィッ!!
「うわぁああああっ!?」
「司君、それから言い忘れてたけど……」
「やぁぁっ!いっ、痛っ……先生っ!?」
「“嘘をつく”のは悪い事だからね?今からそれのお仕置き」
「ひっ……うわぁあああああん!!」
バシィッ!バシッ!ビシィッ!
僕は司さんのお尻を強く叩きまくって、もう一度思い切り泣かせたのでした。


で、お仕置きが終わったら司さんを抱きしめて落ち着かせるまでが先生タイム。
一旦泣き止んだら、司さんは見違えるように元通り、クールでカッコよくなって……
「あ、ごめんな梓……気になるか?」
「い、いいえ……気になりません……!」
ふぁぁぁっ……!タバコ吸う姿もカッコいい!!
司さんの副流煙なら吸ってもいい!!
「梓……だからさ、敬語……」
「取っちゃっていいんですか?取っちゃうと……」
まだ僕の意地悪魂が残っていたようで……
「司君……」
「ちょっ……!」
「いい子にしてる?」
「あ、ぅ……二回目は……!!」
一気に涙目になって、顔を真っ赤にする司さんが面白くて可愛くて……
「嘘ですよ。フェイントです」
「あ、クソッ!!」
悔しがった後に、本当にしゅんとした笑顔で言うんだもん。
「バカ……」
「(うわぁあああああっ!今度学校に連れ込んで机に跨らせてお仕置きしたいよぉぉぉっ!)
ごめんなさい司さん!」


司さんは、やっぱり最高の恋人でした♥
僕、将来教師になろうかな?



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【作品番号】tukaboku


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