戻る

教会のいたずらハロウィン
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
こは王都から外れた森の奥深くにある小さな教会。
若い神官のオーディーが保護者代わりに、幼い4人の神官、カロム・マチア・ハノエ・クーアと慎ましやかに暮らしている。
最近は変態一名が追加されたけどそれもご愛嬌。
今日も平和で穏やかな一日が始まっていた。――と、思いきや。


「オーディー様!!オーディー様ぁ!!」
突然キッチンからマチアの叫び声が上がる。
大急ぎで駆け付けるオーディー。
「どうしましたマチア!?またあの変態に何かされましたか!?」
「ち、違うんです……!これ……!!」
マチアは、オロオロしながらも何かを指差した。
そこには大きなお皿が一つ。……しかし、昨日まではハロウィンケーキが乗っていたはずだ。
結構な大きさあったカボチャのケーキは、食べ残しと思しきスポンジ屑やクリームの残骸を残してすっかり消えていた。
「これは……」
「頑張って作ったのに……」
しゅんとするマチアを、慰めようと手を伸ばしたオーディー。
すると次の瞬間。
「うわぁああああああっ!!」
今度は団欒室の方からハノエの悲鳴が響く。
「ハノエ!?」
「行きましょうマチア!」
「は、はい!」
急いでハノエの元へ駆け付ける二人。
ハノエは真っ青な顔をして震えていた。その手には一冊の本が。
「ハノエ!?どうしましたハノエ!!」
「あ……ぁ……」
「ま、まさかクーアの!!」
オーディーは慌ててハノエから本をひったくる。が、それはオーディーの危惧していた本ではない。
しかしながら……
「あ……」
手に取ったその本、開いたページ全体に大胆に落書きがしてあった。
さすがにすべてのページというわけでは無いが、ちらほらとそんなページがある。
「こ、これは……困りましたね。クーアの絵、でしょうか……?」
「………………」
ハノエは呆然として固まっている。
その間に、マチアが他の本もチェックしていた。
「オーディー様……これと、これも……」
「あぁもう。クーアったら……」
オーディーは頭を抱えた。マチアは苦笑い。
この部屋には子供達が娯楽で読む本が置いてあるので、貴重文献は無いものの、
本はどれも寄付でもらったり、少しずつ買い足したりして、皆で大切に読んでいたものだ。特にハノエが。
そのハノエは相変わらず死んだ目をして固まっていた。
マチアが心配して声をかける。
「ハ、ハノエ、元気を出して……」
「………………」
「ほら、パン屋のおじ様が、また譲ってくださるかも……でなきゃ、また、買に行こう?」
「……落ち込んでるわけじゃないんだマチア」
「え?」
「………怒ってるんだよ」
ひどく、抑揚のない声でそう言ったハノエ。
オーディーもマチアも、その妙な迫力に顔を見合わせる。
そしてオーディーでさえも遠慮がちに慰める。
「わ、私からもよく言って聞かせますから……ね?ハノエは、あまり怒らないで」
「………………」
「そういえばケキャキャさんはどこへ行ったんでしょうね!?」
話題を変えようと、そんな事を言いながら辺りを見回す。
すると探している人物はすぐにやってきた。
「マチア!ハノエ!ふ、二人ともここだったのか!可愛い悲鳴が聞こえたから、
絶対お風呂か着替えを覗かれたんだと思って助けに行ったのにいないから!!」
「……ハノエ、どうしても怒りが治まらないならケキャキャさんを殴ってもいいですよ」
「えぇっ!!?」
来て早々に殴られる許可が下りたケキャキャは驚くが、マチアは困りながらも首をかしげていた。
「あの、ケーキを食べちゃったのはケキャキャさんですか?」
「んんっ?ケーキ?食べてないよ?」
「嘘を言ってるんじゃないでしょうね!?」
オーディーに凄まれてケキャキャは焦りながらも首を振る。
「嘘じゃないよ!俺が食べるなら皆を誘って食べるし!
ほっぺに付いたクリームを舐めたり舐めてもらう展開を期待して!!」
ゴスッ!!
オーディーにぶん殴られるケキャキャの傍でマチアは考え込む。
「じゃあ、ケーキを食べたのはカロムかな……?
クアちゃんはあの量を食べるとは思えないし。それとも二人で?
で、でもどうして、今日になって二人は急にこんなイタズラを……」
「ゴフッ……ハロウィンだから、かな……?」
「えぇ……そんな理由……?」
ケキャキャの推理にマチアが呆れ気味に声を出す。
オーディーもこの時には考えを巡らせていた。
「何にせよ、クーアとカロムに色々聞いてみないと。外に出かけたのでしょうか?」
「ど、どこ行くのハノエ?」
黙って立ち上がったハノエは、マチアの方を見ずに淡々と答える。
「…………まずは、この中を徹底的に探すよ。いなかったらきっと”死の森”。クーアは人のいるところへは行かない」
「心ゆくまでクーア狙いだねハノエ!よーし、俺も頑張って二人を探すぞ!ゲへへ!」
「……マチア、頑張ってあの二人より先に見つけましょう。特にクーアを。
まずは皆で……この教会の中を探した方がいいですね」
「は、はいっ!!」
こうして、皆でまずは教会(=家)の中を探すことに。
ケキャキャとマチアとハノエが一緒に行動していた。
ピリピリムードのハノエに、ケキャキャは明るく話しかける。
「ハノエはまずどこを探すの?」
「クーアの部屋」
「そっか!寝てるかもしれないもんね!マチアマチア!カロムを探すなら
“カロムー!唇にキスしてあげるから出てきてー!”って叫ぶと出てくるかもよ!」
「えぇっ!?嘘は言えませんよケキャキャさん!!」
「口にキスしてあげないの?」
「し、しません……神に反する行為です……!誰にも、できません!!」
「えぇえええ!じゃあ俺にもぉぉぉぉっ!!?」
「ご、ごめんなさい……!!」
「そ、そんなぁ……で、でもさ!じゃあさ!俺がマチアのお尻にキスしてあげるのはアリ!!?」
真っ赤な顔のマチアが着々とセクハラを受けているのに、いつもと違い助けないハノエ。
今日の彼は、狩人のように周辺に鋭く目を光らせていた。
「いない……いない……」
「ばぁ!」
「……クーア……どこにいる……」
「“いないいないばぁ”の流れを無視されちゃったなぁ。にしても、クーアもカロムもどこへ行ったのかな?
呼んでみようか!カロム―!マチアが俺とお風呂に入ってくれるってさ――!カロムも入ろうよ――!
ついでにクーアもハノエもオーディーも入ろうよ――!!」
「入りませんッッ!!」
ケキャキャの発言に勢いよく突っこんだのはオーディーだった。
振り返った皆にオーディーは、幾分か声のトーンを落として言う。
「子供達も誰も、貴方となんか入りませんからね!」
見れば、彼の腕の中にはすやすやと眠るクーアが丸まっていた。
「わぁ可愛い!さっそくベッドで俺の隣に寝かせよう!」
「……今、両腕が塞がって貴方を殴れないのがものすごく悔しいです」
「起こしましょう」
いつものやりとりに割って入って来た冷静過ぎるハノエ声に、オーディーは一瞬たじろぐ。
「え……?しかし……」
「クーアからだけでも事情を聞く必要があるでしょう?ねぇ?」
普段なら、眠っているクーアを無理に起こそうなんて言い出すハノエではない。
しかし、今の彼はどこか恐ろしいような妖艶なような笑顔で言う。オーディーも思わず頷いてしまった。
「そ、そうですね……」
「マチアはカロムを探していてもいいよ。僕はクーアに“話”があるから」
「ハノエ、あの、くれぐれもお手柔らかにね?」
「え、俺は?」
「行きましょうオーディー様」
無視されたケキャキャと、マチアは取り残されて、クーアを抱いたオーディーとハノエは団欒室へ戻っていく。
「う〜ん……このままオーディー達に付いて行けばいい光景が見られそうなんだよなぁ。
(マチアはこのままカロムを探すかい?)」
「け、ケヤキャさん!!“いい光景”って何ですか……!ハノエ……クアちゃんにきつく当たらないといいけど……」
「ハッ!俺としたことがついつい本音を!!
改めて……ん゛んっ、マチアはこのままカロムを探すかい?」
「そうですね……カロム、出て来づらくなってたら心配ですし……」
「マチアは優しいなぁ……ハァハァ、ドキドキ」
「ふふっ、ケキャキャさんもそんなに心配ならご一緒に探しましょう?」
「そっかこれでマチアと二人きりィィィィ!!」
「はい!二人で頑張りましょうね!」
清らかな笑顔のマチアとケキャキャは引き続きカロムを探す事となった。



一方のオーディー+クーアとハノエ側では。


「クーア、起きてくださいクーア!」
「んんっ……」
団欒室の絨毯の上で、オーディーが抱きかかえるようにして、クーアを揺すっている。
わりとすぐにふわりと目を開けて、瞬きをしたクーア。
オーディーがハノエより先手を取ろうと話しかける
「クーア、貴方――」
「おはようクーア!君に聞きたい事があって!」
オーディーの言葉を押しのける勢いでハノエがクーアに近づいて声をかける。
あまりの至近距離にクーアが驚いていたくらい。
「は、ハノ……エ……?」
「本にラクガキをしたのは君で間違いないの?ハロウィンだからカロムと組んでイタズラを?」
「ぼ、僕がアイツと手を組むわけないでしょう……!!」
「そう。なら、君が一人で本にラクガキするイタズラを楽しんでいたわけだね」
クーアの目も暗い光を灯したけれど、ハノエの笑顔の迫力も負けてはいない。
結果、クーアが迫力負けで押し黙ってしまう。
「…………」
「ねぇクーア」
「ひっ……!」
もはやその迫力で、クーアは肩に触れられただけでビクついていた。
「分かんないかなぁ?あぁ、分かんないかもね……君は文字を読むのも書くのも得意ではないもんね。
君にとっては文字は何かの記号とか……絵のように見えるのかもね。いつも絵本を一緒に読むし、
だからどんな本を見てもただの“絵の描いた紙束”に見えているのかもね。
今日の事も、君にとってはただ、“絵の上に絵を描き足した”みたいな感覚なのかな?
さして、重大な事に思ってないのかもしれないね」
ハノエは張り付けたような笑顔で、ただただ、クーアに言い募る。
クーアが何か言う隙を与えないほどの、彼らしからぬ饒舌だ。
小さな弟神官の顔が青ざめていく様子は果たして見えているかどうか……なおも、ハノエの言葉は続く。
「でもね、違うんだよクーア、全然違うんだよ、そう、何もかもが違う!!根本的に違うッッ!!」
「は、ハノエ、落ち着いて……」
「オーディー様は黙っててください!!」
オーディーが押されて口を噤んでしまう、そんな迫力のハノエ。
最初の冷静具合も吹き飛んで、怒鳴り散らす勢いだった。
「本ってのはね、知識の結晶なの!想いの集積なの!!
分かる!?皆、読んでくれる誰かに何かを伝えたかったんだよ!!
ただの絵や文字の羅列じゃないんだよ、意味を成してるの!大事な大事な大事なものなの!
君はそこに書かれている人々の想いを、願いを、踏みにじったんだよ!
ねぇ分かる!?反省してる!?何だって、今日はこんな事をしようと思ったの!?」
「オー、ディー、様ぁ……!!」
「君は僕と話をしてるんでしょう!?」
「ひゃぁぁっ!!」
オーディーに縋りつこうとしたクーアの手をハノエが強引に引く。
強引にハノエに向き直らされたクーアは
「だ、だって!!今日はハロウィンだし“皆”浮かれてたんだ!!
いつもは苦しくて悲しくて、嘆いてて、そればっかりで!
でもハロウィンはすっごく楽しくて、いい気分で、皆で
一年に、一回くらいこんな素敵な日があっていいよねって……!
何か、とびきり楽しいイタズラを、したっていいよねって!!」
完全に涙目で混乱したように喚きたてている。
さすがにハノエのガチギレ状態とも合わせて、オーディーは宥める方に回る。
「は、ハノエ、クーア“達”も悪気があったわけじゃないようなので……、ね!
怒るのもそれくらいにして、ほら、悪い子はお仕置きをしてしまいましょうか……」
「そうですねオーディー様、それがいい。さぁおいでクーア!」
「えぇええっ!!?」
「や、やだぁぁっ!!」
オーディーにすれば“私がお仕置きしますよ”の合図だったのに、
ハノエがクーアを引っ張ってお仕置きする気満々なので驚いてしまった。
しかしながら
(ま、まぁ……たまにはこういうのも、いい薬になるのかも……?やり過ぎないように見ていれば……)
今日はハノエの勢いに振り回されっぱなしのオーディー。
このまま静観する事に決めた。
けれど“外野”はそうもいかない。クーアのピンチに威嚇のようにあらゆる物をガタつかせ始める。
するとハノエはイライラしたように言う。
「あぁ、うるさいな。どうしたんだろう……ハロウィンの悪霊がいるのかな?
お仕置きの邪魔になるのなら、僕の持てる全力で消し飛ばしちゃおっかな?」
「みんな逃げてぇぇぇッ!!」
クーアの悲痛な叫び声でその場は再び静まり返る。
ハノエは冷たい視線で辺りを一瞥した。
「逃げないなんて、いい“お友達”を持ったねクーア。皆に見られながらのお仕置きどんな気分?」
「うぅっ、気分も何も、いつも見られてるよ!ひっく……ハノエが怖いよぉ……!!」
「僕は怒ると怖いんだ。覚えておいて」
「助けてオーディー様ぁ!」
「貴方がイタズラをするからですよクーア……」
「酷い!どぉして笑ってるのぉっ!」
「そ、そうですね。すみません……」
そう言って表情を引き締めるオーディー。
本人達は真剣なのだろうけど、どうも微笑ましく見えて苦笑いになっていたらしい。
ハノエはクーアを膝の上に乗せて、お尻を丸出しにしてしまうと声をかけた。
「お喋りは終わりにしようクーア。舌を噛まないようにね」
「は、ハノエ……お願い……!」
「分かってる。しっかり反省させてあげるから!!」
パシッ!!
「ひぅっ!そんなお願いじゃないぃぃっ!」
「そう、じゃあどんなお願い!?」
パシッ!!パシッ!!
「んあぁっ!!や、やぁぁっ!!いっ、痛いってばやだぁぁっ!!」
「“やだ”じゃないよ!痛いに決まってるじゃないお仕置きなんだから!
君が、本にラクガキなんかするからいけないんだからね!?」
「本いっぱいあるんだから少しくらいいでしょ!ハノエのケチ――っ!!」
「そういう問題じゃないんだよ!!」
言い争う言葉はケンカのようだけれど、それは確かに“お仕置き”で。
ハノエがお尻を打つたびにクーアはもがいて痛がっていた。
パシィッ!パンッ!パンッ!!
「あっ、あぁあああんっ!!」
「本当に、事の重大さが分かってないんだね!!さっきあれだけ説明したのに!」
「わ、分かんない!分かんないぃぃっ!!」
「なら仕方ないね。分からない事は分かるようになればいいんだよ!
って事で、分かってくれるまでお仕置きだから!」
「やだぁぁっ!痛いよ離してよぉぉ!!」
パンッ!パンッ!!パンッ!
例え子供の力でも、思い切り叩き続ければそれだけ、クーアのお尻は赤みが差していく。
「う、ぁあっ!!やだぁぁっ!ハノエ、やだよぉぉっ!」
「クーア、君に分かって欲しい事は単純明快、一つだけ。
“もう二度と、本にラクガキはするな”!分かった!?」
「ひゃぁぁんっ!!」
「今度やったら“お道具”、使ってやるから!」
「うわぁああああん!!分かったからやめてぇぇッ!痛い痛いよぉぉ!!」
「本当に、分かってるのかなぁ……!」
パシッ!!パシッ!!パンッ!!
「ひっ、うぁあああっ!!ハノエぇぇっ!!お願いだよやめてよぉっ!」
「…………」
クーアのお尻を叩いているうちに、幾分か冷静さを取り戻してきたハノエ。
お尻が赤いのも一目見れば分かるし、涙声で呼びかけられると可哀想にもなってくる。
「クーア、もうしない?」
「うん!うん、もうしないからぁぁっ!!本にラクガキなんてしないからぁ!」
パシッ!!パンッ!!パァンッ!
「あぁんっ!もう、ぶたないで!!分かった!分かったよ!
ハノエが本の虫だってのは分かったよぉぉ!!」
「……いいんだよ。一番大切な事は分かってくれてるみたいだから」
バシィッ!!
「やぁああああっ!!」
「クーア、じゃあ分かりやすい話をしてあげる」
「やだもう!下ろしてぇッ!ふぇぇっ!!」
「“お仕置き”だってこと、忘れないでね。このまま聞いて」
「ひぃっ!!」
赤くなっているお尻にまた手を振り下ろして、ハノエは続けた。
「君だって大切な本、いつも持ってるじゃない。アレに落書きされたらどう思う?」
「!!」
クーアが反応したのはお尻を叩かれたから、だけではないようだった。
「んっ、ぜ、絶対許さない……!!」
「どうして?君はあの本が読めるの?」
「読めないよ!でも、何が書いてるかは分かる!皆への冒涜だ……!!」
「どの本だって同じだ。そういう事だよ。」
パシッ!!パンッ!!
「は、うぅっ!!ご、ごめん、なさい!!……もう、しない……」
「皆も止めてくれたら良かったのにね」
ハノエが虚空に向ける冷たい視線。
得体の知れない何かがサーッと視線から逃れるように散っていく。
そんな様子を見ていたオーディーは、ここぞとばかりにハノエに声をかけた。
「お見事でしたねハノエ!」
“もう終わりでしょう?”と、いう意味をこめて言うとハノエも困ったような笑顔を作ってクーアを解放した。
まだぐすぐすと泣きじゃくっているクーアを、オーディーが抱きしめる。

ハノエとクーア側はこれで一件落着のようだ。


もう一人の犯人、カロムが帰ってきたのはクーアがお仕置きされてからずっと時間が経って、夜になってからだ。
玄関からではなく、自分の部屋の窓から帰ってきたカロムは……
「お帰りなさい」
「いっ……!!?ま、マチアちゃん!!」
急についた部屋の明かりと、まさかの自分の部屋にいたマチアに驚いていた。
「こんな時間までどこへ行ってたの?みんな心配してたよ?お腹空いてない?
……あんな大きなケーキ、一人で食べたんだからお腹は空いていないかもね。
――と、いうか……どうしたのその恰好?」
「あ、はは……なんかちょっと、気分が盛り上がっちゃって……」
愛しのマチアに捲し立てられて、気弱く笑うカロム。
せっかくの軍服仮装も迫力をどんどん下げるしゅんとした表情で、カロムはマチアに尋ねた。
「あの、マチアちゃん、やっぱり怒ってる……?」
「もちろんだよ!あのケーキは皆で食べるものだったのに!」
「ご、ごめん……マチアちゃんの手作りケーキだと思ったら我慢できなくて!
食べたらおいし過ぎてつい……!」
「か、カロムったら……!!」
マチアは恥ずかしそうに頬を染めたものの、ブンブンと頭を振って、
再び困った様な怒った様な顔をする。
「クアちゃんもね、本にラクガキしてハノエに叱られたの。今日はいたずらっ子が多いのかな」
「げっ!?マジかよ……よりによって本にラクガキなんて……!
ハノエが本気で怒るに決まってるのに、クーアバカかアイツ!!」
「……自分は賢いつもりなのカロム?僕のケーキを食べて、僕が本気で怒らないと思ってるの?」
「――……あー……ははっ!……俺の、方が〜、はるかにバカだよな……」
「そうだよおバカさん。さぁ、門限破りの分もお仕置きしてあげるからお尻を出して?」
「え゛!!?」
マチアのまさかの発言を受け、カロムは一気に赤面する。
「ほ、本気でマチアちゃん!?お、俺っ……!あのっ……!」
「嫌がってもダメだよ!ほら早く!カロムはお兄ちゃんでしょ!」
「でも、でも……!!」
「もうカロム!仕方ないなぁ!!」
「ひぃぃぃっ!?」
強引に、マチアに、ベッドに押し付けられるようにして、お仕置きの体勢を取らされてしまう。
カロムはドキドキしてしまって抵抗できない。
それに加え、至近距離で囁くような天使の声が。
「暴れちゃダメだよ?」
「はっ、ハイッ!!暴れません!!」
「いい子だね……」
「うぅ……マチアちゃん……!!」
これからお仕置きだというのに、カロムは顔を真っ赤に恥ずかしがるばかりだった。
自分でも何が何だか分からない。夢の中にいるようだった。
「カロム」
「!!?」
「きちんと、いい子で、反省して、神様に誓ってね“もうイタズラはしません”って」
「わ、わかっ……(あ、あれ?……何か力が……)」
軍服仮装の短いズボンが下着と共に下ろされて、マチアが腰を撫でられると
触れられた個所は温かく、全身から力が抜けていくような気持ちのいい感覚がして……
ビシィッ!!
「うぁあああっ!?」
叩かれた時にビックリするほど痛かった。
マチアの普段の腕力からは考えられないほど。
ビシッ!バシッ!!
「あ、わっ………なぁっ!?わぁあっ!ごめんなさぁぁぁい!」
「カロムったら今日は悪い子なんだから!めっ!」
「や、やめて!マチアちゃっ……ぃいってぇぇ!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃっ!!」
予想外の痛みに喚いて、抵抗しようにも体が思うように動かない。
いっきに冷や汗が吹き出す。
「い、痛い!!ま、マチアちゃん頼む!許してくれ!!」
「ダメだよ!まだ始めたばかりじゃない!」
マチアの様子だけはいつものほんわかした感じなのだが……
「カロムには2つ罪がある事だし、泣きながら“ごめんなさい”してもらおうかな」
「あっ……うぁあ……!!」
この発言がシャレにならなさすぎて、カロムは恐怖を感じていた。
そして……
バシッ!!バシッ!!バシィィッ!!
「あぁああああっ!やだぁぁっ!うわぁああああん!ごめんなさぁぁい!!」
間もなく泣かされる事になるカロムだった。

根は優しいマチアなので、泣きわめいていたらすぐ許してもらえたのだけれど、
好きな子に醜態を晒してしまったのでカロムは凹んだ。
けれども、抱きしめて撫でてもらったのはいい思い出になった複雑なカロムだった。


そしてケキャキャは、結局どっちのお仕置きシーンも見られなかったわけだが、
元気にオーディーに絡んでいた。
「ハノエがクーアをお仕置きして、マチアがカロムをお仕置きして……
これは!残りは俺がオーディーをお仕置きするしかないぞ!
へいオーディー!お菓子は持ってる?!お仕置きorトリート!!」
「どうぞ。まずいクッキーです」
「わー俺が食べる前に“まずい”って言っちゃう?ふっふ、そういうイケナイ子はやっぱりお仕置き……」
「カロム、クーア……ケキャキャさんが遊んでくれるそうですよ」
「え!?ナニナニ?遊んであげちゃう♪ついでにお仕置き秘話も聞かせてよ〜二人とも!」
ナチュラルに、カロムとクーアの相手を振られて喜ぶケキャキャだが……
「そっか……ケキャキャ遊んでくれるんだ……」
「へー、遊んでくれよケキャキャ……」
「あ、あれ??」
明らかに何かストレスの溜まっていそうな二人に、笑顔でロックオンされて……
「ぎゃ――っ!ちょぉぉっと!二人とも!もっと優しく遊んで!優しく俺で遊びなさい!
俺は結構デリケートなのぉぉぉ!あ、あ゛!でも、ちょっと幸せッ♥♥」

クーアとカロムにハードに遊ばれて楽しそうだった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

気に入ったら押してやってください
【作品番号】kyoukaiharo
戻る