戻る

クーアの全知全能ゲーム
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
こは王都から外れた森の奥深くにある小さな教会。
若い神官のオーディーが保護者代わりに、幼い4人の神官、カロム・マチア・ハノエ・クーアと慎ましやかに暮らしている。
最近は変態一名が追加されたけどそれもご愛嬌。
今日も平和で穏やかな一日が始まっていた。のだが
最年少神官のクーアの部屋で……

「もうヤダ皆嫌い……!僕の事怒って、除け者にした事、後悔させてやるんだから……!
ケキャキャ、次、読んで!」
涙目でブツブツと呟きながら、クーアが怪しく光る魔法陣を描いた床に厳つい木の杖を乗せて何かしている。
隣にいる変態=居候のケキャキャが促されるまま、黒くて分厚い本を朗読する。
「“そこへ先ほど調合した液体Aを3滴垂らします”。だって」
「皆、僕の思い通りになればいい……!絶対、泣いて謝っても許さない……!次、読んで!」
ケキャキャの方は本に載ってる文言より、一生懸命杖に細工(?)しているクーアの
裾の短い神官服から覗く生足に夢中になりつつ文章を読み進める。
「“最後に汚れた魂を生贄に捧げ、完成です”って」
「…………」
「ん?」
今までクーアの生足ばかり見ていたケキャキャはここで気が付いた。
クーアがじっと自分を見ている事に。
「……クーア、なぜ俺のイケメンフェイスをじっと見てるのかな?」
「…………ケキャキャ」
「いや、待ってくれ。まさかこの清廉潔白な俺の魂を生贄にしようなんて……」
「カロムもハノエもオーディー様もケキャキャは汚らわしいっていつも言ってるし……」
「おちっ、落ち着いてクーア君!!ボクチンの美しい魂を捧げたらこの儀式は失敗間違いなしッ!」
「安心して……ケキャキャはいい生贄になるよ……!」
狂気に満ちた笑顔でクーアがケキャキャに向けて手をかざす。
「や、やめっ……ヤメテェェェェェエッ!!」
「                        」
クーアが一般人には聞き取れない呪文を唱えたが最後だった。
「ここの皆にセクハラができない生活なんてイヤダァァァぁぁ!!」
最悪の断末魔と共に、辺りは激しい光と煙に包まれ……
そのモヤモヤが晴れると
『ぐぁあああああっ!本当に杖になっちゃったよぉぉぉぉぉっ!!ヤダ元に戻してぇぇぇぇっ!!』
世にも奇妙な喋る杖が完成した。
近くには抜け殻のように横たわるケキャキャの体がある。
「よし!成功だ!」
珍しく生き生きした表情のクーアは嬉しそうだがケキャキャ(杖)はまだ喚いていた。
『クーア!頼むよ戻してくれ!俺杖になんてなりたくないよ!』
「お願いケキャキャ。どうしたら協力してくれるの?」
懇願フェイスのクーアに顔を近づけられたケキャキャ(杖)は、ごくりと喉を鳴らして……
『……う〜ん……じゃあ、このまま俺の事、太ももで挟んでくれたら……少しの間なら』
「こんな感じ?」
クーアは躊躇せずに杖(ケキャキャ)を自らの太ももで挟んで……
『ウオッホォォォォォッ!!可愛い子豚ちゃんとお呼び下さいクーア様ぁぁぁぁぁッ!!
そして俺をお尻で踏んづけて――――ッ!!』
言われるがまま、今度はケキャキャ(杖)の上に座るクーア。そして変態に一言。
「しっかり、働いてね可愛い子豚ちゃん」
『ブッヒィィィィィィ!!仰せのままにクーア様ぁぁぁぁっ!!』
ちょろ過ぎるケキャキャはあっさりとクーアに協力したのだった。


さっそくクーア+ケキャキャ(杖)が向かったのは――
「カロム……」
「あ?あ、やっと出てきやがったな、遅ぇよ!」
「マチアも、ハノエも……」
「クアちゃん良かった……!もう大丈夫?」
「キゲン、直ったんだね。こっちおいでよ」
絨毯の敷いてある団欒室で、勢ぞろいする仲間達。
カロムはぶっきらぼうに親しみを込めて、マチアはほっとしつつ心配そうに、
そしてハノエは笑顔で快く。それぞれにクーアを輪に加えようとしてくれていた。
しかし、ご機嫌斜めでなおかつ最強武器を手にいれたクーアは
皆の好意を素直に受け取れるわけがない。

彼は皆の方に杖をかざして低く言う。
「ここにいる全員が悪い子だ。皆まとめてお仕置きだから」
「はぁっ!?お前何言って……」
「クーア……?」
「あ……!!」
カロムとハノエが怪訝そうな顔をする中、マチアが何かに気が付いたように真っ青になった。
「だ、ダメ!!呪いだ……!!皆ッ……!」
「行かせない……!!」
背を向けて駆け出そうとするマチアに暗い瞳で杖を向けるクーア。
すると――
バリバリバリッ!!
襟周りだけ残してマチアの服の背面が大破消滅した。下着は後方半分を失い舞い落ちる。
「ひゃっ!!?」
裸に前掛け一つの様な姿になったマチアはその場に膝を付いてうずくまり、
半泣きで顔を真っ赤にしてクーア達を見やった。
クーアは驚いてポカンとしていたが……ここで慌てる変態が一人。
『ご、ごめん!!ここでマチアの服が破けないかなって思ったらつい……!!』
「ふーん……やるじゃんケキャキャ。マチアの足止めありがとう」
クーアはケキャキャを責めるでもなく笑っている。
その目が笑っていない笑顔に恐怖を覚え始めるケキャキャ。
『(お、俺……もしかしてドンデモナイ子に加担しちまったんじゃ……!!)』
しかも、残りの子供達は大激怒だ。
「テンメェェェエ!!やっぱり絡んでやがったか変態!!俺のマチアちゃんに……!絶対許さねぇぇぇぇ!!」
「最低ッ!!クーアにこんなことさせるなんて……!!」
『あれぇぇぇっ!!?俺の株だけが大暴落していく!?』
「ふ、二人とも……!!」
ふにゅん。
突然、カロムの腕に絡みつくマチア。不意打ちの柔肌感触に、カロムが真っ赤になる。
「ひゃぁあああっ!?ままままっ、マチアちゅあん!?」
「僕は、大丈夫……!どうにかなったのは服だけだよ。
それより、クアちゃんをあの呪いの杖から引き離してケキャキャさんを助けてあげなきゃ!
ケキャキャさん、呪いの生贄にされちゃってるんだ!」
マチアの必死の訴えに先に反応したのはハノエだった。
「呪い……?クーア、君ってばまた危ない事してるの?!だったら、もうやめて!!」
「そっ、そうだぞクーア!こんな事オーディー様に知れたらお前、またビービー泣くことに……」
「うるさい黙れ!!」
必死に止める兄神官達の言う事も、怒りで興奮したクーアには届かない。
余計に癇癪を起していくだけの、クーアは叫ぶ。
「僕は何だってできるんだ!オーディー様だって、この杖で操ってやる!
言ったでしょう全員お仕置きだって……!!まずはハノエがカロムのお尻を叩いて!」
「クアちゃんやめて!!」
「マチアは絶対そこから動かないでね……!!」
「っ……!!」
クーアの言葉一つでマチアは苦しげに動きを止める。
そして、愛しのマチアのピンチに過剰に反応するのがカロムだ。
「クーアテメェ!!マチアちゃんにこれ以上何かしたら、あっ……!?なっ、何だこれ!?」
「そんな……!体、が勝手に……!!」
カロムとハノエは驚きつつ、強引に、自ら“お仕置き”の体勢を取らされてしまう。
ハノエの膝の上に横たわったカロムを見て、クーアがまた杖を振るった。
「ケキャキャ……仕事だよ」
『えっ??』
いきなり名前を呼ばれたケキャキャ(杖)は驚く。その瞬間にまた衣服の裂ける音が。
ビリビリビリィッ!バリバリバリッ!!
「「うぁあああああああっ!!?」」
悲鳴を上げたカロムとハノエの服は酷い有様だった。
上半身の前面だけ大破消滅した胸が丸見えのハノエ……カロムは所々が大きく避けた服……
特にズボンの破れは下着を貫通して腰回りと裾の布がぶら下がってる状態でお尻が丸出しだった。
黒のタイツも伝線しまくりで大穴がいくつも空いている。
例によってここで焦る変態。
『ぎゃぁあああああっ!!俺の理想が現実にィィィィッ!!』
「「このド変態っっ!!」」
『ごめんなさぁぁぁぁい!!俺も被害者なんだぁぁぁぁっ!!』
カロムとハノエの罵倒デュエットに落ち込む(?)ケキャキャ。
しかしそんな混乱もだんだん別の混乱へと移行していく。
ハノエが大きく手を振り上げたから。ハノエの意思と関係なく。
「やっ……何で……!?カロム!!」
パシィッ!!
「うぅっ!!」
剥き出しのお尻を打たれて呻くカロム。ハノエは余計混乱する。
叩きたくもないのに仲間の、お尻を叩いているのだ。
「ど、どうしよう!!ごめんカロム!!」
「いい!!お前のせいじゃねぇ!っ、あっ!!」
ピシッ!パシィッ!
「いっ……!!」
「や、やめて……クーア!!」
焦った顔でハノエが縋るようにクーアを見る。
それでもクーアは意地の悪い笑みを崩さない。
「だったら、ハノエと位置を交代する?カロムって、馬鹿力だから痛そうだよね?」
「……!」
瞬間、言葉を詰まらせて青くなるハノエ。
代わりにカロムが勇ましく叫んだ。
「いっ、クーア……お前バカだな!俺はこんなの全然平気だぜ!?
今のうちにそうやって好きに遊んでろよ!オーディー様が戻ったら……お前の思い通りになんかなるもんか!
最後に泣くのは絶対にお前だ!!う、ぁ!!」
「そう……じゃあ、オーディー様が帰ってきたら、オーディー様にカロムを叩かせてあげる……ハノエ」
「嫌だよクーア!もうやめて!!」
半泣きになるハノエ。それでもクーアは……
「ハノエは運動不足なんだね。カロムが物足りないってさ。何か道具を使って叩いてやるといいよ。
ねぇその辺に落ちてるもので、どれが一番痛そうだと思う?」
「……っ、い、いや……!」
「ハノエしっかりしろ!混乱するとクーアの思うつぼだぞ!?余計操られる!!」
「でも、カロム……!」
強気に耐えるカロム。混乱で泣きそうになっているハノエ。
さすがに変態でも割と良心は残っているケキャキャは黙っていられなかった。
『クーア、ちょっとやりすぎじゃ……』
「黙れへし折るぞ豚」
『ブヒィィ……』
でも弱い。会話の相手を、これまた泣きそうになっているマチアに変える。
『ま、マチア……オーディーはいつ帰ってくるんだ??』
「3時頃まで戻られない、と……」
『うぅ、まだしばらくか……予定より早く帰らないかなぁ……』
「帰ったって無駄だよ。僕が皆と同じように操ってあげる……そう、みんな僕の思い通り……!」
クーアは笑っていた。
とても暗くて、薄っすらとした不気味な笑い。
ハノエとカロムのお互い辛いお仕置きはまだ続いているというのに。
「カロムごめん……!本当にごめん!!手、が……」
「だからぁっ、お前のせいじゃないって!気にすんな!っ、クーアの野郎……!」
スリッパを握ったハノエは真っ青だ。
対照的に嬉しそうなクーアは悪魔の号令をかける。
「いいモノ選んできたねハノエ!思いっきり叩いてやりな!」
「か、カロム耐えてね……!!」
バシィッ!
「うぁっ!!」
ビシッ!バシッ!バシッ!
「ひっ、いっ!!ちくしょっ……!」
道具で火力が上がったお尻叩きに、さっきよりも苦しそうなカロム。
お尻も薄く色づいていた。
「あっ……!んっ、うぅ!!」
「クーア!クーアお願いだよもうやめて!僕が代わるから!!」
「は、ハノエ……!!」
ハノエの悲痛な叫びとは反対に、彼の手は無慈悲にカロムに振り下ろされた。
一段と、強く。
バシィッ!!
「うぁあああああっ!!」
カロムの大きな悲鳴が上がる。
そしてそれに重なるように――
「クアちゃんもうやめてぇぇぇぇッ!!」
マチアの叫び声も響く。
彼は涙を流して震えていた。祈るように手を組んで。
心なしか彼の周りに温かい光が纏っているように見える。
「おっ、お願い……もう、こんな酷い事はやめて……!!」
その必死の願いは、まるで強い祈りそのものだった。
そしてその祈りが、奇跡を起こす!!
「「動ける!!」」
歓喜の声がカロム、ハノエから同時に上がる。
二人は体勢を崩して立ち上がった。そしてクーアを睨みつけたものだから、クーアは慌てて杖を振るう。
「そんな……!!つ、続けてよ!まだお仕置きは終わりじゃないんだから!!えいっ、やぁっ!」
『あっ!やだクーア振り過ぎ!頭ガンガンする!』
必死に効果の無い杖を振るうクーアはもはや子供そのもの、滑稽で。
兄神官達は小さな弟に遠慮なく凄んでいた。
「な・に・が・“お仕置き”だこの悪ガキチビ!!さーぁこっからはお前がお仕置きされる番だぜ?
あ゛〜〜俺、ムカつき過ぎて、オーディー様が帰るまで待てねぇなぁ?」
「クーア……今日のは僕でも許せないからね……!!」
「ふ、二人とも!クアちゃんはまだ小さいんだから、少し落ち着こうよ……!!」
マチアは宥めているものの、二人の兄の迫力にクーアはだんだん弱腰になってくる。
ぎゅっと杖を握る手に力を籠め、潤んだ目で杖に言った。
「や、ヤダ……ケキャキャ……!」
『俺も……今日のクーアはやり過ぎだと思うよ?でも大丈夫!クーアの服もいい感じに破いてあげるよ!』
「「黙れ変態!!」」
『ブヒィィィッ!!?冗談だよぉ!』
ハノエとカロムの怒鳴り声にビビったのは怒鳴られたケキャキャだけではない。
「ふ、ぇっ……!!」
「大丈夫だよクアちゃん!オーディー様にもちゃんと話して、皆に“ごめんなさい”しよ?
きっと素直にしてればすぐ許してもらえるから……!」
いつでも心優しいマチアは必死で泣き出したクーアを説得する。
しかし、追い詰められて大粒の涙を流すクーアは……
「やだ……やだぁ……皆で僕のこと怒るんだ……!いじめるんだ……!!
い、いっぱい……痛くするんだ……!!嫌い、嫌い!!お前ら全員大っ嫌い!!」
持ち前の捻くれマイナス思考を発動して、ついに理性の糸がプツンときてしまったらしい。
大声で叫んだ。
「“皆”、力を貸して!!」
「「「!?」」」
『え?何?』
その瞬間、小さな教会はただならぬ禍々しさに包まれた。



一方その頃。
買い出し中の、幼い神官達の保護者……年若い神官のオーディーはいつものように
色んな個人商店の奥様方(=気前良いオバちゃん)に大人気だった。
「オーディー様!!これとこれもおまけしちゃう!子供達に食べさせてあげて!」
「ありがとうございます。奥様に神のお恵みがありますように」
オーディーが笑えば奥様方は皆デレデレの笑顔だ。
「いやぁぁぁんっ!オーディー様に会えた事がすでにお恵みだよぉッ!」
「オーディー様ぁっ!うちの果物も見ていっておくれ!!そっちに負けずにおまけしちゃうよ!」
「はい!ただいま参ります!本当にいつもご親切に……!」
くるりと、爽やかに、果物屋の奥様の方を振り向いたオーディーは急にただならぬ空気を感じた。
「!!?」
顔を上げ、自分の暮らす教会を方角を見て驚く。
もうヤバいくらいの赤黒いオーラが一直線に伸びていた。
「あれ……は……!」
「ん?どうしたんだい?」
「い、いいえ……どうやら、末の子が癇癪を起してるよう、な気が……急いで帰った方が良さそうです。
今日ちょっと出る前に叱っちゃって不機嫌だったんですよ」
「まーぁ大変だ!じゃあ、クーアちゃんの好きな苺をたんと入れておかないと!」
「お願いします!!感謝します、奥様……!」
いつも親切な、だいたい家族構成も知れている奥様方から食料を買い込んで、オーディーは走った。
明らかに異常が起きている、愛しい家族の元へ。
「クーア……!子供だけで置いていくんじゃなかった!!
無事でいて皆……あの変態以外!!」



そしてここはクーアが異常を引き起こしている教会。
本人は、禍々しさを纏った杖を持ってガタガタと震えている。
「こ、これで大丈夫……もう大丈夫だもん……!!」
『な、何だ!?何が起こった!?っていうか空気禍々しくない!?クーア大丈夫!?』
「うるさい!!ケキャキャも僕を裏切ったくせに!!バカ!お前なんか……!」
『ギャーッ!!折らないで折らないで――!!俺はクーア様の可愛い子豚ちゃんですぅぅぅっ!』
杖の中のケキャキャに異常はないようで、でも小さなクーアがごつい杖を折れるわけもなく……
折る動作をするだけで精一杯だった。
そして、少し気分悪そうにしているマチアがクーアに弱弱しく声をかける。
「く、クアちゃん……ダメ……!」
「ねぇ次はマチアがカロムの事お仕置きしてよ!それとも逆がいいかなぁ?!」
まだクーアのワガママは続くらしい。
「もういい加減にしなよクーア!!本当に、後で自分が大変な事になるからね!?」
「ハノエの言う事なんか聞かない!!さぁマチアどっちにするの!?」
「そんな……僕は……!!」
「おいふざけんな!俺はマチアちゃんを叩くなんて、そんな事絶対に嫌だからな!
マチアちゃんにそんな事できるか!!頼む!俺が叩かれる方にしてくれ!!」
クーアの暴走はもう止まらない。カロムの訴えを聞いて鬼の首を取ったように、言った。
「そう……じゃあカロムがマチアを叩く方に決定ね……」
『(ひゃぁあああっ!意地悪してるぅぅぅ!!)い、痛い体が痛い……』
相変わらずの役に立たないケキャキャの目の前で、さっきの悲劇が繰り返されていく。
今度は、もっと悲惨な組み合わせで。
マチアを膝に乗せたカロムは本当に辛そうだ。
「ごめんなマチアちゃん……後で俺の事ぶん殴ってくれ……!!」
「カロム、カロムどうか心を痛めないでね……これは君の意思じゃないって、僕は分かってるよ……!」
マチアも涙目でカロムの心が傷つくのを心配していた。
けれどもカロムはまた、クーアの呪いに操られて。
背面は無防備なマチアの裸のお尻に思いっきり平手を振り下ろしていた。
ビシッ!!
「あっ!」
「クソッ……!手加減が、できねぇ……!!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!!
「ご、ごめん!マチアちゃん……!!」
「いやっ、あぁ!!カロ、ム……自分を、責めちゃダメ!!ひゃぁぁんっ!
君の、せいじゃな、ぁ、んんっ!!」
もともと力の強いカロムのお尻叩きは、か弱いマチアにはとても耐えがたいようで……
それでもカロムの心情を気遣って必死に声を殺そうとするマチア。
「ふっ、うぅぅぅ〜〜っ!!」
そんな二人の悲しいやり取りを見ている事しかできないハノエが、小さく呟く。
「クーア……どうして……!?」
でも、彼は考えた。今度は混乱するばかりではない。
(僕が、……誰がクーアを止めるような事を言っても逆上するだけ。
カロムはさっき、とっさにマチアを守った……無理やり仲間を傷つけるなんて、優しいマチアには耐えられない。
きっとマチアが傷つくから、だから自分がマチアを叩く方になるように、わざとクーアにあんな事……。
僕は、二人を……クーアを助けてあげられないの?)
ハノエはチラッと時計を見る。
3時にはまだ少し遠くて愕然とした。けれども、諦めずに考え続けた。
(まだオーディー様は戻らない……。
本当なら、オーディー様が戻られたら皆で楽しくおやつを食べて……そもそもこの時間は、クーアは……)
『く、クーアちゃん!今日はお昼寝しなくていいのかい!?ふかふかベッドが君を待ってるよ!』
「いいよ今日は眠くないもん!それに、こんな面白いもの見てるんだ……寝てる場合じゃない!」
『お、面白いかなぁ……』
ケキャキャも変態なりに頑張るけれど、カロムとマチアの悲劇は止められなかった。
二人のお尻叩きはまだ続いている。
ビシッ!バシィッ!
「ひっ、あぁああっ!!」
「マチアちゃん……!ご、ごめん、俺は……!!」
マチアのお尻は赤くなっていた。
それでもカロムに対して必死に首を振る。苦しげな悲鳴を上げ、でも“気にするな”と。
「うっ、んぅ、ふぁあああっ!!」
「クーア……クーアァァアアアア!!絶対後で覚えてろぉぉぉぉぉっ!!」
カロムが、本気で怒って吠えていた。
なのにクーアは普段は絶対に無いような大きな笑い声を上げるのだ。
「アッハハハハハ!バカみたい!バカみたい!後でもなにもあるか!お前らは一ッッッ生、僕に操られるんだ!!」
(クーア……オーディー様、早く戻ってきて!!)
ハノエにとっては、カロムとマチアも当然ながら、こんなクーアの姿も辛くて。
必死に必死に念じた。

すると、幸運は意外にすぐ舞い降りた。
外から待ち望んだ声がするのだ。

「皆!ただ今戻りました!今手が塞がってるんです!
カロム!ハノエ!マチア!誰でもいいから扉を開けてください!」
「「「オーディー様!!」」」
「……僕が行く……」
嬉しそうな兄神官3人。
クーアは警戒気味に、杖を後ろ手に隠してそっと扉を開ける。
ちょうど自分の体ぐらいに少しだけ。
立っていたオーディーはいつものように優しい笑顔だった。
クーアを見て若干驚いている。
「あれ!?クーア、起きているんですか?珍しい」
「オーディー様……」
「今日のおやつは貴方の好きな苺のパイにしようかと思って。
すぐに作ってあげますよ。中に入れてください」
「待って……でもその前に……」
クーアが杖をオーディーに向けようと後ろの手を動かし……
それより、オーディーが早かった。
力任せにクーアを振り切るのお構いなしで一気に扉をこじ開ける。
「……あっ!!」
「ここは教会!!祈りの場所だ!すべての呪いは今すぐ解ける!!」
叫んだ大声は神聖な命令。
禍々しい雰囲気は“全て”一瞬で消え、尻餅をついていたクーアもそれは分かったらしく……
「あっ……あ!!」
ただの“棒”と化した杖を見て慌てていた。
オーディーがやっぱり“優しく”クーアに声をかける。
「あれ、どうしたんですかその棒?拾ってきたんですか?貴方のお気に入り?」
「……っ」
「クーア、貴方……やっぱりきちんと寝ていなさい」
悔しげに、オーディーを睨んだクーアは……ふわりと髪に触れられた瞬間に寝息を立てていた。
そのクーアを抱きかかえて部屋の中に入ったオーディーが見たのは悲惨な格好をした子供達だった。
真っ先にマチアが泣きながら駆け寄ってくる。
「オーディー様ぁぁぁぁっ!!」
「マチア……!可哀想に、そんな恰好をさせられて……!
皆、帰りが遅くなってしまってごめんなさいね」
一旦クーアの事はソファーに寝かせて、
マチアを抱きしめ撫でて……すると、カロムも瞳を潤ませて笑う。
「よ、良かった……!帰ってきてくれて……」
「オーディー様、ごめんなさい僕……何もできなくて……!!」
「カロム、ハノエ、貴方達もよく頑張ってくれました」
眼鏡を外して泣き出したハノエを片手で撫でて、カロムにもそうして。
そこへ騒がしい足音が近づいてきた。
「おぉぉぉおおおい!!皆大丈夫かぁぁぁ!?」
「「「…………」」」
「ケキャキャさん!!良かった!貴方もご無事だったんですね!?」
その変態の帰還に嬉しそうに反応したのはマチアだけ。
けれどもケキャキャ(青年)は生き生きと笑顔を振りまく。
「あぁ!この通り、無事だった!心配してくれてありがとう皆!
オーディー良かったよ!君が帰らなかったらどうなってたことか!!」
「……ケキャキャさん……」
「何だいっ!?」
オーディーは、仮面の笑顔と共に……
「テンメェェェ様は子供達が危ない時に呑気に何してやがったんですか
このクソ役立たずの変態野郎がぁぁぁぁッ!!」
「ギャ――っ!!割と敬語になってない――ッ!!お、俺は俺なりに頑張ったんです――っ!!」
ケキャキャを蹴り飛ばしたかと思ったら、地面に倒れた彼を別人のように無慈悲に踏み蹴りまくっていた。
慌てたマチアがオロオロと説明を始める。
「おっ、オーディー様!ケキャキャさんはクアちゃんの呪いに巻き込まれてたんです!
魂を生贄にされて、杖に閉じ込められてて……!!」
「そして、俺達の服をこんなにしたのもコイツだよな」
「あぁ。“生贄”にかこつけて自分の変態願望を実現させたとしか思えないね」
「カロム、ハノエ……そ、そんな事は無いよ!!」
マチアのフォローはカロムとハノエの連携で無残に崩れる。
そしてオーディーは足形いっぱいのケキャキャをさらにグリグリと足で圧迫しながら
背後に鬼面が見えるような笑顔を浮かべていた。
「よ〜〜く分かりましたよケキャキャさん。貴方にはクーアの倍の倍くらいのお仕置きをしなくてはね……」
「えっ……!!そんなオーディーにお尻をぶたれちゃうなんて……グフフちょっと悪くない……!逆もいいけど!」
「貴方が可愛いクーアと同じお仕置きなわけがないでしょう?とりあえず……気絶しとけド変態!!」
「ギャァアアアアアアッ!!」
最後の足技でケキャキャの意識が綺麗に飛んだ。

オーディーは何事も無かったかのように子供達に告げる。
「さ、次はクーアを寝かせてこなくては……後で、状況を詳しく聞かせてください」
「オーディー様……あの、」
「庇うこと無いぜマチアちゃん!アイツは調子に乗り過ぎだよ!」
「そうだよマチア!全部話そう!あんな事絶対許されない!!」
「…………」
オーディーは悲しげに目を伏せるマチアの頭を撫でる。
「マチア、話しにくいなら大丈夫ですよ。カロムとハノエは、話せますか?」
「任せろ!アイツ、酷いんだぜ!?」
「全部、聞いてくださいオーディー様!!」
こうしてオーディーは、すべての事情を知る事になる。



それからしばらくして、オーディーはクーアの部屋で彼の目が覚めるのを待っていた。
可愛い末っ子神官の寝顔は長く見つめても苦では無い。
けれど、やがてクーアが目を覚ます。
「う、ん……」
「お目覚めですか?」
「!!?」
オーディーの顔を見たクーアは飛び起きて……真っ青で言い訳を始めた。
「ち、違う……僕は、僕、悪くない……!!」
オーディーは最初から決めていた。
可哀想だけれど……クーアを徹底的にお仕置きする方法。
クーアの小さな顔に額をくっつけて彼の瞳を覗き込む。
「クーア、私の目を見て……」
「……っ!!」
「そう、じっ……と、見てて……」
「やっ……!!」
クーアも危険は察知したのだろうけれど、遅かったのだろう。目は逸らさなかった。
そしてオーディーが考えていた準備は整ってしまって、なので笑顔でポンと手を打ってなるべく明るく言う。
「よし!さて、クーア?皆から話は全部聞きました!
貴方も身をもって自分の罪の重さを知るといい!
と、いう事でお仕置きの時間ですね。さぁお尻を出して?」
「い、嫌だ……い、や……!!」
「そんなこと無いでしょう?貴方ならできますね?」
クーアは本気で嫌がっている。
けれど、彼の体は言われた通り自分から神官服の裾を捲って下着を下ろすのだ。
「な、何で!?なんでなんでなんで!?嫌だ!いや、なのに……!!」
「あぁクーア!感動しました!前まで逃げ回っていた貴方も
ついに自分からお仕置きを頂く態度というものを身に付けたんですね!
まぁすっかり成長して……!なら、それ相応の道具も使わないと!」
「ひっ……!?」
ワザとらしく演技しながらオーディーがパドルを取り出すと、クーアが目に見えて怯えだす。
幼い彼にはまだ一度も振るった事が無かった。
「や、やだやめて!!やめてぇぇっ!」
「そこの壁に手をついて」
「い、嫌だ!!やだぁぁっ!!助けて!体、が、勝手に……!!」
「そんなにもすんなり!今日の貴方はとっても素直なんですね〜……」
「動けない!動け、ない、嫌、なのに……!うぇっ……!ふぇぇっ!」
ちなみに、立たせながらのお仕置きも初めて。
すでに泣き始めて必死に喚いているクーアは哀れだけれどオーディーも気を奮い立たせる。
淡々と、を心がけてクーアに声をかけた。
「どうです?やりたくもない事を無理やりやらされる気分は。体の自由を奪われる気分は……」
「やだ!やだよ怖いよぉぉ!お願いそんな大きいので叩かないでぇっ!!」
「人を呪うとね、その呪いが自分に帰ってくるんです……良く覚えておきなさい。
……取り返しのつかない事に、なる前にね」
自分の言葉に胸が痛む。
決していつもの甘やかしは出さないように、オーディーは今一度パドルを強く握った。
「覚悟して。もう二度とこんな酷い悪戯は出来ないようにしてあげますから」
「やだぁぁああああっ!痛いのはヤダぁぁぁぁっ!!」
「あらあら皆にあれだけしておいて、自分だけ逃げようって言うんですか!?」
バシィッ!!
「ひゃぁああああんっ!!?うわぁああああん!!」
「泣いたって許しませんからね!」
ビシッ!バシィッ!バシンッ!
まさか、カロムやハノエを叩くのと同じ力加減にするわけにはいかないけれど。
手加減する中でも割と強めにパドルを振るえば、元々泣いていたクーアはますます泣き出した。
「ひ、いっ……!!わぁあああああん!!」
「神官が呪いで人を操るなんて、しかも家族を!なんて悪い事をしたんですか貴方は!」
「やぁぁああああっ!痛いぃ!痛いやめてぇぇぇっ!!」
「貴方も彼らに同じ事をしたでしょう!?しかもお互いに傷つけさせて、皆、どんなに辛かった事か……!
ほら、分かりますか!?痛かったんですよ皆!今の貴方と、同じように!」
バシィッ!ビシッ!!パァンッ!!
「ひぁっ!わぁあああああん!もうやだぁぁぁっ!痛いよぉ!やめてぇぇっ!」
「いいえ許しません!貴方は誰一人許さなかった!」
わざと、大声で叱りながら。
オーディーは大泣きするクーアに対して手を緩めなかった。
小さなお尻が赤く染まってきても我慢我慢……
バシッ!ビシッ!ビシッ!!
「だっ、だってぇぇ!皆で僕のことっ、邪魔にするんだもん!!やっ、やぁぁあああっ!」
「誰がいつ貴方を邪魔者扱いしたんですか!?貴方がハノエの邪魔をして、
宥めに来たマチアに悪戯をしたからカロムも私も怒ったんでしょう!?」
「痛いぃっ!痛い痛い痛いぃぃっ!!うわぁぁああああん!!」
バシンッ!ビシィッ!
「どうして、自分が悪い事を素直に認められないんですか!それどころか余計に悪い事をして!
そんな悪い子はずっとこうして叩いてあげますから!」
「やだあぁぁぁぁぁ!!もうやだぁぁぁぁああっ!痛いぃ!おっきいの痛いぃ――っ!!」
「だったら約束なさい!もう二度と、こんな事はしないと!」
「す、するからぁぁぁあ!ふぇぇっ、もうしないって、やくそくするからやめてぇぇぇっ!!」
強く叩き続けていたので、泣きながらも抵抗こそできなかったが、ズルズルと座り込むように……クーアが体勢を崩していく。
「ふ、ぁっ、うあぁあああああん!!」
「まだ終わりじゃないですよ。立ちなさい」
オーディーの方もだいぶ心が痛んだけれど、言った。
絶対に逆らう事の出来ない言葉を。
「や、やだぁあああっ、もう、許しっ、ひっ……い!!」
体力など、あまり残っていないはずなのに……立ち上がった自分に
半狂乱になりながら泣いているクーア。
「うっ、えっ、うぇぇぇぇぇっ、なっ、でぇっ、ひっく……なんで立てるのぉぉっ!!?
痛い、痛いよぉぉもうやだぁぁっ……うわぁぁああああん!!」
「いくら泣いたってダメですよ!貴方はそれだけの事をしたんだから!」
「やめてぇっ!もうやめてごめんなさぁぁあああい!!やだよもう怖いよぉぉぉっ!!」
「そうです。怖れればいい。貴方の、犯した罪の大きさをね!」
バシィィッ!
クーアを壁に押さえつけて、今までより強くパドルを振り下ろしたので、クーアの体が跳ねる。
「うわぁああああああん!!」
(さぁ、周りが相当騒がしくなってきましたね……!)
クーアが泣けばなくほど、彼のお尻が打たれて、赤くなればなるほど……
周りがガタガタ煩かった。
今や窓や小さな雑貨が異常なほど揺れている。クーアは泣きっぱなしで気付かない。
そしてオーディーも……クーアが“仲間にしている”低級霊の妨害に負けるわけにはいかなかった。
ビシンッ!バシィッ!!
「ごっ、ごめんなさいぃぃっ!ひっく、ごめんなさい!もう許してください!
ふぇぇぇっ、僕が、悪い子でしたぁぁぁぁぁあっ!」
「えぇ、実にその通り!」
また一つ、クーアの真っ赤なお尻を叩く。
置きっぱなしだったカップが割れ、大きな置き時計が転げ落ちた。
「ふぁあああああんっ!もうしないからぁぁあああっ!お願ッ、やぁああああっ!」
(愚かな亡者共……大人しくしていなさい……!クーアもこうやって反省してるでしょう!?
言っておきますけどクーアに加担した貴方達も同罪ですよ!?
今すぐ嫌がらせをやめないと……実体の無い貴方達の分の罰は、クーアが受けることになりますからね!?)
心の中で霊達叱りつけると、一気に怪奇現象がおさまる。
はぁ、と息を吐いてオーディーはクーアを見た。
「うっ、ぐすっ、あぁあああああん!!」
「クーア……一応反省はしたみたいなので、貴方の体は自分で動かせるようにしてあげましょう」
その一言で、クーアの体が崩れ落ちた。
そして壁に体を打ちつける勢いで前を向いて、自分を庇うように顔の前で腕をクロスする。
「やっ、やぁああああっ!もういやこっち来ないでぇぇぇぇ!!」
「そういうわけにはいきません。“おっきいの”は無しで、思いっきり暴れてもいいですから、もう少し反省なさい」
「やだぁぁああああっ!もう痛いよ無理だよぉぉぉ!!うわぁぁあああん!」
「分かってるんですか?貴方のうける罰は全員分です!カロムの叩かれた分も、マチアの叩かれた分も、
ハノエが傷ついた分も……」
疲れで弱く抵抗するクーアを抱きかかえながら、オーディーは言葉をつづけた。
「(すっごく不本意ですが……)ケキャキャさんを、危険にさらした分もね!まだまだ、全く、足りません!」
ラウンド2はベッドに腰掛けたオーディーの膝の上で、クーアが十分に赤いお尻を引き続き叩かれることになる。
今度はオーディー自身の平手で。
ビシッ!バシッ!パァンッ!
「うわぁあああああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁぁぁい!!」
「そんなに暴れられる元気があるなら、全然平気です!仮にも一般人の魂を肉体から引き離して
呪術に使うなんて危ないでしょう!絶対にしてはいけません!」
「やだぁぁあああっ、ひっく、もうやだぁぁああああっ!しないぃぃぃっ!ごめんなさぁぁあああい!」
「貴方自身も、呪術を使うこと自体、危険だったんですからね!?」
バシンッ!ピシッ!!
クーアは足をバタつかせて、息を切らせながら必死に泣き叫ぶ。
「うぁあああああん!ごめんなさぁぁああああい!!ふぇぇえええええっ!!もう絶対しないからぁぁぁっ!」
「全部全部、もうしませんね!?きちんと皆に謝りますね!?」
「ごめんなさいぃぃっ!もうしないぃ!謝るぅぅぅぅっ!!」
「なら、結構」
オーディーは手を止めて、大泣きするクーアを助け起こして
「それと、クーア……貴方今日は、おやつ抜き!」
「……!!うっ……うわぁああああああん!!」
また大泣きさせていた。
「泣いてもあげません!お夕食は、許してあげます。それまで一人で反省してなさい。いいですね?」
「うわぁああああああ――ん!!」
返事もせずに泣きわめくクーアに、オーディーは厳しい表情を少し崩して、
かぶりつくように口付ける。
「んむぅぅ!!ちゅっ……んん゛っ……!」
しばらく幼い口の中を舌で撫でて……泣き止まないようなので諦めて唇を離した。
クーアを落ち着かせるおまじないのようなものだけど、今日は失敗のようだった。
「あ、ぷっ……ふぁああああああん!!」
仕方なく、泣き続けるクーアの頭をポンポンと撫でて、後ろ髪ひかれながらも部屋を出たのだった。


それからはクーアを除く3人の子供達とおやつの“苺のパイ”を作って、
無事に平和なおやつタイムを迎える。
いつものようにオーディーが“いただきます”の音頭を取った。
「皆さん、今日も神の恵みに感謝しましょう。いただきます」
「「いただきます!!」」
「…………」
しかしマチアは黙って浮かない顔をしながら、おやつにも手を付けない。
「マチア、どうしたんですか?おあがりなさい。貴方も手伝ってくれたし、とても美味しそうですよ」
「……あの、クアちゃんは?」
「あの子は今日はおやつは無しです」
「オーディー様……!クアちゃん、苺のパイがとっても好きなのに!」
瞳を潤ませるマチア。オーディーは“やっぱりこうなるか……”と、内心困ってしまうけれど
それを表に出すわけにはいかず、しれっと(を装って)こう言うしかない。
「知っていますよ。けれど仕方がないでしょう?」
と、オーディーのこの一言で引くマチアでは無かった。
「それなら……それなら僕のを分あげてもいいですか!?僕は食べないで、いいですから!」
「マチアちゃん!食べればいいんだよ!クーアは自業自得だ!おっ、俺が……あーんってしてやるから……!」
「要らない!!」
「!!」
「(どんまいカロム……)カロムの言うとおりだよマチア。君は食べればいい」
「ハノエまで……!!」
「僕のを、あげればいいんだから!!」
「おいハノエ!!なっ、何だよ皆!俺は食べるからな!!」
カロムが勢いよく食べ始めたところで、オーディーは子供達のやり取りに笑ってしまった。
「ふふっ……そんなに急いで食べたら喉に詰めますよカロム?
いいから、おあがりなさい皆。実はクーアの分は別に取ってありますから」
こうして、マチアとハノエの顔が同時に明るくなって……
「「……!!いただきます!!」」
「まんふぁお〜〜……おーふぃーふぁままへ……(訳:何だよ〜〜……オーディー様まで……)」
皆が美味しく苺のパイを食べられたおやつタイムが終了した。



そして、時刻は夕方。
おやつももらえず、ケキャキャは狭い石造りの空き室で縛られて天井から吊るされていた。
涼しい空気の中しょんぼりしていると、オーディーが扉を開けて入って来て、
すかさず、ケキャキャは叫ぶ。
「オーディー……結局、俺への“お仕置き”って何なんだ?!さっきから胸がドキドキして……!」
「……貴方への、お仕置きは……」
ほんのりと赤みの差した頬で、俯くオーディー。
肩にかかった緑の布が地面にふわりと落ちて、彼は清楚な黒の神官服を大胆に肌蹴た。
そして熱い視線をケキャキャに向けて言う。
「私のこの身に灯る切なさを、解消していただく事です……!」
「な、何だって!(ヤッタ――!)」
驚いて(喜ぶ)ケキャキャ。
オーディーは、その目の前で誘うように自分の胸を弄って色っぽく言葉を紡いだ。
「んっ、貴方を見ていると私の恋心と芯が疼いて……!
子供達がいるから、普段から溜め込んでいるんです……神官という身でありながら……!
こんな、イケナイ私を慰めてくださいますか……?」
「オーディー……もちろんさ!!でも、その前に……」
ブチブチブチブチィィッ!!
いつの間にかケキャキャはロープを引き千切ってオーディーの目の前に飛び降りていた。
そして、そこへ都合よく存在している祭壇にオーディーの上半身を押さえつける。
「あっ……!」
艶っぽい悲鳴。お尻を突き出すような姿勢で、神官服を着ていてもオーディーのお尻の形が浮き出て、
ケキャキャを興奮させた。
「イケナイ神官サマはお尻を真っ赤になるまで引っ叩いてお仕置きしてやんなきゃな、グヘヘ……!」
「あぁ、お、お願いします……!ここには私を、お仕置きしていくれる人は、誰もいなくて……!!」
震える声でねだる様にそう言われれば、ケキャキャは夢中でオーディーの神官服の裾を捲って
下着を下ろし……彼の裸になった尻を平手で打っていた。
バシィッ!!ビシッ!!
「あっ、んっ!ケキャキャさん……!!」
「グフフ……安心しなオーディー!たくさん叩いた後は君の真っ赤になったお尻に俺の
ビッグな聖碑を

「ハッ!何だ、夢か……!」
「…………」
目覚めればまだ宙ぶらりんだったケキャキャ。
しかも目の前で、驚くほど冷めた視線を送るオーディーがいた。
すかさず、ケキャキャは叫ぶ。
「あ!オーディーいつの間に!
結局、俺への“お仕置き”って何なんだ?!さっきから胸がドキドキして……!
ま、まさか!“私のこの身に灯る切なさを、解消していただく事です……!”って事か!?OK分かってたさ!
さっそくこの縄を解いて始めよう!」
「……ケキャキャさん……」
「何だいっ!?」
オーディーは力強く地面を踏みしめて拳を握る。
そしてそのまま鋭くケキャキャに突き出した。
ドスッ!!
「イギャァアアアッ!」
ドスッ!!
「ニギャァァァァッ!」
ドスッ!!
「サギャァアアアッ!」
キレのある3連パンチ。
その後パンパンと両手をはたいて爽やかな笑顔で額を拭う。
「はーっ……こんな所にいいサンドバッグがあって助かりました♪これから毎日使いましょう!」
「や、やめて――っ!!」
「ちなみに、貴方へのお仕置きは貴方の真下に火をつけることです」
「普通に死ぬぅぅぅぅぅっ!ごめんなさいもうしませんいい子になりますぅぅぅぅっ!!」
「――と、言いたいところですが」
情けなく叫ぶケキャキャに、腕組みをして呆れたように睨むオーディー。
ケキャキャと目が合うとそっぽを向いた。
「子供達に聞いたところ、貴方も一応クーアを宥めてくださっていたそうで。今回はお仕置きは無しにします」
「た、助かった!ところでオーディーって普段こう、ムラムラなった時はどうしてんの?」
ここでまさかのケキャキャの空気を読まない質問。
オーディーは、顔を真っ赤にしながらガタガタ震えていた。冷静顔が怒りに引きつる。
「私は……神官ですので……そういった性欲は……捨てていますので……ありません……!」
「またまたぁ〜〜隠さなくっても!子供たちの手前、結構溜まってんじゃないの?ね!今度からは俺が協力……」
ドスッ!!
「シギャァアアアアアッ!!」
ドスッ!!
「ゴギャァアアアアアッ!!」
「ケキャキャさん!!貴様はお夕食も抜きッッ!!」
パンチ2発を追加で叩きこんで、オーディーは大股歩きで出て行ってしまった。
残されたケキャキャ。
「うぅ、そんな……あー、気絶しそう……さっきの夢の続き見よっと……♪」

また意識が飛んでいた。


ケキャキャを放置して夕食の準備が整った頃、オーディーはクーアの部屋にやってきた。
「クーア、お夕飯の時間ですよ?」
「ふぇっ、ひっく……!!」
「あらあら……まだ泣いていたのですか、泣き虫さん?
もう反省したでしょう?今は誰も怒ってませんから、皆に謝って、ご飯を食べましょう?」
「や、ぁ……うっ、ふっ……!!」
相変わらず泣いているクーアに近づいて、オーディーは頭を撫でながら優しく言う。
「ご飯、要らないんですか?困りましたね……おやつも実はとってあるのに……」
「いらっ、なっ……ふぇぇっ、うぇぇぇぇっ……!!」
「クーア……落ち着いて。もう泣かなくていいですよ」
何時間ほどこうして泣いていたのだろうか……そう思うと少し心配になる。
また、クーアの精神のバランスが崩れているのでは、と。
「お薬、飲みますか?」
「やだぁぁああっ!うぇぇえええっ!ふぇぇぇええっ!」
「……そうですか」
オーディーは、傍に常備している薬の瓶に手をかける。
クーアがこうやって泣き出して止まらない時に落ち着かせる薬。
3錠ほどを噛み砕いて、唾液でゆるゆると溶かす。
そして、溶かしきったそれを口移しでクーアに飲ませた。
「ふっ、ぇぇっ……んむっ……!!」
口の中に送り込めば、戻してくるわけでもなく飲んでくれるのだけれど。
小さな手が必死で自分の服を掴んで縋っている感触が悲しかった。
唇を離して、息を切らせるクーアの口元を指で拭う。
「行きましょう。ご飯を食べなくても、皆に“ごめんなさい”しなくては」
「うっ……ふぇっ……!」
「きっと、すぐ許してくれますから」
まだ半泣きだけれど、差し出した手をクーアが取った事にオーディーはホッとするのだった。


「クアちゃん!あぁ、良かった……!心配したんだよ!?」
オーディーに連れられて出てきたクーアを見て、真っ先に駆け寄ってきたのはマチアだ。
後の2人は少し遠くからまだ怒った視線を送っている。
それに気づいているのかいないのか、とにかくクーアは怖々とマチアに謝っていた。
「あ、あの……ごめんね、マチア……」
「いいんだよ。おやつ、一緒に食べようね?僕が“あーん”ってしてあげる」
「うんっ!!本当にごめんなさいマチア……!!」
「クアちゃん!!本当にもう、いいから……!」
抱き合うクーアとマチア。
(クーアぁぁぁっ!アイツ絶対許さねぇぇぇっ!!)
(子供に嫉妬は見苦しいぞカロム……)
意外と内心は平和そうなカロムとハノエ。
クーアは、次にハノエに寄って行った。
「えっと……ハノエもごめんなさい……」
弱気な上目使いのクーアに謝られ、ハノエの不機嫌顔も続かなかった。
困ったように笑って
「……はぁ。これからは、少しは僕の言う事も聞いてよね?でないと、もう絵本読んであげないから」
「ごめんなさい!!」
「あははっ!今夜は眠れそう?絵本、読んであげるね」
やっぱりクーアと抱き合う。それで仲直りは完了。


最後にクーアが足を向けたのは難易度最強の宿敵・カロムの元だ。
ビクビクしながらも何とか声をかける。
「あ、……の、お前さ……」
「お前ぇ?」
「うっ……カロム……」
「何だよ?」
カロムは、それこそ怒ったような冷めた顔で、威圧的だ。
クーアはそれでも珍しく、素直に謝った
「ご、ごめんなさい……」
「……ったく……俺の事、今日一日“お兄様”って呼びな!それで許してやるよ!」
「はァ?気ィ狂ってんの?」
「テメェェェッ!!」
のは一瞬で。
カロムが怒鳴ったタイミングで、マチアがキラキラ笑顔で声を弾ませる。
「い、いいなぁカロム!クアちゃん!僕のことも、あの、“お兄様”って呼んでもらっても、いいかなっ!?」
「いいよ!マチアお兄様っ!!」
「ゴラァァァァァッ!!クーアァァァァ!!」
怒鳴るカロムそっちのけで、次々と誰かが会話に参戦してくる。
「いいねそれ!クーア!僕も“お兄様”って呼んでみてよ!」
「ハノエお兄様!」
「ねぇクーア、私は?」
「お父様!!」
「……えぇ、嬉しいです……」
ハノエ、オーディー……一通りクーアが懐いたけれど当然納得いかないのがカロムだ。
クーアの前に身を乗り出す。
「ちょっ!こらクーア!俺だよ俺!一番肝心だろーが!許してやんねーぞ!」
「チッ……うっさいな……」
「てめっ……!」
思わずグッと拳を握ったカロム。
けれどここで観念したのかクーアは、顔を真っ赤にして、服を握って恥ずかしそうに……
「か、カロム……お兄、様……」
「!……あ、まぁ……許すわ……」
この不意打ちで、視線を彷徨わせてあっさり許してしまったカロム。
それをニコニコ見つめるマチアとハノエ。
オーディーが嬉しそうにパンと手を打った。
「さ、皆で仲直りしたのでお夕食にしましょう!!」
「「「「はーい!!」」」」
子供達……今度はクーアも加わって、本当に4人そろって、皆で楽しい食卓を囲んだ。
こうしてクーアが引き起こした大騒動と、長い一日の幕が下りる。


ちなみに
「う〜ん……、むにゃぁ……クーア……俺も……お兄様って呼んでキスしてぇぇ……!!」
夕食は囲めなかったけれどこちらはこちらで幸せそうに眠るケキャキャだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

気に入ったら押してやってください
【作品番号】kyoukai
戻る