TOP>小説 戻る 進む |
![]() |
姫神様フリーダムanother(ちっちゃ閻濡編)
|
|
ここは神々の住まう天の国。 その中の(自称)天界一の仲良し親子、閻廷と閻濡の城。 廊下を歩く小さな女の子は幼い頃の閻濡。そう、これは今より少し昔のお話…… (えへへっ、きれいなお花……パパに見せてあげようっと……) 小さな手に可愛らしい花を持って、大好きなパパの元へと歩いて行く閻濡。 その途中、ふと誰かの声が聞こえてきた。 「光濡様が亡くなってもう5年……閻廷様もそろそろ再婚をお考えになった方が……」 「酷な事を言ってやるな。“まだ”5年だ。閻廷様が光濡様をどれほど愛していらしたか知ってるだろう? この前もお見合い写真を破り捨てたそうじゃないか。今は無理だ」 「しかし、お世継ぎはどうする?閻濡様は女の子……男の子なら良かったものの…… このままでは後々、閻廷様も困る事になるだろう?」 話しているのは家臣の声。 閻濡は物陰からこの一連のやり取りを聞いていたのだが、わけが分からなくてすっかり混乱してしまった。 “パパにお花を見せに行く”という目的も忘れて、その辺をパタパタと走りまわる。 (“さいこん”って何!?“だいこん”の仲間!?そ、それに、えんじゅが男の子じゃないとパパがこまるの!? ででででも、えんじゅは女の子だから、いきなり男の子になれないし、どうすればいいのかな!? えーっと、えーっとぉぉ……!!?) 「え――ん――じゅっ☆☆」 「ぴゃっ!!?」 混乱して走りまわっていた閻濡は、突然誰かに抱き上げられる。 嬉しそうな顔をした、閻濡のパパ……閻廷だった。 「こんな所にいたのか〜〜!探したじゃないか!今日は何して遊んでたんだ〜〜?ん〜〜〜??」 「ぱ、パパ……」 パパのいつも通りの笑顔にホッとした閻濡だったが、ふとさっきの出来事が頭をよぎる。 『閻濡様は女の子』『男の子なら良かった』『このままでは閻廷様も困る事になる』……。 (そ、そうだ!!男の子っぽくしなきゃ!男の子っぽく、男の子っぽく〜〜っ!!) 一生懸命考えた末、閻濡は笑顔でこう言った。 「あのね、“ぼく”、きれいなお花、見つけたの!」 「そうか!閻濡は賢いなぁ!」 閻濡の苦し紛れの“ぼく”一人称を気にする様子も無いパパ。 いつものように閻濡に頬ずりしている。しかし閻濡はまだ内心慌てていた。 (はわわ!“お花”だなんて、男の子っぽくなかったかも!もっと男の子っぽい事して遊ばなきゃ!!) 閻濡は必死だった。必死で“男の子”をアピールしようとしていた。 「そ、そうだ!ぼく、ボール遊びしてくる!わぁい!ボール遊び大好き!」 「閻濡!?」 パパの腕からするりと抜けて、飛び降りるような形になった閻濡。 着地の際、バランスを崩して地面に膝をつく。 「ぴゃっ!?」 「閻濡!!大丈夫か!?」 「へ、平気!それよりぼく、ボール取ってくる!」 閻濡はトテトテと走って部屋へボールを取りに行く。パパも慌てて追いかける。 綺麗な花模様の描かれたボールは閻濡の宝物だった。 大人しい閻濡はそのボールを眺めるくらいで、使って遊んだことは無い。だから今も新品同様だった。 生まれて初めて閻濡はボールを蹴ってみるのだが…… 「そ、それ!シュート……ぴゃぁぁあああっ!!」 ガッシャーン!! 「閻濡ぅぅぅぅっ!!?」 閻濡は思いっきり足を振った反動でバランスを崩して尻もちをついた上に、ボールは飾りの小さな壺に命中。壺は大破。 壊れた壺より閻濡が心配なパパはオロオロしっぱなしだ。 「え、閻濡……無理しない方が……」 「無理じゃないよ!ちょっと失敗しちゃっただけ!やっぱりお外で遊ばなきゃね! 次は上手にできるよ?ほらパパ、お外で元気に遊ぼうよ!」 閻濡は必死に笑顔を作ってパパを外に連れ出す。 元気に走って、庭に出たらたまたま綺麗な蝶がひらひらと飛んでいた。 「あ!ちょうちょさんだ!よーし、つかまえちゃうぞ!(虫さんをつかまえるってきっと男の子っぽいよね!)」 「えぇ!?待ちなさい、閻濡危な……」 蝶ばかりに視線を取られて危なっかしく走り回る閻濡の行く先には池があった。 当然閻濡は気づかないで派手にダイビング。 「ぴゃぁぁあああっ!!」 バッシャーン!! 「閻濡ぅぅぅぅっ!!?」 パパも必死で閻濡に駆け寄る。 元々小さく浅い池だったので溺れる心配はないのだが、閻濡の上質で可愛らしい服はずぶ濡れになっていた。 それでも閻濡は健気に笑顔を作っている。 「お、おかしいなぁ!いつもは上手くできるのに!今度こそ、上手くやるから!」 「え、閻濡?何か今日は変じゃないか……?」 「そんな事ないよ!ぼくはいつも男の子みたく元気に遊ぶんだから!あの木にだって、登れちゃうんだから!」 「木!?ダメだ危ない!怪我したらどうする!?やめなさい!」 閻濡が庭で一番大きな木を指さすのを見て、慌てて止めるパパ。 それでも閻濡はパパの制止を振り切って木にしがみつく。 「大丈夫だよ!ぼく上手なんだから!ほら!」 「閻濡!!だ、ダメだって……」 さすがに危なすぎると判断したパパが力ずくで止めようと手を伸ばすのだが…… 「いいの!できるの!」 「うわっ!!」 伸ばした手が何かに弾かれる。幼いなりの力が作り出した結界らしかった。 パパが少し怯んでいる間に閻濡はいそいそと木に登り始める。 「よいっしょ……よいっしょ!!」 どんどん高く登っていく閻濡。 あまり運動神経のよろしくない彼女がこんなにも登れていると言う事は、無意識に神の力を使っているらしい。 パパは心配のあまり泣きそうになりながら必死に叫ぶ。 「閻濡ぅぅぅぅっ!!もういい!危ないから早く降りなさ――い!!」 「平気だって――!ほら、もうこんなに高く……」 パパの声に振り返った瞬間だった。閻濡の集中力が途切れたせいか、体が傾く。 手が離れ、足が離れて体ごと落ちるまでは一瞬だった。 「ぴゃぁぁあああっ!!」 「閻濡ぅぅぅぅっ!!」 閻濡は何が起きているのかも分からず、ただ怖くて目を閉じた。 しかし、閻濡が感じたのは柔らかい衝撃。 「……んっ……」 「え、閻濡!?大丈夫か!?怪我は無いか!?」 「パ、パパ……」 恐る恐る目を開けて、自分を心配そうに覗きこむパパの顔を見た瞬間に安心して涙が出てきた。 「パパぁぁぁぁぁ!!うわぁあああああん!!」 「閻濡……良かった……良かったぁぁぁ!閻濡ぅぅぅぅっ!」 閻濡がパパに縋りついて泣きだすと、パパも負けじと閻濡に縋りついて泣きだす。 騒ぎに気付いた家臣たちが駆け寄ってくるまで時間はかからなかった。 それからしばらくして、閻濡とパパは寝室のベッドに腰掛けて会話していた。 「閻濡……大丈夫か?痛いとこないか??」 「うん!!痛くない!!」 思いっきり泣いて、お風呂も入って、身も心もスッキリした閻濡は笑顔で答える。 パパも閻濡の笑顔を見て安心し、ぎゅっと抱きしめる。 「そうか――!よかった、本当によかった〜〜!!」 パパに思いっきりぎゅっとしてもらって、閻濡はすっかり上機嫌である。 自分もぎゅっと抱きつくがふいに体を離される。 「ところで閻濡……ダメじゃないか!今日は危ない事ばっかりして!」 パパはそう言いながら閻濡を膝の上に引き倒す。 閻濡は驚いた。嫌な予感もした。膝の上で足をバタバタしながら必死で叫ぶ。 「いやぁっ!!パパおひざやだぁ!おろしてぇっ!!」 パパは大好きだがこの位置は何だか落ち着かない。 早く膝から降ろしてほしかったが、パパは下ろしてくれない。 「ダメ!!危ない事ばっかりする子はお尻ペンペンだぞ!」 「ふぇえっ!?お尻ペンペンやっ……」 ぱしんっ! 閻濡の言葉を遮って、早速最初の一発がやってきた。 「ぴゃぁぁっ!や、やだぁ!!パパやだよぉ!」 「『やだ』じゃない!この可愛い悪い子めっ!」 ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ! 何度も小さなお尻を叩かれて、痛くて怖くて閻濡はすぐに涙声になる。 「痛いよやだよぉ!パパごめんなさぁい!」 「お!ちゃんと“ごめんなさい”が言えるなんてえらいじゃないか!さすがは私の閻濡!」 「じゃ、じゃあ……あんっ、おしりペンペン終わり?」 「もうしないって約束するか?」 ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ! 「す、する……するから……パパぁ……!」 呼吸を揺らしながら、閻濡は言う。 大好きなパパに叩かれているなんてもう1秒だって我慢できない。 しかし…… 「約束だぞ?閻濡は女の子なんだからな、危ない事して怪我でもあったら大変だ」 「!!」 『閻濡は女の子なんだから』、というパパの言葉に閻濡はまた焦りだす。 (えんじゅは、男の子っぽくするために今まで頑張ってたのに!!) これで終わってしまったら結局は『女の子』と言う事になってしまう。 そうしたら、また頭によぎるのは家臣たちの言葉だ。 『閻濡様は女の子』『男の子なら良かった』『このままでは閻廷様も困る事になる』。 (パパを、こまらせたくない……!!えんじゅは男の子にならなくちゃ!!) 閻濡はぎゅっと目を閉じた。 これ以上お尻ペンペンされるのは嫌だったけれど、勇気を持って声を振り絞る。 「パパごめんなさい!やっぱりお約束できない!」 「え!?」 驚いたパパが手を止める。お尻がじんじん痛む。 それでも閻濡の決意は固かった。 「ぼくはボール遊びも、虫さんつかまえるのも、木登りも、もっとじょうずにならなくちゃ……」 「え、閻濡……?」 パパの声は混乱したような悲しそうな声だった。 「外で遊ぶのが、いけないわけじゃない!ボールも虫取りも木登りも、パパと一緒にちょっとずつ練習しよう!? な!?それなら危なくないから!!」 「……パパ……男の子はいつもボウケンしなきゃいけないんだよ…… ときどきはキケンに飛びこまなきゃいけないんだよ……(ってご本でよんだ気がする……)」 「それは……パパが『ダメ』って言ってもか?」 「ごめんなさい……男の子はパパをのりこえて行かなきゃいけないの……(ってご本でよんだ気がする……)」 「閻濡……そんな!!だったら……だったらパパだって、お尻ペンペンやめない!」 ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ! 「やぁぁっ、パパぁ!!」 閻濡はまたお尻が痛くなって暴れるしかない。 「閻濡が危ない事して、怪我をするなんてパパは絶対嫌だ!」 「パパ!!おねがい、ゆるしてぇ!!ぼくは……あぁぅっ!」 「ダメだ!閻濡が危ない目に遭うのを許せるわけないだろう!?私の可愛い、愛する閻濡が!! ちゃんと『もう危ない事はしません』って言うまでお尻ペンペンだからな!」 「や、やだ……おしりぺんぺんもうやだぁ!!」 ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ! 閻濡は必死で逃げようとするけれど、大して動く事も出来ずにお尻ばかりが痛くなる。 悲鳴もだんだん泣きそうな声になってきた。 「やぁあああ!痛いよパパゆるしてぇぇっ!」 「大体、さっきから男の子はって言うけど閻濡は女の子じゃないか!」 「あぁん!えんじゅは……ぼくは、女の子じゃダメなのぉ!」 「ダメなわけあるか!女の子の閻濡は毎日ちゅっちゅしちゃうくらい可愛いんだぞ!?」 「ダメぇ!!ちがう、ぼくは……!」 閻濡が何か言おうとすると、急にスカートを捲くられて下着を下ろされる感覚がした。 部屋の空気に晒された小さなお尻がピクンと震える。叩かれたところは少し赤く染まっていた。 「ほら、やっぱり閻濡は女の子だ。ここがパパと違うもんな」 「んっ……」 お尻の方から手を差し入れて、つるつるとした割れ目を軽く手のひらで撫でられる。 自分が男の子になれないという決定的な証拠を突きつけられたようで、 閻濡は悲しくなってぽろぽろと涙を流す。 「ご、ごめんなさい……ぼく、女の子でごめんなさい……!!」 「どうして謝る?パパは閻濡が女の子で嬉しいぞ!可愛いからな♪」 ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ! 足の付け根にあった手はすぐにお尻に戻ってきた。 服を付けていないお尻を打たれるのは今まで以上に痛くて閻濡は身を捩る。 「はあぁ!!ぼくが、女の子だったらパパがこまるんでしょ!?およつぎが……さいこんなんでしょ!?」 「え?……あ!アイツら閻濡にまで余計な事を……!」 閻濡の言おうとする事を理解したパパが苦い顔をする。 そして、泣いている閻濡の頭にポンと手を置いた。 「閻濡、心配させてごめんな?アイツらの言う事は気にしなくていい。 お前が女の子で困る事なんか何もない。閻濡は女の子でいいんだ!パパは女の子の閻濡が大好きだ!愛してる!」 「パパ……!本当!?本当にぼくが女の子でもパパ、こまらない!?」 「本当だ!閻濡はパパとアイツらどっちを信じる?」 「パパ!パパを信じる!」 「よし、じゃあ約束しよう!『もう危ない事はしない』って」 「ぼく、もう危ない事はしないって、約束します!!」 「いい子だ。閻濡」 ぱぁん!! 「ぴゃう!!」 最後に強く叩かれて、閻濡が身震いするとパパの明るい声が聞こえた。 「さて、こんな事、もう終わりにしよう!おいで、閻濡」 「パパぁ……!」 パパが膝の上から助け起こして抱きしめてくれる。 抱きしめられると閻濡も気持ちが高ぶって、ぎゅーっとパパに抱きついた。 涙でぬれた頬をめいいっぱいパパの胸に擦りつける。 「よかった、ぼく……パパをこまらせなくてよかった! 本当は、お外よりお部屋で遊ぶのが好きなの!虫さんよりお人形が好き!」 「うん。そっちの方が閻濡っぽい!お前は今のままでいいんだ…… 光濡の残してくれた宝物、私達の最愛の娘……閻濡、私はママとお前を永遠に愛すると誓うから……」 「パパ……」 パパの声は優しい音色で閻濡の心に溶けていく。 『女の子でいい』『愛してる』の言葉は大きな安心感をくれた。 「だから、お前は何も心配しなくていい。あのバカどもには私からビシッと言ってやる!」 最後は閻濡を抱きしめる手にぐっと力を込め、パパは言い切った。 それから、家臣に全員招集をかけたパパ。 大広間には城中の家臣数十人が集まって、御前のパパの言葉を待っていた。 横に不安そうな閻濡をくっつけて、パパは手をビシッと前に出して高らかに言った。 「お前達全員聞け!最近お前達、再婚再婚とうっとおしいぞ! 私は光濡以外の女の子を愛する気はない!再婚なんてしない!絶対にだ!」 家臣達、にわかにざわめく。 だがパパは動じない。威厳とあどけなさが混ざる声は続く。 「お世継ぎがどうのこうのと心配するヤツもいるらしいけど、そんなの…… 閻濡と私が結婚して男の子を産めば一発で解決するじゃないか!!バカかお前達は!」 家臣達、黙りこくる。広い空間が静まりかえった。 陽気なのはパパだけだ。 「未来は私と閻濡が作る!な〜〜閻濡?閻濡は大きくなったらパパのお嫁さんになるもんな!」 「うん!ぼく、大きくなったらパパのおよめさんになる!」 いや、閻濡も陽気だった。 パパは極上の返事をくれた閻濡を抱き上げ、閻濡は両手を広げ、その場で二人はクルクル回る。 愛を確かめあった二人はクルクルクルクルと回る。 「やった―――――!アハハ!アハハハハハハ!」 「パパ―――――!うふふ!うふふふふ!」 愛の大回転を続ける二人を見て、家臣達はひそひそと話していた。 (お、おい……どうする?) (どうって……まぁ閻廷様の言う様に閻濡様との間にお世継ぎができれば、確かに問題ないけど……) (とにかく少し様子を見ようじゃないか……あまり閻廷様を追い詰めて光濡様が崩御した時のようになられても困るし……) (そうだな、閻廷様と閻濡様の幸せが我々の幸せ…… 無理に再婚やお世継ぎの問題を突きつけて二人を傷つける事もない……) 根は閻廷や閻濡想いの甘やかせ家臣達はこうして納得したらしい。 どこからともなく拍手が起こり、それが徐々に広まり、最終的に大喝采へと変わる。 そして指笛、紙吹雪、コールも加わって何ともおめでたい空間になった。 家臣達の温かい声援に包まれた閻濡とパパは、幸せそうに笑っていた。 |
|
戻る 進む TOP>小説 |