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姫神様フリーダムanother(友神夫婦編)



ここは神々の住まう天の国。
これは琳姫や立佳が生まれる前、王の境佳が若いころの話だ。

朝から境佳の城の庭では、泣き叫ぶ声と肌を打つ音が響いていた。

「うわぁ――ぁん!!離せ――!」

庭を見渡せる特等席のベンチで、境佳に丸出しのお尻を叩かれているのは友人の閻廷。
事の発端は15分ほど前。
城の窓から急に激しい光が差したので外を見ると、境佳自慢の大庭園の花がごっそり無くなっていた。
その近くに大量の花を嬉しそうに運んでいる閻廷の姿……現行犯で捕まえたのだ。
お仕置きされても反省する様子もなく、ただもがいている友人を境佳が一喝する。

「暴れるんじゃない!こんな事をした訳を聞こうか、花泥棒?」
「だって!だってお前、今日は“光濡と初めてちゅーしてから100日記念”なんだぞ!!」
「はぁ?!」

一瞬驚いたものの、境佳はすぐに理解した。
“光濡”というのは閻廷の婚約者……二人はとても仲の良いカップルになのだが、
特に閻廷がすっかり彼女を気に入っていて、毎日遠慮なくありったけの愛情を彼女にぶつけていた。
限度を知らない愛情表現は時に暴走を生んで……今回もそのパターンだろう。

「お前は光濡に花を贈ろうとしたのか?」
「そ、そうだ!いっぱいプレゼントして光濡に喜んでもらうんだ!
“ありがとうございます……あぁ、やっぱり閻廷様はカッコいいです……”
って、で、ちゅ――って……えへへへ〜〜☆」
「このバカ!!」

バチンッ!

デレデレしている閻廷に呆れつつ、彼のお尻に平手を叩きつける境佳。
強く叩いたので生白いお尻に赤い跡が付いたが、そのまま何度も手を振りおろす。
頭の中が大庭園の友人を改心させるためには、お仕置きしつつみっちりお説教――しかないと確信した。

「そんな盗んだような花で、光濡が喜ぶと思うのか!?」
「ぬ、盗んでない!もらったんだ!」
「黙って持って行こうとしたくせに何が“もらった”だ!!」
「ひゃぁああっ!いたぃぃ!お前も“光濡と初めてちゅーしてから100日記念”祝えぇっ!!」
「よし、分かった。まだまだお仕置きされ足りないんだな?」

そうしてますますお尻を叩かれて泣き叫んでいる閻廷のところに、一人の女性が現れる。
薄水色の長い髪に、メリハリのあるボディーラインを上品な着物で包んで
ふんわりと優雅に二人に近づいて柔らかい笑顔を向けた。

「もう許してあげたら?境佳?」
「姉上……しかし、コイツ全然反省してないし、姉上が育てた花だって……」
「いいのよ。わたくしは気にしてないわ。お花だって、ただ枯れるよりは誰かの役に立ちたいはず……」

境佳の姉の玲姫は、閻廷に目線を合わせるようにかがんで(かがんだ拍子にふくよかな胸がポヨンと揺れた)
泣いている閻廷に優しく声をかける。

「閻ちゃん、今日は仕方が無いけれど、もうこんな事しちゃダメよ?
プレゼントは量より気持ち。そんなにたくさん持っていかなくても、心のこもったお手紙一つで十分。ね?」

玲姫に優しく説得されたにもかかわらず、閻廷は不満そうに反論した。

「そりゃあ、姉上殿の世代はそれでいいのかもしれないけど、私達まだ若いんだ!
派手に祝いたいじゃないか!姉上殿はもう若くないから最近の流行ってもんを全く分か……」
「よ、よせ!閻廷!」
「あらあら、うふふ……」

境佳の制止も手遅れだったようで、玲姫の周りにはすでに禍々しいオーラが漂っていた。
玲姫は相変わらず優しい笑顔だったが、その笑い声は何故だかとても恐ろしい。

「なぁに閻ちゃん……わたくし、貴方とた・っ・た・の・七歳しか違わないのよ〜〜?
それに、女性に年齢の事をとやかく言うなんて……年上の女性に対する礼儀がなってないわねぇ……
光濡に嫌われちゃうわよ?」
「こ、光濡は私より年下……」
「あら口答えするの?イケナイ子。いいわ、わたくしが直々にお仕置きしてあげる。
全くもう、閻ちゃんは世話がかかるわね〜〜」

玲姫は笑顔のまま閻廷の体を強引に持ち上げると、難無く小脇に抱えるとそのまま……

バチィィンッ!!

「ぎゃああああああッ!!」

閻廷を本気で絶叫させるほどの平手を叩きこんでいた。

「あ、姉上……」

膝が軽くなった境佳が真っ青で見つめる中、執行人が変わった閻廷のお仕置きは続く。

「あぁっ、姉、上どのッ!!いたっ、いたいぁああっ!!」
「お姉ちゃんを怒らせると怖いわよ〜〜閻ちゃん?」
「うわぁああん!ごめんなさい姉上殿!ごめんなさぃぃっ!!」

バチン!バチン!バチィィンッ!!

叩く音が激しいのもさることながら、最初は全く謝らなかった閻廷があんなに必死で謝るなんて……
よっぽど痛いんだろうと、境佳は息をのむ。
現に境佳の位置から見える閻廷のお尻は真っ赤だった。自分がお仕置きしている時より、さらに。

「ごめんなぁいあぁああ!!いたいいたい姉上殿痛いぃ――!!」
「誰が若くないって?ねぇ?ねぇ?」

ビシィィッ!!

「いぎぃぃぃぃっ!!」
(ダメだ!もう悲鳴がえげつない!)

境佳は心の中で叫ぶ。
玲姫の手が閻廷の赤いお尻を打つたびに激しい音と閻廷の悲鳴とのたうつ姿と……
元々は閻廷が悪いわけだが、あまりの惨状に境佳は見ていられなくなって、とっさに叫んだ。

「姉上!!もうやめてくれ!姉上はまだ十分若い!魅力的だ!
閻廷はバカで子供だからそれが分からないんだ!」
「境佳……」
「私は分かってる……十分、分かってるから!花は……閻廷なんか放っておいて、また育てよう!」
「境佳……!!」

感極まった様子の玲姫は閻廷をボトリと落とす。
地面に落下した閻廷に境佳が駆け寄ると、閻廷は弱弱しく境佳の手を握る。

「ありがとう、ありがとうありがとう境佳……!!」
「何言ってるんだバカッ!私達、友達だろう!?お前が無事ならそれでッ……!!」

涙を流しながらお礼を言い続ける閻廷に、境佳も涙を流す。

「そうよね。閻ちゃんは放っておいて、境佳と二人で育てればいいんだわ……ベッドの上で愛を……
ああダメよ玲姫!!境佳に今こんな事言ったらこれまでつちかってきた“清楚で慎みのある姉上”の仮面が剥がれるッ!!」

幸い、玲姫の独り言は境佳や閻廷には聞こえていないようで
二人で震える手を固く握りあって、友情を確かめあっていたところ……

「あのぅ……お花をもらいに来たのですが……」

どこからともなく聞こえる癒し系ボイス。
全員が驚いて声の主を注目すると、声の主の少女もまた、驚いたような声を出す。

「まぁ閻廷様!こちらにいらしたのですか?」
「こ、光濡!!」

ほんのり桜色の全体にゆるくウエーブがかかった髪に、白い肌に長い睫毛。
まだあどけなさの残るこの少女こそ、閻廷の婚約者の光濡だった。
光濡は優しげな瞳を心配そうに細めて閻廷を見つめる。

「閻廷様、泣いていらっしゃるのですか……?」
「い、いや!大丈夫だ!泣いてない!」

閻廷はゴシゴシと袖で顔を拭って、明るい笑顔を作る。
それを見た光濡もほっとしたようにはにかんだ。

「それならいいのですが……今日はその……
“閻廷様と初めてキスしてから100日記念”なので……」
「光濡……覚えててくれたのか……?」
「忘れるはずありません。光濡にとって、大切な記念日です」
「光濡……!!ああっもぅ!光濡愛してるっ!世界一愛してる!」
「光濡もですわ。閻廷様」

人目気にせず幸せそうに抱きあう二人(と、いうか閻廷が激しく抱きついていったのを受けとめる光濡)。
境佳はいつもの光景に苦笑しながらも、光濡に話しかけた。

「光濡、さっき花が欲しいと言ったか?」
「はい。今日の記念日に、閻廷様にナイショでお花をプレゼントしようと思って……
もうナイショと言うわけにはいきませんが……」

光濡は自身に抱きついている閻廷を見て微笑む。
閻廷の方も満面の笑みだ。

「そうだな、それなんだが……実は見ての通り、もう花が無いんだ」

境佳は庭をぐるりと指さす。閻廷が花を根こそぎ取った庭はサラ地同然だ。
光濡もそんな庭を見て、口に手を当てる。

「これは……どうしたのですか?一昨日は綺麗に咲いていたのに……」
「私が光濡にプレゼントするために全部取ったんだ!
同じプレゼントを考えていたなんて、私たちはやっぱり運命で結ばれた最高の……」
「閻廷様!ダメじゃないですか!人のお庭の花を勝手に取ったりして!」

気持ちよく愛を語っていたのに、光濡に怒鳴られてきょとんとする閻廷。
ああ、そうか今“取った”って言ったもんな……と、境佳はしみじみ思う。

「さすがだな光濡……婚約者の暴走を素早く察知するとは……」
「そう!さすが私の光濡!」
「閻廷様は喜ばないでください!もう、玲姫に分けてもらう約束をしてたのに……
閻廷様……今からお家に帰ってお仕置きです!」
「え……?ま、待ってくれ光濡!今日、私……」

光濡の“お仕置き”宣言に閻廷は本気で焦りだす。
それもそうだろう。光濡にお仕置きされるとなると、閻廷は本日3回目のお仕置きになる。
特に玲姫の時で気力体力を消耗しきって、もう限界なのだろう。
そんな閻廷の焦りを意に介したとばかりに光濡が笑顔を向けるが……

「大丈夫です……“閻廷様と初めてキスしてから100日記念”のお祝いは、ちゃんとお仕置きの後行いますから」
「は、はは……」

何かが違う。

その時の閻廷の様子を、後に境佳はこう語る。
顔は笑顔なのに、虚ろな目からはとめどなく涙が溢れていた。
まるで壊れた屋根から注ぐ雨漏りのようだった、と。


そして光濡によって城に連れて帰られた閻廷は、宣言通り光濡にお仕置きされる事になる。
お仕置きと言うのはもちろん、本日通算3回目のお尻ペンペン。

「痛い痛い痛い……」
「光濡はまだ何もしていませんよ?」
「境佳にも姉上殿にもお仕置きされたんだぞ!?空気が当たるだけでも痛いんだ!」

膝の上ですでに半泣きの婚約者に困り顔の光濡。
下着を脱がせた閻廷のお尻は赤みが残っているので、言っている事は分かるけれど……

「でもそれは閻廷様が悪いんでしょう?」

呆れながら赤いお尻をペシッと軽く叩く。それだけでも閻廷は過剰反応だ。

「あぁっ!!痛い!ごめんなさい!」
「他所に迷惑をかけてはいけません。あのお庭は境佳様と玲姫が大切にしていたのに……」
「光濡に、喜んで、ほしかったっ……だ……ひっ、いっ……」

閻廷の言葉に、光濡は胸が熱くなる。
ただ自分の事を想って、この人はこんな事をしてしまった……だからこそ、自分が間違いを正してあげなければいけない。
そんな事を考えながらペシン、ペシンと一定間隔で叩いていると、それに合わせて閻廷も息を弾ませている。
声も潤んでいるのでもう泣いているのだろう。何だか光濡まで泣きそうになってきた。

「閻廷様……お気持ちは嬉しいです……とっても。
でも……っ、光濡は閻廷様さえいれば何も要りません……」
「はぁ、光濡……!!」
「だから人のものを勝手に取るような事はやめてください……
閻廷様に悪い事してほしくないっ……」
「光濡……が、可愛くて鼻血が出そうだ……」

バシィッ!

「いたぁぁあいっ!ごめんなさい!」

閻廷の場違いな一言でに、突っ込むようにキツイ一発を浴びせる光濡。
おかげで気持ちが一気に冷静になった。……嬉しくなかったわけではないが。

「100叩いたら終わりにしようと思っていましたが……もう一度数え直しましょうか?」
「嫌だ!いやだぁぁあっ!うわぁぁああん!」
「もう……」

閻廷は光濡から見てもいつも子供っぽいが、こんな風にお尻を叩かれて泣いていると一段と子供っぽい。
あばたもえくぼ、と言うのか……こんな姿も可愛いと思ってしまう。
そして結局、光濡は閻廷を甘やかしてしまうのだ。

「もうしないとお約束できるなら、お終いにしてあげます」
「もうしない!もうしない!」
「お約束ですよ?」

そう優しく言い聞かせて、閻廷を押さえつけていた手をどけると
閻廷は素早く起き上がってきて光濡に抱きつく。いきなりすぎて光濡が驚いたくらいの素早さだ。

「光濡、愛してる!ずっとこうしたかった……今日は“光濡と初めてちゅーしてから100日記念”だ!」
「え、閻廷様……」
「私はお前がいないとダメなんだ……ずっと一緒にいてくれ……!」

自分を強く抱きしめながら必死で愛を叫んでくる閻廷……あまりの必死さに
光濡は――どうしましょう、皆がお尻を叩きすぎて閻廷様の心が折れてしまったのかしら?
と不安になったものの、答えは一つだった。

「はい。ずっと一緒にいましょう。光濡も閻廷様を愛しています」

閻廷の背中に手をまわして、何の迷いも無くそう答えると
抱きしめられる力がさらに強くなって、閻廷の嬉しそうな声が返ってきた。

「光濡、嬉しい!!ずっとだぞ!?一生だぞ!?」
「ずっとです。一生です。光濡はもうすぐ、閻廷様のお嫁さんですもの」
「光濡……あぁ、光濡!!」

二人はぎゅっぎゅと気の済むまで抱き合って、ふっと離れて見つめあう。
少し頬を赤くした光濡が閻廷に問いかけた。

「閻廷様、“閻廷様と初めてキスしてから100日記念”……プレゼントは何がいいですか?
お花はプレゼントできなくなってしまったから……他に何か、閻廷様の望むものを」
「そんな……私はお前さえいれば……」
「そうおっしゃらずに。光濡も何かプレゼントを差し上げたいです」
「じゃあ……赤ちゃんが欲しい!!」

閻廷の言葉は光濡の想像をはるかに超えていた。しかも本気だった。本気の、キラキラした笑顔だ。

「光濡と私の赤ちゃんが欲しい!女の人は好きな人との赤ちゃんを作る事ができるんだろう!?」

少年のような汚れない瞳で見つめてくる閻廷。
せめて、一片の下心でも見えれば冗談で返せるのに!と、光濡は今までにないくらい混乱していた。
閻廷様は何か大事な事を分かっていらっしゃらないんだわ。そうよ、そうに決まってる。
でも、それをどう説明したらいいの!?
頭の整理がつかないまま、光濡はモジモジのドキドキで説明を試みた。

「で、できますがその……これは光濡一人ではどうにも……閻廷様にも手伝っていただかないと……」
「そうなのか!分かった、手伝うぞ!私は何をすればいい!?」

期待に満ちた目で見つめてくる閻廷に、光濡はますます焦ってしまう。
何を?何を、何を……説明しようと考れば考えるほど、光濡の頭は恥ずかしさでヒートアップしてきた。
言葉を言おうにも舌がもつれて……

「しょ、しょれは……はの……しょの……は、はぅぅぅ〜〜」

首から上を真っ赤にしたまま、光濡はその場にフラフラと倒れこんでしまった。
羞恥心の臨界点を突破したらしい。
閻廷が慌てて光濡を助け起こす。

「光濡!?光濡しっかりしてくれ!どうしたんだ!?熱があるのか!?」
「こ、光濡は幸せれすぅぅ……」

目を回したままそう言った光濡は、その後30分目を覚まさなかったらしい。


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11/22(良い夫婦の日)記念!
天界一のバカップルとは彼らの事です(笑)。