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姫神様フリーダムanother(ちっちゃ遊磨編)
王様/ちっちゃ遊磨リクエスト作品




ここは神々の住まう天の国。
これは琳姫や立佳が生まれる前の話。

その日、王の境佳が廊下を歩いていると少年の叫び声が聞こえた。
「みぎゃぁぁああああっ!!」
何事かと境佳が声の方へ走って行くと、球里(当時12歳)の尻尾に、遊磨(当時10歳)が食らいついていた。
小さな口に尻尾を咥え込めるだけ咥え込んで、モゴモゴしてる遊磨に馬乗りにされて、
球里が床にへばって小刻みに震えている。
「ひぃぃっ!!た、助けて下さい主上様ぁ!!あ゛あっ!歯を立てるなぁっ!!」
涙目になりながら境佳に助けを求める球里。
必死の球里には悪いが、はたから見るとなかなか面白い光景だった。
境佳は苦笑しながら遊磨を引き離す。
「遊磨、やめてあげなさい」
にゅるりと尻尾が口から引き抜かれて、透明な糸がたわむ。
尻尾の毛先しっとりの球里は泣きながらお風呂へ走って行ったので境佳は遊磨に軽く注意した。
「ダメじゃないか、球里をいじめたら」
「ごめんなさい。だって先輩の尻尾、何だか食べれそうな気がしたから。
でも、意外と美味しくなかったです」
すぐに謝ってしゅんとする遊磨。
まだ城で働きだして間もない幼い少女は、明るくて人懐っこい、いい子なのだが
唯一の難点が“食への好奇心の強さ”だった。とにかく食べるものを選ばない。
彼女が食べられると判断してしまったら最後、何でも食べてしまうのだ。
それでお腹を壊す事もしばしばあって、何度か注意しているが直らない。
この場も一応軽くお説教だけ済ませて、それで収まったのだが
境佳は自室に戻った後も遊磨の“無茶食い”の事が頭から離れない

「あぁ、どうしたら遊磨がむやみに食べるのをやめさせられるんだろう……」
椅子の背もたれにめいっぱいもたれかかってため息をつく境佳の横から、
妻の玲姫がそっとお茶を差し出す。
「この前もわけの分からない雑草を食べてお腹を壊しましたものね。
境佳様、ちゃんと言って聞かせてます?」
「食べることに関しては何度言ってもダメなんだ。
他の事なら一回言えば分かってくれるいい子なのに……。
でもどうにかして直してやらないと、もし毒草でも食べたら……」
「ならいっそ……思いっきりお尻でも叩いてみたらどうでしょう?」
「は?!」
いきなり聞こえたアグレッシブな発言に思わず玲姫の顔を見た境佳。
言った当人はまさに女神の笑顔で話を続ける。
「だって、境佳様のおねしょもそれで治ったじゃありませんか」
「はぁっ!?」
「何度言われても全然ダメだったのに、お仕置きされたらそれ以来ピッタリ……」
「おいコラ!その話はもういい!!今はそんな話じゃないだろう!?」
境佳が椅子から立ち上がりそうな勢いで止めると、玲姫も大人しく話をやめる。
その代わり、にやにやしながら境佳の顔を覗き込んだ。
「……と、まぁ、成功した良い前例がありますし〜♪
思い切ってお仕置きしてみるのも一つの手ですよ?」
「……考えておく」
真っ赤な顔を反対側に逸らした境佳が、ぽつりと呟いた。

そして翌日、昨日の境佳達の話し合いを知るはずもない遊磨は
またしても何か食べてしまったらしく、庭で木の根元でうずくまって何かを吐きだしていた。
偶然発見した境佳が慌てて駆け寄って遊磨の背中を擦る。
「遊磨!?何をしてるんだ!?大丈夫か!?」
唾液混じりに次々と地面に落ちるピンク色の欠片……
よく見ると境佳と玲姫が結婚記念に植えた“ラブツリー”という木の実だった。
元は可愛らしいハート形で綺麗なピンク色だが、完全なる観賞用の木の実なので……
「これは食べるなって言っただろう!?」
「らってあんまひおいしそうだっ……食べられりゅって……えふっ、えふっ!!
本当に食べられないか試してみよう!!って!」
目を潤ませながら咳きこんで、そうまでして食の限界へ挑戦する遊磨が、境佳は本気で心配になってきた。
見た目が綺麗で美味しそうでも毒があるものだって存在する。
もし遊磨が好奇心でそれを食べてしまったら……考えたくもない。
それ以前に、食べられないと教えたものまで食べられるともう事故の防ぎようが……

“いっそ……思いっきりお尻でも叩いてみたらどうでしょう?”
玲姫の言葉が境佳の頭の中で響く。
目の前の遊磨を見ていると……こんな荒療治は可哀想だけど、とても可哀想だけど……
前々から何度も注意した。言い聞かせた。それでダメだった。
大事に至る前に、取り返しがつかなくなる前に、もうこれしか……方法が!!

境佳は意を決して、地面に座って遊磨を膝の上に引き倒す。
直前、驚いた顔をしていた遊磨は膝に倒れこむと手足をばたつかせる。
「え!?えぇっ!?何ですか!?何ですかこれぇっ!?」
抵抗するというよりは単純に驚いて暴れている様子の遊磨に境佳は言った。
「私の言う事を聞かない悪い娘をお仕置きするんだ。今から」
「そ、それってあたしですか!?
お仕置きってまさか……お尻ぶつんですか?!」
「察しがいいな。その通りだ」
「ひゃぁぁっ!いや!ダメです境佳様ぁっ!」
余計に暴れだしてしまった遊磨のもがいている足から下着を抜き取って小さなお尻を平手打つ。
パンッ!パンッ!パンッ!
「あっ……ひゃぅっ……いたっ!!」
叩くたび、遊磨は小さな体を波打たせる。同時に必死で逃げようとしているらしい。
押さえつけてる体から外へ外へと逃げようとする動きを感じる。
「遊磨、あまり暴れないでくれ」
「だっ、だって!!こんな……っ、やんっ!!
若い男に裸見られたらお嫁に行けなくなっちゃうって、
おっとうが言ってたんですもん!!」
「え!?」
結構、真剣な響きを持っている遊磨の声に境佳は少し動揺する。
自分では、すごく自然な感じで娘をお仕置きする父親のつもりだったのに……
遊磨がどう感じているのか何となく不安になったので、
とりあえず叩く手は止めて、お互いの認識を合わせようとしてみた。
「……ええと、遊磨、ここでは私と玲姫がお前の父と母だ。
お前がいい子にしていれば褒めるし、悪い事をしたら叱る。
だがらお前も私の事を父だと思って……」
「え―――!!だって境佳様、普通にカッコいいのに!
体もゴツくないし、ヒゲもモッサリしてないし、熊っぽくないし、オヤジっぽくないし
毛だってもじゃもじゃ生えてないし……父親だと思うなんて無理ですって!!」
「……そうか……無理か……」
褒められて喜ぶべきか、父親認定されてなくて悲しむべきか……
遊磨の言葉をどう受け止めていいのか分からない境佳は
「すべての“父親”が皆お前の父君のような雄々しい容姿じゃないんだぞ?」
と、言う言葉だけ呑み込んで、遊磨を納得させる言葉を考える。
「それ……でも、これはお仕置きなわけだから……
親が子にするような事だから、私が若かろうがお前はお嫁に行ける。
何というか……安心しなさい」
歯切れ悪くもそれだけ言って、境佳も気持を切り換えようと息をつく。
余計な事で恥ずかしがられるより、きちんと反省してほしい。
こっちも、いつまでもギクシャクしていてもお仕置きにならない。
今までの微妙な空気を吹き飛ばすように、境佳はまた遊磨のお尻を叩き始める。

「そんな事より、ちゃんと反省してるのか?!
その辺のものをむやみに食べるなと、あれだけ言ってるのに今日も食べてしまって!」
パンッ!パンッ!パンッ!
「ぃひっ!?やああっ!!してます!してますぅ!!」
「食べたら毒になるものだってたくさんあるんだ!
むやみにその辺のものを食べたら危ないだろう?!」
「っ、でもぉ……うっかり食べたらおいしかったものもたくさんありましたよ?!
例えばあっちの方にあった黄色い花とか……」
「……全然花が咲かないと思ったらお前の仕業か!!」
思わぬところに被害をもたらしている遊磨の食欲に
境佳は驚きと小さな怒りを感じて……その複雑な感情をそのまま遊磨のお尻に叩きつけていた。
発展途上の小さくて無防備なお尻はどんどん熱を帯びていくとともに
遊磨の悲鳴の割合も多くなっていく。
「ひやぁああんっ!!ごめんなさいぃっ!!」
「偶然おいしいものと同じくらい危険なものもあるんだ!
お前も何度かお腹を壊してるじゃないか!少しは懲りなさい!」
「あぁあっ!あれは違いますよぉ!!食べたものがダメだったんじゃなくて
量をたくさん食べたから食べすぎで……」
「どっちだって同じことだ!」
パンッ!パンッ!パンッ!
「やぁぁっ!!痛いぃ!許してください!!」
「もうお腹壊すようなものを勝手に食べないか?
特に食べるなっていうものは絶対に食べないって約束できるか?!」
「できません!!」
「それで“許してくれ”は虫が良すぎるな……却下だ!」
パンッ!パンッ!パンッ!
遊磨は気持ちいほどハッキリと境佳の言葉を拒絶した。
それに反省していると言った割にはさっきからぐちゃぐちゃと言い訳をしている。
躾けである以上、遊磨が反省してくれるまでやめるわけいかない。
もう少し厳しくして本当に反省してもらわないと、長く苦しむのは遊磨だ。
そう思って境佳は少し平手に力を入れる。

「やぁぁっ!!ごめんなさぁぁい!!あたしダメなんです!無理なんです!
どうしても食べたくなっちゃうんです〜〜!!」
幼い遊磨の悲鳴の音量が+3ぐらい上がったが、それも覚悟の上だ。
境佳は無視してお尻を叩き続ける。
「やだぁぁっ!!いたい!あぁあああん!」
泣き出すだろうとも思っていた。これも覚悟の上。
同情を押し殺して叱りつけた。
「どうしても食べたくても食べちゃいけないものもあるんだ!
毒に当たるかもしれないんだぞ?!」
「だってお腹すいたら、お腹すいたら仕方ないじゃないですか!
食べれそうだったら何でも食べないと……
お腹すいたんだもん〜〜〜!!わぁぁあああんっ!!」
泣きながら「お腹すいた」を繰り返す遊磨に、境佳は内心首をかしげる。
遊磨があれこれ食べているのは単なる好奇心からだと思っていたけど
もしかして……
「……遊磨……お前……もしかして、ご飯の量足りてないのか?」
境佳が思いついたままを口にすると、ビクッと揺れた遊磨。
叩かれた反応とは別の動きだった。
「あ……あの……その……足りてます……」
「ほら正直に!」
明らかにしどろもどろで嘘をついている遊磨のお尻を一発
思いっきり叩いてやると
「やぁぁんっ!!ごめんなさい!足りてないです!ごめんなさい!」
すぐに折れた。
ひとしきり叫んだ後は恥ずかしそうに呻いていたので、
遊磨的には言いたくなかった言葉なのだろう。
しかし空腹の所為、という理由なら何度お腹を壊しても
めげずに得体の知れないものを食べていたのは納得がいく。
「足りないならどうしてそう言わないんだ……」
理由が理由だけに何だか可哀想に思った境佳は優しめにそう尋ねる。
ただし、お尻を叩く手は止めない。
「ひぐっ、ごめんなさい!だってみんなあんまり食べてないし!
あたしだけいっぱい食べたら変に思われるって……
それに一人でいっぱい食べたら申し訳ないし!うぅっ!」
「そんな事気にしなくていい。
私達はみんな食べたいだけ食べてるんだから。
無理に我慢されて変な物を食べられた方がよっぽど心配だ」
「でも……でも……っ!!」
「これは困ったな。変に遠慮する悪い癖もここで直しておこうか?」
パンッ!パンッ!パンッ!
境佳がわざと強めに何度か叩くと、遊磨は本気で痛がって暴れていた。
最初の暴れ方より数段勢いを増した、なりふり構わぬ暴れっぷりだ。
お尻の赤さからすれば仕方のない事だが。
「やぁぁあっ!!いったいぃっ!!ごめんなさい!やだぁぁああっ!!」
「お前は私達に気を使って食べるのを我慢してくれてるらしいが、
それで皆に心配かける事になるのは意味がないと思わないか?」
「うわぁあああん!思いますぅぅっ!ごめんなさい――――!」
「遠慮したり気を使ったりしないでくれ。玲姫も球里も、もちろん私も、お前が大好きだ。
何があっても変に思ったりしない。もう我慢しないでしっかり食べて、
変なものは食べない。食べるなって言ったものも食べない。
今度こそ約束できるな?」
遊磨があまりにも泣きわめいているので
そろそろ許してあげたい境佳が最終意思確認。
そして……
「できますぅぅっ!ごめんなさぁぁい!!わぁぁああん!!」
「よし、じゃあ許そう」
素直に欲しい答えをくれたので、お仕置きは終わりにした。

膝から降ろしても遊磨は大泣きしていたが、
境佳が抱きしめて慰めると割とすぐ泣きやんで、その後、すぐ眠ってしまった。
「泣き疲れたのか……少しやり過ぎたかもしれないな……
いや、それともまさか……お腹がすいて眠れてなかったなんて事は……」
境佳は自分の膝の上で超熟睡中の遊磨を見ながら呟いた。
遊磨が何でもかんでも食べていたのは空腹のせいだったとは……
「全く気が付けないで……可哀想な事をした……はぁ、これでは父親だなんて言えないな」
「大丈夫……」
いきなり遊磨の声が聞こえて
独り言を聞かれたかと慌てて遊磨の顔を見る……が、まだ寝息を立てていた。
眠っているのに柔らかい笑顔を浮かべて、まだ何か言っている。
「大丈夫……あたし、全然お腹すいてないから。
それ食べたらおっかぁのが無くなっちゃう……
おっかぁ、お願いだからもっと何か食べてよ……お願いだから……」
喋り続ける遊磨に、最初こそ驚いていた境佳だが、だんだん何とも言えない気持ちになってきた。
遊磨は名のある軍神の娘。
しかし、かつての栄華を極めた軍神の一族はここ数年ですっかり没落。
遊磨の実家も例外ではなく、貧窮した家計を助けるために遊磨はここへ出稼ぎにやってきたのだ。
幼い一人娘を働きに出さざるを得ない無念さに、泣き崩れていた遊磨の両親の顔を境佳は忘れられない。
「遊磨……お前が食べても皆の分は無くならないから……
ご飯は好きなだけたくさん食べてくれ。
お前に不自由をさせたら、ご両親に申し訳が立たない」
「ん……ぅ……じゃあおかわり……」
嬉しそうにそう呟く遊磨の小さな手を、境佳はいつまでも握っていた。


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食べ物が絡むとさすが遊磨さん!&遊磨のバックグラウンドをサラッと暴露♪
……こんなんで良かったでしょうか(笑)。リクエスト消化にはいまいち自信無いけど……
いつも楽しく書かせていただいてます☆
リクエストって来て少なくとも一週間ぐらいまでに書かないと、リクエスト主がどっか行ってしまって
見てもらえない……そんな展開が、一番怖いです(笑)。
最近は酷いリクエスト貯め込み状態ですが、このように遅くなってもなるべく書いて行くつもりなので、
ご了承願います(ノ´∀`*)