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姫神様フリーダムanother(球里編)




ここは神々の住まう天の国。
この国の皇子である立佳の従者、球里は図書館にいた。

(これは!素晴らしい名作を発見した!)

感動のあまり狐耳を震わせる球里の、今日のヒットは“ごんぎつね”だった。
さっそく貸出カウンターへ持っていく。

「すいません。これを借してください」
「あー、それ貸出禁止なんですよ〜。ごめんなさいね」

さらりとそう言われ、球里は面食らう。

「え?何でですか?」
「そういうねー、規則なんですよー」
「……せっかく図書館に来て手ぶらで帰れと?」
「いや……他の本借りて帰ればいいじゃないですか。この“鶴の恩返し”なら貸出できますよ?」
「いやいや“鶴の恩返し”は要りません。私は、こっちの“ごんぎつね”を借りて帰りたいんです。」
「だから“ごんぎつね”は貸出禁止です。どっちも一緒じゃないですかー……」

めんどくさそうな図書館司書の言葉に、球里はカッとなった。
カウンターに勢いよく手を付いて、身を乗り出す。

「一緒なら何で“ごんぎつね”だけ貸出禁止なんですか!?おかしいでしょ!?
鳥類は良くて哺乳類はダメですか!?どんな規則なんですかここは!!
私は“ごんぎつね”を寝る前に読みたいんです!!」
「しつこいなぁ……規則ったら規則なんですよ!貸せません!ほら、そこに“貸し出し禁止”シール貼ってあるでしょ!?」
「シール!?このシールが悪いんですか!?剥がしましょうかこれ!?」
「お兄さん!!大人げないですよ!!」

そう言われて、球里はぐっと言葉に詰まる。
そうだ、大人げない。何を熱くなっているんだ私は。
しかも図書館で大声を出してしまって……と、しょんぼりする。

「そうですね……変な事言ってすいません……置いて帰ります」
「あ、いや……ごめんなさいね?まぁ、明日も読みに来て下さいよ」
「ええ。ありがとう」

そうして図書館を後にした球里だが、どうにも気持がおさまらない。
どうして“鶴の恩返し”が良くて“ごんぎつね”がダメなのか……考えてみるとムシャクシャしてくる。
大体、規則規則って、ちょっとぐらい貸してくれたって……

(ダメだ!何を考えているんだ私は!!)

主を敬い、秩序を守るのが正しい在り方。
規則で決まっているなら仕方がない。仕方がないんだけど……
球里の“ごんぎつね”に対する情熱は“仕方がない”では済まされないほどのものだった。

(ああ、この石像ぶっ壊したい……)

偶然視界に入ったその辺の石像に手をかける。
イライラしすぎて思考が変な方向に行っているのは自分でも分かった。
しかし、分かったところで衝動は止められない

(あの図書館司書の……)

手に思いっきり体内の霊力を込める。やめようとは思わない。
球里には、近くに人がいないか確認するだけの余裕しか残っていなかった。

(バカヤロ――――――!!)

心の中で思いっきり叫んだ瞬間、手をかけていた石像にヒビが入って
思いっきり粉々に吹き飛んだ。


当然、球里は器物損壊の件で注意を受けることになる。
王……つまり立佳の父親の部屋で床に正座していた。
対する王は椅子に座って呆れ顔だった。

「影も残さず……派手にやってくれたものだ……で?理由が?」
「ムシャクシャしてつい……」
「何をやっているんだか……お前らしくもない……」
「申し訳ありません……」

この状況、普段怒られ慣れていない球里にはひどく居心地が悪かった。
主君はそんなに怒っている風でも無いが、このままタダでは許してもらえないだろう……
そう思うと少し怖い気もする。
しかし、球里はそれを悟られないように、できるだけ落ち着いた態度で王の言葉を聞いていた。

「物に当たるのは良くないし、周りに人がいたらどうなっていたか……
それに公共の物を壊して、お咎め無しというわけにはいくまい?
残念だが、久し振りにお仕置きだな……」
「心得ております。どうぞ主上様の思うようにしてください。
覚悟はできていますから」
「そんなに怖いか?」

予想外の言葉に、球里は驚いた。
さっきの言葉は冷静に言えた。怖いなんて感情、どこにも出ていないはずなのに……
とりあえず一呼吸おいて、冷静に、慎重に言葉を繋ぐ。

「いいえ……そのような事は……」
「嘘をつけ。見ていればわかる」

球里はますます驚いた。
見て分かるほどに怯えている?私が?
顔に出していない自信はあるのに何で……と、不思議に思って聞いてみる。

「私は……そのような顔をしていますか?」
「いや……顔は感心するぐらい冷静なのだが……」

ここまで言って、王は笑いをこらえきれないとばかりにふきだした。

「ぷっ……耳と尻尾が可哀想なくらい丸まっている……くくっ……」
「……ぁ……」
「あははっ!こういう時は素直に怖がった方が可愛げがあるぞ?」

笑われて、球里は慌てて耳を押さえて顔を真っ赤にした。
恥ずかしいやら情けないやらで思わず本音もこぼれる。

「正直申し上げて……今、本気で実家に帰りたいです……」
「え!?いや、それは困る……分かった、早く済ませてしまおう!」

さっと立ちあがって、王は球里の傍まで来た。
球里を膝の上に横たえ、尻尾を体とまとめて押さえつけて、ズボンと下着を下ろした。

「……ぁっ、主上様っ……!!」
「お前はまた無理に我慢しそうだから言っておくが、泣いても暴れても構わないからな?」

パアンッ!

「うぁっ!!」

いきなり強めに叩かれて、球里は小さな悲鳴をあげる。
“泣いても暴れても構わない”と言われても、そう簡単に抵抗する気になれないので
球里は頑張って声を殺していた。

パン!パン!パン!

「はぁっ……ん……くっ……!!」

パン!パン!パン!

「外でみだりに力を使うのは良くない事だな。
ましてや、八当たりで物を壊すのに使うなんて問題外……」
「はっ……あぁっ……んんっ!!」
「しかもあんな公共施設の近くで……人を巻き込んだらどうするつもりだった?」
「人がいないかはっ……一応確認しましたッ……!!」
「そういう問題でもない」

パン!パン!パン!

「ああっ!!申し訳ありません!」

王の平手に尻をだんだん赤く染め上げられ、球里は声を我慢するのが難しくなってきた。
だったら次は動かないようにしていようと決め、体を縮こめる。
一定間隔の痛みに耐えながら、王の話にもきちんと耳を傾けた。

「……しかし、今言った事はお前なら分かっていたはずだ。
お前は感情に任せて物を壊すような子じゃないだろう?
一体どうしたんだ今日は?」
「今日はっ……本が……!!」

本当の事を言って呆れられないかと躊躇したものの
この状況で、他の手ごろな理由を考える余裕もない。球里はありのまま言うしかなかった。

「気に入った本が借りられなくて……!!」
「……え?それだけか?」

どこか拍子抜けといった王の声に、球里は自分が情けなくなって
半泣きになりながら一気にまくしたてる。

「ふっ、うっ……それだけですッ!!ごめんなさい!
考えたら“ごんぎつね”なんて本屋で買えば良かった!!
ごめんなさっ……ひっく、こんな下らない事で私はッ……!!
城の恥さらしです!!狐以下の存在です!!一生雪の下に埋まって……」
「たーまーさーと!」

パァンッ!

「ひっ!!ぁっ……!!」

尻の痛みで言葉は遮られ、球里はぐっと顔を俯ける。

「そんなに自分を卑下するな。
その……“ごんぎつね”の事は、お前にとっては大事な事だったんだろう?」
「んっ、ぐすっ……どうしても、借りたかったんです!!」
「ならそれはそれでいい。
ただ、いくら腹が立っても物を壊すのはいけない」

子供に諭すような口調だが、叩きつけられる平手は容赦ない。
“動かないようにしていよう”という決意は砕かれて、球里の足が動きだす。
尻尾の自由がきけば尻を庇えるのに!と考えるがそれも叶わない。

「あぅっ……うぇぇっ……!!」
「まぁこんな事……言わなくてもお前は十分、分かってるだろうから。
これはけじめだな。また物を壊したくなったら今日の事を思い出せばいい。
歯止めになるだろう?」

パン!パン!パン!

「うっ……ぁああん!!主上様ぁっ!!」

球里は思いっきり悲鳴をあげて涙を流す。
尻は真っ赤で焼けつくように痛くて、もう限界だった。

「どうした?そろそろ我慢できないか?」
「うぇぇっ……できません!!ごめんなさい!!ひぅぅっ!!」

パン!パン!パン!

「そうか……だったら仕上げといこうか」
「いやっ……もう嫌っ……いやぁぁっ!!」
「心配するな。大人しくしていたらすぐ終わる」

パン!パン!パン!

“仕上げ”にと、さらに叩く手に力を入れたんだろう、感じる痛みが一気に大きくなる。
さすがの球里も子供のように泣き叫ぶしかなかった。

「わぁあああん!!主上様ぁぁっ!!いやぁぁああっ!!」
「まだ駄目だ。いい子にしてないと終わらないぞ?」
「やぁぁあっ!!ごめんなさぁいっ!!」

球里は大声で謝りながら身をよじる。
自分でもみっともないくらい暴れているのは頭の端で感じていた。
けれども、もう大人しくしていられなかった。とにかく痛くてたまらない。


「あぁああああんっ!!ごめんなさぃぃぃっ!!」

パン!パン!パン!

「うぇえええんっ!!主上さまぁぁぁっ!!」
「球里、もうしないか?」
「もうしません―――っ!!ごめんなさぁああいっ!!」
「そうか……」

パシンッ!

「ひゃうぅぅっ!!」
「よし、お終い!よく頑張った!」

膝から下ろされると、球里は王から顔そむけながら一生懸命涙を拭いていた。

「うっ……んぐっ……」
「ははっ、無理に泣きやもうとすると息が詰まるぞ?」
「んっく……主上さまっ……申し訳っ……」
「もう謝らなくていい」

言い終わる前に王に抱きしめられて、球里の泣きやもうとする努力は水の泡になってしまった。
それはもう、周りを気にせずわぁわぁ泣いて、王にずっと背中をさすってもらっていた。

そしてしばらくして泣きやむと、今度はずっと手鏡をのぞいていた。
傍で見ていた王が苦笑するぐらいに。

「球里……もういいんじゃないか?」
「そ、そうですよね……目の腫れも引いたし、涙の跡も残ってない……よし、いつも通りだ!
主上様、失礼いたしました」

球里は王に恭しく頭を下げ、何事も無かったかのように部屋を出る。
すると、いきなり立佳とはちあった。

「り、立佳様?!」
「あ、いや……その……あははっ……」

笑ってごまかす立佳はどこかぎこちない。
なぜ立佳様がここに……と考えてすぐ、球里の脳裏に最悪の可能性が浮かぶ。

「立佳様……まさか……」
「違う!!覗くつもりなんか……悪気があったんじゃないんだ!!
たまたま父上の部屋に来たら、何か鍵がかかってたから、どうしたのかな〜って……」

その言葉を聞くや、球里は目を見開いて……
次の瞬間には、両手で顔を覆ってその場に崩れ落ちる。

「せっかく念入りに鏡を見てきたのにッ……立佳様にまで恥をさらしてしまって!!
従者失格です!!狐の尻尾以下の存在です!!
もう、木の穴に一生閉じこもって……」
「た、球里――っ!!」

立佳は、落ち込み過ぎて床にうずくまっている球里を必死に起こそうとする。

「落ち込まないで!恥もさらしてくれないと!
お前はオレの従者なんだから、弱い所も見せてくれないと困る!
いつも完璧じゃなくていい!」
「立佳様……」

顔を上げた球里の頬に涙が伝って、立佳がアタフタしている。

「な、泣かないでよぉ〜〜……あ、ほら!頭なでなでしてやるから!よ〜しよしよし……」
「……んっ……」
「あは〜、耳がもふもふして気持ちいい♪」
「……貴方の……従者で良かった……」

小さく呟いた球里の言葉が立佳に聞こえたかは分からない。
立佳はただ、黙って従者の頭を撫でていた。




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