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逆転⇔兄弟!!

各兄弟がの兄(姉)弟(妹)が逆だったらこうなる(?)
ifストーリー





絵恋&シャルル

町で噂の大富豪、廟堂院家。
この日、この屋敷の若き奥方、シャルルの元に訪問者の知らせがあった。
シャルルが絶縁したはずの二城条家からやってきた彼女の異母妹だと名乗る少女らしい。
「すぐにお引き取り願いましょう……」
執事の琥珀丸が心配そうな顔つきで言う。
しかしシャルルは険しい顔つきながらも首を横に振った。
「いいえ。彼女に罪は無いわ。母親は違えど私の妹ですもの……
私に会いに来てくれた、その気持ちは嬉しいじゃないの。通して差し上げて」
「シャルル様……」
「大丈夫よ琥珀丸。私だってもう大人だし……お父様の事はまだ許せないけれど、
私の勝手な感情で小さな女の子を傷つけたくは無いの」
そう言ってシャルルは笑う。
琥珀丸は悲しげに目を伏せて黙礼し、部屋を出て行った。


そしてシャルルは対面する。
二城条絵恋……彼女の義理の妹に。
ソファーにちょこんと腰かけている少女は、全く緊張している様子も無く堂々とこちらを見つめていた。
傍には背の高いメイドも付いている。
(この子が……!!)
胸に湧き上がってくる感情をシャルルは必死で抑え込む。
目の前の少女はまるで人形の様の可愛らしかった。
同じように美しかった彼女の母親を思い出す。
この美しさに父親が惑わされ、口の聞けなかった母と自分を捨てて行ったのだと思うとやり切れない。
(いけない……お父様の罪は彼のもの……この子は何の関係も無いのよ!!)
深呼吸して心を落ち着け、シャルルは必死に笑顔を作って絵恋に話しかけようとした。
「あの、貴女が……」
「貴女に用は無いのよ!」
「!?」
いきなり叩きつけられた言葉にシャルルは絶句する。
見れば、絵恋は冷たい瞳でこちらを見つめていた。
「貴女の母親はどこ!?忌々しい泥棒猫に文句を言いに来たのよ!」
「ど、泥棒猫……?」
「だってそうでしょう?お父様にお母様以外の女がいるなんて、許されない事だわ!
全くふざけないでほしいわよね!お母様と出会う前にお父様と結婚してるだなんて!」
(な、何よこの子……泥棒猫はどっちだと思ってるの……?)
シャルルは唇を噛んで、膝の上の手を拳にして震わせる。
それでも懸命に怒りに耐えながら声を震わせて答えた。
「母は……ずっと前に死んだわ……」
「え!?」
絵恋は目を丸くして、それからとても嬉しそうに言う。
「なぁんだ死んだのね!だったら別にいいわ!
まぁ、お父様とお母様の間に図々しく割り込んだのだから、当然の報いよね!」
「ッ――うわぁあああああ!!」
「シャルル様!!」
叫びながら腕を振り上げたシャルルを執事の鼈甲丸が慌てて羽交い絞めにした。
シャルルは泣きながら叫び続ける。
「離して!離してよ鼈甲丸!!私悔しくて堪らないわ!!
どうしてお母様が知らない子にこんな風に侮辱されなきゃいけないの!?
もう我慢できない!殴らせて!この子を殴らせてよぉぉぉぉッ!!!」
「シャルル様……!相手は子供です!!どうか、どうかお怒りを鎮めて下さい……!」
「子供だからって何よ!言っていい事と悪い事があるわ!!
離して!離してぇぇぇぇっ!!」
半狂乱でもがいているシャルルと、それを悔しそうに押さえている鼈甲丸を見て
絵恋は目を丸くして驚いていた。
「な、何よこの女……きっと頭がおかしいんだわ。そういえばお父様が言っていたし、
“前の女は口の聞けない気狂いだった”って!あの話は本当だったのね!ね、月――」
パァンッ!
鳴り響いた乾いた音に、部屋の中は静まり返った。
絵恋が隣にいたメイドに呼びかけようとした瞬間、
そのメイドが絵恋の前にしゃがみこんで、彼女の頬を打ったのだ。
揉み合っていたシャルルと鼈甲丸は呆気に取られて硬直し、
絵恋も目を見開いてぽかんとしていた……と、思ったらみるみるうちに瞳を潤ませる。
「つ、月夜……?貴女私を殴ったの……?」
「はい。シャルル様に貴女を殴らせるわけにはいきませんので」
「な、何……よ、意味っ、わかんなっ……ふぇっ……痛い……痛いよぉ……!!」
「絵恋お嬢様……!」
頬を押さえて泣き出した絵恋に、メイドの月夜は辛そうな顔で優しく語りかける。
「亡くなった方を悪く言う事も、他人の親を侮辱するのもいけない事ですよ?
今すぐシャルル様に謝って下さい」
「何よ!!何よ月夜はアイツらの味方なの!?」
「違います!月夜はいつだって貴女の味方です!
だから貴女にむやみに誰かを傷つけて欲しくないのです!
間違った道に進んで欲しくない!!さぁ、絵恋お嬢様きちんと謝りましょう?!」
「いや!!絶対に嫌よ!!どうして私が泥棒猫の娘に謝らないといけないの!?
月夜なんか大っきらい!私お家に帰るわ!!」
「絵恋お嬢様!素直に謝れない子はお仕置きをしますよ!?」
泣きながら癇癪を起こす絵恋を月夜が叱りつけるけれど、絵恋はますます
機嫌を悪くして喚くだけだった。
「私に何かしたらお父様に言いつけてやるんだから!!
そしたら貴女クビになるのよ!?」
「それで結構です!!」
もう何を言っても無駄だと判断したのか、月夜が絵恋の体を一度抱き上げてソファに座る。
そうして自身の膝の上に絵恋の体を横たえた。そしてスカートを捲くって下着を下ろして
お尻を丸出しにしてしまう。
こうなってくると絵恋の喚き声にも怯えが混じってくきた。
「いや!!月夜!やめて!貴女私と離れ離れになってもいいって言うの!?」
「いいえ。できれば貴女に一生涯お仕えしたいです。けれど……
今は貴女が謝るまで許しませんよ!」
ピシッ!!
「きゃぁっ!!」
幼い少女がお尻を叩かれて悲鳴を上げる姿を見て、シャルルはビクリと身を震わせる。
「いっ、痛い!!やめて!月夜やめてぇぇっ!!」
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
少女の悲痛な叫び声と容赦ない打音。
シャルルは止めようか……と、迷った。けれども先ほどの怒りが胸をかすめる。
(お仕置きされて当然、だわ。あんな酷い事を言ったんだから。
もっと叩かれてしまえばいい……そして、謝ってもらわなくっちゃ……)
そう思って、ごくりと喉を鳴らす。胸がチリチリ痛むけど、止めない。
鼈甲丸の方はまともに直視できないのか必死で俯いている。
その間にも絵恋はお尻を叩かれ続けて泣いていた。
「やだ!月夜!痛い!痛いの!もうやめてぇっ!やだぁぁっ!」
「貴女がシャルル様に謝るまで許さないと言ったでしょう!?」
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
「いやぁぁぁっ!痛い!痛いぃぃッ!私っ、謝りたくないわ!絶対いやぁぁぁっ!!」
「貴女はシャルル様に許されない事を言ったんですよ!?」
「知らない!そんなの分からないわ!!私は本当の事しか言ってない!!」
バシィッ!!
「うわぁああああん!!」
強く叩かれて大泣きする絵恋。
シャルルは思わず耳を塞ぎたくなった。
見れば、幼い少女のお尻はもう赤くなっている。
(あのメイド、もしかして本気で叩いているの……?酷いわ、まだ小さい子なのに。
もっと手加減しても……)
そこまで考えてシャルルはハッとした。
(私……何を考えて……あの子、悪魔の様な子じゃないの!
早く謝らないあの子が悪いのよ!私、彼女に謝られるまで絶対許さないわ!!)
「うわぁあああん!痛い!痛いよぉぉぉっ!もういやぁぁぁっ!!」
ビシッ!バシッ!バシッ!
絵恋の泣き声を聞くたびに、シャルルの心は揺らぐ。
憎い、はずなのだ。とんでもない暴言を吐かれた。
なのに……絵恋の泣き声は、真っ赤になっているお尻は、酷く可哀想に思えてくる。
彼女のメイドは明らかに最初より打つ手を強めているのも分かる。
「シャルル様……!」
鼈甲丸が弱弱しい声を上げる。それが更にシャルルを苦しめた。
(きっと、私も貴方と同じ気持ちなのよ鼈甲丸……!でも……!)
「いやぁあああ!!お父様!お母様ぁぁ!」
絵恋のその一言で、シャルルはもう我慢できなかった。
「もうやめて!!」
思わず叫ぶと、メイドは手を止めた。絵恋はまだ泣き喚いているけれど。
シャルルは震える声で言う。
「もう、良いわ……その子を連れて、さっさと帰って」
「うわぁぁぁぁっ!うぇっ、ひっく!!」
「絵恋、ちゃん……」
どうして……そう心の中で呟きながらも、シャルルは涙を浮かべながら絵恋に笑いかけて言う。
言わずにはいられなかった。
「貴女、いけない娘ね……お家でもそんな風に聞きわけが無いのかしら?
たぶん……そんな事は無いと思いたいけれど……
お父様とお母様の……それに、そこの素敵なメイドさんの言う事を良く聞いて、
幸せにならないとダメよ?」
「うっ、ぐすっ、ふぇぇぇっ……!!」
返事は絵恋の泣き声だけが聞こえる。
シャルルにはもう視界が霞んで絵恋が頷いたのかどうかさえが見えなかったけれど、
その顔を隠す様に背を向けて部屋を出た。


「シャルル様!!」
すぐに後を追ってきてくれたらしい鼈甲丸に心から感謝しながら、
シャルルは止まらない涙を拭いながら言う。
「べっ、こうまる……私、私今日まで、ずっとお父様を憎いと思ってきた……!!
けどね……あの子を見たら、思ってしまったの……お父様に、幸せになって欲しいって……!!」
「シャルル様ッ!!」
鼈甲丸がシャルルを力強く抱きしめる。
その逞しい胸に縋りついてシャルルは嗚咽を漏らす。
「ご、ごめんなさお母様……お母様ッッ!!
貴女の為に、ずっと、お父様を憎んでいたいのに……うっ、うわぁあああああっ!!」
泣いているシャルルを鼈甲丸はずっと抱きしめていた。


夕刻。
シャルルは自室で窓の外を眺めて物想いに耽っていた。
そこへ琥珀丸がやって来て言う。
「シャルル様……旦那様がお帰りです」
「そう。疲れていらっしゃるだろうから、良くしてあげて。今日も食事は別々に取るわ」
「シャルル様……そろそろ、旦那様とご一緒されてもよろしいのでは?」
「……お願いよ琥珀丸。私、どうしてもお父様を許したくない。
お父様の決めた人と、幸せになるなんて……
もう、こうする事でしかお父様に反抗できないの……」
「シャルル様!」
琥珀丸は泣きそうな表情でシャルルの肩を掴んだ。
そして泣き叫ぶように言う。
「もうあの男は貴方の父親ですらない!!見たでしょう!?
あの絵恋とかいう子がいるじゃないですか!!
僕は貴女に幸せになって欲しいんです!!
旦那様はどうにかして貴女を愛したいと思ってくださってるんだ!
もうこんな……わざと幸せを避ける様な生活はやめてください!!」
「琥珀丸……!!」
泣きそうになるシャルルを琥珀丸が力いっぱい抱きしめる。
「どうしても、旦那様を受け入れられないのなら、この屋敷を出ましょう!!
僕と鼈甲丸が貴女を幸せにしてみせる!!
お願いですシャルル様!!貴女は、幸せになって下さい!!」
「琥珀丸……あぁ、貴方……!!」
シャルルは琥珀丸の腕の中で涙を流した。
そして、自分がいかに心優しい使用人を苦しめていたか理解する。
同時に、驚くほど気分が軽くなった。
「分かったわ……私、旦那様にきちんと謝って、受け入れていただく様にする……」
「はい!!」
琥珀丸の笑顔に、シャルルの勇気を取り戻す。
今まで、父親に勝手に嫁がされたこの屋敷の当主と距離を取り続けた。
長い空白を取り戻すのは不安もあるけれど、シャルルはやっと前へ進める気がした。


一方の二城条家。
月夜と共に帰宅した絵恋に、母親の絵玲奈が心配そうに駆け寄る。
「絵恋!心配したのよ?どこへ行っていたの?」
「ごめんなさいお母様……私、悪い事したらしいの……」
「え?」
「月夜に叩かれた……でもイヤ!私、月夜とずっと一緒にいたい!!
この子をクビにしないで!うわぁあああああん!!」
「え、絵恋……?」
オロオロする絵玲奈。
そこへ父親の理央が笑顔でやってくる。
「絵恋?泣くんじゃないよ?今日は絵恋の大好きなケーキがあるんだ!
さぁ、皆で一緒に食べよう!!」
理央がご機嫌で絵恋を抱き上げる。
絵玲奈は心配そうに月夜を見た。
「何があったの……?」
「何だっていいじゃないか!絵恋が何をしたとしても、月夜に叩かれれば十分さ!
さぁ、絵玲奈も一緒にケーキを食べよう!ほらほら!」
理央が楽しそうに急かすので絵玲奈もオロオロしながら付いていく。
月夜はため息をついて、一番後に続いた。
そうして皆で楽しくケーキを食べて、その頃には絵恋はご機嫌に戻っていた。
ほっぺにクリームを付けた絵恋が満面の笑みを浮かべて言う。
「お父様、お母様、愛してるわ!お父様とお母様もそうでしょう?」
「ああ。当然だ」
「ええ。もちろんよ」
絵恋を心底愛おしそうに見つめる両親は声をそろえて言う。
「私も、愛してるよ絵恋」
「私も、愛してるわ絵恋」
絵恋その言葉を聞いて幸せそうに笑うのだ。
そんな絵恋を、月夜も優しい笑顔で見つめているのだった。




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【作品番号】GG2

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