14デイ〜映画へ行こう〜 「あれ?かぐや君?」 「あ。お兄さん…」 買い物の帰りの俺が偶然であったのはかぐや君。 こんな街中で彼に会うなんて思わなかった。 「何してるの?」 「え…?あ……特に何も……」 気まずそうに笑うかぐや君。 用事もなしにぼーっとつっ立っていたという事だろうか… そんな事もないだろうけど… 俺が周りを見ると、かぐや君の真正面に映画館があるのに気づいた。 「かぐや君、もしかして映画館に行くの?」 「へ!?あっ…違いますっ!!!」 「そうなの?…なら『今どんな映画やってんのかな〜?』って ポスター眺めてたとか?」 「……そんな…ところです……。」 かぐや君の様子がイマイチおかしいが、俺は話を続けた。 「色々あるよね〜…『カリブの海賊』、『ゴーストハウス』 『キツネ耳仮面の大冒険〜激突☆イナリ城〜』…あ、テレビでやってた 『妹はお兄様に恋してる』も公開中なんだ…かぐや君はどれ見たい?」 「……本当は……」 軽く話しかけたつもりなのに かぐや君は深刻な顔をして俯いている。 「本当は『妹はお兄様に恋してる』が見たいんです…。でも…兄上が…」 かぐや君の話によると、いつかの夕食時に『妹はお兄様に恋してる』の CMが流れたらしい。それを見たやと君が… 『こんな常識外れな映画を公開するなんて信じられないな。 下品なシーンも多そうだし…どうせ娯楽趣味の物好きが見に行くんだろう。』 とポツリと言ったものだからかぐや君はすっかりショックを受けてしまい 友達を誘う事もできず、しかし見たいので映画館の前で立ち尽くす日々を 送っていたらしい。何ともこの兄弟らしい話である。 「かぐや君が見たいなら見てもいいと思うけどなぁ。」 「で…でもっ、もし兄上に知れたら嫌われちゃう… 『あんな低俗な映画を見に行っただなんて…お前には失望したよかぐや…』 なんて言われて…そうなったら僕…もう生きていけませんっ!!」 やと君はそんな事言わないと思うけど…そう言ってみても かぐや君は「いいえ、兄上に嫌われるくらいなら映画なんて我慢します!」 と首を振るばかり… でも、好きなものを我慢するのはあんまりよくないんじゃないか… 「じゃあ俺と見に行こうよ!『妹はお兄様に恋してる』は俺が見たかった。 かぐや君は俺に合わせて仕方なく行った。これでどう? 俺も実は見たかったんだよ『妹はお兄様に恋してる』!」 「え…でもそんな……」 「ほら、遠慮しないで?っていうか一緒に見てよ。 一人で行くのは何だか気恥ずかしいし。」 「……はいっ!!」 やっと笑顔になったかぐや君と、俺は映画館に入っていった。 『妹はお兄様に恋してる』は名前の通り兄と妹の禁断の恋を描いた作品で 周囲の妨害に遭いながらも二人は愛し合って、まぁ最終的には幸せになる… 二人が兄妹である事以外は、よくあるタイプの恋愛映画だった。 それなりに面白くてよくできた映画だったと思う。 ベッドシーンがあった時は色んな意味でドキドキしたが… それから映画館を出た俺たちは近くのカフェで休憩していた。 「とっても、とっても素敵なお話でしたっ!! 母親の陰謀で浩子が結婚させられそうになった時はどうなるかと 思ったけど…やっぱり愛し合う二人は幸せになるんですねっ!! 最後の皇一と浩子のキスシーンは思わず見とれちゃいました〜!!」 興奮の冷めない様子のかぐや君が饒舌モードになっている。 これだけ喜んでもらえると俺も見に行った甲斐があったというもので… ちなみに「皇一」は映画に出てくる兄の名前、「浩子」は妹の名前である。 一通り語り終えると、かぐや君がハッとした顔で俺を見る。 「あ、ごめんなさい…僕ばっかりおしゃべりしちゃって… お兄さんは楽しかったですか?」 「もちろん。皇一が雨の中、浩子の所へ走っていくシーンは 本気で皇一を応援しちゃったよ。」 「そう!!そうですよね!! 早く二人会えたらいいのに〜って感じでしたよね!!」 俺の言葉にかぐや君のテンションがまた上がっているようだ。 それから気の済むまで映画を語り合って、気づけば夕方。 神社に帰るというかぐや君が一人じゃ心配なので俺もついていった。 かぐや君たちの生活している家は神社の敷地内にある。 帰ってきた俺たちを一番に迎えてくれたのはやっぱりやと君だった。 「おかえり…ああ、お兄さんもご一緒だったんですね。こんばんは。」 「こんばんはー。」 そのまま俺も家に上がらせてもらう事になった。 家は全体的に和風建築の古い建物で、風情があるというか ここだけ年代を忘れる空間というか…とにかく日本人として落ち着く。 その一室で俺たちはくつろいでいた。 「今日はどこで遊んでたんだ?」 「え、えと…ちょっとお兄さんとサーフィンに……」 「嘘は良くないな。かぐや。」 あんまりにも分かりやすい嘘は当然ながら一瞬で見破られたが やと君は呆れたように笑っているだけだった。 というか…もう少しマシな嘘つこうよかぐや君…… たぶん彼は下手に嘘つこうとすると自滅するタイプだな。 勝手に考えていると、やと君がふいに立ち上がる。 「忘れてた…かぐやに渡したいものがあって…」 言いながら彼が近くの引き出しから取り出したのは 映画のチケット…しかも『妹はお兄様に恋してる』… 俺もかぐや君も固まってしまった。 「かぐや…見たがっていただろう?私があんな事言ったから 遠慮して見に行ってないんじゃないかと思って… 二枚あるからお兄さんとでも行っておいで。」 やと君がかぐや君にチケットを手渡す。 完全に驚いてしまっているかぐや君は上手く声が出ない。 「どう…して……」 「そりゃ…CMが流れるたびにあんな露骨な顔されたら誰でも気づく。 友達から映画館の前をうろついてるって話も聞いたし… 変に遠慮させて悪かったな。」 さすがやと君…なんという洞察力と優しさ… 全くこの子には毎度頭が下がる… 感動している俺の横で、かぐや君はチケットを見つめながら その目に涙をためていた。 「兄上……っ…」 声にならない声と同時に涙は零れ落ち… 「ごめんなさい!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさ……っ うわぁあああ―――ん!!」 やと君に抱きついて大号泣しはじめたかぐや君。 「え?なっ……どうしたんだかぐや??」 いきなり泣き付かれたやと君は何が何だか分からない様子だ。 わんわん泣いているかぐや君が話せそうに無いので 俺が代わりに説明した。 「ごめんね…実は今日、かぐや君と映画見てきちゃったんだ… その…『妹はお兄様に恋してる』。」 「あ、なんだ…そうだったんですか…。何も泣く事無いのに…」 俺に笑いかけると やと君は自分の胸で大号泣している弟に優しく声をかける。 「かぐや、泣くな。チケットの事はもういいから。 自分の好きなものぐらい、気後れせずに楽しんだらいいんだ。 いちいち私の事を気にしなくていい。な?」 「うっ……ふぇ…はいぃ……。」 未だに涙だくだくのかぐや君。 しかし兄のお許しも出たということですぐ元気になった。 「じゃ、じゃあ、『愛の処刑地』のDVDも見ていいですかっ!!?」 「それはダメッ!!」 やと君にキッパリそう言われてかぐや君はきょとんとしていた。 説明すると『愛の処刑地』は少し前の恋愛映画で、テーマが不倫な上に かなりキワドイシーンが多々あった作品である。 確かにかぐや君には見せたくないような 見せてはいけないようなタイプの作品かもしれない。 そんな事はまったく知らないであろうかぐや君は… 「そんな……兄上と一緒に見ようと思ってたのに…。」 と言ってやと君を動揺させていた。 二人の様子を傍から見ていた俺は ああ、何だかやと君も大変だなーと思ってしまった。 ******************* 気に入ったら押してやってください 【作品番号】ME14 |
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