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倉庫部屋を掃除するようです


町で噂の大富豪、廟堂院家。
今日は二人の執事が倉庫部屋を掃除中。 適度に掃除の手が入っているのかそこまで汚れてはいないけれど物が多かった。
「何で俺ら二人だけなんだろうな――ついてね――!」
ぐるんぐるんとバトンの様にハタキを回しながら愚痴る門屋。
もう一人の執事はテキパキと体を動かしながら門屋を宥めている。
「人数集まってたらリーダー、“色おに”しようとか言いだすじゃないですか」
「言わねーよ!小学生か俺は!!」
「ですよね?」
「ちげーよ!!」
「でもリーダー、この部屋、年季が入ってて高そうな小物がたくさんありますよ?
案外、宝探しみたいで楽しいかもしれませんね?」
「お?」
手慣れた風に門屋の気を逸らす相方執事。
門屋は簡単にキラキラと目を輝かせ始める。
「そうか……『門屋隊長のすごいお宝探し隊!!』これはいける!!」
一人ではしゃいで適当にその辺をうろつく門屋。
そして芝居がかった風に驚く。
「こっ、これは!あの伝説の『インペリアル・レーヌ・マリア』!!」
「いや……ただの電気スタンドじゃないですか。それ言いたかっただけでしょリーダー?」
「……お前空気読めよ!!アホ相良!!」
アホ相良……ではなく相良(さがら)は門屋の言葉を怒りもせずに受け流す。
むしろ門屋の反応を密かに楽しみつつ仕事を続けていた。
「それより、本格的に掃除する前に窓を開けておかないと……あれ?」
相良は窓に手をかけて開けようとするけれど、開かない。
外にはもう一つ真っ黒な窓があるようで、光を全く通さないこの二重窓。
鍵は開けているのに何度ガタガタ揺らしてもダメなようだったので諦めた相良が言う。
「リーダー窓が開きませんね。埃っぽくなりそうだからマスクでも借りてきます?」
「そうだな!」
今度は門屋がドアに手をかける。
しかし何度ノブを回しても……
「あ、あれ……?」
開かない。
ガチャガチャという音だけが辺りに響く。
「この、くそっ……!!」 門屋はヤケになって、ハタキを放り出して余計にガチャガチャとノブを回すけれどダメだった。
最終的には青くなって……
「閉じ込められたぞ!?」
「みたいですね……」
「お――い!誰か――!誰かいませんか――!開けて――!
人が閉じ込められてますよ――!!」
ドンドンドンドン!!
門屋が必死にドアを叩きながら叫んでも外からの反応は無い。
それでも門屋は叫び続けた。
「誰か開けて――!つか開けろよ!!
執事部隊の人間国宝が閉じ込められてますよ――――っ!!
俺がいないと仕事がはかどりませんよ――――っ!!」
涙目の門屋を見かねて、相良が声をかけた。
「この辺りは人が来ないから……先に掃除終わらせません?」
「そんな悠長な事言ってる場合かよ!?助けを呼ばなきゃここで死ぬんだぞ!?」
「死にませんよ。いずれ俺達がいない事に誰かが気付きます。
それより、俺達が発見された時に掃除が終わってない事の方が問題じゃないですか?
上倉さん怒るだろうな~~……」
「……う……でも!!掃除なんかする気になんねーよ!非常事態だぞ!?」
門屋があまりにも半泣きで動揺しているので、
相良は無理に仕事を進めようとするのをやめて笑顔で言う。
「じゃあ、その辺に座ってダベってましょうか?せっかく堂々と仕事サボれるチャンスですもんね?」
「そっ、そうだな!!」
やっと明るい表情になって部屋の真ん中に座る門屋にホッとしつつ、相良も門屋の隣に座る。
そして何気なく門屋の横顔を見た時に、相良はこの状況に気付いてしまった。
(みっ、密室で……リーダーと二人きり……!?)
相良は動揺した。実は彼……CADのメンバーながら、男ながらに
門屋に密かに好意を寄せていた。
元々CADに入った動機すら門屋に近付きたいという不純なもの……
割と兄貴肌の彼と、弟属性の門屋は相性が良かったようですぐに仲良くなれた。
その甲斐あって今ではCADのNo.2の位置を獲得している。
もちろん、この想いは門屋に隠していたのだけれど、時々冗談めかして伝える事で気を紛らわせていたのだ。
しかし今この状況は彼にとって……
「ところでさ――」
「!!?」
突然の門屋の声にも過剰反応してしまった。
門屋は気付いてないようで話を続ける。
「佐藤と木村、付き合いだしたんだと……」
「え!!?」
「最近多いよな~~……カップル」
「…………おめでたいじゃないですか」
冷静を装って言いつつも、相良は余計にドキドキしてきた。
この状況下で……執事部隊の者同士が付き合う話題……
話題を選んで欲しい……!と、ちょっと門屋を恨んだ。
けれど門屋は相良の気持ちを知る由も無く、ぼんやりとした声を出す。
「おめでたい……かぁ。差別はしないけどさぁ……何か違うくね?」
「え?」
「要は、一時の気の迷いなんだよ。狭い世界だぜここは……
男だけの職場だろ?だから、こんな事が起こるんだ。虚しくねぇのかな?
今一時の、欲求不満を満たすためだけの恋人ごっこなんて……」
「彼らは、“ごっこ”のつもりなんて無いと思いますけど……」
相良は不満そうに反論する。門屋の主張は彼にとって受け入れがたかった。
受け入れてしまえば彼の想いも“一時の気の迷い”になってしまう。
『違う!』と声を大にしたいけれど門屋は冷めた声で言い返してくる。
「そりゃ、酔ってるんだよ。皆、一歩外に出りゃ別れて、普通の女と付き合うのによ……」
「……でも、男と女だって、結婚でもしない限り別れるじゃないですか……。
同じだと思います。男と男だから“気の迷い”だなんて差別です」
「だからぁ~、差別するつもりは無いっての。
お前、妙にあっちの肩持つな?もしかして、好きなヤツでもできた?」
「貴方だと、言ったらどうします?」
言ってしまって。相良の心臓が跳ね上がる。
どうしても門屋に対抗したくてつい言ってしまった……というのは理由になるのだろうか?
密室で二人きり、という異常事態だから言えたのかもしれない……。そんな自問自答。
門屋の方は呆れたように笑う。
「またかよ……お前の十八番。言っとくけど、俺以外にしかウケてねーから」
「それ、俺がリーダーに惚れてるとしたら一番失礼な返事ですよ?」
「……俺は付き合わねーぞ?かと言って、お前を避けたりもしない。お前は大事な友達だから」
門屋はめんどくさそうに言った。
相良は、悲しいというよりは目の覚めるような気持だった。
それでも、声は少し暗くなってしまった。
「それはそれで、俺がリーダーに惚れてるとしたら一番残酷な返事ですね」
「知るかよ……俺に惚れるお前が悪い」
「俺は、今まで通りの関係をリーダーと続けたいんです」
思わず俯いてしまった相良。門屋はハッとした様子で相良の方を向く。
「そっ、そうだよな!?ごめんな!?ホモとか疑ってごめん!!
大丈夫!!俺とお前は今まで通り友達だから!変な事言ってごめんな!?」
「リーダー……」
目の前には自分の手を握って一生懸命に慰めてくれる想い人。
なのにこのやるせなさ。相良の目の前が真っ暗になった。
本当に真っ暗になった。
「ぎゃぁぁあああっ!!真っ暗だ!停電!?」
「いやでも、ドアの下から明りが見えるからこの部屋だけ……」
「んなことどうでもいいんだよぉぉぉぉっ!!」
門屋の叫び声。そして全力でぶつかってきた温かい感触。 「リーダー!!?」
「かかか勘違いすんなよ!?俺が怖いんじゃなくて、
お前が怖いかなーと思って抱きついてやってんだ!!」
「俺は全然平気です」
「空気読めやお前ぇぇェェッ!!」
(これは、困った……!!でもリーダーは怖がりだし……!)
ガタガタ震えながら自分に思いっきり抱きついてくる門屋。
突き放すわけにもいかず、相良にすれば生殺し状態。
一応、安心させる為に、と自分も門屋の体に腕を回してみる。
「相良……」
(うっ……!!)
弱弱しい声に余計平常心を崩される。
相良は慌てて気を紛らわせるための話題を探す。
「そ、そう言えば……リーダーの方はどうなんですか!?小二郎と!」
「え!?そ、そりゃ常にパーフェクトラブラブだよ!!鷹森さえいなけりゃ!」
(あ、良かった。いつものアホなリーダーだ……)
相良は少し落ち着いた。
なのでこのまま普通に会話して落ち着こうと話を続ける。
「そういえば、小二郎も半分男みたいなもんだけど……リーダー的にその辺はセーフなんですね」
「アイツは男じゃねーよ!!」
門屋は急に声を荒げる。
「俺、俺は……絶対小二郎とラブラブになる!!
そしたら、ちゃんと手術を受けて欲しい!女に、戻って欲しい!!」
「リーダー……それは、小二郎の意思が前提じゃ……」
「じゃあお前は、小二郎が男に見えるかよ!?」
相良は違和感を感じた。けれど、門屋の考えは頑なだった。
「アイツは怖がってるだけだ……変わるのを怖がってるんだ!
でも、ちゃんとアイツを支えてやれる男が傍にいれば、アイツは変われる!!
だから俺が支えてやるんだ!歪んだ流れは元に戻さなきゃいけない!
兄さんは甘いんだ!アイツは、女に戻るべきなんだ!
そうすれば、幸せになれる!俺が絶対、幸せにする!!」
「……俺には……リーダーがあの子に勝手な理想を押しつけてるように聞こえる……」
「お前は誰の味方なんだよ!?」
「俺はリーダーの味方です!!」
門屋は怒っていたけれど、相良も真剣だった。真剣に門屋に訴えた。
「でも、これ以上リーダーにも小二郎にも傷ついて欲しくないんです!
リーダーはずっとあの事を引きずってるだけなんじゃないですか!?
だから、過去をやり直そうとしてるだけなんじゃないんですか!?」
「お前……ッ!!」
「リーダー、アレは事故です!誰も知らなかったんだから!
貴方を責めてる人なんていません!上倉さんだって、本当は分かってくれてる!
今、小二郎には鷹森がいる……!あの二人が幸せになれば上倉さんとだって和解して……」
「黙れよ!!」
門屋が怒鳴る。
噛みつく様に相良の胸倉を握って。
「兄さんとは和解した!結局お前は鷹森の味方じゃねーか!!
何でお前CADにいるんだよ!?お前なんか絶交だ!!」
相良を突き放してどこかへ行こうとする門屋。相良が慌てて後ろから抱きしめた。
座ったままで二人は前後で揉め合う事になる。
「リーダー!!暗いのに動くと危ないですよ!?」
「離せよ!絶交だって言っただろーが!」
「この部屋、物がたくさんあったでしょ?!むやみに暴れたら怪我をします!!」
「離せって!このっ!!」
「っ、大人しくしてください!」
「うるせ――!離せ!!」
暴れる、押さえ込む、がぶつかり合う攻防。交わす言葉はいつまでも平行線。
相良は仕方なく、低い声を作って言う。
「リーダー……ここが、どうして倉庫になってるか知っていますか?」
「はぁ?!」
「その昔、この部屋は悪い事をした執事を閉じ込めて反省させる部屋だったんです。
けれどある日、閉じ込めておいたはずのある執事が姿を消していた」
「……は……?」
「屋敷も執事寮も、どこを探しても彼は見つからなかった。
だから皆は、“脱走”だと片付けて探すのをやめたんです。
けれどそれからというもの……この部屋に閉じ込められた執事が一人……
また一人と姿を消していった……」
「……ぁ……」
門屋の抵抗が弱まってくる。
相良はさらにおどろおどろしい声を意識して続けた。
「いつしか噂になりました。最初に姿を消した執事が、仲間を求めて
ここに閉じ込められた執事を死者の国へとさらっているのではないか……と。
だから、この部屋に執事を閉じ込めて反省させるという罰は無くなった。
でも、死者の国の亡霊執事はきっとまだここに……」
「…………」
自分の即興怪談で、門屋の抵抗が完全に止まった事にホッとしながら、相良は穏やかな声をかける。
「さぁ、これで大人しくしてくれますよね?でないと……亡霊執事に殺されますよ?」
「ひっ、卑怯だぞ!今の怖い話じゃねーか!聞いちまったじゃねーかぁぁっ!
く、くそっ……おばけ執事が怖くて執事が務まるか――――っ!」
「あ!リーダー!だから、暴れないで下さいって!」
「離せ!離せぇぇぇっ!」
「この……分からずや!!」
相良は暴れる門屋のズボンに手をかけて、器用に脱がせる。下着も一緒に。
「ひゃっ!?お、お前何して……!?」
「すみませんリーダー!暗くてよく見えないんです!」
「嘘つけ!!うわぁっ、やぁぁっ!何なんだよ!?」
「この流れで起こる事なんて執事部隊じゃ一つですよ!」
お尻が丸出しになった門屋を強引に膝に引き倒して押さえつけて、手を振り上げて。
後はその手をお尻に振り下ろすだけ。
パンッ!パンッ!パンッ!
「痛ってぇぇっ!やめろ!やめろって!ふざけんなよお前――――っ!!」
(何やってるんだろうな俺……)
門屋のお尻をピシャピシャと叩きながら相良は思う。
この状況なら、暗闇に乗じて門屋といい雰囲気になる事も……
せめて、好感度を上げる事くらいはできたはずだ。
なのに今やっている事と言えば、その意中の人のお尻を叩く事。
パンッ!パンッ!パンッ!
「おっ、お前!!やめろって!痛い!痛いってば!
絶交するぞ!?本当に絶交するぞ!?もう一緒にカラオケいってやんねーぞ!?」
パンッ!パンッ!パンッ!
「わぁあああん!バカぁぁぁぁ!お前なんか嫌いぃぃっ!大嫌いだ――――っ!」
(しかも好感度ガン下がり……)
今更ながらこんな状況になってしまった事を落ち込む相良。
けれど、同時に怒りも湧き上がってきた。
(元はと言えばリーダーがアホで鈍感で自己中だからこんな事に……!
小二郎の事だって、リーダーの為を思って言ったのに!
俺が、こんなにも貴方を想ってるのに小二郎小二郎って……!!)
パンッ!パンッ!ビシィッ!バシィッ!
「ひゃぁあああんっ!!?」
(今だって!ここで暴れまわって怪我したら可哀想だから止めたのに!
いつもいつも全然言う事聞きやがらないし、この子供リーダーめ!!)
相良の怒りに比例して平手のレベルが強くなっていく。
同時に門屋の悲鳴と抵抗の必死さレベルも上昇中。
ビシィッ!バシィッ!ビシィィッ!
「うわぁぁぁっ!相良ぁぁぁぁぁ!!」
「…………」
“愛しい”と“憎い”……彼らの言葉に合わせると、“好き”と“ムカつく”
その二つの感情が複雑に絡み合って
門屋の泣き声にさえイライラしてくる相良。
「わぁあああん!お前うっとぉしいんだよぉぉぉぉっ!」
ブチッ。
相良の中で何かが切れた。
門屋は相変わらずうるさく泣き喚いている。
「あぁああああっ!痛てぇよぉぉっ!いい加減にしろってぇぇェェッ!!さがっ……」
「うるっせェェェェェっ!!テメェこそいい加減にしやがれ悪ガキがぁぁぁっ!!」
「ひっ!!?」
いつもの飄々とした敬語キャラじゃない相良に門屋は思わず息を飲む。
門屋を怒鳴りつけた相良の平手打ちはますます強くなって、
どんどん門屋のお尻を赤く染めあげていく。
バシッ!バシッ!バシッ!
「あのねぇリーダー!?俺はアンタの為に止めたんだ!
こんな物が多いところで暴れたら怪我するかもしれないだろうが!!えぇっ!?」
「ひぁっ!?さがっ……お前、キャラ違っ……んぁあああっ!」
「アンタがあまりにもバカで幼稚で自己中で鈍感だからブチギレですよ!!
“ごめんなさい。大人しくします”って言うまで許しませんからね!?」
バシッ!バシッ!バシッ!
「ふぇっ……やめっ、うぁぁぁあああん!!」
「言う事言う前に泣いちゃっていいんですか!?どんどん痛くなりますよ!?」
「バカぁぁぁぁっ!もうやめろ!やめろよぉぉぉぉっ!
痛いぃぃっ!もう痛いのにぃぃッ!!」
「バカ?へ~~そうでしたっけ?言わなきゃいけない事ってそんな事でしたっけぇ?
バカはどっちかお尻に聞いてみます?」
「やぁああああっ!バカは俺ですぅぅぅぅっ!!」
本気で泣いて暴れている門屋。お尻もすでに熱く火照っているけれど
相良は容赦なく叩き続けた。
そうしていると門屋からも反抗的な態度が抜けおちてくる。
「ふぇぁあああっ!ごめんなさぁぁぁぁい!もうやだぁぁっ!
大人しくする!するからぁぁぁっ!!」
「俺はリーダーの為に言ったんですからね!?リーダーの味方なんですから!
分かりましたか!?」
「分かった!分かったぁぁぁぁッ!わぁあああん!
もうやだ痛いぃぃぃっ!!ごめんなさぁぁぁい!!」
子供の様に泣いている門屋を見て、相良も情が湧いてきた。
きちんと謝ってもらえたし、最初ほどの怒りは感じなくなってきた。
一旦手を止めると、待ちわびたように門屋が甘えるような声を出してくる。
「ふっぁ、相良、終わり!?終わりだよな!?なっ!?
俺謝ったもん!!お、お前の気持ち分かったよ!?ごめん!
俺の事、考えてくれたのに!友達だもんな!?終わりだろ!?なぁ?!
ふぇっ、んっ、やだぁぁっ……これ以上はやだぁぁぁ……!」
(アンタは全然俺の気持ちなんて分かってない……)
すれるゴマは全部する勢いで、しかも泣きながら懇願する門屋を見て
相良は何とも言えない気持ちになってくる。
(俺は、今まで通りの関係をリーダーと続けたいんです。それは嘘じゃないんです。
でもやっぱり、報われないのは口惜しいですよ……だから、これくらいの仕返しは許して下さい)
ため息一つ。
相良はなるべく門屋を刺激しないように優しめに言う。
「リーダー、貴方は悪い人だから……あと10回だけ叩きます」
「はぁぁっ!?謝ったのに意味分かんね――し!!」
「……意味分かんね――ですか?」
「いっ、いや分かる!分かんねーけど分かる!!」
「もうたくさん叩いたし、なるべく優しくしますから……」
「お前いいヤツだな……!」
門屋の言葉に微笑んで、相良は再び手を振り降りす。
思いっきり。
バシィッ!ビシッ!バシッ!
「うわぁあああっ!!これどこが優しっ……ひゃぁぁぁっ!!」
バシィッ!ビシッ!バシッ!
「嘘つくな!嘘つくなって!嘘つき――――っ!!」
バシィッ!ビシッ!バシッ!
「お前ぇぇぇっ!!ぜって――後でボコるぅぅぅっ!!わぁあああん!!」
「最後ですよリーダー」
バシィッ!
「うわぁああああああん!!」
こうして、門屋の泣き声でこの愛憎渦巻くお仕置きは終わってその瞬間……
扉を何度も叩く音が聞こえた。
ドンドンドンドン!!
「門屋君、相良君!?ダメですよ!二人っきりだからって鍵かけてお仕置き遊びなんて!!
私抜きで何て羨ましい事を……早く出て来なさい!」
「兄さんっ!?」
「リーダー、パンツくらい穿いた方がいいと思います」
「いやいや!!それより、な、何なんだよ“お仕置き遊び”って!?」
「この部屋……結構音漏れ激しいですからねぇ」
「最低じゃねーか!!くそっ!」
門屋はとにかく、急いで服を整える。その間に相良が外の執事長の声に答えた。
「上倉さん!鍵なんかかけてないんです!
こっちからドアが開かないんです!助けて下さい!」
「え!?大変……待っててくださいね!すぐに開けますから!!
って……それをいい事にお仕置き遊びだなんて!!」
「早く開けて下さい!!後輩が閉じ込められてるんですよ!?」
「わっ、分かりました!!絶対詳しく聞かせてもらいますからね!!?」
「兄さん……」
悲しい目をしてドアを見つめる門屋。相良の方も困った顔をしていた。
そしてこの部屋から脱出できた瞬間……門屋が猛ダッシュで上倉に駆け寄る。
「いやぁ、全く大変だったんですよ兄さん!
相良のヤツが遊んでばっかりでね、俺がお仕置きする羽目になっちゃって!
ごめんなさい!手加減できなくて相良の泣き声が聞こえちゃいましたよね!?
まぁ相良も、俺がしっかりお仕置きして、このように反省しておりますので!」
「…………」
「…………」
ペラペラ喋る門屋に、相良と上倉は一瞬黙りこみ……
上倉が笑顔で言う。
「そうですか~。門屋君はやっぱり、リーダーですねぇ、偉い偉い。
さぁさぁ、君はもう行っていいですよ?」
「え?あ、はい!あの、相良の事は怒らないでやってくださいね?
俺がお仕置きしておいたから反省したと思います!」
「もちろんです。だからほらほら、行った行った!」
ぐいぐいと門屋を押して、手を振る上倉。
門屋は何度も振り返りつつ歩いていった。
その姿が見えなくなると……上倉は小さく吹き出していた。
「ぷっ、バカですね……あの子!
私があの子と君の声の判別がつかないと思ってるんですかねぇ?!
あーもう、意地っ張りというか何というか!あははっ!
実際のところ、どんな感じだったんですか!?詳しく聞かせて下さいよ♪」
「笑わないであげて下さい。それに、リーダーの言う通り、
彼にお仕置きされてたのは俺です。貴方にお話する事は何もありません」
「…………おやおや、なんと男前♥」
上倉は感心したように相良の両手を握る。
そして瞳を潤ませて言う。
「ねぇ……あんなキャンキャン坊やはやめて、私とお付き合いしません?」
「お断りします。俺は節操無しの恋人は無理です」
「あぁ辛辣だ事……報われませんね、君も」
「失礼します」
相良はそそくさと上倉の傍を離れる。
残された上倉がポツリと呟いた。
「色々もったいないですねぇ……彼……。
あ!そう言えば掃除は終わってるんですか!?」
結局、倉庫部屋の掃除は別メンバーがやることになったらしい。

【作品番号 BSS13】
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