バレンタインデイ〜神社の彼らの場合〜 年に一度、この日は少し気が重い。 学校についたとたん、今日がその日だということを嫌でも思い知る。 「うっ…」 靴箱に入った大量のプレゼントを見て やとは思わずうめき声を上げる。 しかし、これで滅入っていては精神が持たない。 教室についたら机の中はもちろん、入りきらなかった 分が机の上にどっさり、それでも置き場がなかったのか ロッカーにまでぎっしりのプレゼント…。 すべてチョコレートである。 今日はバレンタインデー。 もともとこんな浮き足立った行事が苦手な上に 甘いものも苦手なやとにとって、これは拷問に等しい。 しかし本当の問題はそれではなくて… 本来ならこのようなプレゼントの山は男の勲章であり、 喜ぶべきものなのであろう。 …ここが共学の学校ならば。 「やと君!」 「天咲君!」 待ってましたとばかりに自分を取り囲むのは全員男子。 賢い諸姉の皆様がお察しのとおり、やとが通うここは男子校である。 「この日の為に一生懸命作ったんだ!受け取ってほしい!」 「俺だって!このチョコレートをキミに食べてほしいんだ!」 俺のも、僕のも、と声が重なる。 強制的に渡された分だけでもかなりの量… せめて直接渡される分だけでも断ろうと、やとは必死の笑顔を作る。 「私は…甘いものは苦手で…」 「分かってる!でも受け取るだけ受け取って欲しいんだ!」 「あとはゴミ箱に捨てても構わないから!」 「お願いだ!受け取ってくれるだけで俺たちは満足!!」 いくつもの熱い瞳に押され、結局は受け取ってしまう切なさ。 やとにしてみれば、どうしてこうも皆が必死なのか不思議で仕方ない。 その情熱を勉学に向けてはどうか… そんな事を思いながら、やとは何倍にも増えたチョコの山を片付ける。 しかしこれで苦労は終わりではない。 そろそろ、彼の『本日最大の心配事』の始まりを告げる 誰かの嬌声が聞こえてくるはず… 「かぐやく―――ん!!愛してるよ――――!!」 「俺のチョコやら何やらを受け取ってくれ―――!!」 「大好きだ―――!!L・O・V・E・か・ぐ・や―――!!」 魂の叫び声のする方向には、先ほど自分を取り囲んでいたのより 5〜6倍ほど危ない集団に囲まれる弟の姿。 毎年飽きもせずにあのような奇声を上げる集団に 弟のかぐやが何かされないかということが、やとの一番の心配事なのだ。 しかし、かぐや本人はまったく呑気なもの… 「わぁ!嬉しいです!!僕、皆さんの気持ちには応えられないけど… 皆さんの愛は、感じます!!」 とびきりの笑顔でこの発言。 そして、それが集団をさらにヒートアップさせる。 「か、かぐや君…きゃわいいなぁチクショウ!!」 「ああああ!!今すぐ抱きしめたい!!」 「かぐや―――ん!!俺の胸に飛び込んで来―――い!!」 後一歩で暴動が起きそうな雰囲気…弟がこれ以上集団を刺激する前に… やとはぐっと拳を握る。これも恒例行事化してるかもな… そう思いながらその拳を思いっきり机に叩きつけた。 ダァンッ!! 大きな音に教室が静まり返り、全視線がやとに集まる。 「皆…弟を贔屓にしてくれてありがとう。こんなにたくさんの プレゼントがもらえるなんて、うちのかぐやは幸せ者だ。」 「兄上…」 うっとりしているのはかぐやだけ。他はただならぬ戦慄を感じていた。 完璧な笑顔。なのに内側から滲み出すこの恐ろしいオーラは何だろう… かぐやを取り囲んでいた集団は冷や汗を垂らしながら笑うと一気に散っていった。 この光景がまた「やと君かっこいい…」と、やとが来年もチョコをもらう 原因になったりするのだけれど。 こんな感じで大変な一日が終わり、学校からの帰り道。 単純にチョコレートがもらえたのが嬉しいのだろう。 両手の紙袋いっぱいにチョコレートを持ったかぐやは 見るからにルンルン気分といった感じだ。 「今年もたくさんチョコがいただけました♪ でもやっぱり…兄上の方が少し多いんですね。」 さすがです…とキラキラおめめのかぐやが やとの大荷物を覗き込んでいる。 彼の言うようにやとの両手の紙袋はかぐやのより少し大きいし 加えて背中のカバンにも多少チョコが入っている。 「こんなにもらっても私は食べきれない…」 「大丈夫、食べるのは僕がお手伝いします!」 「お前は自分のもたくさんあるのに…まだ食べたいのか?」 「チョコは別腹です!それに、これはただのチョコじゃなくて 皆さんの愛が詰まってるんですから!何としても食べるのが礼儀です!!」 やけに力説するかぐやにやとは苦笑する。 ロマンチストの弟は『愛』が飛び交うこの行事が結構好きらしい。 思えば毎年、この日の彼はご機嫌だ。 「あの…兄上…」 急に真剣な表情になったかぐやがやとを見つめる。 「…僕…僕も兄上に愛を伝えようと思って作ってみたんですけど… 僕のチョコ…受け取ってくれますか…?」 やや頬を赤らめて不安そうに尋ねてくる弟を、やとが無碍にするわけがない。 笑顔で即答である。 「もちろんだ。」 「ああ…よかった…。」 かぐやの心底嬉しそうな顔を見て この瞬間だけはバレンタインもそう悪くないと思ってしまう… 弟にはチョコレートより甘いやとであった。 ちなみにかぐやのチョコレートは奇怪な形(本人曰くハート型) で食べるのに勇気が必要だったのはまた別の話。 やと&かぐやのバレンタインデー! こんなんが思い浮かんだので書いてみました〜(*´∀`*) かぐやとコンビは男子校でモテ王であれば楽しいと思う(笑)。 んで、いきなり出したけど彼らの苗字“天咲”だったり…。 ☆余談☆ みつみずきのコンビは、お料理上手のみずきがお兄ちゃんの為に 腕をふるって美味しいチョコを…みつきは味見の係です(笑)。 っていうか、みつきはお兄ちゃんにチョコのおねだりしてそう(笑)。 ゆうまなぶコンビは、ゆうがもっさり「義理チョコ」もらって まなぶはお父さんからのチョコを狙ってたり…(笑)。 どっちも“兄ちゃん”にあげようって思考には至りません(笑)。 |
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