お祝いデイ〜やと君の悩み事〜


俺は今日もお馴染みの神社にやってきた。
けれど、ただ偶然やってきたわけでは無い。
実はこの神社の巫女さん(とは言っても男の子だけれど)のかぐや君とこんなやり取りがあったのだ。
『実は最近……兄上に元気が無くて……。
僕には“大丈夫だ”って、何も言ってくださらないんです。
頼りなく思われてるんでしょうけど、僕……心配で……』
やと君がかぐや君に話さないのは頼りなく思っているわけじゃなく、単に心配させたくないからだろう。
けれど、うるうると目を潤ませているかぐや君は本当に心配していた。
だからつい気の毒に思って
“俺が何とか話をしてみるよ”と、やと君の相談役をかって出たのだ。
正直、やと君が俺に話してくれるかは分からないけど、
これでもそれなりにかぐや君ややと君とは交流を深めたつもりだし、
やと君に心配事があるなら何とかしてあげたい。

と、思って実際に見たやと君は、いつもの巫女服で浮かない顔で境内の掃き掃除をしていた。
本当に元気がなさそうだ。

「こんにちは!」
元気よく挨拶をしたらやと君がハッと顔を上げる。
「あ……こんにちは、お兄さん」
こちらに向ける顔はいつもの笑顔。なるほど、感情を隠すのが上手い。
俺はどう切り出そうか迷って……直球で攻めることにした。
「やと君、さっき元気無さそうな顔してたけど、何か悩みがあるの?」
「え?いいえ、そんな事は……」
「俺で良ければ相談に乗るよ?」
「ほ、本当に何も……」
俯いてそそと後ずさるやと君。これは、手ごわいか?
俺は頑張ってもうひと押ししてみた。
「ほら、意外と俺みたいにたまに会うくらいの人の方が話しやすいって事も、ない?
ちいさな心配事でも、話すだけでスッキリって事もあるし!
どんな事でも、俺は君の力になりたいよ!」
「…………」
迷ってるか、な。もう少し。
「やと君に元気がないと、かぐや君も心配しちゃうと思うよ?
かぐや君の為にも、ね?」
「!!」
弟想いのやと君には必殺ワード“かぐや君”は効いたようで。
何かを決心した顔で俺に言った。
「お兄さん、実は……」

話を聞いてみると……

「えっ!?成績が下がった!?」
「はい。どうも最近……自分が弛んでる気がするんです。何だか勉強にも身が入らなくて」
やと君は重いため息をつく。真面目な彼らしい悩み事だ。
「そうか……それは、困ったね」
言いながら俺は考える。
やと君の場合……根を詰め過ぎてオーバーヒートしてしまってるんじゃないだろうか?
逆にリフレッシュすればまた勉強に身が入って……
そんなアドバイスを考えていた俺にやと君は続けて言った。
「それで、いつも成績がいいクラスメイトに秘訣を聞いてみたんです。そうしたらいいアドバイスをもらって!」
「へっ!?もうアドバイスがあるの!?」
「はい!とても納得できる意見で、この方法しかないと思いました!」
「そ、そうか……それなら、良かったね!」
まさかの解決済みに驚いてしまった俺……あれ?でも、それなら何でやと君はまだ元気がないんだ?
「もしかして、その方法でも成績が戻らなかったとか?」
「い、いえ……そうと、言いますか……その、……」
ここでいきなり歯切れが悪くなるやと君。
どうしたんだろう?俺は黙って続きの言葉を待った。
「その方法が、未だに試せていないんです……」
「そ、そうなの!?難しい方法なの?どんな方法?」
「ええと……その子が言うには、“テストで点数が悪いと兄君様にお尻を叩かれるから頑張って勉強できる”らしくて。
“サボったら罰を与えてもらう”、いい方法だと思ったんです!私には誰も厳しく接してくれる人がいないから!
で、ですがいざ……周りの方に頼もうにも恥ずかしくなってしまって……」
そう言って、顔を赤らめて俯いてしまうやと君。
こちらは予想外のスパルタなアドバイスに絶句するしかない。
「よく考えたら、お尻を叩かれるだなんて……子供のようですし……。
で、でも!“恥ずかしい”だなんて迷っている事自体が甘えなのかもしれません!」
最近の風潮で、家庭での体罰もすっかり廃れたのかと思ったら
今時そんな厳格な家庭もあるんだなぁ……その子ってどんな子だろう?
「ここは、覚悟を決めて、弛んだ生活の戒めとして!私も、お尻叩きを受けるべきなんだと!
……そう、何度も思うのに、どうしても、お世話になっている皆さんには頼めなくて……!」
やと君の学校は男子校だから男の子……だよな。
双子かなぁ?ちょっと気になるぞ。
「ですから、お兄さん!!」
「うぉっ!?ご、ごめん、何?」
大声を出したやと君にハッとする。
思考がいつの間にか飛躍して、やと君の話を聞いていなかった。
い、いけないいけない……
「お兄さんが、私のお尻を叩いてはいただけないでしょうか!?」
「えぇっ!?」
「お、お願いします……!貴方にしか、頼めない……!」
「そんな!ダメだよ!!」
俺は慌てて首を振る。
な、何で急にこんな事に!俺がやと君のお尻を叩くなんて無理だ!
しかしやと君が泣きそうな表情で……
「先ほど……“どんな事でも、力になりたい”と……」
「うぅっ!!」
普段毅然としているやと君にこんな弱弱しくお願いされたら!
考えてみたらせっかく恥を忍んで『お尻を叩いてくれ』とお願いして断られるのも傷つくだろう。
(で、でも本当にいいのか?俺なんかが、やと君の……)
迷っていると、やと君は悲しそうに頭を下げて身を引く。
「……ごめんなさい。無理を言いました……今の言葉、忘れてください」
「!!」
ここで俺は覚悟を決めた。
こんな、子供なのに自分を押さえ込みすぎている子が俺を頼ってくれたんだ!
俺の照れがなんだ!ここで彼の望みを飲まなきゃ男じゃない!!
やと君の手をしっかり握って俺は叫ぶ。
「やと君待って!分かったよ!俺は、君の力になりたいんだ!君のお尻を……叩くよ!!」
「お兄さん!!ありがとうございます……!」
やと君がほっとしたように笑った。
そして……
「ではその……人に見つからないところに、行きませんか?」
上目づかいで恥ずかしそうにそう言う彼にドキッとしてしまった。



俺がその後やと君に連れてこられたのは、神社の奥の雑木林の、そのまた奥にある
物置小屋らしき古い小屋の前だ。
「こんな所があったんだね……」
「普段は、滅多に使わないんです。だから誰も来ないと思います」
俺はこの小屋の中に入るのかと思った。
けれどやと君、一向に俺を小屋の中に案内する様子はない。まさか……
「……中に、入らないの?」
「鍵が、掛かってるんです」
「そ、そうなんだー……」
「ごめんなさい!本当なら私の部屋を使えばいいんでしょうけど!
私、一人部屋が無くて!かぐやと同じ部屋で!もしあの子が急に入ってきて見られたらと思うと!!」
「大丈夫大丈夫!俺は気にしてないから!!」
真っ赤になって捲し立てるやと君の姿に俺は慌てて彼を宥める。
やと君は恥ずかしそうにやや落ち着きを取り戻す。
「……ご、ごめんなさい」
やと君はスーハーと大げさに深呼吸して、袴に手をかける。
俺はビックリして思わず声をかける。
「脱ぐの!?何もそこまでしなくても!!」
「いいえ!アドバイス通りです!やるなら本格的にいきましょう!!」
やと君は本気だ。
袴は落ちて下着も下ろしてしまう。
彼が物置の壁に手をついて、俺の目の前にはまっさらな裸のお尻があって、すごい、勇気だと思う。
「では、お兄さん、さっそく、どうか私を……」
歯切れは悪いけれどさっそく始めろという事だろう。
うぅ参ったな……。やっぱり気が進まない。
何をどうすればいいかは、大体わかるけど。
俺は恐る恐る、やと君の近くへ行ってしゃがんで彼の体を支えるように腕を回す。
お尻めがけて手を振り上げ……
「ごめん、やと君、いくよ……!」
あまり乱暴にならないように、叩いた。
ぱしっ!
「っぁ!!」
やと君の小さな悲鳴が聞こえたので思わず躊躇する。けれど
「お、お兄さん……」
懇願するような声に、また手を振り下ろす。
(そうだ、彼に協力するって言ったのは俺だ!)
ぱしっ!ぱしっ!ぱしっ!
「んっ、くっ……!!」
やと君の悲鳴を聞いているとだんだん気が引けてくる……でも、協力すると言ったのだから、責任を持って協力したい。
その一心で俺はやと君のお尻を叩いていた。
ぱしっ!ぱしっ!ぱしっ!
(運動だと思えばどうってことない!)
俺は心を無にしようと必死だった。
「お、お兄さん!」
「何だい?」
なのにやと君が話しかけてきて!仕方ないから冷静に答えるよ!
やと君、痛いのかもじもじしながら……こんな事を語りかけてきた。
「わ、私、最近勉強に身が入らなくて、あまり勉強ができなくて……」
「そ、そう……悪い子だなぁ!反省しなさい!」
「ぁ、う!!ご、ごめんなさい!!」
とっさに“それっぽい”セリフを返してみた俺だけど、何故やと君急にこんな話を……
(アドバイスをくれた子みたいに『厳しい兄に叱られる弟』をやろうとしているのかな?)
そう思った俺。でもやと君……俺にそんな立派な兄役は務まるだろうか!?
とにかく無心に小さなお尻を叩き続ける。
ぱしっ!ぱぁんっ!ぱしっ!
「あ、ぁ!!ふ、ぅ……!」
恥ずかしいのか時々声を殺して、それでも悲鳴はだんだん大きくなってくる。
無理もない。小さな子供のお尻は叩きつづけているとすぐにピンクに染まっていく。
(こ、これそろそろよしたほうが良くないか!?)
俺のチキンハートは早くも心にブレーキをかけ始める。
でも、肝心のやと君は気が済んでいるのだろうか!?
「んくっ、はぁ、はぁっ、あぁ!!」
荒い呼吸で耐えている感じのやと君。けれど下半身は痛そうに捩っている。
赤くなり始めたお尻が控えめに暴れている。
(きっと、止めるならやと君が“もうやめてくれ!”って言った時だな)
たぶんこれで正解だ。
けれど、俺はこうも考える。
(我慢強いやと君の事だ。多少痛くてもすぐに“やめてくれ”は言わないだろう。
ただでさえ今日は自分を罰しようと思っているから。
逆に、俺が早く彼のギブアップを引き出してしまえば……?)
俺はあまりこのお仕置き、長引かせたくない。
この作戦で、行くしかないかもしれない……!
グッと力を込めた手を、俺は振り下ろした。
ばしぃっ!!
「うぁぁっ!?」
やと君が大きな悲鳴を上げる。
(ビックリさせてごめんねやと君……!)
そう思いながらも俺は強めに何度も叩いて、やと君に声をかけて。
さぁ始まるぞ俺のチキンレース!!
「やと君、反省してる?今度からはきちんと勉強するんだよね?」
びしっ!ばしっ!ばしんっ!
「ひゃぁぁっ!?は、反省してます!!べんきょっ、ちゃんとしますぅぅっ!」
一気に姿勢を崩しそうになるやと君を支えつつ、俺はまだまだお尻を叩く。
やと君は体全体で抵抗を示し始めた。悲鳴も一気に大きくなる。
「あぁああん!お兄さぁぁん!」
「反省してる割には“ごめんなさい”が聞こえてこないぞ!口だけじゃないだろうな!?」
ばしっ!ばしんっ!びしぃぃっ!!
「うぁあああっ!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」
「暴れるんじゃない!
全く、成績が悪い上にお仕置きも真面目に受けられないなんてなんて悪い子なんだ!」
パァンッ!
こんな風に叱りながら、もうすっかり赤くなってしまったやと君のお尻を
容赦なく引っ叩いた。
「ひゃぁぁああん!うわぁあああああん!ごめんなさ〜〜い!!」
普段の姿からは想像もできないほど可愛らしい悲鳴で泣き出したやと君。
フフッ……俺のチキンカーの車体はボロボロだぜ!
可哀想だけどもう一息!
「やと!これからは真面目に勉強するんだぞ!?
また成績を落としたらもっとお尻を痛くしてやるから!」
びしっ!ばしっ!びしぃっ!
「あぁあ!うぇっ、分かりましたぁぁぁ!ちゃんと、するから!
許してください、えっく、お願いですからぁぁっ!うわぁあああああん!」
(言った!!)
“許してくれ”は“やめてくれ”と同義でいいよな!?
でないと俺のチキンカ―が崖からダイビング!!
「ふぇぇっ!おにいさぁぁん!ごめんなさい!わぁあああああん!!」
号泣しながら真っ赤なお尻を振って抵抗しているやと君。
もう見てられないし叩きたくない!

俺はついに手を止めた。

もはや自分で立つ気力も無いらしいやと君が俺の腕にもたれかかるように泣いている。
そんなやと君を俺は改めて抱きしめた。ごめんね、と心の中で呟いて。
「やと君ちゃんと頑張って反省したね。えらいえらい」
「うぇっ、お兄さん!おにいさぁぁん!」
心弱くなったのか、一生懸命俺に縋り付いて泣く彼をいつまでも撫でていた。
服を着るのも手伝った。



「大変お見苦しいところをお見せしました……」
と、このように。
冷静になれば今まで以上に堅苦しいやと君だ。
俺に顔が見えないほど深々と頭を下げている。
「いいんだよ!お願いだから顔を上げて!やと君がスッキリしたならいいんだ!」
「はい。とても清々しい気分です。本当にありがとうございます、お兄さん。
その……何と言いますか、カッコいい、お叱り様でした……」
「いやぁ……はは」
俺も心の中はカッコ悪かったんだけどな。
と、いうのは笑ってごまかしておこう。
しかしやと君、本当に晴れ晴れとした笑顔で言う。
「これからは、またきちんと勉学に勤しもうと思います!
成績がさがるとお兄さんからお尻を叩かれてしまいますものね!」
(二度目は無いようにしてねやと君……!!)
全力でそう思いつつも、俺は何か答えないとと思って……
「そうだよ?やと君もかぐや君も、ちゃんとお勉強しないと俺がお仕置きしちゃうから
お勉強頑張ってね!」
そう言った瞬間、やと君の笑顔の色が変わる。
「……お兄さん?かぐやはお尻なんて叩かなくってもいいんです」
「へ?」
「あの子はそんな事しなくても言って聞かせれば分かる子なんです。そうでしょう?」
「あ、そ、そうだね」
有無を言わせない感じだった。何故だか怖い。
「それにかぐやには私がいますので。お兄さんにそこまでお手数をおかけするわけには」
「も、もちろん!ごめんね!俺の失言だね!」
「いいえ。お気になさらないでください。今日は本当にありがとうございました」
やっと、彼の笑顔から怖さが抜けてホッとした。
さっきまで子供らしく泣き叫んでいた子だとは信じられない切り替えだ。
そう思ったけれど……
「かぐやには……今日の事内緒にしていてくださいね?」
頬を赤らめてそう言ったやと君にやっぱり可愛いと思ってしまって。
和みながら「もちろん」と返す俺だった。



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【作品番号】MEiwai

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